とある原石の神造人形(エルキドゥ)   作:海鮮茶漬け

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あの先輩の昔話です


53.とある風紀委員の昔

 あのいろんな意味での変態の少女が、無人機のパワードスーツをある程度撃退して、私の前から去っていった。今頃他のエリアで暴れているのだろう。

 

「本当に都合良く現れてくれるわ。千里眼の能力でも持って…………はいるのでしょうね」

 

 いや、能力の特質からも持っている方が自然とも言える。触れた相手の能力と髪色以外の姿をコピーする能力。噂では超能力者(レベル5)に近い大能力者(レベル4)の一人と言われているらしい。

 

「能力のレベルが高ければ高いほど、人格が個性的なのは当然とも言えるけど」

 

 彼女は飄々としていて掴み所がないにも関わらず、こちらの懐に自然と入ってくるおおらかさがある。彼女が隣にいるだけで安心してしまうようなそんな何かが。

 能力のレベルが高いということは自分だけの現実(パーソナルリアリティー)がより強固ということ。それは一般的な人よりも個性が強いことを意味する。

 個性が強いということは周りに合わせず、"自分らしさ"を伸ばすことへ一切の躊躇が無いということだ。

 御坂美琴のあの反抗期真っ只中とでも言える小生意気さと、相反するような世話焼きの性分。白井黒子のあの正義に懸ける懸命さと御坂美琴に懸ける変態性。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()は、高位能力者の特質とも言えるものだ。

 そんな彼女達を見ていると、彼女達にレベルが劣っているところを見せつけられているかのようだ。

 でも、私には私にしかできないことがあることももう知っている。だから、今さらそんなことでくよくよしてられない。

 とりあえず、今回の事件を解決することに全力を尽くす。私は風紀委員(ジャッジメント)なのだから。

 

 

 

 ──私はかつてそんな彼ら彼女らに憧れた。高位能力者達は私の目標だったから。

 

「……いや、違うわね」

 

 そうだ。私はそんな不特定多数の能力者に憧れたんじゃない。あの全てが変わっている少女、天野倶佐利という少女に憧れたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~3年前~

 

「はぁ……っ!はぁ……っ!」

 

 先輩に連れられて私は路地裏を走る。

 連絡があったのが数分前。たかが数分前だがその数分さえあれば、人間をどうこうすることなど学園都市の不良には容易いことだ。

 支部からオペレートしてくれる仲間の指示を聞き、最短距離の道を走り抜ける。

 そして、目的地へ最後の角を曲がりようやく到着した。腕章を引っ張り警告を飛ばす。

 

風紀委員(ジャッジメント)です!大人しく拘……束…………」

 

 そこにいたのは不良たちではなかった。いや居るには居るが軒並み地に倒れ伏していた。その彼らの中央に長い髪を揺らして立っている少女がこの場の支配者だった。その彼女が私に気付いたのかゆっくりと振り返る。

 

「──おや、まさか君が来るとはね」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。今は夏真っ盛りのため半袖ではあるが気温が高い。

 走ってきた私と先輩は汗だくにもかかわらず、この数十人の不良相手にして碌に汗をかいていないとは、果たしてどういうことだろうか?

 能力で対処したのかはたまた純粋な体のスペックか。どちらにしても凡人とは一線を画している。

 

「(天野倶佐利……。)」

 

 私が第一七七支部に配属されて少し経ってから、彼女はよく見かけるようになった。それは犯罪を何度も繰り返しているからなんて理由ではなく、逆に起こる犯罪を鎮圧しているのだ。

 犯罪行為を見つけ次第関与しているため、新米の風紀委員(ジャッジメント)よりも遭遇件数が多いほどだ。「……はあ」と隣に居る男の風紀委員の先輩が重く息を吐いた。

 

「お前今回で何回目だ?別に俺達も事件に関わるなとは言わん。民間人の協力はこちらも助かっているからな。だが、お前の解決件数は既に正規の風紀委員と同じほどまでになっている。なら、もう風紀委員になったほうがいいんじゃないのか?」

 

