とある原石の神造人形(エルキドゥ)   作:海鮮茶漬け

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試金石その2


14.妹達

 夕暮れの小さい広場にある木の下で、俺は彼女と出会った。ここだけ切り取るとまるで、御坂妹と俺とでラブストーリーでも始まりそうだが、もちろんそんなことはなく、ただの女同士の会話だ。

 

「この前鉄橋で顔を合わしたのに、もう忘れてしまったのかい?」

 

「すみませんがそのような記憶はありませんと、ミサカは改めてネットワークを検索し、再び問いに答えます」

 

 彼女はまるで心が込もっていないかのように、俺の質問を事務的に返答する。学習装置(テスタメント)によって必要最小限の知識しか与えられてないからだ。

 それを知っていながらとぼける俺も大概だと思うけど。

 

「……もしかして、彼女の妹かな?」

 

「彼女というのが分かりませんが、もしお姉様のことを仰っているのなら、ミサカは肯定します」

 

 彼女やらお姉様やらと絶対に名前を言わないという、流れが出来てしまった。二人とも人名は言わないキャラクターだから、仕方ないといえばそうなのだが。エルキドゥは基本的に相手のことは君で、御坂妹もあなたと呼ぶのだ。

 

「なるほど血縁者か。道理で似ているわけだね」

 

「てっきり学習装置(テスタメント)で学んだ、ナンパというものかと思いました、とミサカは内心で呟きます」

 

 もしかして、遠回しに男に見えると言っているのだろうかこの小娘は。エルキドゥは確か男でも女でもないキャラクターらしいから、間違っているとは言えないけどな。

 しかし、今の俺の姿を見たら女としか思えないだろ。だってスカート履いてるし。

 ていうか、学習装置(テスタメント)に何を入力してんの?科学者は馬鹿ばかりなのか?

 

「それでは、もうよろしいでしょうか?とミサカはこのあとの予定を考えながら尋ねます」

 

「うん、大丈夫だよ。急に話しかけてしまって悪かったね。それじゃあまた」

 

 そう言って俺達は違う方向に歩いていく。これで、量産型能力者計画に関わる切っ掛けが出来た。残された期間は短いが布束に接触出来れば、実験へ自然に介入することができるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがしかし、いくら街を歩いてもマネーカードの噂は出回ってなく、当然布束には会えなかった。

 なんでだ?実験を止めるために動いていたはずなのだが、あのギョロ目。もしかして時期が早すぎたのか?

 そんなことを考えながらも、数日ぶりに上条の住んでいる学生寮まで来てみると、意外なことに留守であった。てっきり、インデックスくらいはいると思ったんだけどな。

 

「ああ、なるほど」

 

 ふと、首輪を解決した後の事件を思い出し、早速彼らがいるであろう場所に赴いてみる。学生寮から少し離れたとこにある、世間一般では来ないほうがいいとされている場所。今の上条にとって第二の家となる白い建物。

 

「うん、来たみたいだね。彼の怪我について知りたいんだろう?」

 

 そう、このカエル顔の医者が勤務している病院だ。

 上条は記憶をなくした数日後に、魔術関連の事件に巻き込まれている。アウレオルス=イザードが黄金錬成をするため、三沢塾の生徒と姫神秋沙を拉致し、その事を知ったステイルが上条を連れて彼を倒すに行く事件だ。

 この頃いろいろあってすっかり忘れていた。スパンが短けぇんだよ。いくらなんでも早すぎるわ。お前記憶なくしたの数日前なんだぞ。腕をチョンパされんのいくらなんでも早すぎない?

 

「僕も驚いたよ。まさか、腕を繋げただけで翌日にはくっついているとはね。彼の体はファンタジーだね?」

 

 そんな彼の言葉を最後に聞き、診察室から出ていく。上条が以前から無茶をして入院したときは、毎回来ていたからすんなり話を聞くことが出来た。俺は上条の保護者かな?

