とある原石の神造人形(エルキドゥ) 作:海鮮茶漬け
「……」
目の前にいるのはパソコンの前に座っている女、天野倶佐利だ。
窓に反射し、パソコンの光に照らされたその顔は『無』そのものだった。焦りを隠す表情にしては表情筋に力が全く入っていない。
俺達、魔術師がやる精神の切り離しに近いか。そのプロ顔負けの精度に危険度を一段階引き上げた。
「黙りか。良い手とは言えないな。こっちは常に引き金に指が引ける状況なんだ。この優位性は馬鹿にはできないぞ?
拳銃で片手が塞がっているのだとしても、プロは片手あれば人を絶望の淵に叩きつけることができる。それを体感してみるか?」
慈悲を与えないという意思表明は、プロの魔術師による尋問や拷問の基本だ。
不安や恐怖を如何に与えるかということが、相手から情報を引き抜くことと直結してくる。
上条宅で魔術を使用したあとに神裂からことのあらましを聞いた。それから、能力の
そのお陰でロクな準備など当然できるはずもなく、持っていた拳銃一丁とブラフを使っての尋問だが、果たしてどこまで通用するのか。俺の腕の見せ所だ。
「その前に病院に向かったほうが良いんじゃないかい?血の臭いが後ろを向いていても伝わってくるよ」
「ご配慮深く感謝するが、血の臭いがするから俺が血を流してるとは些か早計ではないか?何故、ここに来るまでに他の人間の血を浴びたとは思い付かない?
俺が居るのはそういった世界だ。お前にも俺が居る世界を味わってもらうぞ」
とは言ったものの、これは間違いなく俺の血だ。いくら血管や肉を再生しても血までは戻ることはない。貧血気味であり拳銃を弾き飛ばされれば今の俺に勝ち目はまずない。
今なら、上やんどころか舞夏にすら勝てるかどうかってところまで消耗している。
本来ならばまたの機会へと見送るところだが、今回のチャンスを逃せば次がいつやって来るのか分からない。ここで叩かなければならないのだ。
「さあ、どうする?地獄というものを体感してみるか?」
「それはイヤだね。それで僕に聞きたいことは何かな?」
いつもと変わらずに返答する目の前の女。この状況で突き付けられている物が分からないほど馬鹿ではないだろう。
人のことは言えないが、その胆力をその歳で身に付けるとは大したものだ。萎縮してくれれば尋問も大分やり易かったのたが、やはり、そう上手くいくはずもないか。
俺が学園都市に入り込んだのはスパイのためだ。
魔術サイドと科学サイドを衝突させないためのバランサー。それが俺に与えられた役目であった。
入り込んでくる魔術師の対処や学園都市の暗部として活動。
一体何足の草鞋を履いてるのか数えるだけでも億劫だが、この生活はスリルがあって嫌いじゃない。
そんな中で見つけた不思議な女が天野倶佐利。
上条当麻のコントローラーとして隣人の友人となった後、自然とコイツとは出会った。何故なら、上条当麻に最も近い存在が天野倶佐利だったためだ。
当然、全ての情報を調べ上げた。どんな過去がありどんな能力、人格をしているのか全て。そこで、分かった情報が悉く常軌を逸していた。
まず一つ目が原石の能力者という特異性。学園都市が不可能だと確定した
学園都市の科学者が如何にも喉から手が出るほど欲しそうな、貴重なサンプルにも関わらずどうして無事なのかと調べれば、組織同士で睨み合わせ硬直状態を生み出しているようだ。
暗部に浸かっていないにも関わらず、ここまで巧みに幾つか組織達を手玉に取るとは、もはや天才としか呼びようがないだろう。
二つ目、戦闘能力。かつては
そのため、彼らの体術を身に付けており、既に正規員よりも高レベルで取得しているようだ。
