では、伏線回収していく20話です。
ツンツン頭の少年との、決闘の場に現れた不気味な少女。基本的に噂などは気にしない美琴のため、常磐台の卒業した生徒の噂など、当然知るよしもなかった。
その彼女が天野倶佐利を知ることとなったのは、仲の良い少女からとの会話からだった。
話は遡り、彼女と出会う数日前のことである。
夏の陽射しが照り付ける、七月終盤近くのとある日。セブンスミストにて、いつものように集まり談笑している、四人の少女達。場が温まってきたときを見計らい、満を持して少女が話し出す。
「ふっふっふっ!今回も新しい都市伝説を仕入れてきましたよぉー!」
小物くさいセリフを吐きつつ、明るく声を上げたのは、この間まで小学生とは思えないプロポーションをしている、黒髪ロングに一輪の花飾りが特徴の、中学一年生佐天涙子だ。
それは、行き付けの場所となったファミレス店で、いつものメンバーと談笑中の一コマであった。
「……はぁ、またですの?この学園都市でそんなオカルト染みたことなど、あるわけないでしょうに」
「まあまあ、いいじゃないですか白井さん。佐天さんのお話は面白いですし」
「ですが初春、この前の【能力が効かない能力をもつ男】などと、余りにも荒唐無稽な話ではありませ──」
「コフッ!?」
「どうしましたのお姉様!?」
「な、何でもないわ。大丈夫よ黒子(ものすっごい身に覚えがあるわねその噂の男……)」
都市伝説を求めてやまない、ミーハーな佐天涙子を見て、呆れている白井黒子。
科学の総本山である、学園都市に住んでいる彼女から見れば、そんなものは"常識的に考えてあり得ない"という結論になる。
それは、学園都市第三位の地位にいる彼女にも、もちろん当てはまるはずなのだが、なぜか焦って気管にジュースを詰まらせていた。それもそのはず、件の噂の男と戦闘(軽くあしらわれてばかりだが)を何度もしているのだから。
そんな彼女を尻目に、佐天は少しばかり声を大きくして言った。
「今回の都市伝説の女は、実際に戸籍が確認されていて、目撃証言も多くある、実在する人物なんです!」
「「「……………………うん?」」」
彼女達のテーブルに、しーんと静寂が流れた。
「……あ、あれ?皆さんどうしました?」
「……どうしたというかなんといいますか……」
「えぇとね?佐天さん。私たち都市伝説には詳しくないんだけど」
「それって、そもそも都市伝説って言えますの?」
都市伝説とは情報が不確かで、曖昧な噂話のことだ。ここまで確認されているなら、それってもう都市伝説じゃなくね?と少女達は思った。
それを聞いた佐天は、テーブルに身を乗り出して話し出した。
「そう!そう!そうですよね!私もそう思ったんですけど、どうにも違うらしいんですよ。なんでもその人物と、扱う能力が特殊らしいんです」
「特殊ですか?学園都市だと【どんな能力も効かない能力をもつ男】ぐらいではないと、特殊にならないんじゃありませんの?」
「話によると、その【どんな能力も効かない能力をもつ男】と、同等の力を持った、とんでもない存在なんですよ!」
「能力の無効化と同じくらいって、どんな能力なんですか?」
「なんとっ!【どんな能力でもコピーする能力をもつ女】なんですって!」
「「「…………」」」
またしても、場に静寂が流れた。
先程の疑問による無言ではなく、どちらかといえばしらーっとした目で、彼女達は見つめていた。
「……佐天さん。それって【どんな能力も効かない能力をもつ男】から派生した噂にすぎないのでは?」
「私もそう思います。夢がある能力だとおもいますけど、
「もし、実在していたら
「え?あれ?初春はともかく、お二人は知っているんじゃないですか?」
「えっ?どうして私たちが?」
投げ掛けられた言葉が分からず、不思議に思い佐天さんに聞いてみる。黒子も首を傾げていることから、私と同じ気持ちなのだろう。
「その【どんな能力でもコピーする能力をもつ女】って、元常磐台生らしいんですよ」
「でも、お二人がご存知ないのなら、やはりただの都市伝説ではないでしょうか」
「だよねぇー、やっぱりウソかぁー……」
ガックリと落ち込む佐天。その様子を見ていた常磐台の少女達は、彼女にそれぞれ言葉をかけた。
「ええっと……、私はそういう話は興味無いし、黒子は
「それに戸籍が確認されているのなら、先輩方や教員の方に聞けば分かるでしょうから、その噂を話してみてくださいな」
二人からそう言われて、彼女は俯いていた顔を上げた。不器用な励ましを受けて感動したのか、喜色満面となっている。
そして、白井黒子の言った通りに、【どんな能力でもコピーする能力をもつ女】の説明をする。
「美人で髪が特徴的な色をしている他は、見た目の情報は出回っていないんですけど、『能力を活かして諸外国にスパイとして潜入しに行った』、『闇の組織に入り学園都市を乗っ取ろうとしている』、『何故か学園都市にある最低レベルの高校に進学した』などの噂が出回っているらしいですよ」
「……ここまで荒唐無稽な話もなかなかありませんわね……。というか、最後だけ種類が違くありませんか?」
まさに、噂が噂を呼ぶ。【どんな能力でもコピーする能力をもつ女】だけで、そのうち七不思議ができそうである。
その話を期待はせずに寮監に話してみると、なんと本当に実在していた。髪色は常に変えていたらしいがどれも派手で、なぜか緑色という、人間には合わないだろう髪色が、一番似合っていたらしい。……黒髪や茶髪よりも似合うってどういうことよ?
