とある原石の神造人形(エルキドゥ)   作:海鮮茶漬け

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お待たせしました。


132.少女達の逃避行

 そこは日の光が入らない地下の空間。そこで制服の肩にクリップで腕章を縫い付けた少女が辺りを見渡しながら歩き続ける。一通りを見て回った少女は一人呟いた。

 

「……おかしいですわね。……まさか、居ない……?わたくしの読みが外れましたの?」

 

 警策(こうざく)看取(みとり)を探し続けた白井黒子は、ここに警策が居ないことを認識する。

 

「大会中継用カメラの位置から、あの場所に警策看取が居ないことはまず間違いないでしょう。だからこそ、学園都市中にある中継カメラと監視カメラが届かない、地下の安全地帯から襲っているものだと考えたのですが……」

 

 それこそ、地下以外で今の学園都市が動かしているカメラに映らないところなど、無いと言っても過言ではない。最先端科学のテクノロジーもそうだが、今は『大覇星祭』という一大イベントの真っ最中。監視カメラの数も平時の倍は稼働しているのだ。

 

『暗部で使われている日の光が届かない安全地帯が仮にあったとしても、「大覇星祭」のために外部から来た子供が迷子にでもなれば、捜索などで普段はカメラが入らない死角へ、いきなりカメラがやって来ることもありますしねー』

 

 通信機から問い掛けてくる初春飾利の声が白井に届く。突然白井への攻撃は止んだが、あの後警策が操っていた中継カメラを数万もの中から割り出して、警策が他の場所に潜みながら攻撃していると確証を得られたのは、他でもない彼女のお陰だ。

 とはいえ、そのことに最初に気付いたのはそんな相棒の親友だった。

 

『警策が何処かに潜んでいるのは間違いないと思いますけど、どうして下水道なんですか?他の適当な施設の中でもいいと思いますけど』

 

『おっ、確かに!別に隠れて遠くで操るってだけなら家の中でも出来るしね』

 

 彼女の隣に居る佐天涙子が元気な声を出す。時折聞こえてくる何かが凹むような音は、今回頑張ってくれた相棒に下敷きか何かで風でも送っているのだろうか。

 

「いえ、それだともしもの場合居場所が割れる可能性がありますの。あの異常とも言える強烈な雷が生み出す電磁波を考えれば、電子機器が電波障害を引き起こしやすくなるのは明白。

 おそらく、あの異常気象は警策が属する一派が生み出したものでしょうが、あの雷が及ぼす電磁波に対し完璧に対処することは難しいはず」

 

 何せ雷が落ちた場所が近い上に、あの巨大な雷を考えれば生み出される電磁波は通常の数十倍はあるのだから。

 

風紀委員(ジャッジメント)には一通りの対策があるため、今もこうして初春達と連絡が取れてますが、警策が能力の中に忍ばせた小型のカメラに関しては、どれだけ高性能でもショートするリスクが高い。

 だからこそ、最悪を考えたときに街中の監視カメラを撒きやすく、自分の居所がバレにくい下水道が隠れ家としては最適ですの」

 

『でも、警策の能力には感知する力がありますよね?わざわざ本体が側に居る必要性は無いと思うんですが』

 

 液化人影には反響定位(エコーロケーション)という周囲を認識する能力がある。それを考えると小型カメラは補助としての役割であり、一見そこまで必要だとは感じないだろう。

 

「今回の一件を企んだ警策が属する一派は、超能力者(レベル5)の能力者二人を作戦に組み込むと言う、極めてリスクの高いことをしています。つまり、彼女達にとって絶対に失敗出来ない作戦だということ。

 そして、超能力者が二人居るとなれば不測の事態が起きやすいのも事実。遠方から能力を飛ばし周囲の物体の位置を把握するだけでは、それに対処できない可能性も高くなりますの」

 

 反響定位はイルカなどの動物が使う習性で、超音波の反響から物体の大きさや距離を探知する知覚方法だ。しかし、これの欠点として色彩は取得することが出来ず気体やプラズマの情報は薄くなる。

 彼女の役割が食蜂操祈を封じることだとしても、仮に御坂美琴に何かしらのアクシデントが起これば、対処に回りたいと思うことは自然なことだ。

 

