とある原石の神造人形(エルキドゥ)   作:海鮮茶漬け

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ちょっと禁書のスレを覗いてきました。
この小説を書き始めたことによって何故か覚えた魔術知識を駆使すれば、「それなりに知識がある自分ならば大概の話には付いていけるのでは?」という自信を引っ提げて、ファンの深淵へと足を踏み入れてみました。

結論:有識者やばたにえん。

俺にはまだ早かったよ……


木原襲来編
144.統括理事長の決定


 巨大なビーカーの中で逆さまに揺蕩(たゆた)う、銀の長い髪を持ち男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも見える容姿をした『人間』は、世界一堅牢な城の中でその男と向き合っていた。

 

「それで、説明して貰えるんだろうなアレイスター?」

 

 グラサンとアロハシャツという、如何にもその場のノリで生きている人間のような風貌をしながら、その視線と圧力は闇の中で動く特有の凄みがある。

 土御門元春は暗部の顔をしてその『人間』と向かい合っていた。

 

「ふむ、まあそう来るだろうな。君としても理解を超えたことばかりだろう」

 

 統括理事長・アレイスター=クロウリーは多角スパイとしても動く少年に視線を向ける。

 

「今回ばかりはやり過ぎたな。危うく魔術サイドとぶつかり合うところだった。外部にいた俺でも分かるぞ。今回のことは途中からお前の手から離れて暴走していたってな。

 もしかすると、学園都市始まって以来の崩壊の危機だったんじゃないのか?」

 

 土御門はあのあと現場に残った痕跡で消せるものは消してここに来た。魔神が生まれそうになったことを考えても魔術の痕跡は消さなくてはならなかった。

 

 端的に言えば後処理を一人ですることになり、少々気が立っている。勿論、それが原因で冷静さを欠くようなことはあり得ないが。

 

「幾らなんでもあれはあり得ない。ただの偶然を超えている。一般人がクロウリー式のMagickの要素ばかりをその身に宿しているだって?

 作為的な何かがなければこんなことにはならない。この期に及んでシラを切るのはやめろよアレイスター」

 

 土御門は多角スパイという立場であり科学サイドの統括理事長に対して、何かを本来ならば言える立場ではない。しかし、科学サイドと魔術サイドのバランサーとして口出ししないわけにもいかなかった。

 規模が規模の上、天野倶佐利に対してされていることが余りにも度が過ぎている。倫理観はもちろん単純に戦争を呼び込む火種として。

 

「クロウリー式のMagick。その中でもセフィロトにトートタロットを対応させたカバラ魔術は、クロウリー式の代名詞だ。それこそ、『黄金』系魔術結社『明け色の陽射し』のボスは、トートタロットのアルカナを用いた戦闘方法を取っているらしいしな。

 お前が何を企んでいるのかは知らないが、天野倶佐利はお前が考えていた以上の爆弾となった。現場でフォローできる人間が一人でもいた方がお前的に助かるはずだ」

 

「ふむ……」

 

 アレイスターは目を細めた。土御門の問い掛けを吟味しているのだろう。アレイスターとしても科学サイドと魔術サイドの不文律を破る存在をそう明るみに出せる筈がない。

 取り扱いは最大限の警戒を抱いていることに何も不思議はない。アレイスターは土御門に向けて、いつもの感情の見えない顔をしながら言葉を発した。

 

 

 

「土御門元春。君は天野倶佐利という少女に対して、私が今まで一度も魔術的なアプローチをしていないと言ったら信じるかね?」

 

「……はあ?」

 

 

 

 土御門からすれば余りにも間の抜けた問いかけだった。何故ならば、それは一番あり得ないことだったからだ。

 

「冗談はやめろよアレイスター。この街で好き勝手住人の人生を決められる統括理事長にして、魔術……それもクロウリー式のMagickを好き勝手扱える『人間』なんてお前を除いて誰が居る」

 

「では、学園都市に訪れる以前、魔術に触れていた可能性は?」

 

「それこそ、夢物語だ。齢三つの幼児に魔術を極め尽くせとでも言うつもりか?学園都市じゃ満足に魔術を扱うことなんて出来る訳がない。

 お前の言い分が正しければ、天野倶佐利は十年以上魔術を使わずに秘匿し続け、外部からの後押しがあったとはいえ先日いきなり魔神になったということになる。

 そんな馬鹿な話があるものか。魔神という格がその程度ならば全魔術師の到達点などと言われることもないだろうよ」

 

 どのような天才であってもそんなことは不可能だ。(かつ)ては陰陽博士と言われた土御門としても笑い話と言いようがない。

 それこそ、一〇万三〇〇〇冊の魔道書を記憶したインデックスでさえ、魔神に届いてはいないのだ。ほぼ全ての人生を魔術と対極にある学園都市で過ごした少女が至れる領域ではない。

 

「君もその結論になるか。やはり、無理筋という他あるまい。

 魔術を究める方法は数多くあるが街全体を監視している私が、魔術を扱う特有の動きに今まで一度も気付かないなんてことがある筈がない。

 それこそ、私の作り出した魔術の系譜なのだとすれば尚更のこと」

 