こんな話で盛り上がった平凡な日常こそが、とても幸せだったと今は思う。
現在、御坂美琴は絶望の中を一人で歩いていた。
「(私が死ぬしかこの計画を止めることができない。……ただ困っている人を助けたかっただけなのに、なんでこうなっちゃったんだろう……?)」
始まりは筋ジストロフィーの治療のためだと、DNAマップを提供した。それが、あの子達のためになると私は喜んでいた。
それがあのイカレた実験を生み出した。
知らなかったでは済まされない。すでに二万人もの命が生み出され、そして殺された。この罪を背負い、そして残りの
悲痛な覚悟を決めた美琴が、ふと視線を横に向けると、何かが視界に入った。
風に靡く緑髪だった。
「(ああ、そういえば佐天さんが【どんな能力でもコピーする能力をもつ女】が、最近ネットで人気になっているって言ってたっけ……)」
その程度の感想しか思い浮かばなかった。一度しかあったことがない関係の薄さと、受け入れがたい現実に押し潰されているために、わざわざ声をかけようなどと思わなかったのだ。
そのまま通り過ぎようと足を動かすが、ピタリと足が止まる。何が彼女をそうさせたのか。理由は一つ。
彼女の前に
「……………………え」
思いもしない光景に思考が空白となる。
信じられないことだが彼女達は親しげに話していた。(妹達は無表情だが)
あのツンツン頭の少年のときと同じく、彼女達が独自の人間関係を、構築することもあるだろう。しかし、妹達は学園都市の秘匿とすべき存在だ。そう何度も会える存在ではない。では何故親しげにしている?
そう思考している間に、緑髪の少女はどこかに去ろうとしていた。慌ててその場に駆け込むが、
「!消えたッ!?」
その場についたときには、跡形もなく消え去っていた。
「お姉様が少年漫画さながら、横から砂煙を上げて登場したことに、動揺を隠しきれません、とミサカは内心ワクワクしながらも驚嘆します」
「…………………アンタ……」
資格はないかもしれないが、それでもすべきことがある。
「……この間はあんな酷いこと言ってごめん。アンタは悪くないのよ。あれは全部私が悪いわ」
「いえ、お姉様の反応は当然であると認識しています、と科学者の人から教えて貰ったことをお姉様に伝えます」
「そんなこと……ッ!」
自分にこのあとのことを言う、資格はない。切羽詰まってたとしても彼女に暴言をぶつけたのは私なんだから。
無言で拳を強く握りしめた。そんな後悔に押し潰されている彼女を尻目に、彼女は話し続ける。
「それにしても彼女は一体何者なんでしょう、と疑問を溢します」
「……もしかして、名前も知らないの?」
「ええ、それどころか実験の概要を知っている口振りでした、とミサカは謎の存在に危機感を抱きます」
「実験を知っていたですってッ!?」
思わず彼女の両肩に掴みかかる。
「次の役目と言っていたので、実験の詳細を把握していると思います、とお姉様の突然の変わりように、目を白黒しながら驚愕します」
なんだそれは?一体どうなっている?たかが一生徒にこの実験が知らされるはずがない。
いや、それより
━━━次の役目ってなんだ……?
にもかかわらず、妹達は別の役目があるのだという。それから導き出される答えは───
「まさ……か……、
あり得ない。宇宙空間である上に、学園都市のセキュリティも万全であり、今回の破壊は限りなくゼロに近い可能性だった。今回のことは宝くじに当選するよりもさらに低い確率だ。
だがしかし、限りなくゼロに近い事柄まで想定している、入念な計画だとしたら?
今さら自分が死んだ程度で、まるく収まるのだろうか?
