とある原石の神造人形(エルキドゥ)   作:海鮮茶漬け

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コナンの二次小説を書きたいと思う今日この頃。

25話です。


26.最弱の拳

「(さぁ~~て、………………どうしようか。)」

 

 このポンコツ。安易にわかるなどと言ってしまったため、引くに引けない状況へと陥ってしまった。

 

「(上条が御坂妹と同じくらいボロボロなくせに、目が異常に輝いてるわー。「やっぱり年上の女の人ってスゴイなー」みたいな目してるし。

 ここで「な~~んつって!テヘペロっ!」……なんて言えないよなー。……いや、実際に言えないんだけどさ)」

 

 上条が某心理掌握(メンタルアウト)のような、お目目椎茸になっていることに冷や汗を流すが、ノープランでここまで来た以上は高度な柔軟性を保ちつつ、臨機応変に対応しなくてはならない。

 そんなオリ主がまず最初に思い付いたのは、───「話術で捩じ伏せる」だった。

 

「今の彼に勝つには後輩だけでは不可能だ」

 

 まず純然たる事実。

 これでこれから先の言葉に真実味を持たせる。ここでなるべく残酷な事を言うと効果大。

 その指摘に上条は悔しそうな顔をする。実験を凍結させるためには、学園都市最強を学園都市最弱の自分が倒さなくては達成できないと考えているからだ。

 ……実をいうと今となってはそうでもないのだが。

 

 それに比べて他の二人はすんなりと理解してくれた。

 ここまで頑張ってくれた上条に感謝こそすれ、文句などあるはずもなかったのだ。実際に凍結にできるかどうかはわからないが、この戦場を乗りきったあとは自分達でどうにかしようとすら考えていた。

 

 御坂美琴は普段の言動からは理解しにくいが、学園都市でも屈指のズバ抜けた頭脳を持っている。疑心を抱かれる可能性があったが、この絶体絶命の状況が味方をしてくれた。

 天野にとってこれ以上ないほどに場が整った。

 

 そんな彼らを見渡したあとに、天野は少し声を整えて彼らに問う。

 

「なら、どうすればいいのか。もうわかるよね?」

 

 天野倶佐利はキメ顔でこういった。

 

「この戦いに勝つにはここにいる全員の力が必要なんだ」

 

 

 

 

 

 

 ……要するに何が言いたいのかというと、これから決行するであろう作戦の責任を、全員に分散したいということだ。

 

 割りと今のコイツはクズである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コンテナを幾つも軽々と吹き飛ばす災害を前にして、少女達は一歩も退かずに前を向いていた。

 その片割れが作戦の重要な作業に取り掛かった。

 

「『それでは行って来ますのっお姉様!』」

 

「アンタにお姉様言われる筋合いなんてないわよっ!」

 

 数時間前に死闘を演じていた二人は、何故か今共闘をしていた。

 その理由は数分前に遡る。

 

 

 

 

 

 

 天野は上手く話が進んだことで「俺ってもしかして天才じゃね!?」と超絶浮かれていた。

 主人公はもちろん、言わずもがなの学園都市第三位。感情を忘れた(元々無い)アンドロイド少女こと、くーるびゅーてぃー御坂妹。

 この三人を話術で騙し抜き自らの危機的状況を脱したことは、オリ主にとてつもない達成感を与えていた。

 

「いいかい。彼を倒すには後輩の右手しかない。ここまではわかるね?」

 

 三人が頷く。

 誰も魔術を使えない以上は幻想殺し(イマジンブレイカー)でしか突破口はない。そんな当たり前のことを言うことで場の支配と、最適な作戦を即興で頭の中に思い描いていく。

 結論が既にあるのならば、適当に理論を作りあとから付け足せばどうとにもなるのだ。

 

「問題は後輩の道を強引にでも作らなくてはいけないことだ。本来なら僕が空間移動で連れて行くんだけどね」

 

「白井もできなかったし、この右手を持っている俺じゃ空間移動はできないからな」

 

