「どうして天野さんが上条さんとお茶をしているのか、説明
「僕が後輩とお茶をするのがそんなにおかしな話かい?それじゃ、デートということにしようか」
「上条さんにそんな甲斐性力がないのは知っていますぅ。どうせここに誘ったのも、天野さんからなんでしょう?」
「さすがは、学園都市の精神系能力者の頂点だ。まさにその通りだよ。彼を誘ったのも僕からだ」
二人の女の子が会話をしながらも、火花をぶつけ合っていた。傍目から見ればすぐに気付くが、真ん中にいる男子高校生はボロクソに言われ、自分の不甲斐なさに泣きそうになっていた。というか泣いていた。
「後輩の話はいつも新鮮で意外な話ばかりだよ。毎日でもしていたいくらいさ」
「へ、へえ~(どうしてそこまでストレートに言えるのよぉ!!)」
さらに、食蜂操祈にとって上条当麻という少年は、能力を使わなくても自分を助けてくれる王子様だ。そんな彼の隣では派閥のみんなに女王と呼ばれている食蜂も、あわあわ言っているただの恋愛初心者であった。
そして、彼女は目の前のこの女が如何に危険な存在か、正確に理解をしている。そのため、派閥の娘が教えてくれたファミレスに、こうして急いでやってきたのだ。
上条当麻の中で、『自分が困ったら助けてくれる女の子』の地位は、唯一目の前の女子高生だけであるのだから。
やっべぇ超楽しい(愉悦)
女の子同士のやり取り(修羅場)を、嬉々としてしている元男がいた。彼は最初コスプレをしながら、キャラクター達の行動を見れれば満足していたが、彼らと過ごす内に何か物足りなくなっていたのだ。
それを埋めるために、彼は別の趣味を見つけた。
キャラクター達の別の顔を見ようと。
彼は『どうせ女になったのだから、それでヒロイン達を弄り倒してやろう』という考えにシフトチェンジしたのだ。彼は鬼畜になりつつある。
彼は原作を知っているために、キャラクター達の精神性を把握している。そのため、嫉妬するツボが何となく分かっているのだ。
そして、原作至上主義のためヒロインと上条が、くっつくのは当たり前だと認識しており、自分自身も上条を恋愛相手として見ることはあり得ないので、本人を前にしてこうも思わせ振りなセリフを堂々と言えるのである。
そして、そんなことを言われた男子高校生は普通に照れていた。
意外な話だが上条は女の子に面と向かって、誉められた経験がかなり少ない。しかし、ソイツは上条を一ミリも男として見てない。それどころか、男心を無自覚にもてあそぶクズだ。哀れである。
これを食蜂が知ればあらゆる手を使い制裁を下すだろう。
こんなにも不幸な上条少年だが、彼に好意を向ける相手は少なからずいる。隣の食蜂操祈もその一人だ。
そもそも、食蜂も上条が自分の気持ちに気づくように誘導したり、間接的に言ったりもしているが、それで上条相手に伝わるはずもない。
そして、いざ素直になろうとすると直前でハンドルを真横に切るのだ。
そのため、見事に事故り上条に何かしらの悲劇が襲い、結果として『不幸だーッ!』の決まり文句が飛び出るのがお約束だ。
そして、そんな彼の反応を見た常磐台一大派閥の女王は、盛大に焦る。そんな初々しい顔など見たことがないのだ。
そして、彼の表情を引き出したのが目の前のスカした女だと分かると、嫉妬の炎が燃え上がった。
しかし、そこは7人しかいない
「はあー、なんだか暑くなってきたわねぇ」
プチっプチっとシャツのボタンを二つ空け、胸元に風を送る食蜂。彼女が打った手はその恵まれた体を使ったお色気だった。
食蜂操祈は自分に打てる最善手を見事に導き出したのだ!
だが、皆さんお気付きだろうか?
常磐台とは御坂美琴の荒っぽさで忘れがちだが、お嬢様学校であることに変わりはない。
当然、食蜂操祈も能力の
つまり、何が言いたいのかというと、
自分でした癖に恥ずかしいのである。
年頃の女の子として、そしてお嬢様として生きてきた半生から、男を誘っているかのようなこの状況に、内心テンパっているのだ。
彼女の優秀な頭脳が嫉妬によりショートしたために起きた事態だった。だが、ツンツン頭の少年が隣でどぎまぎしているのに気付き、一瞬にして優越感で口角が上がる。
「あらぁ?上条さんどうしたのかしらぁ?まさか、一年前までお姉さまサポートの対象外だ、とか言ってたくせに私の魅力にメロメロだったりぃ?」
「ちちち、違いますことよっ!?上条さんはキンキラ小娘相手なんかに、ときめいたりしませんからね!勘違いしないでよねっ!!」
「古典的なツンデレねぇ。流行は十年に一度戻って来ると言うけど、それと一緒で一周回って斬新なのかしらぁ?
