一七~一六歳に変えました。
50.夏休み最終日の一日前
ここは学園都市。
人口230万人が暮らす科学の総本山である。そんな学園都市に膝裏まで届く長い髪を、風に揺らしている少女がいた。
その雰囲気に通り過ぎる人達が、思わず目でその姿を追ってしまっている。それは殺気や怒気とは違って、清廉さを併せ持つ美しさに目を惹かれることが理由であった。
そんな周囲の視線がまるで一切目に入っていないかのように、淀みなく進む姿が却って目を惹き付けることを、彼女はおそらく気付いてはいないのだろう。
彼女は堂々とした足取りで歩き続ける。
天野倶佐利は帰ってきた。学園都市へと。
「(あ"ー、キッツぅー。マジで死ぬかと思ったぁ……)」
なんかよくわからんうちに
とはいえ、結果的に土御門と協力関係になれたため、リカバリーは成功したはず。……まあ、嘘がバレたら殺し合いになるだろうけど。
バレるとしたらやっぱりローラ……もとい、蝿が
あいつを巻き込んだのは、スパイの容疑をかけられても大丈夫な相手だからだ。
他のキャラクターを巻き込むと暗部に堕ちてしまったり、魔術結社から拷問される可能性があるが、仮にローラが責められることになっても全然問題はない。
存在自体が人類の敵みたいなヤツだし、あいつがそれで刃をもし向けられても良心の呵責に苛まれることもないのだ。
これからも喜んでスケープゴートにしたいのだが、そうそう上手くはいかないと思う。アイツの力は自身の武力だけではなく
エルキドゥがもし全力だったとしても、聖人神裂火織を始めたとした魔術師全てを相手にするのは難しいはずだ。もし、バレて殺されそうになったら、俺の能力で逃亡生活するしか生き残る道は無いと思う。
……いや、待て待て。そうしたらこれからのイベントに立ち会えなくなるのでは?いやー、それはなぁ。
でも、命と比べたらそのほうが……。いやー、でもなぁ。
うーん、うーんと頭を捻っているのはこの俺、天野倶佐利一六歳の高校二年生。ピチピチの今どきJKだ。
口と表情が動かなくなる体質があるだけの、いたって普通の
本来なら31日に上条とインデックスとともに学園都市に戻るつもりだったのだが、ローラ=スチュアートのスパイなどと言ったため、その辻褄を合わせるために早めに帰ることとなった。
スパイの俺が一人になったらローラは、再接触をしてくるだろうから、そのときに土御門にバレたことを言う。
そうすると、ローラは
魔術サイドの重鎮が科学サイドの人間と繋がっていたなんて、バッシングが起こること間違いなし。そして、魔術サイドの情報などあのローラが教えるわけもないのだから、わざわざ魔術師を送り込んでくる可能性も限りなく少ない。
名前や所属は土御門の推測をパクり、他の所属の魔術師が騙っていたことにしたことにすればいいので、ローラはそのような理由で証拠を確たるものにしないために、知らぬ存ぜぬを貫くだろう。と、土御門には説明した。
実際にそうなるかどうかは関係がない。というか、そんな風には絶対にならない。だってスパイじゃないし。
ここで重要なのは土御門が納得するかどうかだ。ローラにスパイのことを言っても煙に撒くだろうことをイメージさせ、土御門が天野倶佐利のことを言ってしまうと、体よく天野倶佐利を抹殺に向かわせる口実が生まれることを理解させた。
とはいえ、土御門ならば得意の駆け引きを使って、スパイのことを問いただそうとするかもしれないが、こればっかりは土御門しだいのため何かすることはできない。
あのローラから情報を取るために画策するのか、協力者を失う危険を侵してまでカードを切る必要性が無いと判断するのか、ここは土御門の気分次第のため、もしチクられたらその時はその時だ。
これからどう動くのかは土御門には既に言っているので問題はない。ぶっちゃけ結束はしたが、することは今まで通りの生活と大して変わらないため、特段気を付ける必要はなかったりする。
そんなわけで、こうしてお先に学園都市へと舞い戻ってきたのだ。今頃上条と土御門が仲良く病室で話したり、インデックスに噛み付かれたりしているはずだ。
そのシーンに立ち会えないのは口惜しいが、この世界で生きていくためには耐えなければならない。
そのような理由のため今日は8月30日。上条達が帰る日にちとは一日ズレた日程となっている。
上条はいないし
つまり、今日は完全なフリーだ。
「(帰ったのが深夜だから今って早朝なんだよなー。タクシーの中で睡眠取ったから大して眠くないし、はてさてどうやって時間を潰そうか……)」
友達でも誘えばいいのだろうが、オリ主には連絡を取れる人間は意外にも少ない。