 風紀委員になるためには弱能力者(レベル1)以上であることと、ある程度の教養。そして、正義を成す強い意思。

 彼女は大能力者(レベル4)で常盤台に通い、幾度も事件を解決している少女は全て充たしているといえる。

 

「風紀委員になれば捕まえた犯罪者から、個人で恨まれるリスクを減らすことができる。このままだと徒党を組まれて襲われる可能性がある。風紀委員になればその所属支部の管轄区画とはいえ、正式に治安維持をすることができる。何故風紀委員にならないんだ?」

 

 そう、風紀委員になれば今よりも安全に、活動することができるようになるのだ。活動範囲が減るとはいえその利点は活用すべきだろう。

 だが、

 

「すまないけど僕にはいろいろとすべきことがあってね。風紀委員(ジャッジメント)の仕事にかかりきりになるわけにはいかない。今まで通り趣味としてやらしてもらうよ」

 

 そう言って彼女は去っていった。

 彼女は世にも珍しい原石でありながら高位の能力者だ。そんな彼女は私の透視能力(クレアボイアンス)なんかとは違い、希少で強力な能力者だった。

 そんな彼女が風紀委員の活動と似たようなことをしていたため、誰に言われるでもなく私は自分と彼女を比較した。

 そして、当時能力が伸びず悩んでいた私は、当然のように彼女に嫉妬と羨望を抱いてしまった。彼女は能力で伸び悩んでいた私には眩し過ぎたのだ。

 

 

 

 

 

 現実に勝手に押し潰されていた私は、ある雨が降る日に一人の男の人と出会った。

 黒妻(くろづま)綿流(わたる)

 雨の日に柄の悪い男に絡まれている女の子を彼は助けていた。そんな彼が私には何故か輝いて見えたのだ。そして、私は大して時間も置かず、彼がリーダーをしている「ビッグスパイダー」に入ることとなった。

 ビッグスパイダーは武装集団(スキルアウト)であり、私とは無縁のところだったが意外と居心地が良かった。

 彼らは無能力者(レベル0)であったために能力の話題はなく、それが能力が伸び悩んでいた私には心地良い場所となっていた。

 

「ゴクゴク……っぷはぁ。やっぱり牛乳は、ムサシノ牛乳だな!」

 

「先輩って毎日それ飲んでますよね」

 

「おう、元気の源ってな!お前も飲まねぇと大きくしたいところが育たないぞ?」

 

「なっ!?どこを見ていってるんですか!余計なお世話です!それに牛乳で大きくなるなんて迷信ですよ」

 

「ん?知らねぇのか?実際に大きくなったっていう口コミが結構多いんだぜ?」

 

「………………詳しく」

 

 先輩とのそんな些細な会話が好きだった。この日常がずっと続けばいいと思うほどに。そして、いつしか私は先輩に尊敬以上の感情を持つようになっていた。

 そんな風にブラックスパイダーの一員として馴染み始めていると、ある日先輩から呼び出された。

 そんなシチュエーションに心を踊らして、淡い期待を抱いていた私は、会ってそうそう先輩に言われた言葉に凍りつく。

 

「美偉、お前本当は能力者なんだろ?」

 

「……え?…………な、何で……」

 

「それぐらい分かるさ。お前が俺らとは違うところに居る人間だっていうぐらいはな。何かしら理由があるとは思っていたんだが、ここを気分転換として過ごす分には良いと思ってた。

 でも、これ以上はお前はここに居るべきじゃない。お前には俺達と違って帰る場所がある。それなら、その場所に戻るべきだ」

 

「っ!私の居場所は……!」

 

「なら、お前はそっちの生活を捨てられるのか?」

 

「っ!!」

 

 私はそこで断言することができなかった。

 そんな私に何故か先輩は安心するような顔になった。

 

「捨てられねえだろ?お前は責任感が強い奴だからな。そんなお前だから俺は気に入ったんだ」

 

 みんなを騙している事実に気付き、ポロポロとみっともなく「ごめんなさい」と涙ぐむ私をあやすように、私の頭に手を置いた先輩は最後まで優しく接してくれた。

 

「──美偉、お前は今日でブラックスパイダーを卒業だ。頑張れよ」

 

