とある原石の神造人形(エルキドゥ)   作:海鮮茶漬け

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55.暗部組織『アイテム』

 広いドーム状の空間に緑色の閃光が幾度も瞬いた。

 その自然には発生しないはずの光線に貫かれた機体は、物を言わないガラクタへと成り下がる。

 その機体を踏みつけて蹂躙しているリーダーに向かって、黒髪のどこかぼーっとしている少女が声をかけた。

 

「ねえ、行かせても良かったの麦野?」

 

「青臭いガキにいつまでも関わってらんないわよ。こっちもそんなことする暇もないしね」

 

 そう言って目を向けたのは、以前戦った学園都市第三位御坂美琴が走っていった方向だ。

 既にパワードスーツの軍団で見えなくなっているが、彼女ならば追うことは難しくはない。それをしないということは、本当に興味がもうないようだ。

 そして、視線を自らの能力と同じような光を出す機械へと向けると、長い髪を掻き乱しこれでもかと言うほどに、苛つきを込めた低い声を吐き出した。

 

「あ"あ?もしかして、ここ最近の訳の分からない依頼の数々は、こんな不良品を作るためだったってオチかぁ?……いいように使われてデータを取られるなんざマヌケ過ぎるぞッ!!」

 

 背後から『スタディ』が作り出した、劣化版の原子崩し(メルトダウナー)が放たれる前に、学園都市の第四位、麦野沈理から本物の原子崩しが放たれる。

 格の差を見せ付けるかのようなその様子は、まさに蹂躙と言っても過言ではない。

 

「あちゃ~、麦野やっぱりめちゃくちゃキレてるよねあれ」

 

「能力者にとって能力のデータを取られることは超死活問題です。それを学園都市の闇とも言えないような、ガリ勉の一般人にデータを取られていたわけですから、麦野がああなるのも当然ですよ」

 

 そんな風に話すのは麦野がリーダーを勤める、『アイテム』のメンバーであるフレンダ=セルヴェルンと絹旗最愛。

 彼女達の戦いを見れば、これが子供騙しの戦闘でしかないことが分かるだろう。気負うことなく会話をしながらパワードスーツを破壊していく。

 

 そんな中、それはいきなり起きた。 

 

「──がはっ!?」

 

「…………あん?」

 

 バタリっと、突然滝壺が倒れた。

 

「ちょ、滝壺さん!?大丈夫ですか!?」

 

「ええっ!?一体どうした訳よ!?」

 

 いくらぼーっとしている少女であっても、突然躓いて転んだ訳ではないだろう。そして、直接的な攻撃手段を持たない彼女を、『アイテム』の面々はパワードスーツから守護するような、立ち振る舞いをしていた。それにも関わらず滝壺は倒れた。

 それはおそらく、滝壺の崩れ落ちたその先にいる奴が原因だ。パワードスーツに気を取られ、背後からの接近に気が付かなかったようだ。

 

「ざけんじゃねぇぞ!このクソ野郎がッ!」

 

 この状況で、パワードスーツや大型の機体に隠れて接近されるのは、暗部として生きてきた麦野であっても予想外であった。

 それもそのはず、パワードスーツは見境なく襲うため乱戦になるのは当然であり、新たな人間が現れれば麦野達がそれに気付かない道理も無かった。

 下手人を見つけると即座に原子崩しを発射させる麦野。しかし、その人物は後ろに眼でもあるかのように次々と躱していく。

 

「(チッ!コイツあの第三位と同じ電気使い(エレクトロマスター)か。それも機械のセンサーから逃れるタイプ。電磁波で私の原子崩しを察知してやがる!)」

 

「麦野っ!滝壺さんは気絶させられているだけのようです」

 

「はあ?そんなわけないでしょ。どうせなんか盛られてるわ」

 

「いえ、それにしては注射の跡もありませんし、呼吸も安定しています。何かしらの毒物である可能性は超低いでしょう」

 

「……何ですって?」

 

 『アイテム』は暗部組織であるため、出回っている薬物のことにもある程度の知識がある。

 学園都市のゲテモノ染みた科学ならば、遅効性の毒物の一つや二つは当然あるにはあるが、今この状況でそんなものを使うメリットは無い。

 それもそのはず、暗部組織の『アイテム』ならば時間は多少かかるかもしれないが、解毒剤を用意することは容易い。その彼女達にわざわざ時間のかかる毒物を投与させることに意味は無いのだ。

 ならば、何故滝壺を気絶させたのか。導かれる答えは一つ。

 

「つまりなんだ?面白半分で『アイテム』に喧嘩売ったってことか?」

 

 滝壺から視線を外し逃げていく下手人に視線を再び合わす。彼女の顔には一つの感情しか現れてなかった。

 そして、その顔を見た『アイテム』のメンバーであるフレンダと絹旗は、今まで共に活動してきたにも関わらず、初めて見せたリーダーのその顔に震え上がる。

 地獄から響くように低く、殺意を煮詰めたような声がその口から吐き出された。

 

