とある原石の神造人形(エルキドゥ)   作:海鮮茶漬け

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日刊ランキングに載っていたので書きました。

後日譚です。


57.痛み分け

 地獄を見た。

 

 当たり一面火の海で元の建物の外観など微塵も残していなかった。

 

 地獄を見た。

 

 空気が高温に熱せられ、呼吸をするだけで肺に痛みが襲う。

 

 地獄を見た。

 

 そんな中で尚存命している『アイテム』の連中の気配がした。

 

「……がはァッ……!……はぁ、はぁ……クソがっ!」

 

「痛ぅ~~!」

 

「ぐッ……!」

 

「はぁ、はぁ……」

 

 あの爆風を間近に受けたのにも関わらず、なんと『アイテム』全員が存命していた。これにも理由がある。

 

「はぁ、はぁ……麦野が私達と爆風の間に、原子崩し(メルトダウナー)を挟まなかったら、今頃超死んでますね」

 

 そう、爆発の数秒前に麦野は原子崩しを展開したのだ。ぐるぐるウインナーのように円形に原子崩しを伸ばし、爆風をある程度相殺したため、こうして4人は人の形を保つことができている。

 

「全員、大なり小なり火傷を負ってるわね……。これ以上の戦闘は無理か。まあ、あのクソ野郎は爆発源にいたから骨一つ残ってないでしょうけど」

 

 滝壺を見ても頷いていることから、襲撃者が死んでいるのだろう。

 つまり、敵の狙いはただ逃走して自分達から隠れることではなかった。麦野達を誘導し、この工場で水素爆発を起こして自爆することだったのだ。

 

「(原子崩しのデータ取られるわ、まんまと誘い込まれるわ……)」

 

 麦野は額にこれでもかと血管を浮き上がらせて、感情のままに叫んだ。

 

 

「クソったれがああああああッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『ひゅーっ、ひゅーっ、……ゥア"ア……ッ!』」

 

 その爆心地から少し離れた路地裏に、全身大火傷を負った女性がしゃがみこみ、深い呼吸を繰り返していた。

 その姿を一目見れば、誰もが救急車をすぐに連絡しないと女性の命が危険な状態であることが分かるだろう。

 もし医者が彼女を見れば、とある名医を除いて、彼女をこの世に留めとくことが不可能だと察してしまうはずだ。

 

 だが、そんな彼女に不可思議なことが起こる。

 

 全身の至るところがみるみると回復──()()()()()()()()()()()()()()

 先程まで瀕死としか形容できない姿であったにも関わらず、彼女の肌には火傷の痕すら残されてはいなかった。彼女は痛みが引いた体を見て思わず呟く。

 

「『はぁ、はぁ……体が元に戻っていくっていうのは意外とホラーね……。でも、死に体であっても、彼女達から離れることができたのは行幸だったわ』」

 

 一部体が炭化するほどの大火傷を負いながら、彼女は『アイテム』の傍から逃走したのだ。

 そんな彼女は寝不足なのか目の下に隈がくっきりとあり、手入れがされずに適当に伸ばされた髪は、お洒落なとどとは縁遠い人物であることが分かる。

 もちろん、彼女は偶然通りがかった一般人などでは当然なく、能力を使い変身したオリ主である。では、何故そんな人物に姿を変えているのか。

 

「『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』」

 

 能力者が無意識に発してしまうAIM拡散力場を、捕捉するのが滝壺の能力のため、逆に言えば能力者ではない人間に変身してしまえば、能力追跡からは簡単に抜け出せるということだ。

 無能力者(レベル0)の子供に変身しないのは、無能力者であってもAIM拡散力場が全く無いのか、断言できなかったためである。

 

「(能力者でもない人間に変身しなかったら、今もずっと追いかけられてたかもしれん……)」

 

 そんな訳で見事『アイテム』の魔の手から、生還して見せたオリ主だが、何故か拳を握るほどに何かを悔いているようだった。

 オリ主は苛立ちとともに内心で一人呟く。

 

 

 

「(何でこれをもっと早く思い付かなかったんだ……ッ!!)」

 

 本当にな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わってとある木造建築のボロアパート。

 そこで青髪ピアス曰く、合法ロリの代名詞にして生きる伝説こと、とある高校の担任をしている小萌は、夏休み明けの教師生活に胸を踊らせていた。

 