「だからこそ、まずはあのトルネードを対処する人員がいるんだ」

 

「私の出番ってわけね」

 

「僕も手伝うよ」

 

 そう言ったのはここに居るなかで一番の高位能力者、御坂美琴。超能力者(レベル5)には超能力者(レベル5)というのは利にかなっているが。

 

「でも、今の私には超電磁砲(レールガン)を二発打つのが限界よ?」

 

 いくら学園都市第三位だとしても、天野との戦闘。上条との我慢比べ。さらに、先ほど一方通行(アクセラレータ)が生み出した瓦礫の嵐に対する高度な演算。

 今の美琴はそういったこともあり、かなり衰弱している。

 

「なら、超電磁砲(レールガン)は一発だけにして、あとは僕のフォローを任せようか」

 

 ここまで即興で言っているものの、今のところ目立った矛盾はないように思える。

 だが、ここで御坂妹が声を上げる。

 

「……今までの作戦を聞いた限りミサカはいないほうが良いのではないでしょうかと、ミサカは戦闘能力の差を歯痒く思いながらも冷静に分析をします」

 

 それな。

 責任を分散させるために巻き込んでおいてなんだけど、御坂妹の出番がさしてないわ……。いや、ほんと考えなしでごめん……。

 でも、それじゃあ俺の身が危ないんだよ!「よくも妹を誑かしたわねッ!!」何て言われて背中に超電磁砲食らいたくないんだ!(必死)

 

「いや、君は後輩の側に居てくれると助かるよ。後輩の右手は能力以外の自然現象には効力を発揮しないからね。彼をコンテナから守ってほしい」

 

 適当に言ったけどなんかいい感じの答えじゃね?

 上条が必要不可欠なんて言い方をしてるけど実際はそうでもない。能力の暴走をしてるから幻想殺しが無くても勝てる可能性が充分にあるんだよ。

 とはいえ、原作の流れと変わってる以上は堅実な勝利を選ぶのは当たり前だろ?

 

「……もしかして、あのトルネードにこの子を突撃させるつもりじゃないでしょうね?」 

 

 目を鋭くしたミコっちゃんが俺を睨んできた。

 …………やっべぇ。そこまで考えてなかったぁ……ッ!!

 どどどどないしましょ!?このままだと撃たれるぅッ!?

 いやいや何だかんだで上条の側に居れば安心じゃん!?上条ならもしもの時は体を張って助けてくれるって!

 ……ああー、でもこの状況で言っても説得力皆無か。実際に襲ってくるのは異能の脅威じゃなくて、異能が生み出した脅威だもんな。

 う、うーん。さて、どうしたもん───あ、そういえば……

 

 

 

「姉なら妹の障害ぐらいどうにかするんじゃなかったかな?」

 

「ぬぐっ!?い、いや、それは……っ!!」

 

 痛いところを突かれたかのようにミコっちゃんは退いた。だが、ここで伏兵がダメ押しにかかる。

 

「お姉様……」

 

 呼ばれただけだが、彼女が何を言いたいのか美琴は十全に理解する。そんなワガママを言う御坂妹を見て、ミコっちゃんは頭を掻き毟った。

 

「んがああああああっ!!わかった!わかったわよ!やりゃあいいんでしょ!やりゃあっ!!」

 

 やけくそ気味に俺の押し付けをミコっちゃんは了承した。ついさっき御坂妹の前でカッコ良く啖呵を切ったんだから、次は実行しないといけないよな。はっはっはっ!

 あと言ってるうちに気付いたのだが、もしかしたら御坂妹が一方通行を倒す、ジャイアントキリングが発生するかもしれん。その場合、上条のやるべきことがなくなるのでは……?

