とある原石の神造人形(エルキドゥ)   作:海鮮茶漬け

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この小説を書き始めた三周年記念です


134.変貌した中身

『いやー、賭けの部分が大きかったけどなんとかなったねー』

 

「……そうねぇ。ちょっと納得(りょく)がいかないけどぉ、あなたの機転がなかったらあそこで終わっていたわぁ」

 

 元の居た施設から遠く離れたビルの屋上で食蜂は一息付いていた。あの状況から彼女は幻生の魔の手から見事逃れることに成功したのだ。

 もちろん、状況が好転したわけではないが、食蜂が捕まるという最悪の状況から脱することが出来たと考えれば、決して無駄な行動ではない。

 

「私達に与えられた時間は五分……いや、三分もあればいいところ。その間に打開の策を見付けることが出来なければゲームオーバー。幻生に通じる手札が一切無いこの状況で、それを見付けなくちゃならないってかなりの無茶よねぇ」

 

 負け戦。

 勝算が一切無い以上はそう言われても仕方がないだろう。だが、食蜂自身が狙われているため彼女には逃げることなど出来はしない。戦って勝つしか生き残る術は存在しないのだ。

 

 

「──それで、どう言うことなのか説明して頂けるのですよね?食蜂操祈?」

 

「ええ、それはもちろんよ白井さん」

 

 

 白井黒子。

 肩に腕章を付けた風紀委員(ジャッジメント)の一人にして、大能力者(レベル4)空間移動能力者(テレポーター)である彼女は、食蜂と同じく騒動に巻き込まれた超能力者(レベル5)の能力である、御坂美琴の()露払いをしていた少女。

 食蜂が助かった理屈は簡単だ。

 

『流石は風紀委員だねー。まさか、私が捨てたタブレットと同期しておいた、もう一つの端末のGPSをこんなに早く割り出すとは思ってなかったよ。

 操祈ちゃんを盾にした時間稼ぎも数分持てばいい方だったろうし、まさにグッドタイミングだね』

 

「分かり易過ぎて怪しいことこの上ありませんでしたが、来てみて正解でしたわね。空間移動(テレポート)した先で食蜂操祈が落下しているのを見たときは肝を冷やしましたけど」

 

 タブレットを拾った白井は第一七七支部へと一度帰還し、初春の解析力を駆使して同期した端末を特定したという訳だ。

 

『空間移動で五十メートルを一秒で移動出来るなら、時速換算で百八十キロ。日本じゃまず不可能な車のフルスロットルと同じ速度を出せることになる。これは、障害物の一切無い空中ならではだね。

 となると、タブレットを見付けたのが数十分前でも余裕で私に追い付けるでしょ?

 まあ、もちろんその同期した端末は液化人影(リキッドシャドウ)の中に入れたもので、本物の私は別のところに居るんだけど』

 

 小さくなった液化人影からにょきっと、端末機が現れる。

 

『タブレット捨てたときは一切の痕跡を消そうと思ったんだけどさ、相手はあの幻生だからねー。液化人影が通じない可能性ももちろんあったから、風紀委員を巻き込んで大騒動にしようと思ってさ。

 流石に、学園都市も風紀委員が幻生の手に落ちたらこれ以上の静観はしてられない。──間違いなく、学園都市総出で潰しに来るはずってね』

 

「つまり、わたくし達風紀委員を捨て駒にしようとしていたという訳ですのね。……本気でブチのめして欲しいようですわねこの野郎」

 

 警策のその言葉を聞き、こめかみに血管を浮き上がらせている少女を横目で見ながら、食蜂は思考を巡らす。

 

「(白井さんには悪いけど、心理掌握が幻生の手に渡った以上は私と特定の人間を除いた全ての人間が操り人形にされる予備軍。

 風紀委員という組織が幻生の手に落ちるのは避けるべき事態なんだろうけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()())」

 

 非情な策ではあるが、心理掌握はそれほどまでに凶悪なのだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ボタン一つであらゆる人間の人生を汚し尽くせる力は、所有者の人格にかなり大きく左右される。

