とある原石の神造人形(エルキドゥ)   作:海鮮茶漬け

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ちょっと話が膨らんだので二つに分けます。


47.悪魔

 イギリス清教の最大主教(アークビショップ)ローラ=スチュアート。

 魔術師ならば誰でも知っているほどの人物だ。必要悪の教会(ネセサリウス)のトップでありその影響力は計り知れない。

 

「ふん、大きく出たな。あの雌狐がお前の上だと?

 笑わせるな。何故あの女がお前なんぞを駒にする?あり得るわけがないだろう。聞いたことのある名前を適当に言ったのが仇になったな」

 

 最大主教は魔術サイドでは狡猾な女として有名だ。確かに、スケープゴートとしてこれ以上ないだろう。だが、そのような女がこんな特殊な学生をスパイに選ぶわけがない。

 

「全ては君のせいだよ。土御門元春。君が魔術サイドを裏切り学園都市に付いたから僕が選ばれた」

 

「この状況でまだそんな法螺が吹けるとは大した役者だな。だが、発言には気を付けろ。あんまり嘘をつき続けるとどんなに真実を話しても信じてもらえなく──」

 

「──土御門舞夏」

 

「!」

 

 その名前が出ると同時に、背中へ氷柱を当てられたかのような感覚に襲われた。

 

「君が土御門舞夏の身の安全と安心した生活を送れるように、アレイスター=クロウリーと協力関係なのは既に把握しているよ」

 

 何故だ?何故コイツはその事を知っている?多角スパイである俺だが舞夏の生活のために、学園都市よりとなっていることは否めない。アレイスターのヤツに情報を流す間は、舞夏の身の安全を保障することができるからだ。

 ……ブラフか?上条当麻の部屋に赴いているコイツは、俺と舞夏の仲の良さを知っている。とはいえ、そんなものは今さらどうでもいい。

 コイツが舞夏の名前を出した瞬間にコイツの未来は決まった。

 

「……おい、俺はさっき言ったぞ。嘘をつき続けると信じてもらえなくなるとな」

 

 コイツは俺の地雷を踏み抜いた。このペテン野郎の頭から狙いを外す。

 何も許したわけじゃない。

 その逆だ。

 今から始まる地獄の時間を長引かせてやるために致命傷を外すのだ。その拷問の始まりの一歩目に右肩を撃ち抜く。

 人差し指にかかる引き金を、容赦なく引こうとしたその瞬間。

 

 

 

 

「『おいおい、随分と物騒だなー兄貴ぃー』」

 

「」

 

 

 

 

 引き金を引く指が止まる。

 

「『もー、こういうのはホイホイ使うもんじゃないぞー?』」

 

 銃口を向けた先で振り返る顔に見覚えがあった。

 

「何だ?もしかして私のご飯が食べたくなったのかー?悪いけど今ここには作れるものはないからなー。家に帰ってからなー』」

 

 呼吸が止まった。

 

 視界が明滅するようだ。これは先程流した血のせいではないことは分かっている。目の前の残酷な光景が信じられないことが原因だ。

 

「な……何でだ!?お、お前には……そんなこと…………できるはずが……ッ!!」

 

「『うーん?何を言っているー?」

 

 そのゆったりとした声音も動作も俺は良く知っている。誰よりも近くで毎日聞いてきて見てきた。それは瓜二つなんてレベルじゃない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「『おー!そうかーなるほどなー』」

 

 向日葵のようないつも通りの明るい笑顔で彼女は言った。

 

 

 

 

「『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』」

 

 

 

 

 目の前の視界が歪んでいくようだった。

 この最悪な光景に吐きそうだ。震える声で問いただす。

 

「お前の劣化模倣(デッドコピー)は……その髪色だけは変えることができなかったはずだ……。お前にできるはずが……」

 

「『兄貴なら知ってるはずだぞー?実際に能力を抑えて生活してるヤツも少なからずいるだろー?

