4.乙女の嗜み
「今日はカレーでいいかな?」
「はい、もちろん構わないですよー」
常磐台に居たときとは、天と地ほど違うボロボロの木造建築のアパート。ここが今の俺の住みかだ。
「天野ちゃんは家事に掃除に洗濯。何でもできるパーフェクトガールちゃんですねー」
「常磐台ではこれも授業の一貫さ。ペルシャ絨毯の修復に比べれば、大したことはないよ」
常磐台に進学したのは御坂美琴と共に行動すれば、原作に何らかの形で立ち会えるという打算からだ。死ぬほど勉強してなんとかいけた。
成績は中の下から下の上程度だったが、原石の
だが実際は歳が三つ違い、ミコっちゃんとは先輩後輩の関係にすらなれなかったのだが。
街中で上条と会うことができたので、同年代ということは分かっていた。そして上条が着ていた制服を思い出しながら、進学する高校を決めたのだ。
高校に行くための下宿先を探していると、このとあるの世界で唯一の合法ロリこと、月詠小萌が手を差し伸ばしてくれたのである。
……というか、ペルシャ絨毯の修復ってお嬢様学校に行った学生が、そんなことをするような環境にいくのか?ホントに必要ある?
「度々ご飯を作ってくれて先生はとても嬉しいですけど、本当に迷惑になっていませんか?」
「僕としても一人で食べるご飯は味気ないからね。一緒に食べることができて感謝をしているよ」
このちんまい先生と食べるご飯は実際に楽しい。料理を作ると、口一杯に頬張り本当に美味しそうに食べるのだ。まるでハムスターのようである。
「パテ・ド・カンパーニュや鯛のアクアパッツァを、この部屋で食べるときが来るとは思いませんでしたねー」
「どうせなら、美味しいものを食べて貰いたいからね」
「いきなり、電話で甘めのワインがあるかと言われたときは、本当に焦りましたよー」
そうなんだよな。この部屋ポルト酒置いてなかったんだよ。
いや、普通はそうなんだけどさ。常磐台に居たからそこら辺鈍ってたんだよね。
当然あると思ってたから材料買っちゃってさ。急いで電話して代わりとなるワインの場所を聞いたら、『……天野ちゃんは不良に目覚めてしまったのですかぁ?』という弱々しい返事と共に、泣き声が聞こえたときは盛大に焦ったものだ。(態度には全く出ないが)
「本当は色々なスパイスから作りたかったんだけどね。材料を集めるのも大変だから、そこまで大したものは作れないんだ」
「いやいや、カレー粉から作っている時点で十分凄いですからねー?」
さすがに、スーパーに悪魔の糞は売っていなかった。
この名前から分かる通り、匂いヤバいけど炒めるとかなり良い風味になるんだよなぁ。
そんなことを思っていると玄関から音が聞こえてきた。
ピンポーン!ピンポーン!
「あれ?一体誰でしょうねー」
学園都市には当然のことだが宗教勧誘もないし、
果たして、この時間に玄関のチャイムを鳴らすのは一体誰なのだろうか?
「はいはーい。今出ますよー」
…………いやいや、ちょっと無用心過ぎない?元男の俺でもレンズを見るぞ。あなたそんなナリしてるけど、大人の女性だよね?
ガチャリと小萌先生が扉を開けると、そこにはツンツン頭の少年が白い何かを背負って立っていた。
「あれ?上条ちゃんどうしたんですか?」
「小萌先生ちょっと頼みがあるんだ……!」
あっ!そうだった!昨日ので満足してたけど、今日インデックスが登場する日だ!
「やあ、こんばんは。後輩」
(おっ、その背負ってるのがインデックスかな?どれどれちょっと見して……もら……い……)
俺はその衝撃的な事実に一瞬体が固まった。
そんな俺の様子に微塵も気付かずに、上条は話しかけてくる。
「えっ!?先輩どうして小萌先生の家にいるんですか!?」
「ああ、このマンションに僕も住んでいるんだよ」
(めっちゃくちゃ可愛い!え?普通に美少女じゃん!インデックスって名ばかりのメインヒロインじゃなかったんだ!)
「それで、上条ちゃんはどうしてここに来たのですか?」
「そうだった!小萌先生ちょっと手伝って下さい!」
精神と肉体を軽く分離させながら(異常)上条と話していると、小萌先生の声で上条が再び話し出す。
一つ戦場を越えて来たと思えないなぁ。平常運転で人助けしてるよ。
「それじゃあ、お願いします!」
「わ、分かりました!よくわからないですけどできる限りはやってみるのですっ!」
知らない間に話が終わっていたようだ。上条が部屋から出ていく。
「警告、第二章第六節」
おおっ!これはインデックスの魔導図書館っぽいシーンじゃないか!
「──
いやぁ、ヨハネってるねぇインデックスさん。輝いてるよー!
……ん?何かこっち見てるような……。
「貴女がこの場に居ることで対象が分散してしまい、術式が発動しない恐れがあります。ご協力いただければ幸いです」
えっ?立ち合えないってことか?ウソだろ……。
はあーー。…………ふて寝しよ。
「なら僕は帰るよ。小萌、カレーは食べなかったら冷蔵庫に入れといておくれ」
そう言って扉を閉めてとぼとぼ自分の家に帰ると、ポストに何か挟まっていた。
それを取り出し見てみると
───明日この場所に来訪することを願う。統括理事会より───
なしてー?(困惑)