流行が戻って来るのは、広告代理店がそうなるように発信力使って、情報操作してるからだけどねぇ」
隣の男の子をからかいながら、心から楽しそうに笑っている恋する乙女がそこにはいた。彼女にとって彼との会話はどれも心が弾むものであり、この一時が他の何よりも大切で、幸せであった。
「『ねぇ、上条さん。体を使って詰め寄る女って、身持ちの軽い女だと思わなぁい?』」
と、その幻想をぶち壊しにくる鬼畜(オリ主)がいた。
「『ああいう女って、体を見せつければ男が寄ってくるから、自意識過剰になりやすいのよねぇ。大人になってもそういう女って、客観的に見ててスゴく痛いわよぉ?』」
ブチィッ!!っと幸せ空間にいたはずの食蜂のこめかみから、血管が切れる音がした。自分の眉が片方ピクピク震え頬は上に引きつりながらも、食蜂は目の前にいる女狐に問いかける。
「あ、あらぁ、天野さん。人の体を使ってそんなことを言うのは、人としてどうかと思うわぁ?」
「『大丈夫だと思うわよぉ?あなたの一年前のこの姿を見て、同一人物だと思うのは、どんな直感力があっても不可能でしょう?』」
変身しているツンツルてんとも言えるような、凹凸の少ないスタイルを見下ろしてそう言った。
その態度を見てとうとう堪忍袋の緒まで切れたのか、ピッと鞄から取り出したリモコンを躊躇なく使う。
精神系能力者の頂点でもある、
当然目の前の少女も対象外の筈はない。
「『これは驚いたわぁ。
しかし、
「なんで!私の!
「落ち着けって食蜂!先輩に"原石"だからって言われたろ!?」
「それで、納得力を得られると思ってるのぉ!?」
リモコンのボタンをピッピ、ピッピと押す食蜂を宥める上条当麻。凶悪な力の
エルキドゥがどんなサーヴァントかは知らないが、この様子からギルガメッシュやヘラクレスのように半神半人か、人間の姿をしている摩訶不思議なサーヴァントのどちらかだと思う。
全部推測なのは
…………滞空回線マジうぜぇ……。アレイスター死なねぇかなぁ。
「『まあ、この胸囲力に突貫工事をしたあなたには、この姿はコンプレックスよねぇ?』」
「私の胸が偽物みたいに言わないでくださるぅ?これは正真正銘自前…………って上条さぁん!?なんで、驚愕の表情をしてるんですか!?
違いますからね!?この女の勝手な妄想だからぁッッ!!」
この時、オリ主の中にあるのは愉悦だけである。自分の狙った展開に持ってくことができて、達成感に満ち溢れていた。鬼畜だ。
「それにしても、先輩って変身すると性格がガラッと変わりますよね」
「『それは、"健全なる精神は健全なる身体に宿る"とも言われているように、精神と身体は密接な関係があるから、能力を使うと肉体に精神が持っていかれてしまうんだゾ☆』」
「それは誤訳でしょう?上条さんの残念な頭にいらない知識を埋め込まないでくださいますぅ?ただでさえ少ない容量を、間違った知識で圧迫したら可哀想だとは思わないのぉ?」
「いや、酷いことを言ってるのはお前だからな?小娘」
「『誤訳なのは後から訂正すれば構わないでしょう?今、大事なのは上条さんにも理解できる言葉にすることよぉ?』」
「あの先輩?結構深めに会話のフックが入りましたよ?このままじゃ上条さんボロ雑巾にされてしまうのですけど」
少女達の応酬で何故か傷付く上条。話の中心が上条であるため仕方ないといえば仕方ないが、残念な少年である。
「『あっそれとぉ、食蜂操祈は腹黒だから気を付けた方がいいわよ?上条さん☆頭の中は如何に他を出し抜けるのか、ってことしか考えていないようだからねぇ?』」
「ず、随分勝手なことを言っていますけどぉ、実際は私の口を借りてただ自分の言いたいことを言ってるだけじゃないのぉ?」
「『もし自分自身が目の前に現れたら、どういう反応をするのかすらわからないなんて、本当に
