とある原石の神造人形(エルキドゥ)   作:海鮮茶漬け

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テコ入れ回とも言う


アステカの魔術師編
58.デート回


「……むむむ、むぅ~~っ!!」

 

「…………はぁ……」

 

 (わたくし)上条当麻は夏休み最終日である31日に、ご存知ビリビリ中学生と、何故か恋人ごっこをするはめになったのだった。

 思い返してみれば昨日からおかしなことばかりである。

 学園都市の外から寮に戻ると、何故か先輩がうちの扉の前で体育座りをしていて、インデックスを見かけると同時に抱き付いたりするなどという、普段では考えられないようなことをしたのだ。

 そして、断固としてその理由を話そうとせず、ひとしきりインデックスに甘えると家に帰っていった。

 先輩が弱っているという珍しいものを見たときから、いつもの日常から既に外れていたのかもしれない。

 ちなみに、抱き付いている先輩の頭を撫でていたその姿を見て、インデックスが修道女であることを実感したりもした。

 

 そのことで、先輩がインデックスにお礼をしたいらしく、今日はインデックスの世話をしてもらえることになった。今日は土御門や青髪と出掛ける予定があったため、お言葉に甘えて先輩に頼んだのだが、……それがどうしてこうなったのやら。

 

「それで?見分けはつきましたかお嬢様?」

 

「あーー!もう、分かんないわよっ!じゃあ、はい!アンタはこっち!」

 

 そう言ってつき出されたのは食べかけのホットドッグ。同じものを頼んだのだから、そこまで気にするほどのことでも無いのだが、どうやらこのビリビリ中学生もいっぱしのお嬢様のようで、そこら辺のマナーは気にするものらしい。

 貧乏苦学生の上条当麻は「卵の殻をミキサーで粉々にすれば、もしかしたら食べられるのでは?」と、考えるほどに食べ物への執念を持ち合わせているため、溝に落下したわけでもないホットドッグを食べることに一瞬の躊躇も無い。

 

 その様子を正面で見ていた彼女は、顔を赤くしながら心を乱れに乱していた。

 

「(本当に本当にこいつは……っ、そういうの気にしなさいよねそこら辺気にするもんじゃないの普通は!?私だってテンパって誘っちゃったけどそもそもアンタあの人のこと好きなんじゃないの!?

 問い詰めて実際は付き合ってないことは分かったけど、あの距離感でただの先輩後輩は流石に嘘でしょ……!)」

 

 少年の否定された言葉と、自分が如何に女性からモテないかを死んだ目で語るその姿に、虚偽は感じられなかったがそれにしてもあの距離感は余りにも近すぎる。

 と、そこで彼女はあることに気付いた。

 

「(あ、あれ?もしかして私って客観的に見ると、女の子に言い寄られている男を横恋慕しようとしてる泥棒猫なんじゃ……?)」

 

 ここで彼女は気付いてしまった。赤かった顔を青くして視線を右往左往させる。

 

「(い、いや、これはそういうのじゃないし!デデデデートって言ってもこれは偽物だし!以前こいつと少女が仲良く歩いているのを共に目撃したから、今の状況がそう見えなくもないだけで……。ま、まあ、深い意味はないけどあの三人には絶対に会わないようにしよう……)」

 

 友達に仲睦まじい男女に割り込む女とは思われたくなかった思春期の少女であった。

 

「(というか、何でコイツ相手にこんなに動揺してんのよ私ぃ~っっ!!)」

 

 自分の感情が理解できない彼女は百面相をしているが、上条は「お嬢様ってのは分からん」と、勝手に結論を出してホットドッグを頬張った。

 

「~~~~っ!!)」

 

 それを見た美琴はまたしても顔を赤くする。常識だとか倫理だとかは再びどこかに飛んでいった。彼女は思春期なのである。自分の感情に振り回されるお年頃なのだ。

 

 上条は「デートとかよく分からんねーし、勉強も終わらないし何で俺夏休みのラストスパートでこんなことしてんだ?」と、思いながら残りのホットドッグを食べていく。

 そして、そんなことを考えていたせいで、横で顔を赤くしてモジモジしている第三位がいることに、当然の如く不幸な上条当麻は気付けないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「がぶがぶ、ごくんっ!もぐもぐ、がぶがぶっ!!」

 

 ところ変わって上条宅。

 もはや、様式美とも言える光景が生み出されていた。

 

「(暴飲暴食は修道女としてアウトなのでは?)」

 