それに加えて数えられないほどの能力者をコピーしたため、戦闘パターンを把握することは不可能に近い。
その上、体術も組み合わせた戦法は変幻自在でありながら隙がない。
三つ目、人望。性格は温厚篤実ながら冗談も話すなどの柔軟さを持っている。
さらには、学舎の園の出身であるらしく常盤台の生徒からも未だに繋がりがある模様。
一方通行とは能力の精度を測るために邂逅し、心理掌握とは先輩後輩として仲は良好。第七位は昔一悶着あったようだが今では友人関係のようだ。
一時期は共に『原石ド根性コンビ』などと名乗って、人命救助や外道に手を染める組織などを相手に暴れまわっていたらしい。相手が原石のため上も粛清もできなかったようだ。
そして、人助けを呼吸するかのようにしているお人好し。あの上条当麻に尊敬と嫉妬の感情を抱かせていた。
元々、
……いや、揶揄するヤツだった、というべきか。
ここまで、男女が抱く理想を詰め込んだような女もそうはいないだろう。だが、かえって俺はその振る舞いにどこか作り物めいたものを感じていた。
とはいえ、周りから良く見られたいという感情は、人間ならば少なからず抱くものであることもまた事実。そこまで疑ってかかるほどのことではない。
だが、俺はあるときから天野倶佐利に本格的に疑いを持つようになった。
それは、高校入学前に上条と密接な関係へとなったあとに、降りかかってくる事件を解決するため、共に奔走した記録が山のようにあったのを調べてからだ。
最初はあの上条当麻と共にいれば、事件に巻き込まれるのは当然とも言えるし、そもそも人助けを進んでやるようなお人好しならば、そういったことに出会う機会も多くなるだろうと最初は思っていた。
その情報を精査していくうちに、ふと俺は思ったわけだ。
もちろん全てというわけてはないが、幾つかの事件で上条当麻を事件の中心に誘導していたのだ。それが1つ、2つならばともかく20、30と続けば偶然では済まない。これは故意で起こしたものだ。
さらに、不審なのはある行動。
誰も彼も助けようとする天野が、何もせずに立ち去っている記録が幾つかあった。それをよくよく調べていくと一つの事実が浮かび上がる。
当然、学園都市に住む子供が魔術などを知っているわけがない。ならば、幾ら風貌が少し変わっているからといって、それが介入を躊躇する理由にはならないだろう。
ヤツはレポートによると風紀員や警備員の事件に、介入するほどの正義感の持ち主のはずだ。事件があればすぐさま突っ込むような人格の持ち主が途中でそれを止める。
その理由は一つ、
最初は俺と同じようにどこかのスパイかと思ったが、それにしては余りにも目立ちすぎる。『外』からのスパイではないだろう。
だから、今まで立ち位置が分からなかった。
「お前は魔術のことを知っていたな?何故、魔術サイドの世界へと足を踏み入れようとする?」
「知らないかもしれないけど、僕はあの女剣士の彼女とは顔見知りなんだ。インデックスを助けるときに魔術の存在を知ったというだけさ」
だが、今日ようやく尻尾を出してくれた。これで、この女の正体にやっと辿り着ける。
「ほぉ、じゃあ聞くがその画面は何だ?俺には大天使ガブリエルについて調べてるようにしか見えないけどな。
魔術について何も知らないなら当然、御使堕しのことも知らないはずだろう?」
「ほぉ、じゃあ聞くがその画面は何だ?俺には大天使ガブリエルについて調べてるようにしか見えないけどな。
魔術について何も知らないなら当然、御使堕しのことも知らないはずだろう?」
ほああああああああ!?!?!?!?
あかーんっ!?これって今回のことに関わっている証拠じゃん!
