でも、まだもう少しだけ続きます。
ガブガブの身体から出たら何か全身が濡れ濡れのスケスケのジャリジャリだった。嫁入り前の女の子として(嫁入るつもりはないが)これは頂けない。
というか、これは原作でいうならラッキースケベともいえる姿ではなかろうか? ハッ!まさか上条、貴様どこかから見ているなっ!?
辺りをバッ!バッ!と探すがどこにも見当たらない。
それを知りゆっくりと胸を撫で下ろす。
「(ふぅ……。どうやら、まだヒロイン枠にはされていないみたいだ)」
そもそも、
「(えぇ……。それって何?原作でいうなら挿し絵にする価値も無いってか!何かそれスゲェ腹立つんですけど!腹立つんですけど!?)」
内心で意味がわからないキレ方をしているが、その顔は無表情である。
「ふぅ……。どうやら元の貴方に戻ったらしいですね」
そんな風に話し掛けてきたのは血塗れの神裂火織。年上の雰囲気を醸し出してきたが、血塗れである。
「申し訳ありません。今回もまたこちらの都合に貴方を巻き込んでしまったようです」
えっ?いや、それよりも早く病院……。
「説明は今回も控えさせて下さい。貴方を私達の問題に関わらせるのは、貴方にとっても芳しくない結果へと導くことでしょう。ひとまず旅館へと貴方は向かってください」
だから、病院行かんとヤバくない?血スゴいよ?
血の臭いとか醸し出されてもこまるんだけど……。
とっとと旅館へと戻りたいのも本音であるのだが、血塗れでフラフラの人間を置いていくのも忍びない。ちょっくらやってみっか!
「?あの一体どうしたので……!?」
みょんみょんみょんみょん、と。神裂の怪我が治っていく。やり過ぎると逆に危険なので注意が必要だ。でも、聖人だし?どうにかなるっしょ?
「ぜぇ……はぁ……っ。か、かなり疲れましたが怪我を治療してくれたようですね。感謝します」
いえいえ、ぶっちゃけ血塗れで放置とか鬼畜にもほどがあるし。上条のヒロイン……じゃないのかな?よくわからんけど放っとくわけにもいかんわ。
「ふぅ……。私は彼らの回収に向かいます。貴方は旅館に向かってください。では──」
そう言って、神裂のねーちんは空へと跳んでいった。能力使ったから結構疲れているはずなのに、聖人ってスゲー。
そんなわけでやって来ました。旅館『わだつみ』。
いやー、人居ねえー。
田舎の上に大量殺人犯の襲撃があったらしいし、人がさらに少なくなるのも当然か。
「(いやー、貸切の温泉はいいもんだなぁ~)」
ポカポカになった体を涼ましていると女将さんにあった。当然だが御坂妹ではないらしい。
そんな女将さんにとある相談をしてみる。
「少しパソコンを貸してくれないかな?調べものがあるんだ」
「ウチはそんなサービスしてないんだけどねぇ。とはいえ、今回のことで客引きも上手くいかないだろうし、さらに印象悪くさせるのもダメだね。
はぁ……、良いよ。私の私物のやつなら貸せるけど、その代わり調べものだけだよ。変なことしたら承知しないよっ!」
「うん、それで構わないよ」
そうして、従業員専用の部屋へと女将さんの好意で入室した。こんな場所まで借りて何を調べたいかというと、やはりあれしかないだろう。
「えぇと。検索:[エルキドゥ]……っと」
そう、この身体の元となった存在である、エルキドゥのことだ。
神に言われて今では特に気にしていなかったが、既に魂が現れているなら調べないわけにもいかない。
さらに、ここは学園都市でもないため
ならば、学園都市内ではできなかったエルキドゥの検索も気軽にできる。
そして、カチカチッとサイトを開くと出るわ出るわ。思いもよらなかった新事実の数々。
「(えっ?ちょっと待って。エルキドゥって神話の存在!?しかも、あのギルガメッシュの友ってマジでか!?)」
てっきり、無性などというニッチな属性のためにイロモノサーヴァントかと思っていたら、ガチの英霊じゃねえか!!
「(その上、ギルガメッシュと三日三晩殺し合える戦闘力とかパネェよ……)」
あの慢心王の力はアニメを見ればよくわかる。確か、あのクーフーリンでも半日ぐらいとか聞いたことあるぞ。
絶対星5とかいうのじゃね?ギルガメッシュの友だし、さすがに最高位のサーヴァントだろこれ。
「(おぉう……。そうなるとこれはこれでピンチじゃん)」
内心で頭を抱えるオリ主。何故そんなことになっているのか。これはエルキドゥというサーヴァントを知らないがために、起きた悲劇である。
「(あの暴君と友達なんて絶対ロクなヤツじゃねえ……!)」
オリ主はFate/Unlimited Blade Worksでしか、ギルガメッシュを知らないのだ。大分あやふやではあるが、イリヤ斬殺やワカメ生け贄などをした残虐性は思い出せる。
あの王の友達なんぞ、人のもがく様を見て喜ぶ愉悦部の一員に決まっている。見た目はこんなおしとやかだけど、どうせ戦闘になったら筋肉モリモリのマッチョに豹変して、大声で笑いながら戦うバケモノになるんだろ!?
「(そんなヤベーヤツと体を共有してるなんて、何て恐ろしいんだ……!)」
内心ガクブルである。
「(神がフォローしてくれているなどと言っていたが、俺の無様さに愉悦を感じているだけかもしれん……!飽きたらさっさと捨てられる!お願いだから捨てないでぇ!!)」
エルキドゥが慕うマスターの正体なんぞこの程度のヤツである。諸行無常。
一通り絶望して、また新たに調べ物をする。
「(ふぅ……。ヤバい事実とはいえ受け止めないとな。学園都市の外に出るチャンスなんて滅多に無いんだし、調べなきゃいけないのは全て調べないとな)」
そんな風にしてカチカチッと次のサイトへとクリックする。
「(ふむふむ、ガブガブの正体は大天使。神の言葉を人間に伝える伝令の役目がある。さらには、中性に描かれることが多い天使だが、ガブリエルは受胎告知などの伝承があるために女性で描かれることもあると。
さらに、受胎告知をして産まれた存在は十字教でも重要な存在であるあの神の子───)」
「──動くな」
そこまで読んだときに、カチャリと頭の後ろに突き付けられる硬い感触。後ろは動くなと言われたので向けないが、シチュエーション的に考えれば拳銃が妥当だろう。
その声は俺が知っているものだが、この世界では一度も聞いたことの無い重い声音だった。
「ここまで長かったぞ。ようやく、尻尾を出してくれたな」
語尾がふざけたもので無いことからも、しっかりと仕事モードなのだろう。
え?なんでさ。
「さあ、ここからは隠し事は無しで行こうか」
多角スパイにして暗部所属のシスコン軍曹。
土御門元春が俺の頭に拳銃を突き付けていた。
神裂はヒロインというよりも物騒なお姉さん枠かな?
惚れたなんて描写は今まで微塵もないしね。