「あ……?」

 

 土御門はそこである一つの疑念を思い浮かんだ。考えるだけでも馬鹿馬鹿しいがもしそうならば、先程からの不審なアレイスターの振る舞いにも合点がいく。

 今までの全ての仮定が間違いであり、先程の述べていたアレイスターの言葉を信じるのであれば……。

 

「……まさか、黒幕はお前以外に居るってのか?」

 

「逆に聞くが魔術を毛嫌いしている私が、この街の住人に対して魔術の技術を利用しようと思うと本気で思うとでも?」

 

 それはアレイスターならではの断言だった。そう、この『人間』の今までの在り方から推察すればそんなことはあり得ない。

 魔術の深淵を覗きながら魔術を何よりも憎むこととなったのがこの『人間』なのだから。

 

「……てっきり俺は二〇年前に行われた学園都市とイギリス清教合同の、『新たな能力者を作り出す』実験の成功例だと考えていたんだけどな」

 

「なるほど、能力者ではない原石だからと私が表に出さずに秘匿していたと考えていたのか。

 『能力者に魔術は扱えない』。この不文律に歪みが生まれると私が懸念してその判断を下したと」

 

「ああ、学園都市の闇に呑み込まれず生き抜いてきたアイツは、表でも裏でも顔が知れている。

 科学者達の間ではこれ以上無い程の実験対象として、常盤台を始めとした風紀委員(ジャッジメント)警備員(アンチスキル)の中でも、アイツを信頼するものは多い。

 迂闊に手中に納めるような真似をすればそいつらと共に、上条当麻が舞台に出てきかねないからな。そうなればお前の計画(プラン)も大きく修正する可能性が出てくることを、てっきり警戒をしているものだと踏んだんだが……」

 

「第七位が居るからこそ消耗品としての天野倶佐利の価値は高い。私が一度も成功例の無い実験に原石だからと天野倶佐利を用いれば、私のその横暴に我慢ならずクーデターに走る者が増大することだろう。

 それこそ、木原幻生が誰よりも早くにあの少女に目を付け近くにいたからな。今以上にあの老人の舵を握るのは難しくなっていただろう」

 

 木原一族がアレイスターに反逆しないのは『アーキタイプ・コントローラー』という存在以外にも、この街の生きやすさにある。アレイスターが作り上げたこの街はマッドサイエンティストにとってこれ以上無いほどの天国なのだ。

 それこそ、木原幻生程度ならば問題なく処理することは可能だが、科学の権威である側面を有している幻生は『木原』の中でも相当に相手にすると面倒な存在である。

 そして、下手をすると他の木原まで動き出す可能性を考えれば余り取りたくはない手であった。

 

「(いや、そこまで計算しているのか。都合の良い消耗品としての価値を示しつつ、手を出そうとすれば彼女を狙っている他の科学者や研究者が必ず報復に動き出す。

 旨味をそれぞれに与え供給しつつ、それを利用して利権を分散する方法。自らを都合の良い消耗品と客観視出来なければどこかで瓦解していたな。

 この街に訪れたばかりの子供がそこまで知恵を回すことができるとは、直接対峙した木原幻生以外で早々に理解できる者は居なかっただろう)」

 

 まるで、これからの人生を夢も希望もないと断じて、自らを一つの駒として見ているかのような冷静さ。一人盤外で見ているかのような俯瞰が出来なければ成立などする筈もない際どいバランス感覚。

 それだけで、如何に聡明な傑物か理解できるというもの。

 

「木原幻生はやはり黒幕と通じている訳ではないだろう。それにしては『オカルト』に対しての取り組み方が杜撰過ぎる。

 それこそ、一方通行(アクセラレータ)になぞらえて合流交通(エミュレータ)と彼女に名付けるつもりだったようだぞ。あの二人は幼い頃からの知り合いなのだから似たような名にするべきだとな」

 

「ハッ、悪趣味なことだな。それも天野倶佐利が超能力者(レベル5)になれないことが分かると同時に流れたってころか」

 

「幼い頃から魔術を彼女に施して入れば、完成形が彼とはまた乖離したものになるのは明らかだ。木原幻生は天野倶佐利の中にある『オカルト』には気付いてはいたが、調べようとも手の打ちようが今までなかった、と考えるべきだろう」

 

「……つまり、この街を隅から隅まで把握しているお前でも裏で動いている黒幕を掴めていない?」

 

「裏で糸を引いている者が甦った『黄金』の一人。そう言われても私は納得するぞ。

 いや、魔術の腕で私と並ぶメイザースであろうとも、私の敷いた科学の目まで掻い潜ることは出来ないことを考えれば、それ以上のゲテモノかもしれないな。

 それこそ、『薔薇十字』の名が隠れている可能性も捨てきれない」

 

「!…………」

 