「不測の事態をリカバリーするには本人が直接軌道修正するしかないでしょう?それこそ、能力でどうこうできる範囲であれば問題ないでしょうが、それが出来ない状況に陥れば、能力に頼りきりな警策に打てる手は失くなってしまいます」

 

 あちらも決死の覚悟で挑んでいる。だからこそ、不測の事態に対処出来る状況を一つでも多く構築するはず。

 

「そして、一度警策と直接戦って分かりましたが、彼女は座して待つタイプではないでしょう。あの場に姿を現したのがその証明ですの」

 

 警策看取はどちらかというと行動的だ。それこそ、昼間に警策が表へ現れなければ、白井達は未だに彼女の素性を割ることが出来なかったかもしれないのだから。

 それが能力の性質のためなのか、彼女が持つ元来の気質なのかは不明だが、彼女が能力を行使するときには彼女自身も近くに居ると見て間違いない。

 

「警策は必ず近くにいるはずですの。でも、それが何処なのか……」

 

 目の付け所は悪くなかったはずだと考え、他の場所を頭の中に思い浮かべようと思考を回す最中、視界の隅に何かを見付ける。

 

「ん?……これは、タブレット……?」

 

 白井は足元に転がるタブレットを手に取った。まるで、思いっきり地面へ叩き付けたかのような液晶の壊れ方をしているのが不可思議ではあったが、それよりも気になることがある。

 

 未だにバッテリー残量がかなり残っているのだ。おそらく、一週間未満と見ていいだろう。

 

 では、誰がここにこのタブレットを捨てた可能性が高いのか。白井はこれが余りにも自分にとって都合の良い物だと気付く。

 

「まさか、ここに居た警策の私物……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひょっ、ひょっ、ひょっ、警策(こうざく)くんと敵対することになるとはとても残念だよ。でも、それも巡り合わせだ。心苦しいけど君を敵性勢力と認めようじゃないか」

 

『……よくもまあそんな上っ面なセリフをこの私の前で言えたモンだね。こっちはもうアンタのことをブチ殺すことも視野に入れてるんだけど、そこのところちゃんと理解してるわけ?』

 

 その憎悪が込められた言葉を聞いた幻生は笑みを浮かべる。

 

「なら心臓を正確に突かないとねぇ。狙いが右に大きくズレてしまっているじゃないか。液化人影に備え付けられた小型カメラでは狙いを絞ることは難しいかな?」

 

 液化人影(リキッドシャドウ)の槍と化した腕が通り過ぎた幻生の右胸は、反対側が見えるほどにくっきりと貫通していた。だが、それはおかしい。

 本来ならば傷口から溢れている血液で隙間など出来るはずがないのだから。

 

『流石に被験者だけじゃなく自身にも改造を加えるほどとは思ってなかったよ。この分じゃ心臓が元の位置にあるのかどうかなんて分かったもんじゃない。

 ……いや、それどころか心臓そのものを別の物に代替して、人間の仕組み自体を全く別の物に組み替えてる可能性もあるか』

 

 食蜂と幻生の間に割って入るようにして、ダクトの中から液化人影が地面に降り立った。息を整えた食蜂が水銀の人形に対して声をかける。

 

「もしかして、仲間割れなのかしらぁ?あの人間性で幻生に人望(りょく)があるとは思ってはなかったけど、随分と私に都合が良いタイミングで助かるわぁ。それで、あなたは私の味方になったってことでいいのね?」

 

『別にどっちでもいいよ今は幻生の敵ってだけだし。操祈ちゃんも殺しあってた人間から今から味方になりましたって言われて、素直に信じるほど弛い頭はしてないでしょ?お互い利用し合って不利益が出そうになったら手を切るお気楽な関係性がベストだよ』

 

「(信用出来ない人間とはいえ他に現状を打開する活路は無いわけだし、彼女の言う通り手を組んだ方が得策のようねぇ)」

 

 食蜂は手札を全て見破られ負ける寸前だったのだ。余力などあるはずもない。ここで彼女と協力関係にならねばどちらにしろ敗北するのは確定だ。

 

『幻生は操祈ちゃんの心理掌握(メンタルアウト)を手にしてるだろうけど、遠隔操作で液化人影を動かしている私には効力が及ばない。ぶっちゃけ私が敵になった時点でアンタ詰みでしょ?』

