とある原石の神造人形(エルキドゥ)   作:海鮮茶漬け

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書いてて思った。前話は超書きにくかったって。今回はカッチリハマった感覚でスラスラ書けました。
気になって考察動画を見たんですが、ガチ勢がスゴすぎてビックリしました。なんかいろいろな類似点や、伏線やらが多く散りばめられてたんですね。いくつか設定にぶちこみたいと思います。

あと終わったって書きましたけど、絶対能力者編の後日談です。


27.ティータイム

 ここは常盤台中学の学舎の園。

 うら若いお嬢様達の秘密の花園だ。夏休みであってもキャッキャウフフとあちこちから黄色い声が飛びかっている。

 その学舎の園の中に『派閥』と呼ばれる集団の、専用スペースが存在していた。その場に訪れる者は派閥の一員とその派閥を束ねる『女王』のみである。

 だが、今日だけは事情が違うようだ。

 

 食蜂操祈はティーカップをソーサーの上に戻し、来客に視線を移した。ジト目で。

 

「それで、あなたはあの人と御坂さぁんを必死力で守って、ボロボロの全身血塗れになった、ということでいいのかしらぁ?それって、御坂さんとの戦闘がなければもっと楽に済んだ事じゃないのぉ?」

 

 と、真っ当なことを言われている髪が異様に長い女。彼女は食蜂と同じ蜂蜜入りの紅茶を優雅に味わっていた。

 常にマイペースであるために、こんなあからさまな言い方をしても動揺することはないだろうが。

 そして、それは正しい。

 彼女はその言葉を聞いて苛つきなど一切感じておらず、平然としていた。それに何よりもその女には言い分があった。

 

「それは彼女がいきなり襲って来たせいだよ」

 

 澄まし顔で御坂美琴に全責任を押し付ける三つ年上(前世含めるとそれ以上)の常盤台OG。何も知らないオリ主からすれば、そう見えるのも仕方のないことではあるのたが。

 

「それも本当なのかしらねぇ?私の予想力だと意味深な言葉で、御坂さんに勘違いさせるようなことを言ったんじゃないかしらぁ?」

 

 大正解である。

 見事な分析力だがオリ主は自分の非を絶対に認めないため、答えは平行線であった。

 そんな天野に溜め息を溢しつつも、紅茶を注いだティーカップを再び手に持ち食蜂は事の顛末を聞いた。

 

「それで、どうなったの実験は?」

 

「うん?ああ、それは───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めて最初に映ったのは夜空に浮かぶ三日月だった。物音一つしないことから戦いは終わり、ヤツらは既に去ったあとなのだろう。

 その証明とも言える全身から伝わる痛みで、あのクソ野郎に負けたことを理解する。

 

「クソったれがッ……!」

 

 生まれてはじめて味わう敗北。プライドの塊である一方通行(アクセラレータ)には到底看過できない事態だ。

 その上、能力の暴走などという無様過ぎる敗因だったことが、なおさら一方通行をイラつかせた。

 だが、いつまでもこのままでいるわけにもいかない。ダメージ回復のため治療がいる。評判のいい医者に大枚はたいて入院することを決定しつつ、これからの事を予測していく。

 そして、ひとまず体を起こそうとすると、視界の隅に薄緑色の艶やかな髪が目に映った。

 

 そいつはほぼ俺の真横で膝を折って片手を足の上に置き、もう片手は耳に髪をかけている。

 俺と目が合った事を確認すると、微笑みをこっちにぶつけながら声をかけてきた。

 

 

 

「やあ、おはよう」

 

「何してンだ、オマエ?」

 

 

 

 一方通行は結構素で問いただした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶふぅっ!?」

 

 食蜂がお嬢様にあるまじき振る舞いをする。

 ティーカップから口を離さず吹いたことで被害はゼロに近いが、彼女を知るものが居れば目を疑うだろう。

 一年近い間柄の天野は特に気にはしていない。

 

「女王ともあろうものが随分と品がないことをするね。派閥の子達に呆れられてしまうよ?」

 

「誰のせいだと思っているのかしらぁ!?あなたそのまま殺されても文句いえないわよぉ!?」

 

 あのツンツン頭以外にこれほど取り乱すのは、食蜂操祈には天野倶佐利しかいない。

 食蜂は人の思考をボタン一つで読み取ることができる心理掌握(メンタルアウト)の使い手だ。その能力も天野相手では何故か効力を全く発揮しない。

 とはいえ、食蜂操祈は他人の弱みは手に入れたいが、自分の弱みは絶対に見せたくない人間である。当然、最初は完璧女王を振る舞っていたが、ツンツン頭の近くにいると何故かハプニングばかりに巻き込まれ、とんでもない醜態ばかりさらす羽目になっていたのだ。

