とある原石の神造人形(エルキドゥ) 作:海鮮茶漬け
形容しがたい様々な感情を表情に出しながら、御坂美琴が切り出した。
「いきなり連れてこられて状況がよく分かってないんだけど……天野さんの人格が私のものになったって話じゃなかった?どう見てもいつもの天野さんじゃない」
「私にもどういうことなのか全く分からないわ。警策さんの話によると天野さんの人格が元に戻る可能性が極めて低いって話だったんだけど、今にして思えば御坂さんがその場で天野さんの状態を確認しない訳がないのよねぇ。私としたことが冷静
まあ、私がそんな醜態を晒したその発端は、他でもない警策さんなんだけど」
「私も別に嘘を言った訳じゃないからね?幻生の話じゃ人格が上書きされて、倶佐利ちゃんの人格は失くなっちゃったってことだったんだけどさ。いやーなんでだろうねー…………いや、マジでなんで?
人格が上書きされたのにどうして元に戻ってるとか、訳分かんないんだけど」
上から御坂、食蜂、警策が会話を繋げていく。
誰も彼もが何も言えない気まずい雰囲気となってしまったのも、致し方なかっただろう。
「ハッ!!」
「セイッ!!」
夏の熱気も落ち着き秋の涼やかな風が彼女達の頬を撫でる。現在、彼女達が居るのは集合場所であるファストフード店ではなく、近くの河川敷だ。
理解できない事態が押し寄せてきたことにより、あのままでは追い出される可能性が高かった上に、込み入った話をするのならばどのみちあの場に留まることはできない。
だからこそ、
理解ができないことと言えば、今現在行目の前で行われている行動だろう。
「……というか、何であの二人殴り合ってるの?」
高速で縦横無尽に動き回る二人の影。萌葱色のストレートと藤色の縦ロール、二つ長髪が残像のように残り二人の軌跡がそこに刻まれる。
一人は食蜂派閥のNo.2 帆風潤子。もう一人は何を隠そう他でもない天野倶佐利だ。二人の可憐な少女達は夕方でも無いのに、河川敷で殴り合っていた。
ドゴォッッ!!と、重い音と共に
「帆風が天野さんの戦い振りを
生まれる風圧でバッサバッサと髪を乱しながら、達観した目で食蜂が答えた。
「いや、私が言ってるのは何かしら精神に異常があったらしい天野さんが、どうして何事もなかったかのように河川敷で全力の組み手をしてるのかってことなんだけど……っていうか、帆風さんってあんなタイプの人だったっけ?」
「……普段は常盤台の生徒らしい純粋な天然お嬢様なんだけど、能力の影響もあってか血気盛んな側面があの子にはあるのよねぇ。そのお転婆具合は御坂さんと同じくらいかもしれないわぁ」
「……いや、流石の私も組み手申し込まれてあんなに笑顔にはならないわよ?」
人の出せる速度を優に越えた二人は足技なども使い、殺人級の威力の一撃を全力で相手にぶつけていた。その衝撃を受ければ苦悶の表情となるのが当然なのだが、相反するように帆風潤子は輝いた顔をしている。
その晴れやかさはまるで部活に打ち込み良い汗を流す野球球児のようだ。
「能力使ってる操祈ちゃんの派閥の子と能力使わずに渡り合うって訳わかんないんだけど……。噂に聞く原石ってこんな感じのばっかなの?」
「さあ、分からないけど……あの第七位を見ちゃうとあながち違うとも言い切れないわね。それこそ、私よりも出力が上だった天野さんの雷撃をただの拳で叩き落としていたし」
「……今すごく頭の悪そうな文脈だった気がするけど、原石って存在に常識
柔道の背負い投げの要領で投げ飛ばした天野に、空中で追い付き追撃を仕掛ける帆風だが、その突き出した腕を受け流して、身体の捻りを用いて生み出したエネルギーを使い、掌底で帆風を遠くに弾き飛ばす。
四メートル程間合いが開けたが二人にとっては一歩あれば充分。瞬きの一瞬で互いに拳をぶつけ合っていた。
「現役常盤台と常盤台OGが、少年漫画さながらの熱血バトルしてるって言っても誰も信じないね。しかも、河川敷で殴り合うとか今の時代じゃベタ過ぎて化石扱いだよ」