 

「いいえ、幻生は多才能力(マルチスキル)という能力で幾つもの能力を大人で在りながら使うことが出来る。単純な火力でもあなたの能力を超えていると思うわぁ」

 

『はあ!?何そのチート!?』

 

 食蜂としても同意見だがここであることに気付いた。

 

「あなたは幻生の多才能力を知らなかったようねぇ」

 

『幻生が協力者だからって私に手の内を見せるような奴に見える?学園都市の闇で生き抜いてきたんだから、情報の重要性を理解出来てないほど馬鹿じゃないってだけでしょ』

 

 それもそうか、と納得する。幻生の弱点の一つでも知っているかと思っていたが、この分ではそれも期待出来ないだろう。

 

「今の戦力差を私の類い稀な分析(りょく)で計算してみると、あなたが助っ人として割って入っても、頼りになるのかはちょっと微妙なラインで、言ってしまえば居ないよりかはマシってところねぇ」

 

『ねえー、操祈ちゃーん?私がここで手を切っちゃうと何も出来ずに幻生に負けるってこと本当に理解出来てるぅ?』

 

 一般的な女子中学生と比べ、遥かに劣る身体能力しか持たない食蜂操祈では、逃走したとしても直ぐに追い付かれるのは目に見えている。

 単純なスペックでは老体の幻生と()したる違いは無いだろうが、多才能力で障害物を物理的にカットすることが可能であり、千里眼で食蜂を常に捕捉することが出来る幻生相手に、脚力でどうこうするというのが土台無理な話だ。

 

「(無理難題もいいところよねぇ。私の手札は切り終えて頼みの綱の彼女の能力も勝ちの目は薄い。その彼女にしても絶対に私を守り通す義理もない、と)」

 

 となれば、食蜂の出来る行動などたかが知れている。

 

「おや、やはり逃げるかね?」

 

「当然でしょう?何の対抗手段も持ち合わせていない私は、あなたの手に落ちないよう逃げるしかないし、少なくともそれをし続ければあなたの予定を幾らか乱すことは出来る。

 彼女のお陰で私の息を整える時間も体力もある程度回復したし、またつまらない追いかけっこの時間よぉ」

 

 背を向けて走り出す。そんな彼女に当然の如く幻生が能力を使用しようとするが、そこに液化人影が手を槍にして割って入る。

 

 

『よく分かんないけど、操祈ちゃんがアンタに捕まらなければいいってことみたいだね。なら、トコトン邪魔させて貰うから』

 

「やれやれ、実験の観察が出来ないから手早く済ませたいんだがねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()、深く息を吐きながら走り続ける。

 

「はぁ……はぁ……私って結局のところこの施設を出れないのよねぇ。一般人の被害もそうだけど、幻生が保有している科学兵器を総動員して私を捕獲してきそうだしぃ」

 

 ここを出ても千里眼の能力を有している以上は何処に逃げても安心とは言えない。それこそ、建物の中だからこそ幻生はそう言った兵器を使わずに、多才能力(マルチスキル)で捕まえようとしているのではないかとすら思う。

 

「(何処に中継カメラや監視カメラがあるのか幻生も把握することは出来ない。だからこそ、無闇にそう言った兵器を飛ばすことが出来ずにいると見るべきかしら。

 だけど、街中に出れば何かで注意を引くような事をして、中継カメラを移動させるくらいのことはするでしょう。そうなれば、能力を無力化された私は幻生の有する多才能力と科学兵器の板挟み。……途中でどんな逃走手段を手に入れても詰みになる)」

 

 そして、幻生が望んでいるのは心理掌握を発動するために必要な食蜂の頭脳だ。それ以外にあの幻生が頓着するとは思えない。

 邪魔だと判断すれば手足を切り落とすくらいのことは平気でしそうである。

 

「この私の至高の肢体に傷を付けるなんて万死に値するわぁ。だから、科学兵器が出張ってくる可能性が高い外への脱出は却下。

 ……だから、協力者となった彼女に頼ってまたこの施設の中で追いかけっこを始めたんだけど、結局は先延ばしが精々ってところ」

 

 振動が足下から伝わってくる。突然現れ味方となった能力者と幻生が戦っているのだ。

 