「みんなとまた学校生活を送れると思うと、ついついお酒が進んじゃいますねー♪」

 

 135㎝という驚異のスタイルを持つ彼女は、その体躯に似合わない缶ビールを幾つも開けて嬉しそうに呑んでいた。絵面的には相当ヤバいが、彼女はちゃんと成人を迎えた大人の女性である。

 

「天野ちゃんと一緒になってサポートしているとはいえ、上条ちゃんの単位は一般的な生徒さんと比べて、ちょっとヤバいことになっているのですが、まあ、これ以上休まずにちゃんと出席してくれれば、取り返すことは十分に可能ですねー」

 

 ゴクッゴクッと、缶ビールを男らしく呑みながら言う小萌。

 ここで男子高校生にとって、建ってはいけないフラグが建ってしまったようだが、不幸の代名詞の彼にはこれは日常なので、気にしなくても構わないだろう。

 

「天野ちゃんも上条ちゃんと同じで人助けをするために、度々学校を抜けてしまうことはありますが、常盤台に行っていたこともあり成績は優秀で、さらにはあの能力のお陰でどんな記録術(かいはつ)でもオールグリーンですからねー。

 上条ちゃんはその逆で全ての項目でオールレッドですけど」

 

 記録術(かいはつ)

 学園都市が行う時間割り(カリキュラム)の一つにして、ポピュラーな能力開発である。

 目隠しポーカーやスプーン曲げなどをするのだが、様々な能力者に変身できる天野には、できないことを探す方がよっぽど難しいほどの項目ばかりだ。

 そして、異能を問答無用で消し飛ばす幻想殺し(イマジンブレイカー)を宿す上条には、当然超能力が目覚めるはずもなく、この科目は鬼門だったりする(一般的な教科が得意ということでもない)。

 

「天野ちゃんはしっかり良い子なんですけど、もう少し大人の私を頼って欲しいのですよー。

 大人っぽく在りたいお年頃かもしれませんけど、実は誰かに甘えるということは、大人になったら必要になってくる技能のひとつですからねー。

 大人になったからって何でも一人でできるというわけではなく、誰かの力を借りないと達成できないことも、多くあるのですから」

 

 ここまで大人の先達者っぽいことを言っているが、その実、手のかかる生徒の方が個人的に好きなだけである。頼られることでさらにモチベーションが上がる彼女に、教職はまさに天職であった。

 そんな彼女が天野のことを思い、「しっかり者の彼女がもっと甘えられるような環境を作らねばっ!」と、一人奮起していると突如携帯に着信が入った。

 

「おや?天野ちゃんからのお電話ですかー?」

 

 彼女は急ぎでは無いときはメールをしてくるので、何かしら急用なのだろう。あらかじめ、既に手を回していることの多い彼女から数少ないお呼びだしだ。

 

「《もしもし、小萌かい?頼みたいことがあるのだけど、ちょっといいかな?》」

 

「はい!大丈夫ですよー!それでどうかしましたかー?」

 

 早速、頼ってくれる何かが起きたことに、不謹慎かもしれないが小萌は少し嬉しくなった。彼女にどんな注文をされるのか楽しm

 

 

 

「《いろいろあって僕は外で全裸になってしまってね。今すぐに服が欲しいんだけど頼めないかな?》」

 

「……え?…………あの、今なんと?」

 

 

 

 小萌は何か聞き間違いをしたのかと思った。それはそうだ。

 たまに予期せぬ行動を起こして、それが後々面倒なことに発展することもあるが、いつもは成績優秀で品行方正な彼女である。

 いくらなんでもあの少女が、全裸で外にいるわけ

 

 

 

 

「《このままだと風紀委員(ジャッジメント)警備員(アンチスキル)に捕まってしまうから、僕の体を覆えるくらいの衣服を持ってきて欲しいんだ》」

 

「は、はいぃぃいいいい!?!?!?」

 

 

 

 待ちに待った可愛らしい生徒のお願いに、小萌は絶叫を上げた。

 




これにて、革命未明編は終了です。次はアステカの魔術師ですね。

えっ?ミサイル?美琴がレールガン撃っておしまいです。

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