 そんな不安を抱いている俺に、再びミコっちゃんが顔を合わせてくる。言いくるめられたことで俺にムカついたのか、少し語気を強くしてミコっちゃんが一番重要なことを聞いてきた。

 

「それで、あのトルネードを攻略する具体的な案は?」

 

 そう、そこなんだよ。連続超電磁砲(レールマシンガン)ぐらいやって欲しかったんだけどなー。実質一発だし無理かー。

 そうなると余ってる俺か。あのトルネードをブッ飛ばすなら軍覇の一撃しかないんだよな。

 だけど相手が風じゃ暖簾に腕押しだし、ほんの数秒しかもたないか。なら、空間移動で跳んでそのあとに───あれ?

 

 無駄に優秀な頭脳を働かせて全体図を見事完成させたところで、オリ主がふと気付いた。

 

 これ一番被害食らうの俺じゃね?

 

「(いや、いやいやいや!な、なにか他に方法があるはずだ!このままじゃ何故か体が治ったのに、またしても大怪我をする羽目になるッ!!)」

 

 そのあと必死に頭を回したが、それ以上の案は一つも出てこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(暴力ってダメだと俺思うんだ……)」

 

 既にオリ主は現実逃避をしていた。あそこまで言っておきながら黙秘など無理だし、何より他に代わりになる方法がなかったのだ。

 

「(そんなことよりも他に目を向けるべきだろう?ほら、見てごらん。空はこんなに澄みきっているし、大地からは地球の力強さが───)」

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッッッッ!!!!!!

 

 一方通行が生み出したトルネードで天気は大荒れ。大地は地盤を剥がしたことにより言うまでもなく。

 その目は間違いなく節穴であった。

 どうやら世界はオリ主に現実逃避も許してはくれないらしい。

 

「(…………これも上条と一緒にいる不幸かぁ……。えー。それでは皆さんご唱和下さい。

 それでは、はい!せーぇー、のーぉー……で!)」

 

「『すごいパァァンチッッッッ!!!!』」

 

 とてつもない威力の衝撃波が第七位(天野)の手から発射され、一方通行が作り出すトルネードを大きくえぐる。

 

 そしてそのあと、すぐさまシュンッ!と空間移動(テレポート)特有の移動音を鳴らし、緑髪のツインテールの少女が掻き消えた。

 彼女が次に現れたのは

 

 

 先ほどえぐったトルネードの中だった。

 

 

「『うぐッ!』」

 

 弱まったとはいえ強風の勢いに、白井(天野)の口から苦悶の声が漏れる。小柄な白井黒子の体では体勢を整えることもできない。このままでは再び巻き起こるトルネードに何もできずに呑み込まれて、死体を晒すことになるだろう。

 

 しかし、ビタッッ!!と何故か空中で不自然に止まる。

 

 その理由は彼女の後方にいる第三位の仕業だ。

 前髪から電気を発生させながら、彼女は自らの後輩を真似る少女に向かって吠えた。

 

「アンタ私の後輩の姿で無茶するんじゃないってのっ!」

 

「『ッ……流石はお姉様。常盤台のエースは伊達ではありませんわねッ』」

 

 実は天野の背中にはコンテナの小さめの破片が装備されていた。その破片を磁力で操り無理矢理空間に固定したのだ。

 超能力者(レベル5)の実力を遺憾無く発揮しているわけだが、御坂美琴の顔は青ざめていた。

 

「(あのトルネードが数秒後に来たら、一秒も経たずに全身の骨が砕けるのよ!?固定してるぶん風を受け流せないから確実に即死だってのに……。あの女普通に突っ込んで行きやがるしっ!

 恐怖とかないわけ!?さっきの戦闘を見てなかったらこんな馬鹿げたことに絶対付き合わないってのに……!)」

 

 自分が盛大な彼女の自殺に付き合わされてるのではと、ゾッとしないことを頭の片隅で思いながら、第七位は銃弾が心臓に当たっても痛いですむとの噂を彼女は全力で信じた(今は第七位の姿ではないため、あまり関係はないのだが)。

 

 

 ※ちなみに先ほど天野は撃たれました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『そんじゃあ行くわよ!』」

 

 またしても天野が変身をする。次に姿を変えた相手はまさかの御坂美琴だ。

 コインを右手に構える。

 