「そうよねぇ。河川敷で決闘とか前時代過ぎてカビが生えてるわよねぇ。……ねえ、あなたもそう思うでしょう御・坂・さ・ん?」
「うっ……」
河川敷でツンツン頭の少年と緑色の髪をした年上の少女に、それぞれ河川敷で決闘を申し込んだ前時代的な価値観の小娘が、どうやら学園都市に居るらしい。
どちらも喧嘩を吹っ掛けたのが自分のため、珍しく御坂は食蜂に対して何も言い返せなかった。
「ま、まあ、それはそれとして、……明らかにおかしいわよ天野さんの動き」
「!……まさか、体調不良や動きが悪くなってる?」
食蜂は瞬時に意識を切り替えて思考を回す。人格が一時的にでも全くの別人に塗り変わったのだ。何かしらの後遺症が残っても不思議ではない。
食蜂はどちらかと言うと、暗躍や頭脳戦などの裏方でこそ無類の強さを発揮するタイプ。戦闘や組み手の様子を見て相手の状態を把握する技術は全く無い。
それに引き換え、
そんな彼女が違和感を抱いたというのならば、そこには確かな違いがあるのだろう。耳を傾けるには充分な理由だ。
「そうじゃなくて、
少なくとも、帆風さんみたいな身体能力を向上させるような能力者と、能力無しで戦うなんてできることはなかったと思うわ」
「身体能力が上がってる……いや、そうか。
「ふーん、なるほどねぇ。どうして天野さんが突然帆風に組み手の申し出をしたのか気にはなってたけど、自分の身体の差違を見付け出す確認作業も兼ねてたのねぇ。
身体能力がいきなり増加したのなら、スパーリング相手として帆風以上の人選
御坂は
あるものは全て使ったあの戦闘の中で天野が力をセーブしていたとは思えない。それこそ、治癒できるとはいえ大怪我を負うまで隠す必要があるかは疑問が浮かぶ。
つまり、天野は一連の出来事を経て身体能力が飛躍的に向上したということになる。
「それも含めてちゃんと検査してほしいんだけど……」
「本人が『世界でも珍しい原石の一人にして
「…………」
その様に食蜂から言われた御坂は口をつぐむしかない。何故ならば、自分が考えなしに渡したDNAマップを悪用されて、
その自分と比べれば天野の懸念は被害妄想などという言葉で切り捨てられるものではない。人のためになるなどという甘言を疑わなかった自分よりも遥かに利口だろう。
この街では危機管理意識を持ちすぎるくらいがちょうど良いのかもしれない。
「まあ、それはそれとして、幻生の記憶を
「『非科学』?」
「木原幻生が今回でやろうとしたことだよ。科学を究めれば究める程に浮かび上がってくる理解不能な数値。木原幻生は倶佐利ちゃんを利用してそれを解明しようとした」
「警策さんは幻生に騙されて計画の片棒を担がされてたらしいし、そこの辺りも詳しい感じなの?」
「まあ、私はほとんど手駒みたいに動かされていたし、幻生が練っていた計画の細部までは知らないから、偉そうに何かを言える訳じゃないんだけどね」
御坂からの視線をどこか避けるようにしながら警策は口を開く。彼女は騙されていたとはいえ、学園都市を滅ぼそうとしたのは紛れもない事実だ。
本来ならばこうして、御坂美琴と話をするなどという一コマなど生まれるわけもないのだが、そこは心理掌握とカバーストーリーで誤魔化した。
曲がりなりにも暗部にいた警策ならば、素面で嘘の一つや二つ言うことなど朝飯前である。
「流石はこの街で重鎮と呼ばれることはあるわぁ。ドリーのことだけじゃなくどこまで本当なのかは分からない虚数学区・五行機関のことなんかも、なんとなく察していたみたいよ」
「ああ、あの噂として流れていたヤツ。その正体も分かったの?」
「いいえ、幻生としても確証はなかったみたい。それこそ、天野さんの実験で連鎖的に立証できるだろうって考えていたようねぇ。その正体がなんであれ
「それじゃあ、倶佐利ちゃんの能力のことは?倶佐利ちゃんの能力開発担当者って幻生なんでしょ?」
「ええっ!?そうなの!?」