 まあ、要するに開き直ったのである。

 能力で記憶を改竄もできず、だからといって少年から離れるのも認められなかったため、ズルズルと関係を続けていくうちに、いつの間にか気の置けない間柄となっていた。

 

「はぁ~~……。それで、どうしてまだその場に残っていたのよぉ?倒したんだからさっさと退散するのが普通でしょう?」

 

「うん?ああ、それはもちろん───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「目を覚ましたときに一人っきりというのは寂しいものだろう?」

 

 なんてことを目の前の女は澄まし顔で言いやがった。

 

「……随分と舐められたもんだなァ。この俺をこんな無様な目に合わせやがったオマエらに何もしねェとか、そンな都合のイイ展開を考えてンのか?こんな状態だが一秒あればオマエを愉快なオブジェに変えられンぞ」

 

 凶悪な目付きをした一方通行が天野を脅す。だが、天野は微塵も臆しはせずにこう切り返した。

 

 

「君はしないよ。今の君はもうしない」

 

 

 一瞬の間もなく断言した。これには一方通行も目を丸くする。

 

「もし、虚言だと思うのなら今すぐ僕の首に手を添えるといい」

 

 一方通行は手を添えるだけで人体を容易く破壊することができる、能力の持ち主である。一方通行の能力をコピーしている天野は、身に染みて理解しているはずだ。

 首を掴まれることは自らの殺生与奪を、一方通行に預けることに他ならない。

 その言葉がハッタリでもなんでも無いことは、らしくもない真剣な顔を見れば一目瞭然。この女はどうやら本気で俺が何もしないと確信しているらしい。

 

「チッ!……それで、命を懸けてまで何が目的だ」

 

「うん?君と会話をしに来ただけだよ?」

 

「…………。」

 

 コイツはやはりどこかイカれているのでは?と、一方通行の目が理解できない未確認生物を見る目になった。

 しかし、そんなことは気にも停めず天野は勝手にしゃべりだす。

 

「君の打倒は彼らにとって予想外だろう。さらに君の能力の暴走で決定的だね。

 御坂美琴(レールガン)の話では樹形図の設計者(ツリーダイヤグラム)は既に破壊されていて、再演算も不可能なようだ。ここまで明らかな計画の狂いが起きているのだから、樹形図の設計者(ツリーダイヤグラム)無しでの再開は絶望的だよ」

 

「……オマエ、俺に殺されてェのか?」

 

 淡々と話していく天野に、一方通行が殺意をぶつけた。

 今までの道のりを台無しにした張本人が、ここまで明け透けに言えるものだろうか。短気の一方通行でなくとも殺意を向けられて当然である。というか煽られていると取られても全くおかしくない。

 

 これまで通り、天野は一方通行が放つ全ての怒気の一切を受け流して、自分の聞きたい事を聞いた。

 

 

「君はまだ絶対能力者(レベル6)にこだわっているかい?」

 

「」

 

 

 こちらの内心を見透かしたような物言いにしばし固まった。まるでこの程度は当然とも言いたげな、常と変わらぬ姿に唖然とする。

 あのクソ野郎に殴られたときに全てを思い出したのだ。それから実験に対して一切ノリ気ではなくなっている。

 そんな俺を見て全てを察したようなその面はこの上なく鬱陶しいが、今さら誤魔化すのは馬鹿らしくもあった。

 

「……二度もあんなつまんねェ作業させられるなんざ、どんだけ頭下げられよォが願い下げだ。半分までやったが大した変化も感じられねェしな。

 つーか、そもそもヤツらが樹形図の設計者(ツリーダイヤグラム)に、俺のデータを正確に入力できてるとも思えねェ。オマエに言われるまでもなく俺の旨味はキレイさっぱり消えてンだよ」

 

 そう言ったあと、一方通行は口を閉ざし黙り込んだ。

 その様子を見た天野は笑みを深くする。天野は立ち上がり一方通行に語りかける。

 

「君がこれからどう生きるのか僕にはわからない。だけどもし、今回の事で何か新しいものを見いだせたのなら、君はきっと変われるよ」

 

 見下ろす視線には侮蔑などは一切含まれておらず、ただ真摯な想いがそこにはあった。

 まるで迷える子羊のために祈りを捧げる修道女のように、あるいはようやく前を向いた伝説のボクサーを送り出すように、彼女は彼にそっと言葉を送る。

 

「応援してるよ。一方通行(アクセラレータ)

 

 そう言って笑った天野は背中を向けて去って行く。スタスタと一方通行が攻撃することなど、微塵も考えていないかのような軽い足取りであった。

 

 

 結局、天野は最後まで一度も振り返ることはしなかった。

 一人残された一方通行は彼らしくはない、まるで負け惜しみをするかように吐き捨てる。

 

 

「チッ………………クソが」

 

 




原作知識あるからもう改心したこと知っています。
オリ主「よぉ、元気?お疲れちゃん!(笑)」みたいな距離の近さです。

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