「『これが私の全力だああああああッ!!!!』」

 

 天野の超電磁砲(レールガン)が放たれた。

 学園都市第三位の代名詞である一撃。その破壊力は折り紙付きだ。

 だが、思い出してほしい。

 

 劣化模倣(デッドコピー)の能力を持つ彼女が、御坂美琴の能力で超電磁砲(レールガン)を放つとどうなるのか。

 

 

 ドゴバァッッッッ!!!!!!と、天野が生み出した衝撃波でトルネードに大きな穴が開ける。

 

 

 天野が超電磁砲をコピーすると、うまく操作できずに衝撃波となって四方八方に振り撒かれるのだ。天野は自爆技と認識しているため使う機会などないと考えていたのだが、思わぬところで使う羽目になった。

 

「『ぐっ!!』」

 

 衝撃波が一方通行に反射をして天野を後ろに吹き飛ばす。一方通行は寝ている間でさえも反射を使えたため、暴走状態であっても変わらずに使えるのだろう。

 

「だけどそれも計算内ッ!」

 

 コインを右手に掴んだ御坂美琴が躍り出る。

 天野は反射が働いてる可能性を予期していたのだ。能力も碌に使えない暴走した状態でそんなことができるなど、まさに荒唐無稽な話である。

 しかし、天野はそこは絶対に譲らず計画の計算に入れた。それは彼に対する一種の信頼であった。

 トルネードをまとめて全て第七位の衝撃砲で吹き飛ばそうとすると、あの馬鹿げた威力が一方通行に反射されて返ってくる。

 オリ主版超電磁砲ならばさほど周囲に影響を与えることはない。

 天野は爆風にわざと吹き飛ばされることで、美琴の射線上から上手く外れることに成功したのだった。

 

 そして、作戦通りに待機していた電撃姫が力を解き放つ。

 

 

「勘違いするんじゃないわよ、こっちが本家本元だってのッ!!!!」

 

 

 ドウッッ!!!!とオレンジの閃光が御坂美琴から発射された。天野とは違い真っ直ぐに閃光が伸びていく。

 

 着弾したのは一方通行───ではなく彼が立つ足場だ。

 

「ッ!?」

 

 ドバンッッ!!!!と一方通行の立つ地面が弾け飛んだ。

 当然反射が働いたが、その石や瓦礫が向かう先は真下の破裂した地面。それがさらに足場を粉砕する。

 

 一方通行の暴走は外部からの影響ではなく、一方通行の精神に大きな揺れが起きた内面的な影響が原因だ。つまり、一方通行の精神が落ち着けば自然と元に戻る。それは、能力の暴走の中でも軽度のものであるということ。

 そのため、能力の暴走状態であっても、反射だけはまだ正常に発動することができる。だが裏を返えせば、未だ能力を僅かながらも一方通行自身が制御しているということだ。

 では、彼の足場がなくなる不足の事態が起こると、果たしてどうなるのか。その結果は歴然だった。

 

 

 嵐が収まった。

 

 

 防衛本能が働き、反射的に反射を含めた自衛に演算を割いたためだ。

 天野が周囲の風を吹き飛ばし、御坂美琴がトルネードの発生を遅らせる。

 数瞬の安全地帯が確保された。

 

 ならば、あの男がこれ以上立ち止まる理由はない。

 

 

「行くぞ!」

 

「了解しました」

 

 

 上条当麻と御坂妹の二人が駆け出す。

 その距離約四メートル。

 到達するためには僅か1秒弱。だが、最高峰の頭脳をもつ一方通行が、再び能力を発動するには充分過ぎる時間だ。

 異能を打ち消す右手しか持たない上条当麻は、再び爆風に吹き飛ばされてしまえばどうすることもできない。

 一方通行が再び能力の暴走を始める一瞬前。

 

 そんな上条を救う者が上条の背後から横に飛び出した。

 

 御坂妹だ。

 

「ッ!!」

 

 バチィッ!と手から激しい音を鳴らして、一方通行に電撃を撃ち放つ。

 だがしかし、

 

