とある原石の神造人形(エルキドゥ) 作:海鮮茶漬け
「先輩、さっきはありがとうございました」
「気にすることはないよ。彼女が暴れていれば、僕の住んでいる家にも被害が出ていただろうしね」
そんな風に答えてくれたのは、某ビリビリ中学生に絡まれているところを助けてくれた、頼れる先輩だ。
「それに、今こうして付き合って貰っているからね。全然構わないよ」
緑色の長い髪を揺らして先輩は儚げに微笑む。俺が気を使わないようフォローまでしてくれる先輩に、俺はただただ感心していた。
「(やっぱり、先輩は大人の女性って感じだなあ)」
年上の女性に憧れを持つ男子高校生の上条当麻は、いつも冷静沈着で落ち着いており、ピンチになると突然颯爽と現れ、幾度となく助けてくれた女子高生は輝いて見えた。
女の子なのに僕という一人称を使ったり、淡い緑色の髪を膝元まで伸ばしている、学園都市でも珍しい部類の人物だが、それも彼女の魅力の一つだと今では理解している。
今も手の掛かる弟を見るような慈愛の目を向けられていて、少し気恥ずかしく思いながらも、思春期特有の見栄が出ないのは、先輩の懐の深さが原因だろう。
その一つ年上の女子高生と、さっきまでのビリビリ中学生を比べてしまうと、その隔絶された差があまりにも哀れである。
そんな風に目の前の彼から、憧れの目線を向けられる女子高生は、当然に彼が考えるように彼のことを思っ
「(やっぱり、みこっちゃんはツンツンでしたなあ~♪ぐふふふっ!)
現実はいつだって非情である。あれだけ人様を馬鹿にしておきながら、哀れであったのは上条のほうであった。
なんと、彼はこの10年という期間で、彼の呪いでもあった死に顔を克服したのである。(100%ではないが)
彼は予想外のことや興奮状態に陥ると、顔が死ぬことを転生してしばらくしてから理解した。このままではこの先原作キャラに出会うと、不信感を与えてしまうことを察した。
そして、彼はキャラクター達を確実に観察するために、精神修行と並列思考の訓練をやり続けた。そして、10年の年月は彼を内心ではっちゃけさせながらも、体はエルキドゥの言動を取らせるという摩訶不思議な技能を会得させるに至った。
その気になれば複数の思考回路を生み出すことも不可能ではない。
彼は知らないが分割思考が出来るのは学園都市でも少なく、その分野では彼は
さらに精神と肉体で全く違う人格を生み出す多重人格、あるいは人格が分解する一歩手前を、常に続けるなど正気の沙汰ではない。それこそ、いつ自我が崩壊してもおかしくない状況なのだ。
それもこれも、すべては作品とキャラクター達に対する愛である。
そんなことになっているとは露知らず、上条は目の前の年上の少女に尊敬の念を送る。
同級生と何故か年下の女子に知り合いが多い上条にとって、年上の先輩は案外珍しい組み合わせではあるのだが、既に気心が知れた人物のために気まずい空気は流れず、どちらかと言うと居心地が良い馴染んだものとなっていた。
「ちょっと、相席してもいいかしらぁ?」
そんな彼らの作り出す空間に、横から甘ったるい声が差し込まれる。その声を聞いた上条は、その声の主にすぐに返事をした。
「
「こんばんはぁ。上条さん☆」
お互いに名前を呼びあう二人の関係性から、これが初めての顔合わせではないことが分かるだろう。
「お前って常磐台だろ。こんな時間に外出してちゃ、まずいんじゃないか?」
「お嬢様にも息抜きは必要なのよぉ」
上条の至極当たり前な質問に対し、あっけらかんとそう返す食蜂。
そんな食蜂に呆れながらも、上条は自ら事件に首を突っ込んだり、その結果入院して学校を休むことが度々あるので、強く言えなかったりする。
そんな風に打ち解けて話す彼らを見て、とある魔術の禁書目録の有識者達は気付いたであろうが、この光景は絶対にあり得ないのだ。