 

「(心理掌握は私のような高潔な人間以外が扱えば、容易く地獄が生み出される。それが、あの木原幻生に渡った事実は白井さんが思うよりも大きい。

 それこそ、今の幻生を打倒する方法は学園都市が有する遠距離からの最先端科学兵器ぐらいじゃないかしら?心理掌握の間合いに入った時点で敗北なんだから当然だけど)」

 

 とはいえ、相手は科学の重鎮である木原幻生。果たして、彼にとって未知の兵器に該当する物がどれ程あるのかは疑問である。

 そんなことを思うが、それよりも先に彼女にはしなければならないことがある。

 

 

「言葉で説明している暇はないから、白井さんは今日二度目のレッツ!メンタルアウトだゾ☆」

 

 

 などと言いながら、御坂美琴に関する記憶を消しているため実はこれで三度目だったりするのだが。

 食蜂は白井に向けてテレビのリモコンのボタンを押すと、突然白井が頭を抑えて(うめ)いた。

 

「~~~~ッッ!情報がいきなり全部入力されるこの感じ、やはり違和感がとんでもないですわね……!」

 

「でも、今の危機的状況を完璧に理解してくれたでしょう?」

 

 幻生が心理掌握(メンタルアウト)を手に入れたことや、警策(こうざく)看取が協力者となったことを白井に一秒程度で全てを伝達したのだ。

 

「…………大まかなことは把握致しましたの。既に状況はマニュアル通りのやり方では通用しない崖っぷちの危機的状況。打開するために信用出来ないことを除けば、警策と協力関係となるのは悪くありません」

 

『おやぁ?てっきり私なんかと組むのはゴメンだーとか言うと思ったんだけど、意外と柔軟だねえ』

 

「わたくしとしても悪党と共に行動するのは勘弁願いたいですが、学園都市全域に被害が及ぶのならば、風紀委員としてそれをなんとしてでも止めなくてはなりませんので。

 ですが、大丈夫ですの?木原幻生の手に心理掌握が渡ったということは、同じくして心理掌握を有するあなた以外は変わらずに、能力の影響を受けるということ。

 自分で言うのもアレですが、空間移動能力者(テレポーター)が敵の手に渡るとなれば戦況が敵側に傾きかねないですわよ?」

 

 空間移動は十一次元の高度な演算が求められるが、それさえクリアしてしまえば一秒と掛からずに移動と攻撃が可能である、学園都市の能力者の中でも上位の能力だ。

 当然だが、大能力者(レベル4)の能力者である白井黒子が幻生の心理掌握に掛かればどうなるかなど、火を見るよりも明らかだろう。

 だからこそ、食蜂操祈が手を打たない訳がない。

 

「それは大丈夫よ。ここには絶対に幻生の心理掌握は届かない。それこそ、心理掌握のリミッターを解除してもね」

 

「?……どうしてですの?ここは元の居た場所からかなり離れてはいますが、あなたに送られた情報によれば未だにここは有効範囲内。それならば、ここはまだ危険地帯でしょう?」

 

 白井としては仮に幻生の心理掌握を受けても、本当の所有者である食蜂が持つ心理掌握でどうにか出来ると、あらかじめ情報を与えられているから冷静を保っていられるものの、出来ればここから早く離れたいと思うのは自然なことだった。

 しかし、食蜂は首を振って否定する。

 

 

 

「ここまで来れば大丈夫よ。()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 彼女が前を向けばそこにあるのは変わり果てた彼女の友人と、二人の超能力者(レベル5)。そして彼女の想い人がそこに居た。

 

「心理掌握の発動パターンは二つ。相手の頭に向けて線状にするか、放射状に広げて多くの人間に伝えるか。

 私達を見失った幻生の取れる方法は放射状の能力発動だけだから、彼の右手を幻生の居る元居た場所の中間地点に置けば、心理掌握は打ち消されるわ」

 