 そして、いつも通りに病院の個室まで歩いていくと、彼らの声が聞こえたので扉を開けて入っていく。

 

「やあ、相変わらず無茶をしたらしいね」

 

「あっ!くさり!」

 

「あれ?先輩何でここに?」

 

 俺を見つけ名前を呼ぶインデックスと、戸惑っている上条。何にも知らないはずの俺が、ここに来たのが不思議なんだろうな。

 原作でアレイスターがステイルに、上条だけは魔術サイドの事件に、巻き込んでも構わないとか言ってたから、おそらくステイルが上条以外に、察知されないよう動いていたのだろう。確かに、俺はその事に気付くことすら出来なかったけど、原作知識があったからなぁ。まあ、言い訳は考えている。

 

「君が補習で学校に用があるわけでもなく、学生寮にいないのならここだろう?」

 

「えっ?もしかして先輩の認識だと俺ってそんなやつなの?」

 

「……やっぱりそうなんだね。もう!とうまは本当に無茶をしすぎなんだよっ!」

 

「あれ!?まさか、また新たにインデックスへ燃料が投下された!?ま、待てインデックス!相手はお前を狙ってた魔術師なんだぞ?そんで、お前に事件のことを言ったらどうせ、ひょいひょい事件に突っ込んで行くじゃねぇか。ここは俺の類い稀な判断能力をだn「……とうまぁ~~!!」……あ、あれ?インデックスさん?何で何度も歯を鳴らしているのでせうか?いや、待っ、ぎゃああああああああ!!!!」

 

 毎度お馴染みの噛みつきが上条の頭皮を襲う。何回も見てるけど、やっぱ風情っていうか趣があるよなぁ。(しみじみ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 上条が退院した後は何事も起こらず特に進展はなかった。上条の家に訪れたり、みさきちに会って上条のことを弄ったりしただけだ。

 マネーカードの噂は出てきたが、必死になって探すのはアレイスターに不審がられるからなし。適度に探すしかなく、手掛かりは掴むことが出来なかった。滞空回線があるため不審な行動が出来ないのが痛い。ミコっちゃんみたくハッキングはあり得ないし、そもそもハッキング出来ないし。

 何か情報はないかと適当に歩き周っていると、御坂妹と出会ったところに来てしまった。繋がりを手に入れた場所につい来てしまったらしい。意識を変えて違うところを探そうとすると、女の子の声が聞こえて足を止めた。

 

「でも、人のDNAマップを下らない実験に使うヤツらを、見過ごす気もないわ」

 

 その声を聞いてすぐ側の茂みに隠れ、息を潜めた。見た感じ出歯亀のようだが、そんなことよりも大事なことがあるため、決してバレないように気配を消すことに専念する。

 

 ようやく介入の糸口を見つけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「素直じゃないわね。計画の関連施設は二十を超えてるわよ。一人でやるつもり?」

 

 御坂美琴は足を止め目線だけ布束に戻す。その目からは疲労が感じられたが、それでも朝日を浴びる電子の申し子は言いきった。

 

「私を誰だと思ってるの?」

 

 そう言って彼女は振り返らずに去っていく。きっと彼女は終わるまで立ち止まらないだろう。

 ならば、自分も出来るだけのことはしてみよう。例え学園都市の闇に落とされることになったとしても。

 

 

 

 

 

「その話詳しく聞かせてもらってもいいかな?」

 

「ッ!!」

 

 バッと勢いよく振り返ればセーラー服の少女が後ろに立っていた。人の気配には気を使っていたし、彼女の電子レーダーで人が近づけばすぐに察知できる。

 その条件下でここまで接近されるなんて予想外にもほどがあった。

 

「(メンタル面の影響で、能力の性能が不安定になるのは周知の事実。超能力者(レベル5)だからとその可能性を排除した私のミスね)……何のことかしら?申し訳ないけど何を言っているのか分からないわね」

 

「一度も聞いたことがない彼女によく似た妹。そして、今聞いた御坂美琴のDNAマップを使った実験。なら答えは一つだ。彼女のクローンが作られているんだろう?」

 

 ……さすがに、ここまでバレていてはお手上げね。だけど、彼女達のためにも、計画は伏せられたほうが望ましい。好奇心からなのかは知らないけど、学園都市の闇や第一位を相手にする可能性があると知ればもう探られることはないだろう。

 そう考えこの計画のあらましと、後ろに何がいるのかを説明する。説明を聞き、うんうんと首を縦に振る彼女は、自分のこれからの行動方針を決めた。

 

「ふむ、なるほど。なおさら引けなくなったね」

 

「なッ!?……あなたこの計画の大きさが分からないの?」

 