「神裂はプロの魔術師だ。生来のお人好しであることもあって何も知らない素人を、魔術の世界へと引き込まないようにする配慮は人一倍ある。
そんな神裂が今回の魔術について説明するはずなんてあり得ないし、その中心でもあるガブリエルのことをお前に教えるわけが無いんだよ」
確かに説明してなかったけどさ!ただ、気になったから検索しただけなのにぃ!(泣)
これは言ってしまえば不幸な行き違いだった。
神裂は上条親子と出血多量の土御門に動揺していた。
「土御門っ!これは何事ですか!!」
「うーす、ねーちん。俺の魔術で儀式場を破壊したんだ。そのために、これは必要なことだったつーことですたい。
それに、俺達にはまだやることがあるだろ?さっさと天野倶佐利を探し出さねぇとな」
「い、いえ、そちらについては大丈夫です。先程、彼女と出会い旅館へ行くように言いましたので」
「……何だと?」
「彼女が元の身体へと戻ったようで本当に何よりです」
土御門に言われ神裂はオリ主を旅館へ向かわせたことを伝えたが、土御門の目が鋭くなっていることに、サングラスであることもあり察することができなかった。
そう、神裂は知らなかったのだ。
しかし、神裂を責めることはできない。なぜなら、エルキドゥですら主の魂がどこにあるのかわからなかったのだから。
そして、神裂は知っていた。
その神裂の断片的な情報から土御門は疑いを持った。
神裂は天野倶佐利の中身と見た目が戻ったことに安堵しているようだが、着目すべきはそこじゃない。
土御門はそんな不可思議な状況に一つの仮説を建てた。もし、この仮説が正しければ迅速に行動しなければならない。
天野に土御門は魔術との関係性について問いただすつもりだが、神裂は今回ばかりは邪魔になる可能性があった。
インデックスのときの借りもそうだが、さらにここに来るまでに怪我を治してもらったらしいからだ。
優しい神裂火織はプロの宿命だとはいえ、その恩人に向けて冷酷な魔術師で居られるとは思えない。
そんな神裂が取り調べの場にいるのはまずい。相手が人心掌握に長けた曲者であるなら、そんな神裂の心中などお見通しだと考えた。
希望を与えるのも取り調べの技術の一つだが、噂によると心理掌握などの心理のスペシャリストを相手にして、立ち回るどころか弄んでいるなどという話もあることから、そういった不確定なものはなるべく排除した方がいい。
さらに、そのように利用した神裂と、これで亀裂を入れるのは得策とは言えなかった。
そのため、土御門は神裂に悟られぬように二人を病院に連れていくように言って、旅館へと一人向かったのだ。
「魔術師の言葉が今になって信じられなくなり、ネットを使って調べたってとこか。ネットの情報に確実なものはないだろうが、無いよりはマシということもまた事実だしな。一人になったことで気が弛んだか?
お前は
そんなことができる魔術師は生半可な地位にいる人物ではないってことだ。あるいは、ソイツのバックに付いているヤツがな。
おそらく、俺達が来る前に携帯か魔術を使って連絡を取り合っていたんだろう。
全く、道理で見つからないわけだ。今までこの騒動に乗じて外部の魔術師共と密会していたんだからな」
外部の魔術師って何!?
チャキッて音が後ろから聞こえるんですけど!?不意討ちで───ダメだ。あの土御門だぞ?あの反則王、土御門元春に不意討ちなんて効くわけもないし、そのまま反撃されるのが目に見えてる。
印象良くするために敵対するのは止めよう。そうしよう。
それじゃあ、隠さず真実を全て言えばいい。
「僕は入れ替わりでガブリエルの身体に入ってね。それで気になったんだ」
「ほう、60億人分の1を自分が偶然引き当てた、と本気で言うつもりか?」
あ、ヤベェ無理だわ。
逆の立場だったら絶対に信じねえもん。
とはいえ、何もしなかったらここで死ぬ!
思考を回せ!ハッタリでも何でもいい。原作知識を使ってこの窮地を乗り越えるんだ!
話術サイドは上条だけじゃない!
「お前はどこの魔術師と繋がっている?ローマ正教、ロシア成教。まずはここら辺から絞っていこうか。
どうせ魔術結社のどこかからだろうが、自分達の宗派を言っている可能性も充分あるしな。
言い逃れは止めておけ。お前がかなり以前から魔術サイドと通じあっていたのは分かっている」
可能性は可能性。おそらくそれを聞くことはできないが、上下関係を決めるにはこういったことも必要だ。
ブラフをどこまで信じ込ませ、今あるもので拷問を完成させる。別に本当に拷問をしなくてもいい。何かをする、そう思い込ませるだけで話し出すこともあるからな。
とはいえ、コイツから情報を引き出すのは並大抵のことでは無理だろう。
そんな風にこの後の展開に頭を巡らしていると、それを断ち切るように天野倶佐利がその名前を言った。
「
その名を聞いて土御門の肩がピクッと動いた。
「……何?」
聞こえた単語が信じられずに思わず聞き返してしまう。しかし、天野はその予想外の回答に、さらに衝撃的なその答えを付け足したのだった。
「聞こえなかったかい?僕の協力者はイギリス清教の
──君達のボスだよ」
このポンコツぅ!!とはいえ、怪しいからやむ無し。
仕事しすぎなんだよ。一回休め。
オリ主の危機察知
「(うわー。この事件に深入りしたけど、あれって絶対に魔術師じゃん。痴女みたいな服装をこんな真っ昼間からしているヤツなんて、魔術師以外いないって。その上、外国人だし。
俺のせいで魔術サイドの動きが変わって戦争突入とか洒落にならんし、うん、トンズラしますか!)」