確かに人望はあるが、その容姿や能力から遠巻きに見られることが多く、連絡を取り合うような近しい人物は両手の指で足りる。立ち位置でいうとレアキャラだ。はぐれメタルのようなものである。
「(みさきちは多分派閥の皆と交流してるだろうし、軍覇は連絡しても意味無いだろうし……)」
食蜂操祈は派閥の女王として自由気儘に振る舞うが、その実派閥想いの女の子である。そんな彼女であれば派閥の皆と遊んでいる可能性が高いため、誘うのに気が引けた。
軍覇はおそらく誘えば了承しそうだが、いつでもどこでも暑苦しく行動しているため、携帯が鳴っていても気付かない可能性がめちゃくちゃある。勘だがまず不可能だろう。
というか、土御門とあんなヤバイ展開になった翌日に、根性バカの相手をしてられないのが本音だ。あのテンションはもっとフラットな気分なときに付き合いたいのだ。
あとは、小萌先生という奥の手もあるが、さすがに教師を学校が始まる数日前に、暇潰しで時間を使わせるのも忍びないので小萌先生もなし。上条とインデックスは言わずもがな。
「(あれ?もしかして俺って友達少なすぎ……?)」
とはいえ、そんな残念なオリ主でも、さすがに携帯に登録されている名前はこれだけではない。ある少女に電話を掛ける。
Trrrr
「……」
Trrrr……
「……」
Trrrr……
「……」
Trrrr……お掛けになっt──プツン
「(……うーん?朝って言ってももう6時だし起きてるはずなんだけどな?もしかして、本当に何かの事件に巻き込まれたか?)」
仕事柄そう言ったことに巻き込まれやすいとはいえ、まさか原作に無い展開を生み出すとは。
まさか外伝の主人公にでも選ばれてしまったのだろうか。
「(それじゃあ、いっちょ助けますか。何だかんだ仲の良い友達だし、原作の流れ的にも無視はできないし。
そもそも、とあるのキャラの中でも結構好きな女キャラだから、助けに行かない理由のほうがないしな。
か、勘違いしないでよね!別にあのおっぱいを久し振りに揉みしだきたいわけじゃないんだからっ!)」
さて、オリ主の本音はどれだ。
人を探すのはGPSなどの機械から調べればどうとでもなるが、あいにくオリ主の能力には劣化してしまうという特性があるため、数あるコピーしたそういった能力(例えば御坂美琴などの
そのため、本来は
その力はFateの世界では気配察知と呼ばれる。主に回避などで使われる能力である。
エルキドゥの気配察知は全サーヴァントでも、五本の指に入るほどの代物だ。泥から造られた存在のため自然との相性が良く、大地を通じて遠くの水源を見付け出すことも可能だという。
しかし、なぜ人探しでこんなアバウトな能力を使うことにしたのか。それは探し人のやっている活動に起因する。
「(風紀委員ならほぼ間違いなく人の多いところに居るから、その内の一人の風紀員に直接聞けば、探すための情報の土台くらいにはなると思う)」
意外と頭を使っているオリ主。とはいえ、10年近くその身体と付き合っていれば、自分の身体に対する理解が深くなるのは必然なのかもしれない。
目を瞑り集中していく。そして、その力を発動した。
「(直感スキル発動……っ!)」
気配察知である。
「
そんなわけで早々に見つけた矢鱈と人の多い場所に訪れると、目的の人物が普通に居た。
内心「えぇ……」と気分が真っ逆さまに落ちている俺を尻目に、赤のレザージャケットを身に纏ったメガネおっぱいが、テンション高めで周りの風紀委員を扇動しているではないか。
さらに、白井黒子や初春飾理を始めとした風紀委員の皆様方と、なぜかプラスワンで参加している佐天さん。とある科学の超電磁砲Sの最終回に、この全員集合のこの絵面は確かに映えるものだろうと思う。
「学園都市の風紀を乱す者は!」
「それからフェブリを苛めるヤツはっ!」
「この盾の印に懸けて!」
「絶対に許しませんのっ!」
テレビだったら今最高に盛り上がってるんだろうなー。と、死んだ目で見つめていた。
……何だろう、友達を遊びに誘おうとしたら、既に仲良しグループで遊んでいる光景を、偶然目撃してしまったのかのような疎外感を感じる……。
「じゃあ、今回は白井さん流に」
「へ?」
あーはいはい、皆で言うあれでしょ?居るよね~、矢鱈とグループで同じことをする女子って。
青春とか言いながら結局それって黒歴史だし。輝かしい青春の1ページとかじゃ断じてないし。
俺の探し人である
『
「ちゅーのぉ!?」
ぐすんっ…………もう、帰ろっかなぁ。
評価のコメントで三人称を、天野で統一して欲しいとの意見がありました。違和感を抱きやすいと思いますが、このように表記していることにもちゃんと意味があります。
さらに、この後の小説のストーリーにも深く関わってくるので、変えることはありません。申し訳ないです。