私に第5位を譲ったほうがいいんじゃなぁい?そんなことだから、"おめめ椎茸"なんて言われるのよ。プー!クスクス』」
「なんですってぇぇええっっっ!!!!」
食蜂操祈大噴火である。
近くに置いてある鞄を掴んで、その抹茶頭に叩き付けてやろうと振りかぶると同時、上条が急いで止めに掛かる。
「落ち着け落ち着け!ここ店の中だぞ!?」
「ちょっと放してソイツ殴れないわ!!」
「『あなたの性能力じゃあ、途中で手からすっぽ抜けて真横に飛んで行くわよぉ?』」
「この至近距離でそんなことあるわけないでしょうぉ!?」
「やめて!先輩煽らないで!!」
そんなことをしていると、三人は仲良く店から叩き出されてそのまま解散となった。上条にとって明日は大きな転換期となることを、まだ彼は知るよしもない。
迎えを呼んだ車に揺られ、食蜂操祈はさっきまでのやり取りを思いだしながら、天野倶佐利という少女を思い出す。
もちろん、
それで、予測できる理由は低い可能性から能力の暴走、自身への嫉妬、単純におちょくっている、そして━━━
「私への気遣い」
食蜂操祈はかつて彼女に助けられた過去がある。
ある時、『
その場にいた上条共々周囲を囲まれ、自分でさえ諦めかけたその時。
上条当麻は一歩も引かずに。それどころか自分を殺す凶器に囲まれた中で、私を守ると奴等に真っ向から啖呵を切ってくれた。
とはいえ、360度囲まれた状況で、高速で接近してくる敵から無傷でいられるはずもない。
上条と敵のリーダーとで、戦いの火蓋が切って落とされるまさにそのとき!
「てぇいっ!」
「ぐぼぉっ!?」
という声と共に、敵の一人が横にふっ飛び壁に激突する。さらに、ぶつけた衝撃なのか炸薬作動式の兵器が故障し、まるで花火のように爆発した。
まさかの事態に、全員が口を開け( ゚д゚)ポカーンとしていると。
「やぁ、後輩。財布忘れていたから持ってきたよ」
そんな、どこか抜けたような会話を戦場でしてくる先輩に、さすがの上条もついていけてない。だが、敵のリーダーはすぐに敵意を滲ませ、新たに現れた外敵に問いかける。
「貴様、我々の邪魔をするのか」
「うん、そうだね。さすがに後輩を見捨てることはしないさ。それに、彼女とも知らない間柄ではないしね」
緊張が全く感じられない声で話す彼女に、襲撃者達は苛立ちを募らせる。
「能力者か。だが、能力者対策は万全だ」
「へぇ、なら━━━」
彼女が言葉を区切った瞬間変化が起きた。
「があっ!?」
「いぎっ!?」
急に二人の襲撃者から苦悶の声が上がる。襲撃者達は動揺し、何が起きたのか理解しようとするが、その時間すら許さないかのように声が発せられた。
「『対策は万全と言いましたか。では、
何の罪もない少年少女達を守るために、凛とした言葉が襲撃者達に掛けられる。
「『所詮は借り物で、わたくし自身は違いますが』」
「『
そして、三人であの場を切り抜けた。
もし、彼女が来なければ、少年にとんでもない大怪我を負わせていたかもしれない。もし、そうなっていたら自分は一生後悔していただろう。
その事から、私は彼女に心から感謝をしているのだけど、彼女はそれを決して受け取らない。
「敵と馴れ合うことはしないってことかしらぁ?」
彼女と私は一人の男を取り合う敵同士だ。彼女もそれが分かっていて、恩や感謝などの不純物は少しでも取り除きたいのだろう。
そう考えると、あんな飄々としているくせになかなか熱いところがあるようだ。意外と御坂さんと気が合うかもしれない。
「そんなところがあるから、キライになれないのよねぇ」
嫌いになれないなどと口では言いつつも、彼女の目からは天野に対する親愛の情が深く感じられる。胸の中が温かくなった彼女を乗せて、夜の街並みの中を車は進んで行った。
ちなみに後日、門限破りで寮監に絞られた生徒がいたらしい。