「彼女も頑張ってはくれているみたいだけど……流石に分が悪い」

 

 遠くから破壊音や爆発音が聞こえているため、警策も出来ることはしてくれているようだが、協力者として幻生の側に居た警策の能力は、全て幻生に筒抜けだと考えていい。

 それに引き換え、警策は幻生の多才能力(マルチスキル)については何も知らないのだ。情報のアドバンテージに加え手札の多さも加わると、今の状況は彼女にとって最悪と言っても良い。

 

「このままだと何も出来ずにさっきの焼き増しになる。早く打開の策を講じないと……」

 

『──いやー、流石に無理じゃないアレ相手じゃ。スッゴくムカつくけど』

 

「!あなたどうしてここに……?」

 

 食蜂が声のする方に目を向ければ、そこには人の形をした水銀があった。天井のダクトから溢れるように現れるその姿を見て、食蜂は目を大きく開いた。

 

『いやー、失敗失敗。ご覧の通り私の液化人影を半分近く消し飛ばされたよ。ほら、壁をくり貫いてたヤツが直撃しちゃってね。生身だったら死んでたねあれは』

 

 その大きさは元の高校生程度のフォルムだったものが、一回り小さい小学生程度のものに縮んでいた。彼女が撤退したのもそのまま戦っていれば敗北すると悟ったからだろう。

 

『私の能力も物理的に消滅させられちゃうと、何も出来なくなるから打開の策としては弱いし、操祈ちゃんに限っては頼みの綱の能力が無力化されてるから、体力皆無の運動音痴でしかないし。

 うーん、ここはやっぱり逃げることを第一にした方がいいんじゃない?』

 

「だ……だだだ誰が運動音痴ですってえ!?今はずっと追い掛けられていたから体力が無いだけで、本来ならもっと余裕ですけどぉ!?」

 

『いや、さっき体力回復したって自分で言ったじゃん』

 

 顔が赤いのは酸欠からか、はたまた羞恥からか。そのことについて、指摘するのも面倒そうに彼女は食蜂に向けて声を飛ばす。

 今はとにかく時間が無いのだ。だからこそ、勿体ぶらずに警策は尋ねた。

 

 

 

『操祈ちゃん。今の状況を引っくり返すことは出来なくても、今の状況をより上手く先延ばしにする方法が、一つだけあるって言ったらどうする?』

 

「え?」

 

 

 

 食蜂が置かれている状況を全て理解出来てなくとも、ずっと幻生の側に居たのならば、あの老人が倫理感というものを微塵も理解せず、実験にしか興味を抱かないマッドサイエンティストなのは知っているはずだ。

 そして、科学の重鎮として絶大な権力を幻生が有してるのも当然分かっているだろう。それらを理解した上で彼女は今よりも幻生から逃げる可能性があると言っているのだろうか?

 

「……無関係の一般人が巻き込まれるリスクは?」

 

『そこを気にするとは意外と優しいね操祈ちゃん。まあ、それについては安心してよ。何も知らない一般人が巻き込まれる可能性は限り無く低いから。まあ、幻生の行動パターンが読めないから絶対に無いとは言いきれないんだけど』

 

「……」

 

 信用していいものかと悩むが、このまま食蜂が幻生の手に落ちれば、食蜂自身も学園都市も最悪の状況になるのは間違いない。現状では先延ばしもあと数分持つか持たないか。

 ならば、選択肢などあってないようなものだ。食蜂は深く溜め息を吐きながら呟いた。

 

「ハァー……、可能性が少しでもあるなら(すが)るしかないわよねぇ……」

 

 そうして、食蜂は警策の提案に了承した。ここで嫌疑を掛けて話し合いなどしても更に状況が悪化するだけ。何かしらの方法を食蜂が見出だせてない時点で、彼女に託すしか生き残る道はなかった。

 

『オーケー。じゃあ、準備をするよ』

 

 そう言うと、液化人影はガラス張りの窓に近付いて、剣の形にした手をそのまま振り下ろし切り裂いた。

 食蜂がその行動に唖然としていると、更にそのまま窓をくり貫くかのように大きな穴を開けたのだった。

 

『うーん、もう、そろそろだと思うんだけど……』

 

「え……ち、ちょっと何して……」

 

