とある原石の神造人形(エルキドゥ) 作:海鮮茶漬け
つまり何か?今までの全ては、自分を俺に売り込むためのプレゼンテーションだとでも?
「さあ、私のプレゼンは以上だー。さあ、どうする兄貴ぃー。私を使うか否かどうするんだー?」
確かに、手駒としてこれ以上無いほどの存在だろう。もし、精密機械でも騙せるならあの科学の街でも自由に動くことができる。
それらを鑑みて、コイツの存在は俺の切り札となり得ると冷静に判断する。
返事をニコニコして待っているコイツに対して俺は言い放つ。
「却下だ」
ニコニコした顔から驚いた顔になったことで、幾らか胸が透く思いだ。とはいえ、別に嫌がらせの意味で拒否したわけではない。
誠に遺憾だがコイツの変身能力は完璧なものだ。確かに、先程の仕事はこなせるだろうが、俺自身にすら気付けない模倣など、信用など置けるわけがないだろう。
俺のそんな思考を察したのか、握った拳を手のひらにポンっと叩いた。
「おー!なるほどなー。兄貴は私が妹といつの間にか入れ替わるのを危惧しているのかー。でも、その心配はどうとでもなるぞー?」
「何?」
ここまでの模倣を見せておきながら、本物か偽物かを俺が知る方法あるとでもいうつもりか?
俺の魔術には人物の真偽を見分ける方法があるにはあるが、その度に出血なんて割に合わないし、超能力の方は
嘘か真実かを簡単に知ることなんて到底───
「あの右手、
あっ、と。土御門は声に出してしまった。
「あの右手は私の能力さえも解除することができるからなー。心配になったらそれとなく触れるように仕向ければいいだろー?
まあ、他にも本人が目の前に居る状態で、私に電話をかければいいのだー。幾ら私でもドッペルゲンガーを作り出せるわけではないから、こっちの方がずっと楽だろうけどなー」
確かにそうだ。あの右手ならば如何なる能力でも打ち消すことができる。それは今までの激しい戦闘からも明らかだ。あの異能に対して絶対的な効力を発揮する力なら真偽は確かめられる。
その次の案に対しても、質問を10~20程ランダムで投げ掛ければ、本人かどうかは判別できる。確かに、有効な方法ではあったが一つ疑問が出てくる。
「何でそこまで俺に肩入れしようとする?お前に何のメリットがあるって言うんだ?」
言ってしまえば、今までの説明は能力の抜け穴を自ら暴露しているようなものだ。ここで俺を始末してしまう方がずっと楽だろう。
コイツの能力ならば死亡推定日時すら容易に誤認させることができる。死体は
そんな俺の疑問を答える前に、何故か天野倶佐利は変装を解いた。
「……は?」
「ここからは『僕』が話さなければ意味がない」
土御門舞夏の姿を解く。
それは、自らこの場の主導権を放り捨てたものだ。何故この場でそんなことをするのかが分からない。
体力的には厳しいが一矢報いるチャンスが、1%は生まれたことに変わりはない。何故わざわざ反撃する余地を与える?