『でも、幻生は多才能力(マルチスキル)で千里眼があるんじゃないの?操祈ちゃん達の場所も直ぐにバレて、ピンポイントで心理掌握を掛けられちゃうと思うんだけど』

 

 千里眼があったからこそ、幻生は食蜂を見失うことなく追い続けていたのだ。それを知る警策からすれば当然の疑問だろう。

 

「幻生の多才能力(マルチスキル)の原理は拉致をした子供の脳波を調律して、一つの演算装置としていることにある。だから、本来能力者ではない幻生も『能力者と全く同じ脳波を共有』しているからこそ、彼等の能力の噴出点として能力を使用できるのよ。……だけど、それにも限界はあるわ」

 

 食蜂は語る。

 多才能力の限界を。

 

「高位能力者は学園都市にとっても重要な存在。つまり、一個人へ簡単に渡せる存在じゃないのよ。となれば、能力は希少性が高いけど低位能力者しか幻生は手元に置くことが出来ないと見るべきでしょう?

 おそらく、元の千里眼の能力を持つ所有者の強度(レベル)は、無能力者(レベル0)弱能力者(レベル1)のどちらか。だからこそ、脳波の調律で能力の底上げを考えたんでしょうけど、超能力者(レベル5)までは間違いなく届いてない」

 

『じゃあ、拉致する子供の数を増やせばいいんじゃないの?演算をするための基盤を更に固めれば超能力者(レベル5)級の能力へ簡単に押し上げられるでしょ』

 

 警策の子供を拉致するという言葉に白井は忌避感を抱く。彼女としては幻生のその蛮行すら既に許しがたい悪行だ。だが、それと同時に白井は警策の推測が間違いだと知識で分かった。

 それこそ、あのときは彼女も騒動の中心に近付いた一人だったのだから。

 

 

「いいえ、それは不可能よ。(かつ)てそれをして木山春生(はるみ)は失敗をしているわ」

 

 

 木山春生。

 彼女のまた木原幻生によって人生を狂わされた一人だ。科学者の彼女が巡り巡って教師として面倒を見ることになった生徒達が、幻生の実験によって植物状態へと変えられてしまった。

 そんな彼女達を救うために学園都市に居る数万の能力者の脳波を一律にし、打開するための方法を探ったのだ。

 

 しかし、それは暴走し脳波で一つとなったAIM拡散力場が胎児の姿へと変貌しその後暴走。

 学園都市に甚大な被害を生み出す寸前に、御坂美琴の手によって真正面から打ち砕かれて騒動は終息したのだった。

 

「脳波を合わせる数を増やせば増やす程に、暴走するリスクが高まることに加えて、超能力者(レベル5)一人に片手間であしらわれることからそれ以下なのは明白。

 そのことから考えれば、幻生の多才能力はよくて強能力者(レベル3)程度でしょう。流石にその強度(レベル)でこの距離まで千里眼の目が届くわけがない」

 

 そのため、彼女達が警戒すべきは幻生が有する超能力ではなく、科学兵器一択なのだ。

 

「(とはいえ、この時間で何が私に出来るのか……)」

 

 彼女からしてみればこの安全地帯もいつまで保つのか分かったものではない。あの状態の天野が災害の如く暴れまくっているため、こちらにもその被害が飛んでこないとは限らないのだ。

 しかし、如何せん手が無い。

 あの場を離れることは九死に一生を得ることになったが、幻生の制限が失くなったことと同じ。状況は更に悪くなっていると言えよう。

 

「(リミッター解除コードを取られた以上は、いつでも私に負荷を掛けて能力を発動出来る。

 私の状態が見えないからって、うっかり私が耐えられる限界以上の負荷を与えて殺したりしないでしょうねあのジジイ……)」

 

 そこであることを思い出す。何故幻生が心理掌握とそのリミッター解除コードを狙っていたのかを。

 

「(……幻生は私の知らない未知の情報を数値に入れることで、天野さんから出力される『オカルト』を知りたがっていたけど、あれ程までに変わり果てた天野さんなら、私も何かしらの違和感を感じ取れたりするのかしら?)」

 

 今まで心理掌握を試しても虚空を切るかのように。あるいはそこに脳波がある人間が居ることを一切感じられない、それこそマネキンを相手にしているかのように感じられた天野倶佐利だが、今ならば『無』以外の情報が何かしら入手出来るのでは?