「いや、十分に理解出来ているよ。だけど、きっと後輩は彼女と関わりがあるから、この事を知ってしまうだろうしね」

 

「……彼女が自分の問題を誰かに話すとは思えないけど、あなたの後輩は彼女とそんなに近しい仲なのかしら」

 

「さあ、どうだろうね。友達とも言えない関係じゃないかな?」

 

 あっけらかんと答えた彼女につい呆然としてしまう。ならば、どうやってその後輩はこの計画を知るのかと、聞こうとすると彼女は、「だけど」と付け足し最後にこう締め括った。

 

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 暗闇の世界を歩き続ける人間が学園都市にも存在する。彼らは暗部と呼ばれ、学園都市にとって不必要なものを掃除したりなど、血と闘争に彩れた悲劇を日夜作り出している。

 暗部に入る者は自分から進んで堕ちる者から、人質、あるいは、生活を送ることができるような立場を得るためと、様々なケースがある。その中には超能力者(レベル5)が所属している暗部組織も幾つか存在している。

 

「ぐ……あ"……ッ!」

 

「このまま依頼主に引き渡します。抵抗しても超無駄です」

 

 例えば布束砥信を取り押さえている少女、絹旗最愛が所属している『アイテム』も、超能力者(レベル5)の第四位、麦野沈利がリーダーを務めている組織だ。彼女たちは上層部からの依頼で動き、今回も襲撃者から建物を防衛するために雇われている。他の三人はもう一つの防衛拠点で、御坂美琴を相手に拠点を守るため、今現在戦闘を繰り広げている。

 そして、一人この場を任された絹旗最愛は、もう一人の襲撃者である布束砥信を、取り押さえることに無事成功したのだ。

 しかし、ピッピッとまるでタイピングをするかのような音が聞こえ、布束を退かしてみると何かを入力していた。それに気付き、すぐさまメモリを破壊するが、すでに何かがインストールされていた。

 

「(これで、感情プログラムは妹達(シスターズ)に共有される。妹達の中に自分の運命を嘆く者が現れ、その姿を見た誰かが実験の中止のために動く可能性が生まれた。極僅かな変化かもしれないが、間違いなく計画の軌道が変わるはず!)」

 

 これが布束が用意できる現状を打開する一手だった。妹達はこれで殺され続ける未来から、遠くなったのだと確信し笑みを浮かべる。

 しかし、学園都市の闇はそんな甘さを許さなかった。

 

 鳴り響く警告音と共に、『WARNING!』の文字がパネルに表示されたのだ。

 

「(こんなセキュリティをいつの間に……ッ!!)」

 

 そのあとも、取り巻きの下部組織だろう男から拳銃を奪うが、絹旗の窒素装甲(オフェンスアーマー)に無力化されてしまう。無能力者の布束では窒素装甲を持つ絹旗と戦っても、勝つことは万が一にも有りはしない。絹旗と下部組織の男達の手により、学園都市の闇によって布束が逃げることは出来ない、どん底の人生が始まろうとしたその間際、

 

 

 ドガッッッッ!!!!!!!!

 

 と、盛大な音と共に金属で出来た扉が、スポーツカーの最高速度と同じ速さで、絹旗に飛んで来る。

 当然、窒素装甲で防ぎ無傷であったが、明らかに敵対行動だ。煙や粉塵で姿が見えないことからも、敵対者は相当暴れ回ったらしい。

 

「襲撃者は一名かと思いましたが、超違ったらしいですね。とはいえ、やることは変わりませんが」

 

 コツコツと靴を地面に鳴らし、自分を攻撃した人物が近づいてくる。はっきり言ってしまうと拳銃だろうが、ダンプカーの一撃でさえも防げてしまう窒素装甲は、近接戦闘に持ち込めば超能力者(レベル5)相手でも、条件さえ合えば何人かは通じる能力だと考えている。

 この狭い空間では大技も出来ないだろうし、下部組織の男共も期待はしていないが、隙を作るぐらいの役には立つだろう。

 何が目的かは知らないが襲撃者である以上、ここでこの女と共に潰しておくべきだ、と暗部に浸かってきた少女は思考する。

 

 

 

 

 だが、それが間違いだったと彼女はすぐに気付くことになる。

 

 

 

 

 




このオリ主背後から現れてばっかり。BLEACHかな?

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