 それが決定的な言葉だと私は分かった。だけど、先輩が切り出してくれた別れは拒絶なのではなく、私の背中を押すものだということも分かっていたから。

 私は眼鏡をどかしてブラックスパイダーの一員であることの証である、赤色のレザージャケットの裾で涙を拭い、挑発的な表情を無理矢理作り小生意気に笑ってやったのだ。

 

「いつか先輩がびっくりするようなナイスバディの女になって、後悔させてあげます!」

 

「……くくっ!そうかそれは楽しみだな。じゃあ、当然()()を飲まなきゃいけないな」

 

 本当に嬉しそうに笑ったあと先輩は、私にニヤリと先ほどとは別種の笑みを投げかけてきた。私もそれに答えるようにニヤリと笑う。

 そして、タイミングを合わせて二人同時にその何度も聞いた言葉を言った。

 

 

 

「「やっぱり牛乳は、ムサシノ牛乳!!」」

 

 

 

 これが私の宝石のように大切な思い出。笑顔で締め括られた決別だ。先輩のお陰で私は風紀委員として胸を張って仕事ができる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、先輩と再会したときに驚かすことに成功したので良しとしよう。

 

 

 ……あと、彼女に劣等感を感じていたために気付いてはいなかったが、風紀委員として再び活動するようになってあることに気付いた。

 

 

 

 

 

 

「…………ねえ、どうして他の人に化けているのかしら?」

 

「『え"』」

 

 どうやら彼女の変身を、何故か私は見破ることができたらしい。

 

 

 




上条とインデックス、そして小萌先生以外の主要キャラからの始めの印象は基本的に最悪のオリ主。

正の感情
上条 尊敬(普段の言動+勉強や荒事などの手助け+ご飯)
イン 親愛(ご飯+首輪の感謝)
先生 溺愛(基本的には優秀だが問題児の側面もあるため)
─────────────────────────
神裂 罪悪感(上条を叩きのめしたため)
─────────────────────────
負の感情
食蜂 不信(能力の無効化+普段の言動)
神父 警戒(???)
一方 拒絶(一方が他者と距離を取ろうとしていたため)
雲川 疑心(能力の特性故+上条との関係)
美琴 敵意(実験の関係者と誤認)
土御門 殺意(スパイ容疑と過度な妹への接触による疑惑)
根性 ???(???)
固法 劣等感(レベルの差から) ←NEW!!

固法先輩がブラックスパイダーを脱退した経緯を、どうしても思い出せないのため作者がそれっぽい話を創作しました。ごめんなさい。

◆考察◆
上条当麻のプロフィールを見て作者は一つ気になったことがあったため、今回はその考察をしたいと思います。

上条当麻のキャラクターのプロフィール。
代表的なのは異能を打ち消す右手の幻想殺しを有していることだ。そして幻想殺しがあるために、上条当麻は不幸体質であるということが最初に思い付くだろう。
だが、今回注目したのは上条当麻の特質ではなく、身体の数値である。
それは、度々話題に上がる上条当麻の身長だ。

168cm。それが上条の身長である。いささか身長の高い者や成人男性と殴り合うには小さい気もするが、「普通の男子高校生」と上条が自らのことを作中で何度も明言していることから、高校一年の男子の平均身長を当てはめたのだろう。と、作者は今ではそう思っていた。
いや、おそらくそれも正しいのだろう。だが、設定した理由にはもう一つの隠された意味がある。

数字の中にはエンジェルナンバーやラッキーナンバーというものをご存知だろうか?所謂「ラッキーセブン」などがまさにそれだ。
数字を風水的な観点から見ると一つ一つに様々な意味がある。その中でもエンジェルナンバーは天使からのメッセージで、生活をよりよくするためのアドバイスのための数字なのだという。
168という数字はそのエンジェルナンバーに該当する数字だ。

そして、168の数字の意味は「物質面での改善」。

上条が右手に宿す幻想殺しは異能を打ち消して、元の世界である純粋な物理法則の世界を取り戻すためにある。
世界を歪める魔術を打ち消して改善する、幻想殺しを宿す上条を指しているのではないだろうか。
そのような理由で鎌池先生は、上条当麻の身長を決めたのではないかと作者は考える。

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