 余りにも突飛な行動に対しその理由を問い質そうとする食蜂の視界に、彼女が今世界で一番見たくない人間が現れる。

 

 

「うーん、まだこんなところに居ると言うことは、そろそろ諦めてくれたのかな?」

 

「幻生……!」

 

 

 笑みを浮かべる幻生に対し、恐怖を浮かべるようにして後ずさる食蜂。先ほどの攻撃と今の手札の無さを考えれば当然の反応だろう。今の彼女はまな板の鯉と言っても過言ではないのだから。

 だが、そんな彼女を守るように液化人影が前に出る。

 

『アンタなんかの思い通りになんてさせる訳ないでしょ』

 

「君に何が出来るんだい警策くん?液化人影の特性から出力まで僕は把握しているんだよ?それは先ほどの対峙で理解できただろうに」

 

 元が液体のために人体ではあり得ないタイミングでの攻撃も先読みされ、消化器を爆発させての目眩ましも千里眼で見破られ、天井や廊下を破壊しても風力使い(エアロシューター)などの能力で簡単に突破されてしまった。

 食蜂と同様に警策も幻生を打倒する方法が見付けられなかったのだ。だが、彼女は不敵に笑った。

 

「確かに、私にはアンタをブッ飛ばす算段は付けられないけど、吠え面かかせる事ぐらいは出来るっての!」

 

 そう言うと、液化人影が人の形を辞め一塊になって砲弾のように突っ込んだ。

 

 

 

 ───食蜂操祈の方に。

 

 

 

「なんとッ!?」

 

「………………え……?」

 

 幻生が目を見開いて、同じくして食蜂も目を剥いた。味方だと思っていた相手からの不意打ちなのだから唖然とするのも無理はない。

 警策は何でもないかのように告げた。

 

『そんなわけで命綱無しのバンジージャンプと洒落込もうか。操祈ちゃん』

 

 くり貫かれた窓ガラスから食蜂操祈の身体が宙に投げ出される。当然、食蜂操祈に空を飛ぶなどという芸当は出来ない。地面へそのまま吸い込まれていくかのように落ちていった。

 

 それを見た幻生は一瞬驚いたものの直ぐ様冷静になる。

 

「なるほど、それは想定してなかったよ」

 

 行動には驚いたが今更人が死ぬ程度のことは驚くに値しない。学園都市の闇で生きていれば見慣れた光景と言ってもいいだろう。

 

「ふむ、無知故の行動かな。まあ、心理掌握を相手に掛けられない食蜂くんが戦力として役に立つかは疑問ではあるがね」

 

 心理掌握を幻生の好きにさせないよう、能力の所有者である食蜂を始末したのかもしれないが、既に外装代脳(エクステリア)との脳波の調律は完了しているのだ。

 例え、大元の彼女を消しても心理掌握は未だ木原幻生の手の中にある。無駄な行動と言うしかない。

 

「リミッター解除コードの負担を僕から余所に移すために、子供の中から見繕って再び調律しなければいけなくなったから、この分の時間は取られてしまうだろう。これを踏まえれば、確かに無駄な行為とは言えないかもしれない」

 

 手間は掛かるが言ってしまえばそれだけだ。大局に影響は無い。

 だが、そこまで考えてあることに気付く。

 

 

 人が地面に叩き付けられた音がしない、と。

 

 

 幻生が急いで食蜂が落ちた場所から下を見れば、そこには一つの事実があった。

 

「……やれやれ、水銀の表情では先読みも上手くいかないのは当然だったかもしれないねぇ」

 

 人の表情や視線で相手の行動を予測する妖怪も、目が存在せず必要最低限の動きの変化しかない物体相手ではどうしようもない。相手にしてやられたことに対して何も感じない訳ではないが、今はそれよりも優先すべきことが彼にはあった。

 目を離し施設の中へ戻っていく幻生は屋上へと登って行く。天野倶佐利が生み出す事象を自らの目で観測するために。

 

 

 

 そして、そんな幻生が先ほどまで目を向けていた地面には、一滴の血すら在りはしない、ありふれたコンクリートの地面しかなかったのだった。

 

 

 




リアルが忙しいので更新するのが難しくなってます。これからは余裕が出来たときにまとめて書くことにします。
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