 先日、ここに押し掛けたお詫びに、インデックスの面倒を見ることになったのだが、やることといえばフライパンを振ることだけだ。

 ジュージュー、フライパンにいわせて、様々な国の料理をこれでもかと調理していく。……それが数十秒で無くなる様は言葉を失うのだが。

 

「バリバリっ、もぐもぐ、ごくんっ、……ぷはーっ!くさりの料理は本当に美味しいんだよ!」

 

「ふふっ、それは良かったよ(そろそろ腕がプルプルしてきたっ。つるって、本当につっちゃうぅ~~!!)」

 

 笑顔で返答しながらも、フライパンを持つ手が僅かに揺れている。既に何十食とつくってきたのだからそれも当然だろう。

 だが、恐ろしいことに暴食シスターの勢いに減速は無い。このシスターの胃袋は、どうやら質量保存の法則とかは知らない子らしかった。

 しかし、オリ主にはこのシスターに借りがあるため、手を止めるわけにはいかないのだ。

 

「(爆発のせいで、着ていた服は全部吹き飛んじゃったから、小萌先生が来るまで全裸でいるしかなかったんだよ。文字通りの全裸待機だったよ。しかも、外でなっ!(泣)

 一人路地裏で情けない姿で居たせいか、小萌先生が間違った方向に勘違いして顔を青白くさせたり、それを正そうと言い訳をしようにも、暗部が関わっているから言えないしで、めちゃくちゃ神経を使ったのだ。

 その結果がインデックス抱き付き事件である。あれはしゃーない。上条の中で先輩の新しい一面を見たくらいの認識であってくれ。今回のことで俺をイロモノ枠にしないでください。お願いします)」

 

 昨日のことを思い出して、内心で落ち込みまくっているオリ主だが、顔色一つ変わらないのでインデックスが気付くことはない。

 サーモンのマリネを掻き込みながら(せめて味わえ)、インデックスは言った。

 

「くさりって魚料理が得意なんだね!お肉やパスタも美味しいけど、お魚が料理の中で一番美味しいんだよ!」

 

「そうだね。確かに魚料理を一番作ることが多いかな。隣人に料理を振る舞うときに、肉なんかの油っぽいものはなるべく控えるようにしているからね。

 (小萌先生は検査ではめちゃくちゃ健康体で、肌艶も理論値的にあり得ないモノらしいけど、普段の飲酒やら喫煙を見てると、どうしても健康的なものを作りたくなっちゃうんだよなー)」

 

 小萌はあのなりで大量の飲酒はもちろん、重度のヘビースモーカーである。口に咥えるだけで銘柄を当てられる特技を持つと、前に自慢していた。

 そんな話をしながら、オリ主が次の料理を作ろうと調理を進めるが、ふと動きが止まる。

 

「おっと、そう言えば君の宗教ではワインは大丈夫かい?」

 

「え?もしかして飲酒するの?それはしちゃダメなんだよ」

 

「いや、料理の香り付けやコクを出すために使うんだ。フライパンでアルコールは飛ばすから、未成年者飲酒禁止法には抵触しないさ」

 

 ワインやビールはアルコールがあるから禁止されるのであって、それさえなければ未成年が摂取することは問題ない。

 アルコールは未成年者の身体には良くないものが、多く含まれているから禁止されているわけだし。

 それを聞いてインデックスは安堵したかのように、息を吐いた。

 

「そういうことなんだね。うん、構わないんだよ。ワインを口に含んじゃダメって教義はないし、教会で禁止しているところはあるけど、聖書には飲酒喫煙については禁止してないからね。

 すているを見れば分かるけど、牧師さんのヘビースモーカーもいるから、必要悪の教会(ネセサリウス)では飲酒喫煙は禁止してないんだよ」

 

「へぇー、そういうものなんだね。(宗教には詳しくないからこうして聞かないと、そこのところはよく分からないんだよなー。

 常盤台で宗教では出しちゃいけない料理もあることは学んだけど、それを全て覚えている訳じゃないし。

 まあ、いいならいいか。はい、どばーっ)」

 

 キリスト教にはワインの逸話が確かあったはずだから、もしかしたらワインを飲んではいけません、みたいな教義があるのかと思ったがそうではないらしい。

 その話を聞いて安心してフライパンにワインを投下する。熱しられたフライパンに投下されたため、放たれたワインの香りにインデックスのお腹から音が鳴る。おいおい、お前マジか(驚愕)。

 

 それから少し煮込んで、ブラックペッパーで味付けすれば、ほい、完成。

 