 

 一方通行に触れたその瞬間、電撃が御坂妹に反射した。

 

 

「(て、……はあ!?)」

 

 能力の暴走は能力が能力者の手元から離れてしまい、無差別に力が振るわれることだ。暴走状態は周囲の人や建物もちろん、ときに能力使用者自身も大怪我をしてしまうこともある。

 一方通行の精神的なダメージからの暴走のため、その状態は軽度ではあるのだが、能力の暴走であることには変わりはない。

 

 その状態でプラズマである電気の演算もできるわけがない。反射を完璧に制御していることは普通に考えてあり得ないのだ。

 

「(ちょいちょいちょい!流石に予想外なんですけど!?暴走状態で光や熱のベクトルまで反射できんの!?チーターや!チーター!)」

 

 しかし、そんな天野の思考は当然無視して、無情にも電撃は御坂妹に向かって跳ね返ってくる。全身ボロボロの御坂妹が電撃を食らえばただでは済まない。最悪命を落としてしまうだろう。

 御坂妹の危機に対し、ツンツン頭のあの男が足を踏み出す。

 

 

 ───前に。

 

 

「(か、かかか上条サンッ!?)」

 

 御坂妹のピンチを前にして、あの上条が助けに割って入らなかったのだ。

 普段の上条当麻ならば絶対に取らない選択肢。

 例え作戦が失敗しようとも、彼ならすぐさま横に飛んで御坂妹を救いに行く。そんな風に誰であっても見捨てるなんて絶対にできないのが上条当麻だ。

 そんな彼が何故、御坂妹を無視して一方通行の方に向かったのか?

 

 

 

 それは、信じていたからに他ならない。

 

 

 

「言ったはずよ。アンタの障害は私が全部吹き飛ばすってねッ!!」

 

 

 先ほど一方通行の立つ地面を吹き飛ばした御坂美琴が、強力な電磁波を生み出し、御坂妹に向かって来ていた電撃を強引に直角に曲げて、弾き飛ばした。

 

 結果的に御坂妹は一方通行にダメージを与えることができなかった。しかし、ダメージを与えることだけが攻撃ではない。

 御坂妹は電撃を一方通行の顔面に向けて放った。人間は意識のない状態でも瞳に光を当てられると瞳孔が収縮する。つまり、ただの光で体が反応してしまうのだ。

 当然、前後不覚になっていたとしても、体は条件反射で雷光に一瞬反応してしまう。御坂妹が体を張って作り出したのは一瞬の猶予だ。

 

 そして、その絶好のチャンスを上条当麻は見逃さない。足を強く踏み出し拳を力の限り振り抜く!

 

「うおおおおおッ!!!!」

 

「ッッガハッ!?」

 

 グゴキィッ!!と原始的な音が響く。渾身の一撃を受けて一方通行の体が後ろに傾いた。

 その拍子に能力の暴走が幻想殺しによって打ち消されたのか、今しがた吹いていた強風が鳴りを潜め無風の空間が帰ってくる。

 上条達の攻撃により一方通行の体はふらつき、今にも倒れそうになっていた。

 

 揺れる視界の中で一方通行は思う。

 

 

 

 ま……負ける……のか?この俺が?

 

 この一方通行(アクセラレータ)が?

 

 こんな妄言垂れ流すだけのクソ野郎共に……?

 

 

 

 ───ふざけんじゃねェぞッッ!!