 

 

 

「……………………ブチ殺す」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(よーしよしよしよし!目標達成っ!!)」

 

 そんな風に調子に乗っているのは毎度お馴染みのオリ主である。この度の成果に彼は満足していた。

 

「(暗部の人間で機械系に強い電気使い(エレクトロマスター)がいて良かった!機械に強いって言っても劣化しているから、センサーに反応しなくなる程度と、電磁波に敏感になる程度しか利点が無いんだけどね)」

 

 はっきり言って大して使い道が無い能力である。自動ドアは反応しないし家電製品の電磁波を鬱陶しく感じたりと、デメリットの方が本来は強い能力だ。

 しかし、今回相手にするのは無人機のパワードスーツのため、センサーに反応しないと攻撃してくることはない。

 原子崩しを打ち出す大型の機械に、ビームオバサンが気を取られてるから相手にする必要がないしな。

 あとは、バレないように近付くだけでミッション達成。随分楽なものになっていた。

 

「(麦野の原子崩しはコピーした劣化している一方通行(アクセラレータ)の反射じゃ防げないし、ミコっちゃんの電磁波も劣化してて、原子崩しを逸らすことはできないから逃げるしか方法が無い、鬼門の一つだ。

 本来なら関わるなんて今後一切ゴメンだけど、……もう絹旗ブッ飛ばしてるんだよなぁ……。

 そんなわけで、これから『アイテム』と戦闘に発展する可能性がゼロじゃないから、何かしらの保険が欲しかった)」

 

 以前戦った御坂美琴と一方通行でオリ主は、やはり超能力者(レベル5)と戦うには、あらかじめ対策を立てておく事が重要であると認識していた。

 御坂美琴は彼女の甘さや焦りを利用して勝利し、一方通行とは上条という切り札や、御坂美琴と御坂妹の二人の能力者が居たから生き残ることができた。

 だが、『アイテム』にはこれはおそらく通じることはない。

 多少の慢心はあるだろうが、オリ主が大能力者(レベル4)で原石であることを知れば、浜面のときのようにあからさまな油断はしないだろう。

 

 何よりも重要なのが、『アイテム』には容赦が存在しない。

 

 御坂美琴のときはそれが打開策となった。一方通行は能力の暴走のため、容赦をするしない以前に意識が保てていたか疑わしい。

 土御門元春には容赦は無かったが、満身創痍で戦闘をすることは不可能であった。

 そう、オリ主が今まで何とか生き残ってきたのは、全員が本気で襲い掛かってきながら、誰一人として本来の力を出すことができなかったからだ。

 

 もし、御坂美琴が白井黒子の姿で動揺せず、最後の瞬間に倒れているオリ主の側に、超電磁砲(レールガン)を撃ち込むことを躊躇しなかったら?

 もし、一方通行が暴走せずに一対一で戦うような事態に発展していたら?

 もし、土御門元春に余裕があり、決定的な何かを見つけるまで取り繕い、掴んだそれらしき証拠をアレイスターに告げていたら?

 

 オリ主はまず間違いなく敗北していただろう。

 エルキドゥという埒外な存在が身に宿っているため、学園都市の住人が相手ならば死ぬことはおそらく無い。

 しかし、アレイスターや魔術サイドに露見すれば、殺されるか人権を無視して骨の髄まで利用されるのが目に見えている。

 

「(だからこその滝壺の能力のコピー。はっきり言って暴走状態じゃないと使えない能力であるから、劣化したらと思うと目も当てられないけど滝壺の姿は使える)」

 

 それこそが、オリ主が滝壺を気絶させた理由だ。直接的な戦闘員でないため、戦闘能力は確実に自らよりも下であり、能力追跡(AIMストーカー)の能力があるため、意識があるとオリ主のAIM拡散力場が捕捉されてしまう。

 そのため、当て身で滝壺を気絶させたと同時に、コピーしてトンズラをこいたのだ。

 その中で麦野をコピーしなかったのは、戦闘能力が能力を使わずとも強く、近付けばほぼ間違いなく捕捉されるためだ。

 

「(前回の絹旗でコピーできればよかったんだけど、窒素装甲(オフェンスアーマー)のせいで触ることができなかったんだよな……)」

 

 実は一方通行で絹旗を腹パンをして、絹旗をコピーできていると思っていたのだが、実際には不可能であった。

 あくまでも触ったのは窒素のために、絹旗を触ったと判定されなかったようだ。

 

「(とはいえ、これで『アイテム』と戦うことになったとしても、保険のカードができたから有利に戦闘を行うことができる。触っただけでコピーなんて流石に思わないだろうし)」

 

