とある原石の神造人形(エルキドゥ)   作:海鮮茶漬け

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嬉しいコメントを見てやる気が上がりました。もうちょっと頑張ってみようと思います。
しかし、作者はクソ雑魚メンタルなので、いつか心が折れて書かなることがあると思います。
そのときは、また暖かい言葉を送って貰えると嬉しいです。



70.ナンバーセブン

 遡ること二十分前。

 オリ主は『特力研』に乗り込むために路地裏を通っていた。コピーした研究者の名前や衣服などは手に入れたが、そのキャラの行動パターンを全て把握したわけではない。

 そのため、なるべく人目を避けて潜入し、素早く片付けた方が都合がいいのだ。

 

「(あーもう、また武装無能力集団(スキルアウト)か?)」

 

 だが、そう上手くはいかない。治安が最悪なこの学園都市では時間帯が遅くなっても、路地裏などで武装能力者集団が普通にたむろしている。

 騒ぎになってもあれなので、一応避けてはいるのだが。

 

「(……これで八回目。どんだけ居るんだよコイツら……。さっさと帰れっちゅーに。

 はぁ……、別のところ探すかぁ…………ん?何だ?)」

 

 そうして、別のルートを探そうとするが、ふと三人分の話し声が聞こえた。よく聞いてみるとどうやら穏やかな会話ではないようだ。

 

「は、離してくださいっ!こんなことしていいと思ってるの!?」

 

「おいおい、そんなツレねぇこと言うなよ。俺達に少しだけお金を恵んでくれるだけでいいからさー。あ、それがイヤならその体で払ってくれてもいいんだぜ?」

 

「おっ、そりゃあいい。確かに結構いい体つきしてるしな。俺達もたまには羽目外して楽しみたいし」

 

 マジでそれなっ、ぎゃははゲラゲラ!と品なく笑っている馬鹿二人。

 そして、そんな男二人に壁に追い込まれてもなお、少女は気丈に振る舞うが手足が震えてしまっている。

 その少女は前髪を上げていて利発そうな印象を受けるが、相手は自分よりも体格が良く数も多い。この状態で恐怖を感じるなというのは、中学生の彼女には些か無理()いが過ぎるというものだ。

 本来ならばこんなとこで目立つ意味はないため、できるだけ争い事は避けたい。しかし、いつもの習慣はそう簡単に抜けず、尚且つオリ主の精神状態は平時とはかけ離れていた。

 

「……あ?何だお前。白衣なんか着て科学者かなんかか?」

 

 面白いところで水を差されてチンピラは苛立つ。白けさせた乱入者にキツめの視線を向けた。

 しかし、それも一秒後には態度も変わる。

 

「おおっ!?すっげぇ美人じゃねぇか!俺達超ツいてるぜ!」

 

「おっぱいはこっちの嬢ちゃんよりはねぇけど、平均ぐらいはあるか?まあ、個人的にその個性出しまくってるその髪色は、どうかと思うけど」

 

「そうか?俺としては似合ってるからセーフだな」

 

「ッ私はいいから今すぐ逃げて!」

 

 そんな馬鹿を絵にかいたような二人と、貞操の危機にも関わらずこちらを案じるような少女。そんな三人の出すそれぞれのアクションを軒並み無視して、馬鹿二人に白衣の少女は近付いた。

 

「おっ、なんだ?アンタってそういう趣味があるぼげらぁ!?」

 

「って、半蔵ォオ!?」

 

 ノーモーションで繰り出された蹴りが、バンダナを被っている少年を壁に吹き飛ばした。

 壁に叩き付けられた少年はズルズルと崩れ落ちる。そして、その少年を見向きもせずにオリ主は残りの少年へと近付いた。

 

「僕は忙しいんだ。そして、個人的に苛立ついていてね。痛い目にあってもらうよ(頭が痛くなるようなことばかり起こりやがって……!少しだけサンドバッグにしてやる!)」

 

「ふ、ふざけんな!テメェよくも半蔵をッ!きっちりケジメ付けさせてぶごべらばあ!?」

 