 この街の王が影も形もその下手人の尻尾を掴むことが出来ていない。その事実に土御門は驚愕を隠せない。まだ見ぬ相手はあの統括理事長・アレイスターを完璧に出し抜いたというのだ。

 

「君も勘づいていないとなればこれ以上は不毛な時間だな。私はこれから彼女に対処する。これでお引き取り願おう」

 

「ッ!?待て、アレイスター!上条当麻に限りなく近い立ち位置の天野倶佐利を排除すれば、どんな悪影響が幻想殺し(イマジンブレイカー)に及ぶか分からないぞ!?」

 

「その可能性を踏まえても彼女は排除しなくてはならない。このままでは近いうちに魔術サイドとの戦争となる。今の時点でそれは避けなければならない事態だ。彼の前で直接殺すわけではないのだから被害は最小で済むだろう」

 

 そう言うと、土御門のすぐ隣に空間移動系能力者が現れる。次に何か言葉にする前に土御門のその姿が掻き消えた。

 再びアレイスターのみの静かな空間が出来上がる。しかし、その空間に新しい声が響いた。

 

 

『彼との問答は終わったかね?アレイスター』

 

 

 その渋い声は老犬のものだった。土御門がこの場から去るのを狙い済ましたかのように木原脳幹はアレイスターに声を送る。

 

「ああ、これで必要な要素は揃った。彼女を排除するための準備が完了したということだ」

 

『相手は科学でも魔術でもお前の上を行く敵か。様子見をして未だに隠れている黒幕の正体を見破るべきではないのか?』

 

「私と同等の魔術師が裏で糸を引いているのならば、証拠など何も残しはしないだろう。待っていれば馬脚を現すなどと楽観視すべきではない。

 ……いや、彼女という爆弾がいつ爆発するのかを、もしかすると彼女に魔術的な要素を詰め込んだ者にも把握出来ていない可能性が高いな。

 あの場でイシスの魔神となった天野倶佐利を、御しきれる魔術師など居はしないだろう。下手をすれば無意識下で放たれた呪詛返しによって彼女に殺されている可能性もある。

 爆破スイッチが黒幕の手から離れているのであれば、その者の動きに注目していても無駄だ」

 

『私は魔術に詳しい訳ではないからな。お前に聞かねばならない』

 

「何をだ」

 

 その老犬はいつものように葉巻を吹かしながら、アレイスターに向けて言葉を発する。

 

 

絶対能力者(レベル6)進化(シフト)。君が作り出した魔術の工作キットを利用した魔神への成長。そこまでは足りないピースを無理やり補えば道理を通すことも出来る。()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「……」

 

『あれには道筋がない。屁理屈を並び立てることすら不可能な未知だ。まるで、最後の最後にキャンバスを黒で塗り潰す所業だぞ。三流物書きが書いた蛇足のようなものだ。あれは、事故などという偶発的な事象とは違った匂いがする』

 

 これに関してはロマンなどという言葉でどうこう言える範疇を超えている。頭で理解出来る出来ないとはまた違った領域だった。

 

「私が知らないところを見るとあらゆる魔術の要素を纏め上げたゲテモノなのだろう。だが、()()()ならまだしも箱となると数は限られる筈なのだが、一致するものが思い付かない」

 

『では、パンドラの箱はどうだ?何でもあらゆる災いを詰め込んだ箱なのだろう?』

 

「いや、実際にはパンドラの箱は壺の形をしている。あらゆる災いの魔術を詰め込むとしても、伝承通り壺の形をしなければ効果を発揮することはないだろう」

 

『時限爆弾としては有用だと思ったんだがな』

 

「それも否だ。パンドラの箱から溢れ落ちた災いは全世界に波及する。どれだけ事前に対処しようと災いは全人類に及ぶだろう。例外が生まれることは恐らく無い」

 

『利用しようとすればしっぺ返しを必ず食らうか。天罰……いや、魔術を行使することによる「火花」だったか?』

 

 種類で言えば人類が背負う原罪に近いだろうか。それも無作為に災いが選ばれるというのなら、対処するための魔術を作り出すだけで一生を費やすことになる。

 端的に言えば時間の浪費にしかならず、魔術のテクスチャにも影響が出る恐れも考えれば愚策としか言えない。

 一度、深く息をするかのように口から煙を吹いて、彼はその姿に見合わない声で述べた。

 

『では、やるのだな』

 

 その問い掛けというよりかは、確認のために投げ掛けられた言葉に対して、アレイスターは冷徹な視線に酷薄な笑みを浮かべて言い切った。

 

 

「ああ、彼女にはここでご退場願おうか」

 




一年後まで更新が無いとか宣言しながら、何度も気分で覆す作者がどうやら居るらしい。

『とある』でオススメする本と言えば?

  • 旧約とある魔術の禁書目録
  • 新約とある魔術の禁書目録
  • 創約とある魔術の禁書目録
  • とある科学の超電磁砲
  • とある科学の一方通行
  • とある科学の未元物質
  • とある科学の心理掌握
  • とある暗部の少女共棲
  • 法の書
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