 麦野達はパワードスーツの軍団を相手にするしか道がないため、素通りできる俺には確実に追い付くことができない。

 移動系の能力者が居れば話は変わっただろうけどな。

 

「え!?ちょっと麦野!?」

「何してんの!?」

 

 遠くから『アイテム』の面々が喚いているが、そっちに打開策が無い以上は俺の安全性は確保されている。今さら何をしても遅い遅いっ。

 ふはははっ!よし、勝ったな!帰ったら風呂にでも入るか。そんな風にこのあとの予定すら考える余裕すら俺にはあった。

 

 だが次の瞬間、背中に氷を当てられたかのような悪寒が走り抜ける。

 

「!?!?!?!?」

 

 その現象に理解ができない。

 もう既に危険分子は全て排除したはずだ。今さらあっちにどうこうできる手段など残されていないはず。

 このまま前を向いて走り抜けるのが正しいと頭では理解できているが、本能の部分が警鐘を鳴らす。

 本能に導かれるまま俺は振り返った。そして、視界に映るその光景に目を見開いて俺は驚愕した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞳孔が開いた二つの瞳が無機質にこちらを捉えていたのだ。

 

 

 




リアルが非常に大変になってきました。そして、モチベも下がってきたので、投稿頻度がまたしても落ちていきます。


◆考察◆
※今回の考察は旧約読破済みにしか確実にわかりません。
今回の考察では神浄の討魔についての考察をしていく。
幻想殺しや上条当麻の設定にまで考察したのだから、その上条当麻の最大の謎について考察してみたい。
とはいえ、他の考察者さんの多くが取り扱っている謎のため、その方々の補足などをしても面白くはない。
つまり、またしても新説を唱えようと思う。(既に考察済みという可能性はあるが)

神浄の討魔。
これは間違いなく上条当麻の『真なる意思』だと考えられる。では、その真なる意思とはなんなのか。
これはアレイスター=クロウリーが所属していた、「黄金の夜明け団」を離脱後に創設した魔術結社、「銀の星」の位階構造の8=3に該当するものである。(詳細はwiki参照)
しかし、既読済みなら当然思っただろう。これが上条当麻の真なる意思なのだろうか?神浄の討魔は明らかに今までの上条当麻の行動理念から、逸脱した行動をしている。
確かに、前条は怯えを抱いて戦っていたが、最後には誰かを助けるためにその拳を握っていた。そんな上条が他者を傷付けることを肯定するわけがない。

そのことから、作者は真なる意思について考察してみた。
1.垣根帝督
 まず、様々な考察者さんが考えるように、真っ白な垣根帝督は8=3に到達していると前提で考える。そうすると、一つの考察が生まれる。

 『真なる意思』とは隠された本性、つまりそのキャラクターの裏の顔のことではないのか。

 悪党である垣根帝督から善性の垣根帝督が生まれた。そして、その善性の垣根が本来の垣根を殺して、垣根として存在を確立した。
 これは8=3、つまり神殿の首領に至る方法と同じなのである。高位の自己が低位の自己を消滅させ、善なる垣根は緑色の瞳を宿すことに成功したのだから。
 これを上条に当てはめるとどうなるか。垣根同様に裏の顔、つまり善性の上条だと計算高い利己的な悪の部分を肥大化させると、神浄の討魔となるのではないか。

2.タロット
 そもそもトートタロットはアレイスターが作り出したものだ。ならば、学園都市にもそれを使っていることは予測できる。だが、いきなりトートタロットと言われても困惑するだろう。
 しかし、原作でそれについてダイアン=フォーチュンが上条に既に言っているのだ。幻想殺しはタロットの「愚者」であると。正確には違うらしいのだが、ここではそれについての考察は止めておく。
 では、それは幻想殺しのみに当てはめられた「愚者」なのか。もしかしたら、それは上条当麻自身にも該当するのでは?と、作者は考えた。
 そもそもタロットにおける「愚者」とはどのようなものなのか。原作で述べられていた時代で変化するものとしてではなく、カードの絵から読み取れることを書こうと思う。

《「愚者」のカードには「トリックスター」を強調しているところがあり、「愚者」が道化などと同様に相対する二つの極を持っていることを表しており、カードに描かれている人物の愚行を象徴するもの、計算高くしたたかな側面を象徴しているものである》、とされている。

 「愚者」の愚行とは上条当麻の行動だろう。それが、利他的な行動からか、幻想殺しや中条に大して何も知らずにいることかはわからないが、これはおそらく上条のことを指している。
 そして、残る「トリックスター」の役割こそが神浄の討魔だ。計算高くしたたかな「愚者」の側面。これは表に出てきた神浄の討魔の行動と合致するだろう。
 まだ見付けることはできていないが、垣根を含めたレベル5は上条同様にタロットのカードに合わせた、何かの要素があるのではないかと作者は考えた。

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