 ドゴッ!と重い衝撃と共に、残りの少年も一撃もらっただけで昏倒してしまった。

 戦いにおいてノーモーションの攻撃は、相手に回避の準備をさせない有効な攻撃手段ではあるが、動かす部分の筋肉しか力を加えられないために、どうしても威力が無くなってしまう。

 しかし、エルキドゥのポテンシャル故か、矢鱈と膂力のあるオリ主が同じ動作をすると、成人男性並みの一撃となる。

 二人を倒したオリ主は残った少女に近付いていく。

 

「二十メートル南南西に警備員がいるから、保護してもらうといい」

 

「あ、ありがとうございました!助かりました!お礼をさせて頂きたいので、お名前と通っている学校を教えてもらってもよろしいですか?」

 

「大したことじゃないよ。それにごめんね、今急いでるんだ。運が良かったと思って欲しい。ほら、もうお行き」

 

「はい!本当にありがとうございました!」

 

 そうして駆けていく彼女を見送って、俺は目的地である『特力研』に向かうため踵を返した。

 おっと、その前に。

 

「───また、彼女を襲うなら容赦はしないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソッ……、気付いてやがったか……」

 

 半蔵はゆっくりと立ち上がって、去っていった女の方を見る。蹴りが当たる前に腕を差し込み、バックステップで威力を減らしたのを、どうやら感づかれたようだ。

 壁に勢いよくぶつかったのは事実のため、それなりのダメージは食らってはいたが、いざとなれば袖に隠した打ち根を出すつもりていた。

 だが、白衣の女は()()()()の擬態を簡単に見破り、さらに警告まで投げ掛けてきた。あれは能力者うんぬんではなく、技術がプロと呼ばれる者の領域まで上り詰めている観察眼だ。

 それに、あの動きは何かの体術でも修めているのだろう。能力に胡座を組んでくれれば楽だが、どうやらその様子もない。以上のことからもう関わらない方が身のためだろう。

 半蔵は肩にもう一人の少年を担いぎ、警備員が来る前にとっととトンズラする。

 今から逃げれば捕まることは無いはすだ。

 

「自惚れているつもりは無かったが、まさか俺が身体能力は疎か、磨いた技まで看破されるとは思ってなかったぜ」

 

「う、うーん?半蔵?あれ?俺何して……」

 

 肩に担いだ友人が目を覚ます。間抜け面を晒す友人は寝惚けて、直前の記憶を思い出せないらしい。

 

「白衣着た女一人にボコボコにされたんだよ俺達」

 

「……ああっ!そうだ、あの野郎!次あったらただじゃおかねえ!

 確か最近、能力者に毒電波垂れ流す機械が開発されてるって、噂があったな。

 手に入れてたら一番に使って、今回のケジメ付けさせてやる!」

 

「馬鹿か!!あれは能力で身体能力を底上げしてるだけじゃねえ。身のこなしや技量も相当だ。下手したら暗部の人間だぞあれは」

 

「……?何でお前にそんなことが分かるんだ?」

 

「あ、いや、ほらっ、勢いよく吹き飛んだ俺もお前も、怪我一つねえだろ?手加減されてたんだよ。じゃなかったら今頃骨の二、三本は逝っちまってる」

 

「ああ、確かにな。それもそうか」

 

 馬鹿で助かった……とでも言いたげな安堵の表情をして、半蔵はダメージが残っている浜面を担いで歩いていく。

 

「あークソっ。結局何もできずにやられたままかよ。能力さえあればよぉ」

 

「浜面。今さらそんなこと言っても意味なんかねえだろ。俺達は得られなかった側の、人間でしかねえんだからな」

 

 無能力者(レベル0)。学園都市では決して珍しいことではない。何故なら6割が無能力者であるため、少数というわけではないのだ。

 しかし、そこには能力者との絶対的な差が実際にある。その格差に耐えきれずコースアウトしたのが、彼ら武装無能力者(スキルアウト)だ。

 傷の慰めでしかないことは分かっているが、同じはみ出し者と共に行動するのは楽だ。

 先ほどの行動が善行ではないことなど分かってはいるが、それでも華奢な少女にああも簡単に無力化されたのは、なかなか堪える。

 そんな陰鬱な空気を出している二人に、後ろから声をかける人物が居た。

 