 学園都市はそういった順位や枠組みにこだわるように、意識を向けるようにしていたのを私は知っていたからなー。

 わざわざ、ソイツ等の思惑に乗ってやる必要もないし、そもそも私は原石だぞー。素養格付(パラメーターリスト)なんて当てにはならないし、能力開発(カリキュラム)を受ける必要性もないんだから、大能力者(レベル4)くらいがちょうどいいとは思わないかー?』」

 

 舞夏の姿で暗部のことを話すその口を止めてやりたいが、引き金を引くことができない。それどころか照準がブレてこの距離でも当たるかわからなくなっている始末だ。

 目の前の存在は椅子から立ち上がり俺と向かい合う。いつもの表情で。

 

「『愛している人の姿を模した偽物だと分かっていても、兄貴は撃てないよなー。変身したのだとしても()()()は違うと、あらかじめ心構えをしていたんだからなー。

 予想とは違って知っているそのままの姿で出てこられたら、混乱するのが普通だから心配することはないぞー?』」

 

 当然、土御門は妹の舞夏の姿に天野倶佐利が変身する可能性も考慮に入れていた。

 愛する妹の偽物だとしても撃ち抜くことには反吐が出るが、緑の髪色という絶対的な違いさえ把握していれば、引き金を引けるはずだと思っていた。

 

 思っていたのに……ッッ!!

 

「『本物じゃないなら関係ないなんていうのはいい加減だよなー。愛してれば愛してるだけその人の面影があると、自然と引き金は重くなるもんだー。

 それも、見た目、骨格、身長、体重、声音、口調、表情、動作の全てが一緒だと、面影を思い浮かべるなっていうのも無理な話だー。

 愛してる妹の苦しむ様なんて兄貴が一番見たくないものだろー?えへへ、知ってはいたがそこまで想ってもらえるとなんだか照れくさいぞー』」

 

 飄々といいながらも照れた姿はますます既知感を与える。

 少し見ただけでそこまで把握することなんてできないはずだ。舞夏と近づけさせないために、出来る限り接触を避けるように動いてきた。

 それなのに、何だこの完成度は。

 

「『とはいえ、無茶していい理由にはならないからなー。じゃないと──』」

 

「──がはッッ!?!?」

 

 ドガッッ!!、と。背中から受け身も取れず地面に叩き付けられた。足を払い体重移動や俺自身の体重を使い、地面に叩き落としたらしい。肺にあった空気が外に吐き出される。

 

「『こうやって、私なんかに地面に転がされることになるからなー。気を付けろよー?普段の兄貴なら簡単に躱せるだろうに、そんなに血を流してるからだぞー?』」

 

 今回、俺はミスを侵した。

 血を流しすぎたことによる判断力の低下や、今まで溜まり続けたストレスで判断を逸ったことは否めない。

 上条当麻の部屋に上がり込む仲ってのは、隣人である俺達、つまり舞夏と接触する機会が多くなるってことだ。

 そして、コイツがどこかの裏と繋がっていたなら、舞夏の姿を模倣し俺に対して何か脅しをかけてくる可能性があった。

 例えば、コイツなら舞夏のそう言った匂いを残してミスリードを作り、どこかの暗部組織、魔術結社をいいように唆すことができる。

 舞夏のような一般人が裏に関わることなどあるはずがない、という前提条件を舞夏の姿で実行することにより、一瞬にして取り払うことができるのだ。

 そう、その僅かな可能性で俺はコイツをすぐにでも排除したかった。

 

 そして、生まれたのがこの状況。

 

 だが、手札がある程度揃っていたこともまた事実だ。そして、あっちの手札は把握済みだった。……いや、そう思い込まされた。

 敵が倒れる俺の上に馬乗りになる。その手には俺が衝撃で手放した拳銃が握られていた。

 

「『どうするー?兄貴ほどのシスコンなら最期に見る顔は妹の顔がいいよなー。私ならその希望を叶えてやるぞー?』」

 

 最悪だ。最悪の悪夢だ。

 だが悪魔はそこで終わらない。

 

「それとも、『私』が撃つと仮定して、そのとき浮かべるであろう顔も再現してやろうかー?』」

 

「お、お前ッ……!!」

 

 目の前が憤怒で赤く染まる。

 憎悪が胸の内から溢れるが人の顔で笑う悪魔は止まることはない。

 

「『うーん、それが嫌なら──』」

 

 そう言って、ソイツは銃口を俺から外して、

 

「ッ!!」

 

「『そこでそんな顔していたら、私の術中だと言ってるようなものだぞー?』」

 

 銃口を自らの掌に向けていた。たったそれだけの動作で心臓が凍る。

 

「『妹の血飛沫浴びてみるかー?さすがに、そこまでのプレイをリアルでしてるほど拗らせてはいないよなー?』」

 

 どこまでコイツは悪趣味なんだ。

 

「そんなことが──」

 

「そんなことができるわけがないかー?兄貴は私の能力の中に回復系の能力があることを、知っているはずなんだがなー?