そんな俺の考えを嘲笑うかのようにヤツは耳にかかった髪を後ろに払う。
月光に輝く髪を靡かせた姿は、どこか年不相応に色香を漂わせたものだった。
こちらを見下ろしながら、その小さな口元から天野は言った。
「
またしても、呆然とする。俺は一体何度予想外のことを言われるのか。
「君がいなくなる。ただそれだけで彼の生存は怪しくなるだろう」
確かに、俺は上条当麻のコントローラー。
アイツが最適な場所で戦え、何とか生き残るように手を加えているのも確かだ。だが、分からない。
「何故、上条当麻にそこまで固執する。あの右手、幻想殺しがそこまで魅力的か……?」
「
そこで気付いた。まさか、コイツ……。
「お前どこまで……?」
「ああ、勘違いをさせてしまったかな?そちらに関してはどうでもいいよ。僕は上条当麻という人間に興味があるんだ」
「……?」
「おや?血が無くなりすぎたせいで、流石の君でも理解が遅くなっているのかな?いや、僕が別の方に意識を向けてしまったせいか。うん、端的にいうなら───」
さも当然とばかりに天野倶佐利は言い切った。
「僕は彼のことが大好きなんだ」
それは真剣な顔だった。疑いを持つ余地など微塵もないほどに。端的に告げられた言葉は、脚色されて並べ立てたものでは無かったために、逆に真実味を持たせた。
テレビのコメンテーターが大袈裟に言葉を並び立てた表現よりも、隣の席から聞こえた「美味い」の一言の聞いたほうが、説得力があるようなものだ。
「彼がいない世界なんて僕はまともに生きていける自信がないんだ。だから、僕は彼を守るためにどんな力にも手を伸ばすし、どんな力も手に入れる」
どう考えても分からなかったコイツの動機が今分かった。
なんてことはない。その思惑は俺と一緒だ。
「そして、彼は余りにも悲劇に慣れていない。君と君の妹が死ぬようなことになれば、彼は受け止めきれないだろう。僕としてはそれは絶対に看過できない事柄なんだよ。───だから、そのために僕に力を貸して欲しい」
そうか、コイツが最大主教と手を繋いだのもそれだったのだ。
上条当麻とその周りの全てを守る。ただそれだけのために、コイツはあの雌狐と手を結んだのだ。
その目に誤魔化しなど一切無かった。
つまり、コイツは分かって言っているのだ。如何にそれが難しいことかを。
眼前に伸ばされた手を見て何を求めているかを察する。
「……上条当麻だけではなく、アイツの守りたいもの全てを守りたいか。それがどれだけ無謀なことなのか分かっているのか?」
上条当麻は悲劇に合う被害者だけではなく、加害者ですら救おうとする超ド級のバカだ。
数時間前にも「誰かの悲劇に立ち会える不幸が幸せなんだ」何て言うおかしなセリフからもそれは明らかだろう。
アイツの理想は青臭い理想論でしかない。それを守るなんて本当にできると思うのか?
「分かるとも。確かに彼の理想は高く、とても現実的とは言え無い。でも、誰もが笑顔でいられる幻想なんて、とても素敵だとは思わないかい?
そんな素敵な幻想を守れるなら、僕は世界を救うし世界を敵に回すよ」
今までのやり取りは何だったのかと言うぐらい、赤裸々な言葉だった。その姿に羞恥心などは微塵もなく、それどころか胸を張っているようにも見えた。
「……誰もが笑顔でいられるために世界を敵に回す、なんていくらなんでも矛盾が過ぎるだろう」
「後輩は近い未来、一人の女の子を助けるために60億人の人類を敵に回すよ」
「ハ!抜かせ。電波女が」
ここに来てそんな馬鹿げた妄言を吐く女だが、さっきの表情は間違いなく本物だろう。確かに、コイツの行動も能力も信用ならないのは変わらない事実だ。だが、惚れている誰かを守りたいというのは理解できた。
その願いはきっと俺と同じものだ。世界を敵に回しても舞夏を守りたいと俺は思っている。なら、その一点に関しては俺とコイツは同類だ。
ならば、信用できる。
差し伸ばされた手を俺は掴んだ。
「舞夏を守るために利用してやる。精々、背中には気を付けるんだな」
「うん、肝に銘じるよ。君も彼の幻想の敵にならないようにしておくれ。もし、敵になれば容赦はしないよ」
こうして、密かにスパイによる協力体制が組まれた。
「(……事実なんだよなぁ)」
とかオリ主は考えていますね。
まさかのオリ主による大胆な告白!