「お前ら!ちょっといいか?聞きたいことがあるんだけどよ」

 

「あん?」

 

 そんな彼らが振り返るとそこには、この蒸し暑いなかで長袖の白ランを肩にかけている男が居た。その男は真剣な瞳をしてこちらに問いかけてきた。

 

「ここに緑髪の科学者みたいな奴は来なかったか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さらに遡ること一時間前。

 

「クソっ!い、一体どうすれば!あの女のせいであの実験が終わってしまう……!そうなってしまえば、少しでも利益を貪り食おうと、今までの金の流れが隈無く調べられる。

 そうなれば、私があの実験の資金を、別の場所にプールしていたことが連鎖的にバレてしまうではないかッ!」

 

 男は研究者だが多重能力(デュアルスキル)発現実験の、直接的な関わりは無かった。しかし、何も専門的な一つの機関が、計画(プロジェクト)の全てを請け負っている訳ではない。

 金の工面は何も学園都市の上層部からだけではない。甘い蜜を吸おうとして様々な研究機関が援助していた。結果は芳しくはなかったが、学園都市の上層部が進める計画ならば、パイプを作る意味でもやって損は無い。

 この男の研究機関も同じ様に投資をしていた。だが、この男は私欲に走った。援助するはずの資金を幾らか手元に勝手にプールし、金を渡していたのだ。

 本来ならばこの悪事などすぐにバレるが。何しろ多重能力発現実験は開始当初から全く成果を上げられてはおらず、『特力研』もそれは認識をしていた。

 そのため、投資額を下げられたとしても、文句など言えなかったのだ。

 その弱みにこの男は付け込んだ。業績を全く上げられないために、金をプールしても気付くことはない。ある程度貯まったら、「自分が交渉して投資額を上げてもらうことに成功した」などと言って、さらに恩を売ることも可能かもしれないと頭の中で計算していたが、それも全てパーだ。

 それどころか、その罰として責任を(なす)り付けられ、自分を矢面に無理矢理立たせるつもりかもしれない。そうなれば、破産はもちろん命すら危うい。

 しかし、もうどうすることもできない。

 二週間前に偶然にもあの『原石』が、特力研を潰すことは知ったが、暗部に依頼しても上層部が既に多重能力発現実験に、見切りを付けているため動こうとはしない。

 あの『原石』は触れた人間に変化するため、他の能力者とは違って脳ミソだけあればいいというわけではない。

 能力の足掛かりさえ掴んでいない現在、他人の能力を取得する工程を失うということは、他人に変化するという結果しか分からなくなってしまうのだ。

 それでは、永遠に多重能力へのヒントを失ってしまう可能性がある。それを怖れて誰もあの女を殺そうとはしない。

 

「(馬鹿共めがっ!多重能力発現実験を再開する気さえないのなら、生かしておく意味など無いだろうが!)」

 

 後に、別の方法で多才能力(マルチスキル)なども生まれるため、全くの無意味などではないのだが、平凡な研究者でしかないこの男にはそんなことを考えれるはずもない。

 

「(どうにかあの女を殺さなくては……。だが、奴を仕留められるような武力など個人で持ち合わせてなどはいない。

 さらに奴は大能力者(レベル4)。半端な能力者など相手にもならん。クソッ!私の人生はここまでなのか!?)」

 

 そうして悲嘆に暮れる男に奇跡が起きる。

 男の前をある少年が通り過ぎたのだ。

 あの少年を男は知っている。何故なら奴と同じ『原石』のため、一度書類に目を通していたからだ。

 あの女と同じ『原石』でありながらさらに価値があり、強度(レベル)も超えている学園都市唯一の存在。

 少年のその直情的な思考回路も男は知っていた。ならば、自分が取るべき行動はただ一つ。

 

 その『原石』を見付けた男は嫌らしく口角を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこから十秒後。

 

 超能力者(レベル5)を打倒するために、やって来たチンピラ達を軽く伸して自宅へ帰る途中に、削板はとある研究者と出会った。

 

「あ、あいったー!」

 

「うおっと。……何だぁ?このあからさまなインテリは?おーい、アンタ立てるか?」

 