 この体をどれだけ痛めつけても私は無傷の状態へと戻れるんだぞー。それに引き換え精神力だけで意識を留めてる兄貴には、これは結構致命傷だと思うんだがなー?」

 

 何が正義感だ。

 コイツのどこにそんなものがあるっていうんだ。

 

「『他にも兄貴の心を抉る方法が23通りあるんだが、全部実践してみるかー?』」

 

 俺は理解した。これは完全な敗北だと。

 それも、俺の自滅という情けないものだ。今まで散々舞夏と接触しようとこちらを窺っていたのも、俺にストレスを与え続けて判断を鈍らせるためかと、今になって気付いた。

 ここまでいいように手のひらで踊らされたとは。

 土御門元春の人生でもここまでの大ポカは初めてだ。

 

 上条当麻は来ない。

 神裂火織は来ない。

 土御門元春に土御門舞夏は撃てない。

 

 全身の力を抜いて悪魔がその遊びに飽き、俺を殺すその時を心を殺してひたすら待つ。

 そんな俺を見て、笑う悪魔は今まで通りの声音で言った。

 

 

 

「『と。まあ、このぐらいでいいかなー』」

 

 

 

 そう言ってソイツは銃口をくるり、と上に回して拳銃を掴んだ。

 その不可解な行動に眉根を寄せる。

 

「……どういうつもりだ?」

 

「『私は兄貴を殺すなんて一言も言ってないぞー?頭に血が上ってるみたいだったからなー。これで、少しは冷静になっただろー?』」

 

 殺意と憎悪でとても冷静などとは言えないが、とはいえ何故コイツは撃つのを止めた?

 

「『兄貴は私を殺せないし殺されたくもない。つまり、この場で絶対的な優位に立った今なら私の話を聞いてくれるだろー?』」

 

「……何をだ?」

 

「『真実』」

 

 端的に言われた言葉にさらに疑心が深くなる。笑いながらソイツは話し続ける。

 

「『それにしても、兄貴にしては随分と杜撰なやり方だったなー。血が足りてないんだとしても随分と短絡的じゃないかー?

 もしかして、今私を襲ったのも状況証拠ばっかりで、物的証拠は一つも無かったりしてなー」

 

 そうだ。

 コイツはここまで怪しいながらも、一切その証拠が出なかった。何度考えすぎだ、思い違いだ、と自らを律しながらも、確実に魔術と関わらないようにする動きと、舞夏へ執拗に接触しようとする振る舞いが、俺達兄妹に何かしようとする前準備だとしか受け取れなかった。

 だから、学園都市に帰るまで悠長に待っていられなかった。敵ならばすぐにでも暴かなければいけなかったからだ。

 

「『気づいてるかー?その疑心だって誰かに謀られたものかもしれないんだぞー?私と兄貴で潰し合うようになー。それこそ、アジテート──()()()()()()()()()()()()()()。』」

 

 何だ?何を言っている?魔術を──いや、何をどこまで知っている?

 

 

「『少なくとも兄貴よりかは知っているぞー』」

 

 

 その言葉には重みがあった。ブラフとは思えない真に迫ったものが。

 コイツの経歴は能力も含めて何もかもが偽造だったのか?

 プロファイリングから逃れるために何十年も?

 何故そこまでしてローラ=スチュアートに肩入れしようとする?

 俺にも学園都市にも気付かれず、いつコンタクトを取っていた?

 

 そんな疑問が浮き出ては答えが出ずに沈んでいく。それもそのはずだ。何故ならその痕跡を見付けられなかったから、俺は今こうしているんだから。

 

「『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 うーん、どうしたものかー……』」

 

 魔術サイドと科学サイドの衝突がその程度、だと……?最悪国の幾つかが滅ぶかもしれない事態へと発展するだろうことが、その程度と言ったのか?

 ますます、言っていることがわからない。コイツの価値観と俺の価値観が何もかもが違って聞こえさえする。

 一体どんな視点から物事を見てるんだ……?

 しばらくして、簡潔に伝えることができる言葉が思い浮かんだらしく、悪魔はその言葉を淡々と言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『結論を先に言うと遠くない未来、ローラ=スチュアートが学園都市を中心に世界を滅ぼす、と言えば少しは伝わるかー?』」

 

 

 

 は?

 

 

 




何故か豹変してしまったオリ主。一体何が!?


~次回予告~
お願い、惑わされないで土御門!あんたが今ここで倒れたら(倒れてます)、舞(夏)さんとの生活はどうなっちゃうの?ここを耐えればオリ主に(上手く奇襲や不意討ちをすれば)勝てるんだから!
次回、「土御門堕つ」デュエルスタンバイ☆
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