 

 

 

「ッ!!があああァァァアアアッッッッ!!!!」

 

 だが、その一撃は一方通行を正気に戻した。痛みと共に演算を取り戻した一方通行は、自身にストレスをかけ続ける目の前の敵を排除するため、上条を殺しにかかる。

 

「オオァッッ!!!!」

 

「ぐあッ!?」

 

 一方通行が足を地面に叩き付けると、ドバンッッ!!!!と、砂利を含めた地面全てが広範囲にショットガンのように打ち出される。その威力は手榴弾を遥かに超えていた。直撃すれば重傷は免れない。

 それが半径3メートルの扇状に繰り出され、上条を津波のように呑み込んだ。

 上条が立つ空間に向けた上下左右を含めた範囲攻撃。砂利を吹き飛ばすだけなら、上体を深く下げれば避けれるだろうが、今度の攻撃にそんな隙間は在りはしない。特殊な右手しか持たない上条では万に一つも避けることは不可能だ。

 

「そんなッ!?」

 

 美琴が悲壮な声を上げた。声には出していないが10032号も呆然とした表情から、同じことを想像したのだろう。

 土煙で隠されているが、あの中はさぞ悲惨な光景が出来上がっているはずだ。ツンツン頭の少年の原型が未だに残されているかも分からない。

 

 そんな状況を一瞬で作り出した白い悪魔は、世界に宣言するかのように声を上げる。

 

「俺は一方通行(アクセラレーター)。俺の進む道は絶対だァ!誰も反論なんてできねェ……ッ!それがこの世界の法則(ルール)なんだからなァッ!!!!」

 

 手を広げたその姿は、まるで自分がこの世界の主であるかのようであった。誰も彼に敵わず、彼が恐れる敵などこの世界には誰一人としていない。まさしく頂点に相応しき絶対の力。

 今後も実験は続けられるのだろう。彼が無敵へと至るためにどれだけ時間がかかったとしても。

 そのために、流される彼女達の血は見向きもされない。彼女達の死はただの数字に変換されて地獄は何度も繰り返す。

 少女達の亡骸を養分にして白い悪魔が次の段階へと羽化するその瞬間まで。

 

 そして、きっと近いうちに───涙を流す女の子でさえも、上から踏み潰すのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「そうかよ。なら、そんなふざけた幻想は俺がぶち殺してやる」

 

 

 

 

 

 

 

 一つの影が突き破るようにして砂煙から身を踊らす。理不尽を打ち砕くその右手を握り締めて。

 

「何ッ!?(バカな……。今のタイミングで避けられるはずがねェ……!このクソ野郎何をしやがった!?)」

 

 血を流して傷だらけにはなっているものの、未だに五体満足でいることなど、どう計算してもあり得ない。

 

 一方通行は気付けない。

 上条の背中が天野同様に膨らんでおり、上条の遥か後ろでは御坂美琴に変身した天野倶佐利がいることなどは、一方通行に知る術はない。

 なぜなら、一方通行に対し背中を見せるはずもない上条と、自らが生み出した砂煙で天野の姿は覆い隠されているからだ。

 

 ザンッ!と上条が足を強く踏み込む。

 既にそこは上条の間合いであった。

 

「──チィッ!!」

 

 手が全力で上条に伸ばされた。

 動きからして咄嗟に動かしたのだろう。腰など入っていない上に拳ですらない、ただ手を伸ばしただけであった。

 しかし、一方通行は全身が凶器であり、指先が触れるだけで相手を絶命させることができる。上条の体に触れるだけで生体電気であろうが、血流だろうが一瞬で逆流にすることできる必殺の毒手となるのだ。

 その手を止めることなどできない。なぜなら、彼はあらゆるベクトルを操ることができるのだから。それは、彼に触れるということはこの世界の理を超越することと同義である。

 彼は物理法則の中で人間という種でありながら、生物最強の地位に君臨している。

 

 

 だが、

 

 

 パキュンッッ!!と能力の打ち消す甲高い音と共に、一方通行の指が上条の拳にへし折られた。

 

「ガアァッッ!?!?」

 

 痛みに呻く一方通行に対し、弓を引くかのように上条は再び右腕を強く引き絞り、この戦いの幕を下ろす最後の言葉を一方通行に送る。

 

 

 

 

「歯を食いしばれよ最強。俺の最弱は…………ちっとばっか響くぞ…………!」

 

 

 

 

 静かに発せられた言葉とは違い、その拳は岩のように強く握り締められていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (何でだ!?何でコイツは折れねェ……ッ!)