「鮭のアクアパッツァだよ。召し上がれ」

 

「わーい!もう既にたまらないんだよっ!」

 

 蓋を開けて蒸気のカーテンから出てきた、色とりどりのパプリカや旨味が凝縮された鮭に、インデックスの瞳がどこかの第五位と同じようにキラキラする。

 

「アクアパッツァは僕の得意料理でね。よく小萌にも作るんだ。味には自信があるよ」

 

「くさりの料理はどれも美味しいんだよ!とうまの料理も美味しいけど、くさりの料理はお店で出されているのよりも、もっと美味しいかも!」

 

「ふふっ、ありがとう(あれ?いやでもインデックスのいうお店ってファミレスじゃね?えー、それってどうなの?いや、最近のファミレスの料理はめちゃくちゃ美味しいけどさー)」

 

 せめてレストランの味くらい言ってくれたらと、やたら高望みをしているオリ主である。

 まあ、一年前より前の記憶は無いし、逃亡生活でレストランに行く余裕なんて無かっただろう。

 そして、上条がレストランにインデックスを連れていけるような、甲斐性などあるはずもないのだから、レストランの味を知らなくてもしょうがないことだ。

 そうして数十分後、ようやく食卓の戦争から解放されたオリ主は、インデックスを膝に乗せて『超機動少女(マジカルパワード)カナミン』という、女児向けアニメを観てのんびりと過ごしていた。

 

 そんな平和を満喫していると、インデックスの携帯電話に着信が鳴った。

 

「あれ?とうま?一体どうしたのかな?」

 

「(うん?あれ?そういえば確かミコっちゃんとのデートだと……)」

 

 俺が原作を思い出したのと上条がそれを言ったのは同時であった。

 

 

『インデックス!ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいか!?』

 

 

 あー、そうだアステカのストーカーだ。(言い方)

 そうそう、確か上条勢力の排除とか監視とか、そんな理由で襲ってくるんだった。

 いつもならインデックスを戦闘から遠ざける上条だが、今回ばかりはインデックスに協力を求めた。まあ、素人がプロの魔術師相手に無知で挑んでもそら死ぬわな。

 

「……黒いナイフは黒曜石。……照らされる光は金星。──うん、それはトラウィスカルパンテクウトリの槍だね」

 

「は?何だって?」

 

 は?何だって?

 

「トラウィスカルパンテクウトリの槍。分解魔術だよ。黒曜石のナイフを鏡として設定して、金星の角度を合わせると金星の光を「槍」に変えて照射するの。その光に当てられたらどんなものでも一撃で分解されちゃうんだよ」

 

 えぐっ、そんなヤツだっけ?当たったら一撃で即死じゃん。なかなかヤバい能力だったんだな。それなのにどうして印象が薄いんだ?

 

 ……あ、そうか。一度も人に当たったことがないんだ(察し)

 なるほどねぇ。やっぱりどこの世界でも槍は当たらないんだね。強いけどランサーはどうしても勝てないのが宿命か。

 まあ、エルキドゥはギルガメッシュと戦ったらしいから、同じように物量で戦ったはず。

 

 つまり、エルキドゥはアーチャーなのさ!

 ふっ、これは常勝無敗ですわニッコリ

 

「それでどうすればいい!」

 

「トラウィスカルパンテクウトリの槍は魔術的な加工がされているから、とうまの右手で黒曜石のナイフに触れば壊れるはずだよ」

 

「分かったサンキュっ!」

 

 ツーツーと、途切れる携帯電話。それほど切羽詰まった状況なのだろう。……いやまあ、知ってるけどさ。

 助かることを知らないインデックスは不安そうにしているが、それでも動こうとはしなかった。魔術師の狙いが自分なら、安易に動けば上条の邪魔になるかもしれないからだ。

 そんな健気な少女を見てしまって、何もしないのはあれなので、昨日のお返しに抱き締めて頭を撫でていると、三毛猫も心配するように鳴き声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、しばらく三毛猫とともにインデックスを励ましていると、玄関の方からどこか気の抜けたツンツン頭の家主の声が聞こえてきたのであった。




他宗教の配慮大事。医療で昔そのことで裁判起きたらしいし。

デート回と言う名の飯テロ回。デート回でオリ主が一ミリも関与しないのは、他の二次小説と比べても珍しいのではなかろうか?
まあ、一話でアステカの魔術師編が終わったからいいかな!
……これもはや、~編っていうのも間違っているような……?一話だけだし。

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