~五年前~
「原石だからって些か調子に乗りすぎじゃありませんこと?」
そんな陰口が廊下の端から聞こえてくる。
転生してから早10年ちょい。女のコミュニティもだんだんと把握してくる頃、常盤台中学で俺は針の筵だった。
学園都市は能力の高さと同じくらいに成績が重要視される。
高位能力者は高度な演算能力を持つため、上位に入るのが普通だ。
一応
さらに、このエルキドゥの体だと澄ました言葉しか出てこず、それも彼女達の琴線に触れたらしい。常盤台はお嬢様学校だが全員がいい子ちゃんではない。一部の生徒には陰口をする子もいる。
それは不思議なことではない。女子の陰口などもはや挨拶だ。いくら文化圏が違おうとも、女子の話す内容などはある程度分かる。
悪口、愚痴、噂話、下ネタ。要約するとこれだ。(※あくまで個人の感想です)
女子の会話など誰かの悪口+「私、超不憫でかわいそう……」みたいな話ばっかりである。
では、そういったときどうやって対処をすればいいのか?
そう言うときの返しは「うんうん、分かるわー(棒)」
これが正解である。
女子の悩みなど既に答えがもうあるのが普通だ。欲しいのは共感なのでヘタに親身になるのは下策である。
常盤台にもそう言った普通の子はいる。
うん?それ以外の常盤台の生徒?分かりやすいお嬢様同士の会話を抜き出すとこんな感じ。
『「朝方花壇に咲いているお花がとても美しかったですわー」
「まあ!それは是非拝見したいものですわー」
「ウフフフフ」「オホホホホ」』
もはや魔境である。
こういう会話が多くを占めており、市民権を得ているのでは?と思うほどにあちこちで言われているのがいつもの日常だ。
これが常盤台スタンダード。お嬢様クオリティー。
思考回路に花束でもぶちこんだのだろうか。お嬢様は謎に満ちている。
話を戻そう。そんなヤツら無視しとけばよくね?と思うかもしれないが、そういうわけにもいかないのだ。
ぶっちゃけ、ものすっっごくめんどくさい。例えるなら、人型のGとも言えるしつこさと、夏場に現れる蚊のねちっこさを併せ持った怪物だ。……殺虫スプレーをまとめて振り掛けてやりたい……。
対立構造を作り出し、こちらをまるで悪役のように仕立て上げる。
そんな同調圧力や集団心理まで使ったやり方を見ると、とある誰かを思い出さないだろうか?
そう、歴史に刻まれている独裁政権を敷いた、伍長閣下ことヒトラーである。
ヤツらはあの悪魔の生まれ変わりなのだ。
庇えば撃ち殺す、とも言わんばかりのあの空気感。日常で出すなバカ。
その上、「私達は当然のことをしています」とでもいいたげなあの顔。
次会ったらぶん殴ってやるッ!!
ゴホンっ。まあこんな具合で目の敵にされるのはノーサンキューなわけだが、何しろこちらには改善のしようがない。
だって口調が変わるのは仕様だし。
隅っこですごしていたいが何せ顔がいいので。とっても顔が整っているので。
まあ、イラストは美形に描かれることが極めて多いものだ。エルキドゥが美形なのもそうなのだろうな。
それは、しょうがないと割りきれるが、頭の悪さはどうしようもない。だって能力開発してないし。
あんなヤク漬け脳ミソ改造チルドレン(言葉の暴力)と、一緒の土俵に上がれというのがそもそも無理な話である。
常盤台の中で下の下に入っていない事実に震えるべきだ。
とはいえ、いくら頑張っても今の順位には凡人がなれるはずがない。それなのに、どうして今の順位をキープできているのか。
そんなもの決まっている。毎回ズルをしているからだ。
いや、ちゃうねん(震え声)
超能力だしセーフだよ。ギリギリセーフ。
授業の前と後に
まあ、当然凡人のそんな頑張りは理解してもらえるはずもなく、常盤台では劣等生扱いにされている。勉強自体はやっているというのに……。
終いには原石ってだけで常盤台に来た卑怯者と言われる始末。
……いや、それはあながち間違っているとは言えないかもな。
ゴホンっ。いろいろ脱線をしたが、とにかく現状を何とかしないといけない。俺に敵対しなくなるような、何か新たな物を生み出せばどうにかなるはずなのだ。
言ってしまえばヤツらは、俺に利用価値(損得だけではなくカリスマ的な何かも含む)があれば手のひらを返す。ならば、ヤツらも含めた大衆を巻き込んだことをすればいい。
「(常盤台の生徒が好きそうなもの、女子ウケが良さそうなもの……)」
とはいえ、JK(お嬢様)が欲しがりそうな事なんてそうそう思い付かない。
「(食べ物?いや、学舎の園にはたくさんのカフェやレストランがあるから、興味を持つ人間はまずいない。あと学内でできることのほうがいい気がするな……)」
そうしてしばらく試行錯誤をしていくうちに、オリ主の頭の中に最適解が浮かび上がった。
~第一回社交遊戯~
「あの方の発案らしいですけど」
「思い付きで周りを巻き込むなど品位が無いのではなくて?」