樹形図の設計者の演算結果とは違い、128手かからずに一撃で死ねば、実験が中止になる可能性があると考えていた。
しかし、
クローンである以上科学者や研究者達が、彼女達に容赦をするとは思えない。それこそ、使い捨ての道具ように扱うだろう。
それこそ、
「………………そんなの……どうすればいいの……?」
もしそうなら、
ハッキリ言っていくら第三位の能力者でも、そんなことは絶対に不可能だ。
学園都市が相手ならば電子機器は停止させられ、能力者を何人も送り続けるだろう。たった一人の少女を殺すなど、奴等にとって赤子の手首を捻るよりも簡単だ。
代名詞の
やる前からすでに結果が見えている。大したこともできずに犬死にする。───勝率など0%だ。
「どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう……ッ!どうすれば!」
まさか自殺することよりも、最悪な絶望があるとは思わなかった。決死の覚悟を持っても何も変えることができない。たったひとつの解決法でさえ、無意味であることを知ってしまったのだ。
「いや、待って……。あの女はなんで知っていた……?…………あの女が関係者であることは間違いない。それなら───
───
あの女が実験の関係者なら、妹達の行く末を知っているはずだ。身内の裏切りまでは流石に、シミュレーションしてはいないだろう。そこに活路がある。
「ごめん。私これから用事があるから、もう行くわ」
「はい、了解しました、とお姉様にお別れの挨拶をします」
「ッ!」
言葉を交わしたあと、美琴は彼女を追うために全力で走り出す。
「別れの挨拶なんてことに絶対しないわ……!」
走りながらもターゲットを分析する。知っている情報は都市伝説程度で、邂逅したのは一度きり、しかもやすやすと背後を取られてしまった。もし彼女が殺すつもりなら、自分は死んでいたかもしれない。相対すれば一瞬の油断が命取りとなる。
「……もっと早く気付くべきだった……!」
以前からおかしいとは思っていた。
電磁レーダーを頼りにしていた自分は分かるが、こちらを向いていたあの少年はそうではない。
「(あの女が私に近付けるように、注意を引いていたってことも考えられるけど……。あのお節介にそんな器用な真似は、きっとできない)」
さらに、あの日は風が吹いており、あの目立つ長髪が風に靡けば、確実に目につくはずだ。しかし、あの少年はそれに気付かずに、私に怒鳴り付けた。その事から考えられるのは、
「(私の電磁レーダーを、すり抜けられるかの検証……!)」
そのために、あの少年に気付かれる訳にはいけなかったのだ。───そして、見事にしてやられた。
あらゆる能力をコピーするのなら、生体電気を感知されないような、能力を有していたとしても不思議ではない。
パルクールと磁力を合わせたような動きで、建物を高速で駆け抜けながらも考え続ける。
「(出力では勝っているはずたけど、闇討ちだとしてやられる。必勝条件は正面戦闘。それ以外ではこっちが不利になる)」
コピー能力を使えば索敵など容易だろう。その上こっちの電磁レーダーは無効化されている。暗殺を食らえば、ほぼ間違いなく殺されるということだ。
そろそろ日が落ちる。夕日が射してきたことに焦りが出てきた。
「(ヤバイ、実験が数時間後に始まっちゃう。それまでにあの女を見付けないといけないのに……ッ!)」
水面に反射する夕日を憎々しげに睨んでいると、ふと視界に人影が映る。
「ッ!!」
ダンッ!!!!と、建物の屋上からひとっ飛びで、ほぼ水平に飛んだ。
何故こんな強引な動きをしたのか。見つけたからだ。ターゲットを。
地面に降り立った美琴はポケットから取り出し、
「アンタの知ってることを全部話してもらう!!あの子達を助けるためにッッッ!!!!」
現役JCに啖呵を切られている、現役JKがいるらしい。まあ、俺なんだけども。第三者から見たら、俺もミコっちゃんも美形だから、スゴイ絵になるんじゃね?なぜなら美形だから(強調)
いろいろ言いたいけどまず一言。
なんでお前ここに来たの?(困惑)
君がすべきことは鉄橋行って上条ボコボコにして、ナデポされてイチャイチャすることだろ?(憤慨)
そして、その光景を俺に観察させろ(迫真)
……はあ。まあまあまあ、今回はそれを置いておこう。そんで、なんでここに来たん?意味が分からんがな。
俺悪いことしてないじゃん?良い未来になるように、結構危ない橋を渡ってるじゃん?そうじゃん?(必死)
なんか敵意ビンビンなんだけど。何その諸悪の根元見つけた、みたいな雰囲気。
行動起こしたの数日前よ?原作知識があるから、ある程度は知ってるけどさあ……。
「あの子達が今の実験の次に、やらされる計画だけでも、絶対に聞き出すから覚悟しなさい!」
…………ん?はい?何それ、俺知らないんだけど。
え?マジで何の話?妹達を世界に配置して、ミサカネットワークを広げる計画のこと?何でミコっちゃん知ってんの?
それ言ったらアレイスターに消されるの確定だわ。詰んでますねぇ(白目)
ダレカタスケテー!
「(物語の始まりだから、絶対邪魔しちゃいかんよなー。
……そだ!バレんように観察するために、鉄橋の上とかに居たらよくね?)」
そんなこんなで無駄にテレポートを駆使して、隠れていた原石がいたらしい。