 

 それは、食蜂のちょっとした思い付きだ。だが、幻生と同じステージに立つには試しておいて損はないだろう。

 そんな軽い気持ちで食蜂は手元のリモコンを天野に向けてボタンを押した。その先は実に分かりやすい。

 

 

 

 

 どぼんっっ!!と音と共に、一気に水中へ食蜂は引き摺り込まれた。

 

 

 

 

「──きゃああッッ!?!?!?」

 

『操祈ちゃん!?』

 

「食蜂ッ!?」

 

 天野に向けて心理掌握を放った食蜂が弾かれたように尻もちを付く。それを見て何か食蜂の身に何かが起きたのかと案じた二人だったが、食蜂はそんな二人が目に入らないかのように呆然としながら呟いた。

 

()()()()()()()()今までみたいに素通りする感覚じゃない……」

 

 それはあり得ないことだった。幾度となく心理掌握を彼女に向けて使っていたからこそ、その違和感は顕著だった。

 

『どゆこと?倶佐利ちゃんには心理掌握は通じないって話でしょ?もしかして、あの状態になっちゃったことでその特別性が無くなったとか?』

 

 ズレていたものが横から衝撃を受けたことで正常になった。テレビを叩いて直すような物言いではあったが、警策としてはそれしか思い付かない。

 もし本当にそうならば、幻生の企みは自分の行いで全て潰れたことになる。いい気味だとほくそ笑みそうだ。

 

「ですが、それでその反応はおかしくありませんこと?(いささ)かオーバーリアクションが過ぎると思いますが」

 

 そうなのだ。食蜂からすれば心理掌握を人に掛けることは日常茶飯事。

 それが、今まで能力が通用しなかった相手に通じた程度で、()()()()()()()()()()退()()()()()()()()()()()()()()()()

 そんな食蜂は震える唇をそのままに口を開く。

 

「……素通りはしてないけど引っ掛かる感覚がある訳じゃない……。まるで海に釣り糸を垂らした感覚はあるのに、魚にも岩礁にも当たる感覚が一切無い虚構みたいな掴み所が無い不思議な感覚……しかも、底が見えない深海のような果てしなさは何……?

 それに加えて、心理掌握をしたとたんに深海へ無理矢理引き摺り込まれたかのような圧迫感…………もしかして、天野さんの特異性が別のものに切り替わった……?」

 

 冷や汗を流しながら食蜂は言葉を紡ぐ。それは震える肩を掴みながら行うその言葉の羅列は少しでも頭の中の混乱を収めるための行動だった。天野の中身はそれほどまでに異質だったのだ。

 偽りの大海であるようで、同時に本物の生命そのもののような異質な感覚。あれが人間の中身だとはとても信じられない。

 

「(見え方が変わっただとかそんな話じゃない。あれは、構造からして全く違う。

 一から百まで既存の在り方から逸脱してる……あれが絶対能力者(レベル6)?あれこそが神様の頭脳?人間の脳を……いえ、中身をあんな風に作り変えるなんて正気じゃない……)」

 

 元々、まともな計画ではないと思っていたが、あんなものが備わっている人間などもはや人間と言っていいのか甚だ疑問だ。

 

 だが、これで分かった。

 分かってしまった。

 今の天野は限り無く危うい状態であると。

 

 

 

「何故かは分からないけど、今の天野さんに心理掌握は届いてしまう!このままだと、幻生の望む展開へとなるわ……ッ!」

 

 

 




◆作者の戯れ言◆
タグに関連作品もう書けないってばよ……。この話から明確なFate要素が入ってきます←申し訳ありませんまだまだ先でした!m(_ _)m
そのため、Fate要素が出てくるまで投稿します!


次回は未定
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