「全く付き合わされるこちらの身にもなって欲しいですわね!」
キーキー言っているのは天野を陰で悪く言っていた生徒達だ。参加自由であるにも関わらずここに来たのは、天野の評判を下げるためだろう。
周りもその話の内容を聞かされ、少しばかり不信感を抱いてしまっている。
会場がそんな不穏な雰囲気になっていると、扉から人影が現れた。視線をそちらに移すと、
そこには男が立っていた。
キャー!!!と、そこらじゅうからから悲鳴が溢れ出す。会場、大パニックである。
「なななななななんで常盤台にとと殿方がいらっしゃいまして!?」
「け、警備!警備の方はどこにいらっしゃいますの!?」
先ほどのお嬢様方も取り乱している。常盤台に男がいるというのはそれほどに異常なのだ。
その男の隣に立つ寮監が声を上げた。
「……天野。貴様説明していないのか?」
「『こういうのは、サプライズがないとつまらないと思うんですよね』」
「面倒事を増やすな馬鹿者」
そう言った寮監が皆に説明をしていく。
「今回この場を開いたのはお前達が男に慣れておくためだ。天野には疑似体験の相手として男として振る舞ってもらう。この場で男がどういうものか天野から学ぶといい」
説明が終わるとお嬢様方は安心したように息を吐いた。
「ま、全く人騒がせな!なんて人ですの!?」
そんな感じでギャーギャー言っている人もいるが、人間とは好奇心に心動かされる人も当然いる。
「あ、あの!少し触らしていただいても……?」
「『ええ、もちろん』」
そんな感じでペタペタ触るお嬢様が周りに群がっている。その数は遠巻きに見る人と半々───どころか、過半数以上が好奇心の眼差しを向けていた。
「な、何てみっともない!私はこれで帰らしてもらいますわ!」
そう言ってスタスタ戻っていく、名も知れぬお嬢様方。
「(へっ、残念だったなぁ。これで独自のコミュニティーを構築すれば数の理は俺に傾く。嫌がらせは以前よりもやりにくくなったはず)」
打算まみれのオリ主らしいやり方である。
「(今は男でキャーキャー言われているだけだが、お次はショタやロリになって母性本能を刺激してやれば後はこっちのもんよ)」
ケッケッケッケッ、と。内心で悪魔のように笑いながら人心掌握のプランを考える悪魔。果たしてコイツが裁かれるときはくるのか。
そんなオリ主を尻目に件のお嬢様方はお帰りになった。
「全く!今回はとんだ時間の無駄となって──キャア!?」
しかし、階段を上がり出口へと向かっていくその途中で、先頭にいるお嬢様のヒールの踵が不幸にも折れてしまった。バランスを崩しそのまま階段へと落ちそうになる。
このままでは関西の地域の名前が入っている、アイドルデュオの片割れが主演を務める、舞台の見せ場と同じような光景が繰り広げられてしまうだろう。
その光景を見た周りのお嬢様方が咄嗟に支えようとするが、普段着なれないドレスであったため反応が鈍り、一瞬行動が遅れてしまう。
遠くにいるお嬢様方もこれからの惨事を想像したのか、小さく悲鳴を上げてしまっていた。
そんな痛々しい光景が起こるその寸前に、緑色が空間を切り裂いた。
衝撃に耐えるように身を縮めるが、思ったよりも衝撃が来ないことに少女は驚く。目を開けるとそこには穏やかな顔をした少女がいた。
「……えっ?……あれ?」
理解できずにぱちぱちと目を瞬かせるお嬢様。
痛みが来ると思い体を小さくしていると、上から声がかけられた。
「やあ、危ないところだったね」
そう声をかけてきたのは、先程まで離れたところにいた天野倶佐利だった。今の倒れる数秒の間に駆け付けてきたようだ。
今回オリ主が変身を解いていることから、本来の姿ではないと間に合わないと判断したようだ。
「えっ……あの、どうして私を……」
先程まで散々悪態を吐いていた自分を何故助けるのか、彼女には分からなかった。いい気味だと見捨てる方が自然だろう。
それを聞いた天野は流し目と柔和な笑みを浮かべて言った。
「つい体が動いてしまってね。怪我はしてないかい?」
「は、はい♡」トゥンク
一瞬で目の奥をハートにしたお嬢様は後に、天野が常盤台を卒業するまで右腕として───そして、ファンクラブ会員ナンバー0001として、天野が率いていた派閥のまとめ役を、卒業まで見事果たしてみせたのだった。
「これが常盤台に僕の派閥が生まれた経緯だよ」
「えぇ……」
大ホールに設置されているテーブルを天野と御坂、食蜂という珍しすぎる面子で囲んでいる一卓があった。
憧れの
しかし、どうやら乙女フィルターにはそんなことは些細な問題らしい。若干一名ツインテールをうねうねと動かしているメデューサがいるが、彼女には乙女フィルターではない、何か他のフィルターが搭載されているようだ。
まあ、御坂美琴が気にしてない時点で、大したことではないのかもしれないが。
「…………食蜂アンタ……」
「言わないで。私がこれを知ったのは派閥を踏襲したあとなのよ。だから私は関係無いから」