 

 何度吹き飛ばそうが目の前のクソ野郎は立ち上がりやがる!右手以外が俺の体に触れればハジけ飛ぶンだぞ。

 血を流して守るほどの価値がコイツらに有るとでも言うつもりか。

 

 

 (あと一歩で絶対のチカラ。

 

 何で、

 

 何で俺はァ……ッ!!)

 

 

 

 

【この能力(チカラ)はいつか世界を敵に回し、世界その物を壊してしまうかもしれない。

 このチカラが戦いを生み出すのなら、俺自身が戦う気にすらならない絶対的な存在になればいい】

 

 大量の重火器を向けられたあの時、ガキでありながら俺は全てを悟った。

 だから、人との関係を断ち一人で生きてきた。傷付けなくても済むように。何も壊さないでいられるように。

 だが、無駄であった。

 最強の称号欲しさに、さらに近寄ってくるヤツらが増える始末。最強程度では何も変わらなかった。

 このままじゃ俺の望みは叶わねェ……ッ!

 

 そしてようやく見つけた絶対的な存在(レベル6)

 あァ、これになれさえすれば、

 

 

《気にする必要はない、彼女達は人工物でしかないのだから》

 

 

 そうすればいつか……

 

 

《モルモット》

 

《人形》

 

複製人間(クローン)

 

 

 誰も傷つけなくても……───

 

 

妹達(シスターズ)だって精一杯生きてるんだぞッ!』

 

『私の妹だから』

 

 

 ───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無敵になれば変わるモンだと思っていた。

 そうすれば、ようやく望みが叶うンだと。

 

 だが、本当にそうなのか?

 

《僕は今まで何千と能力をコピーしてきたけど、その中でもこの力は一番恐ろしいね》

 

 俺が望んだものは無敵なんてものに頼らなくちゃ手にはいらねェモンだったのか?

 一万もの屍を作る必要が本当にあったのか? 

 

《一端だけとはいえコピーした僕でも、とてつもない破壊を呼び起こせてしまうんだ》

 

 俺が……

 

《もし、これが僕の能力だったなら》

 

 俺が、本当に欲しかったのは───

 

 

 

 

 

 

 

 

《この世界を壊してしまうのではないかと、一歩ですらまともに歩くことができないよ》

 

 

 ───ああ、何やってンだ 俺。

 

 

 ドガッッッッン!!!!!!

 

 

 

 




◆作者のやらかし◆
その一
実は前前回の裏話が伏線になってました。一体何人の人が気付けたでしょうか?


……すいません嘘です。載っける話を一話前にしてしまっただけです。申し訳ない。

そのニ
ロリ時代の天野倶佐利
「(ヤッベえなベクトル操作……。チート過ぎるわ。自転砲超パネェって。
 モビルスーツ恋査も言ってたけどこれ最強一卓じゃね?ずっと一方通行でよくないk───待てよ。自転砲ってことは地球の自転を簡単に操れるってことだよな。
 それって下手こくと、一歩踏み出しただけで地球ブッ壊れないか……?
 …………こッッッわ!?何だこれ!?お前の能力頭おかしいんじゃねぇの!?)」
 ちなみに言ったことはほぼ忘れています。

 ↑これを間違って一つ前に載せてしまいました。申し訳ない

◆裏話◆
一方通行が欲しかったのは、能力に畏怖を抱き自分を怯える相手でもなく、科学者や研究者がモルモットを見るような、自分に好機の目を抱く相手でもない。
自分をただの人間として見て、能力の恐ろしさを同じ視点で見てくれる、そんな存在ではないかと思いました。

◆作者の戯れ言◆
これにて一方通行編は完結です。ここまで長かったわ……。
ここまでは結構早めに終わらせようとしていたのに、どんどんどんどん文字数が多くなっていく計画性の無さね。文才が欲しい……。

この小説ではFGOからはエルキドゥのみの登場となります。とあるの世界を余り壊したくないので。

……無限の剣製を書いてみたいなんて思っていませんよ。

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