いやー、この小説がここまでピンクになるとはねー(棒読み)
◆作者の考察◆
※ネタバレを幾つか含みます。
幻想殺しに許容量があるのは、上条の中にあるものを打ち消しているため、という意見があったので、それについて反論しつつ新たに考察をしてみたいと思います。
とはいえ、これは他に聞いたことが無いので、作者自身もちょっぴり不安ですけど。
許容量があるのは上条の中のモノ。つまり、中条を打ち消しているためだという推察は、ほぼ間違いなく間違っています。
では、何故か?
1つ、幻想殺しの破損
作者が幻想殺しに許容量が、あらかじめ設定されていると考えた一番の理由はこれです。
理想送りは魔神オティヌスが上条の幻想殺しを破壊したことにより、生まれた右手というのは間違いないでしょう。そこで1つ疑問に思いませんか?
何故「致命的な破損」をしたのにも関わらず、幻想殺しに何の異変も無いのか?
「いや、上条の中のモノが抑えられてないだろ?」と、思うかもしれませんが、中条を無効化するために右手のリソースを割いていたのなら、なぜ上条の体を突き破るほどの出力が中条にあるにも関わらず、幻想殺しはリソースをそちらに向けていないのでしょう? 右手に触れたモノを打ち消すならば、体の中にある異能を優先的に打ち消すのが自然ではありませんか。
中条を打ち消しているせいで、幻想殺しが100%のポテンシャルを出せないとするなら、中条の出力が上がるのと比例して、右手そのものの出力がさらに下がるはずです。
ですが、上条が腕をオティヌスに破壊されたあとに、幻想殺しの出力が下がった描写は一度もしていません。そして、幻想殺しに命を託している上条が、その事に気付かないことなどまずあり得ないでしょう。
そのことから、右手そのものによる打ち消しと右手の『内』に向けての打ち消しは、あらかじめ設定されており「右手の破損」も『内』に与える幻想殺しの力、つまり中条を押し留める力が壊れて、理想送りに流れたと考えられます。
2つ、幻想殺しは基準点である
これは原作組ならば把握しているでしょうが、幻想殺しは基準点だと幾度も明記しています。
その役割は魔神が歪めてしまった世界を取り戻すための力。そのことから幻想殺しは基準点と言われています。魔神は世界を作り直すほどの力を所有していますが、歪める前の世界の情報が無ければ、全く同じ世界は作ることが当然できません。
そのために、その幻想殺しが宿る右手から体温やら大きさやらを計算し、元の世界を思い出すための鍵とするわけです。
つまり、幻想殺しは魔神が自然と歪めてしまう力を打ち消すことができても、それ以上は打ち消すことができないということになります。
何故なら魔神の世界を作り直す力にも、打ち消しが発動してしまうからです。
世界を変えるときには当然、右手の幻想殺しも含まれてしまうため、作り変えることはできなくなってしまいます。
もし、幻想殺しが全ての異能を打ち消すならば、『基準点』であれるはずがないのです。つまり、オッレルスの言っていた「幻想殺しは魔神の怯えと願いが生み出した」ということが本当ならば、幻想殺しにはあらかじめ、打ち消せる許容量が決まっていたことに他なりません。
そうすると、幻想殺しよりも理想送りのほうが、何故出力が上なのが見えてきます。幻想殺しは基準点の役割を果たすために、魔神の全力には打ち消しが及ばないように設定されているのに対し、理想送りはその逆。
現世に何の影響も与えずに魔神が力を行使できる世界、『新天地』への扉の役割が理想送り。そのため、魔神の存在そのものを全て『新天地』へと送り出せるように設定されているのです。
そのために、打ち消しの許容量が設定されている幻想殺しと、魔神を吹き飛ばす力を有した理想送りでは、理想送りのほうが出力が上となります。
まあ、上条当麻にとってあくまでも幻想殺しは付属品ですから。幻想殺しの方が理想送りよりも能力が劣っているからといって、上条が上里に劣っているわけではありませんのでご注意を。
以上のことから、幻想殺しはあらかじめ異能を打ち消す許容量を設定されていて、右手そのものに宿る打ち消しと、体の『内』に向けての打ち消しがそれぞれ設定されていると考えられます。