 削板の隣に如何にもな研究者が、躓いて思いっきり転んだのだ。

 根性があればその程度すぐに起き上がれるだろうが、明らかに鍛えていないこの研究者にそれは無理だと思い、削板は手を差し伸べるが、男は気付かずにいきなり声を上げた。

 

「ひ、ひぃーー。あーもう、オシマイダーー。このままでは罪の無いコドモたちが大勢死んでしまうぅうぅうぅう!」

 

「何だと……?おい、そいつはどういうことだ」

 

 目の前の男はどんくさい奴程度の認識でしかなかったが、何やら物々しいセリフその男から聞こえ、今までの適当な雰囲気から真剣なものへと切り替える。

 男は削板の声に勢いよく振り返り、次々と喋り出す。

 

天野(あまの)倶佐利(くさり)この名を知っているか?奴は大能力者(レベル4)の原石だ。

 奴は、どうやら置き去り(チャイルドエラー)の子供達を集めて、人体実験に使っていたようだ。私も手を尽くしたがもう既に輸送されてしまった後だった……。

 このままではあのマッドサイエンティストに、みんな殺されてしまう」

 

「マッドサイエンティスト?能力を持つ学生がか?」

 

「ああ、アイツは変わり種なんだ。能力者でありながら科学者でもある。そんな奴が推し進める計画は、多重能力(デュアルスキル)発現開発計画」

 

「何でソイツは子供を利用する。意味は何だ?」

 

「証明だよ」

 

 削板の質問に男は間髪開けずに答える。

 

「奴は劣化模倣(デッドコピー)という、どんな能力者にも成れる学園都市唯一の存在だ。学園都市の夢であった多重能力(デュアルスキル)の能力者だと、当時は祭り上げられていたらしい。

 だが、結局学園都市は奴を多重能力(デュアルスキル)とは認めなかった。それどころか強度(レベル)超能力者(レベル5)にも届かないものだと評価された。

 奴からすればそれは裏切りだったのだろう。それから奴は狂った。自分が最も多重能力(デュアルスキル)に近いことを証明するために、わざと失敗するような人体実験をしているのだ。

 あー、ナントイウコトダー。このままでは人間の皮を被った悪魔に、未来ある子供達がまだまだ殺されてしまうぅぅぅぅ………………チラッチラッ」

 

 いきなり出てきたインテリ研究者は、ただの偶然通りがかった削板相手に、異常なまでにペラペラと機密の情報を話していく。

 この時点で怪しいことこの上ないが、削板軍覇という男はそんな些末なことは気にしない。

 命の危ない子供がいる。根性がある男というのは、それだけで命を懸けることができるのだから。

 

 

 

 

「……そんなクソ野郎が居るとはな。いいぜ、この俺がソイツに根性ってのを見せてやる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、巻き戻ること現在。

 

「(何で削板軍覇がここに居んの!?お前原作でも絶対これと関係無いだろ!?つーか、空間転移(テレポート)に純粋な身体能力で肉薄すんじゃねえよ!)」

 

 空間転移(テレポート)で距離を取るが、異常な速さで追い付かれる。実際にまだ会ったことは無いが、おそらく聖人である神裂と肉弾戦を出来るのではないかとさえ思う。

 なんせこの身体のフルスペックでも、追い縋るのがやっとなのだ。おそらくこれを客観的に見たら、所謂(いわゆる)ヤムチャ視点というものになるはずだ。

 

「性根が捻じ曲がってるくせに、歪んだ根性見せやがる。俺のスピードでも掴みきれねえとはな。

 ハッ!思ったよりやるじゃねえか」

 

「(ひぇえ……、コイツヤベェ……。……本当に人間?

 このスピードじゃそろそろ対応が遅れ──うっへいっ!?ちょちょちょちょ、今かすった!かすったよ!今!?)」

 

 謀略と呼ぶには些かキャストが馬鹿ばかりだが、こうしてオリ主と削板は男の思惑通りに激突した。




次はバトルです。バトルは大変なんだよなぁ……。
軍覇との出会いは二年前にしました。

ちなみに、半蔵が起きていることに気付いたのは、もちろんエルキドゥの気配察知です。

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