一年前、上条当麻と食蜂操祈は偶然とある交差点で出会い、それからたまに会うと話をする程度の関係となった。
食蜂にとってそのツンツン頭の少年は失礼なことは言うわ、能力は効かないわで腹を立てることもしばしばあったが、常磐台中学の
そんな彼がたまに、二人の先輩の話をすることがあった。一人は人心掌握において同じフィールドにいる雲川芹亜。そして、もう一人の先輩の名前が
「天野倶佐利ねぇ」
その名前は常磐台の生徒ならば、多くの人間が知っている名前だった。
「(何でその名前が上条さんの口から出るのかしらぁ?)」
三つ歳が違うためにその姿は見たことはないが、一年にも噂話が聞こえてくる程の人物だった。
その噂は嘘か誠なのか分からず、ことさら変なものが多かったが、話によると生徒や教師を含めて異端な生徒だと認識されていたらしい。
「ねぇ、上条さん。本当にその先輩の名前って天野倶佐利って言うのぉ?」
「は?何で疑ってんだ?」
「それじゃあ、常磐台中学出身って知ってるぅ?」
「…………は?」
「しかも、能力は
「はあ!?」
「そのうえ、学園都市にいる原石の一人よぉ」
「はあああ!?」
やはり、この少年は天野倶佐利について何も知らないようだ。
食蜂が聞いた話では、『能力を活かして諸外国にスパイとして潜入しに行った』、『闇の組織に入り学園都市を乗っ取ろうとしている』、『何故か学園都市にある最低レベルの高校に進学した』なんて突拍子もない話もあるくらいだ。
そして、その事を誰も否定していないことから、相当の変人だったことは確実である。
そのうえ、行方が分かっていない人間であったため、目の前の冴えない少年の知り合いと言うのは、あまりにも信じにくい話ではあった。
そして案の定、知らない上条当麻を見て、偽名を使われたのだろうと確信する。
「その様子じゃあ、知らなかったみたいねぇ?多分だけどぉ、それ偽名よぉ?
その人のことはよく知らないけど、騙る相手にはピッタリだと思うわぁ。だって天野倶佐利の能力はぁ」
「
「なっ!?」
二人で座っているベンチの後ろに、いつの間にか人が立っていた。しかも、話してた相手の能力もしっかりと当てられている。
「あっ、先輩!」
「たまたま通りがかってね。僕の名前が聞こえたからここに足を向けたのさ」
「そうなると、あなたがさっき言ってたこの人の先輩なのかしらぁ?」
「何を言っていたかは分からないけど、僕が彼の先輩の天野倶佐利だよ」
「偽名とかじゃなくぅ?」
「お、おいっ!食蜂!」
自分の先輩を偽物呼ばわりする食蜂を諌める上条。
だが、彼女はいつも通りの飄々としている、余裕ある態度を保ったままで何かを考える素振りをしていた。
「うーん。見せたほうが早いかな」
「?何を言って…………あたぁっ!?」
疑問に思った食蜂操祈のおでこに向かって、ズビシッ!と強めに指が突き出される。傍にいた上条からは、某ジャンプマンガの径絡秘孔をつく動作と重なって見えた。
外からはコメディの様に見えても、された本人はたまったものではない。
突き出された衝撃でのけ反り、うっすらと涙目になっている食蜂は、小さなおでこを押さえながら、目の前の相手を睨み付ける。
「ちょっとぉお!!痛いんです……け……ど…………」
憤っていた食蜂の憤怒の炎がすぐに消えていき、驚愕の二文字が頭の中を支配する。
「『全くぅ、耐久力が低すぎだゾ☆』」
そこには、自分の蜂蜜色の髪が淡い緑髪になっているという違いはあっても、毎日鏡で見ている自分の顔がポーズを決めて目の前に立っていた。
「は?……えっ、えぇ!?」
上条としても顔馴染みの先輩の顔が、横の顔馴染みの少女のものになるなど、全くの予想外であり目を白黒している。
「『私の変身
これが食蜂操祈にとって、上条当麻と同じくらい長い付き合いとなる、少女との出会いであった。