「御坂さんは知らないわよねぇ。まあ、今回は巻き込まれたみたいなものだしぃ、細部まで調べあげられなくても仕方ないわぁ。今の話から分かる通り、天野さんはあのマッドサイエンティストに幼い頃から目を付けられていたのよ。
御坂さんのときのような甘言も暗躍も数え切れない程にあったにも拘わらす、あの人はその全てを捌ききってあの場所にいる。
それこそ、一手でも仕損じれば学園都市の闇に呑み込まれていたんじゃないかしら?」
「……そうか。操祈ちゃん達と違って世界に数人しかいない原石で、
「その上で、相手があの木原幻生となればその難易度さらに跳ね上がる。一瞬でも隙を見せたら血液やら髪の毛を取られるかもだし」
周囲には敵しかおらず人間扱いなど表面的なものでしかない。自分を見てくる科学者達は
そんな中で何年も生活していれば精神が壊れてしまってもおかしくはないだろう。それこそ、人間不信になって当然とも言える。
「それなのに、天野さんが纏うあの余裕のあるお世話好きなお姉さんオーラは、どうやって生まれたの?幾らなんでも環境が劣悪すぎるでしょ?」
「それは幻生も不思議だったみたいねぇ。精神的なブレがある方が絡め取りやすいのに、常に余裕を持って立ち回り続けるからお手上げ状態だったって話みたいよぉ。
小さい頃から一人っきりで学園都市の闇と戦い続けてきた彼女が成し得た、表で語られることの無い偉業ね」
食蜂は目の前で行われるアニメのような動きを見ながら、そう締め括る。学園都市の闇にそれぞれ身に覚えがあるため否定の言葉など出るわけもない。
最愛の友人を殺されたり、善意を殺戮の悲劇に変えられたりなど、そのような結果しか導くことしかできなかった彼女達からすれば、天野倶佐利が行った被害を最小限に抑え込むというのは理想そのものだった。
その天野倶佐利は彼女達の悲劇を知っていたからこそ、近寄ってくる大人達に対して警戒度MAXで常にあり続けた事実は、ここで語られる必要のない事実である。
「それじゃあ、幻生も天野さんのチカラことは何も分かってなかったってことね。分類上『非科学』って話だし」
「そうねぇ。だから、私達の能力で天野さんの精密検査なんて芸当も出来ない。天野さんの特異性の原理が不明だし、私の能力も御坂さんの電磁レーダーも無効化されちゃうみたいだし?やっぱり様子見が最善手かしらねぇ」
人格の上書きによって如何なる影響があるのか調べておきたいところではあるが、本人に受ける意思がなくこちらも解決方法が提示できないのであれば、何も言えることはない。
このまま無事であることを願うばかりである。
「(……でも、あの幻生の記憶……。あれは一体なんなのかしらねぇ)」
組み手が終わったのか手を握り合う二人を見ながら食蜂は思う。
「(一回だけ幻生の提案で行われた天野さんのMRIとCT検査。その結果に幻生は目の色を変えていたようだけど、
誰が見ても検査ミスと断ずるべき結果が幻生の記憶にはあった。何十枚と撮ったものの一つ。エラーによって生まれた明らかな失敗。それを真に受ける科学者など、馬鹿馬鹿しいと嘲笑されて然るべきだ。
それなのに何故?
やりきったような満面の笑顔を浮かべてこちらに近付いてくる帆風と、いつも通りのたおやかな雰囲気を纏って歩いてくる天野を見ながら彼女は溜め息を付いた。
相手はあの狂人だ。『非科学』に思考を囚われたマッドサイエンティスト相手に、馬鹿正直に付き合えば思考をおかしくされるのは目に見えている。
様子見が結論として出たのならばこれ以上の推察は無意味だ。彼女は思考を打ち切り、
頭部のレントゲン写真に写る、白い長方形を忘れるようにして。
◆内心◆
「(学園都市の大人とかヤベー奴しかいないわ(断言)。善性のネームドキャラ以外の奴の言葉なんて、信じるに値しねぇよなあッ!?)」
オリ主の内面描写は次です。焦らしです(単純にそこまでいかなかっただけ)
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