辟易としてますということを、これでもかと全面に押し出す食蜂。
それもそうだろう、先代が今の自分とは違い女王などではなく、オタサーの姫(?)のようなものだったと知ったときの衝撃は幾許か。女王として振る舞ってきた彼女には同情を禁じ得ない。
派閥の誰にもこれは言えねぇと、内心呟く現・派閥の長。
致し方なし。
「そんな経緯でね、僕が男の体になって耐性を作るというのが目的だったけど、本来の僕が良いという意見が多くなってしまってね。
軽く暴動が起きそうになってしまったから、先生達もこの行事の目的を変えるしかなかったんだ。
年を跨ぐごとにいつの間にか名前が変わって、今では学年を越えた女の子同士の交流会となったわけさ」
「当初の目的どころか、別の道に進んでんじゃないのその人達!?」
男子に慣れるために催されたにも関わらず、別の世界の扉を開けてしまったようだ。もはや、デメリットなのではないかとすら美琴は思った。
通りで先輩達からの黒子を見る視線が、どこか懐かしいものをみるような目であったはずだ。
くそっ!下地は既に生まれていたのか!と、今にもテーブルに拳を打ち付けるのではないかと思うほどに、悔恨の表情で唇を噛み締める御坂美琴。
通りで風聞が悪いから止めろと、一度も寮監を含めた先生達や上級生が黒子に何も言ってこないはずだ。
「それじゃあ、僕達のわだかまりをここで晴らしておこうか」
「今、このタイミングで!?」
そのあと、めちゃめちゃ和解した。
※もちろん核心に迫ることはしゃべらずに和解します。何故こんな人が多いところかというと、美琴が突然荒ぶっても周りに人が居れば、穏便になるだろうと考えたため。
食蜂が居るのももしものときを考えたためです。
とはいえ、某暴君とは違うので、美琴はそこまで理不尽ではありません。
いつものオリ主なら分かったでしょうが、先日叩きのめされたので軽くトラウマになっているため、ビビり散らかしています。
~とある日常のワンシーン~
いつもと変わらない学園都市の街を歩いていると、それは突拍子もなく起きた。
「きゃっ!」「のわっ!」
青年は走ってきた女の子とぶつかってしまったのだ。小柄な女の子は吹き飛ばされ、しりもちをついてしまった。
「す、すまない。大丈夫か?」「は、はい。申し訳ございません!」
頭を下げてくる小柄な少女。制服からして常盤台の生徒らしい。彼女は急いでいるらしく、謝罪を済ませるとどこかに向かおうとするが、
ヒラリっと、ハンカチが落ちた。
「あ、ちょっと君!ハンカチ落としたぞ!(常盤台の生徒と知り合いになるいい機会だ!)」
「え?……まあ!ありがとうございます!」
その小さな女の子はハンカチを確認すると、また引き返してきた。予想通りの展開に男の口元が弧を描く。男に耐性がないお嬢様を攻略する算段を立てていると、
女の子が青年の手をグワシッ!と掴み取った。
「ぬえっ?」
「ありがとうございます!このハンカチはお友達に頂いた物なんです!」
その小さな女の子は青年の手を掴み、お礼を言ってくる。
青年はお嬢様からの予想外の接触に動揺してしまった。
常盤台のお嬢様が男と接触をしないことは、周知の事実だからだ。
だが、女の子は青年の鼻先15cmまで近づいており、上目遣いで「感謝しています!」とキラキラした目で見つめている。
それに圧倒されていた青年は「よ、良かった」としか言えなかった。
そして、女の子はふと気が付いたかのように腕時計を見る。
「あ、もうお時間なのでこれで失礼いたしますわ」
そう言った次の瞬間、目の前にいた小さな女の子はシュバッと雑踏の中に消えてしまった。
余りにも素早い動きに青年は全く反応できず、しばらくポカーンと間抜けにも口を広げていたのだった。
別れた少女が路地裏で歩いていると、不思議なことが起こる。だんだんとシルエットが変わっているのだ。少しすると先ほどの面影はもう無くなっている。
小柄な体躯から長身の姿に変わった少女は、いつもの余裕がある表情をしていた。
「(くっくっくっ。……お金を払わずに可愛い女の子と触れ合えたんだ。コピられるなんて大したことじゃないよなぁ?)」
もし、彼女の本当の顔が見ることができれば、その顔には「計 画 通 り」と書かれていたに違いない。
※オリ主が変身した相手は当時16歳でしたが、10年経っているので大人になっています。そのため、本人には当然見えず男に探し出すことは不可能です。
ちなみに常盤台の生徒ですらなく、学園都市の研究者の一人でした。その誰かを彼が見付けることは、絶対に不可能ということですね。
◆変更◆
◆作者の戯れ言◆
あと一話で完結。
───そして、物語は最終章へ
あ、嘘です。
もし、天野が付き合う展開ならどっちがいい?
-
上条当麻
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一方通行