また伏線といいますか、原作のあれを匂わしていきます。あれを出せるのはいつなのだろうか……。
「(くくくくっ、この時を待っていた……)」
物陰に隠れるこの男は、削板に「根性が無いインテリ」と言われた小悪党の研究者である。
「(貴様を倒すほどの戦力を用意は出来ないが、何も武器が一つもない訳ではない。しかし、それが貴様に通じる事が無いことも知っていた。そして、そのための第七位だ。
第七位とぶつかれば如何にあの女とはいえ必ず敗北する。
私ととしてはそのまま第七位に奴を殺して貰う事が、最高の結果だったのだがな……。
だが、第七位は私の策略に気付くかもしれないと、あらかじめ予測はしていた。そして、気付いた時には狙い通り、あの女に相当なダメージを与えた後だ。なら、後は私でも奴を殺すことができる)」
男は手に持っていた鞄から、筒状の機械に幾本もの突起のようなものが付いた、不可思議な物を取り出した。その青白い金属の脚立と銃身の側面にはこう書かれていた。
Model_Case_"Aero_Shooter"
"Aero_Shooting_Gun"
「(暗部でも量産されなかった銃だが、いつかプレミアになると確信して入手しておいてよかったよ。この銃は
まるでスナイパーライフルのような銃を、死角の陰から構える男。
何故こんなことをしてもバレないかというと、オリ主が手当たり次第に科学者や研究者をしばき倒したため、警備員も昏倒しているかどうか見るだけでは見分けが付かず、さらには原石同士の戦いに意識を向けていたため、それぞれの確認作業へとまだ入れていなかったのが原因だった。
「(警備員が来たときは焦ったが、貴様達の戦いへと注意がそれたお陰で事なきを得た。後はこの銃で始末してしまえばそれで仕舞いだ)」
カチャッ、と銃口をオリ主の方へと向けた。
「(この銃の飛距離は50メートルと拳銃程度しか無い上に、その大きさはスナイパーライフルと同じほどに大きく、さらに発射音もかなり出てしまうなど、比較すると遥かに拳銃の方が使い勝手がいい。
そのため、本来なら使おうとする暗部の奴はまず居はしないが、逆に私のような素人にはこの銃は有り難い。
何故ならこの銃は文字通り風と空気を使い、金属の銃弾を打ち出す武器だが、その反動が全く存在しないように設計されている。つまり、ゲームのガンシューティングと同じだということだ。
この距離で都合良く射線も開いている。幾ら素人の私でもこれを外す事はない)」
スコープからオリ主の額を覗きながら、男は自虐とも言える思考を回す。
「(ああ分かっているとも。第七位が貴様を殺さなかった時点で私の破滅は変わらない。
だが、私だけ地獄に落ちるなど認めてなるものか。私を追い詰めた貴様がのうのうと生きていくなど許してはおけん。行くのならば諸共にだ。
私も近いうちにそちらに行く。だから、私が行く前に貴様が先に行けぇッ!!)」
引き金が引かれた青白い銃口から、金属の弾丸が飛び出した。畳を叩くような激しい音と共に、弾丸は1㎜もズレることなく正確にオリ主の額に突き進み、そして。
──着弾した。
オリ主の髪が衝撃で扇状に広がる。幾ら回復系の能力を有していても、脳に弾丸を貫かれて即死ならば、能力を行使できないのは道理だ。
「……くっふふ、馬鹿めが。下らん正義感など出さずに見過ごしていれば、まだ長生きできたものを。これで後は───ん……?」
爽快感で気持ちがこれ以上無いほどに高揚するが、その結果を再びスコープ越しに見るとあることに気付く。
スコープに映っているのはあの女の顔ではない。それは例えるなら、まるで人間の手のようではないか?
そんな疑問を浮かべる男の思考に、根性が具現化したかのような少年の声が割り込んだ。
「ふー、危ねぇ危ねぇ。おい、無事か?」
「お陰様でね。ありがとう助かったよ」
「なーに、俺も間違ってアンタに喧嘩を売っちまったからな。これぐらい良いってことよ」
そんな風に呑気に会話していることが分からない。片方は銃弾に撃ち抜かれて死んでなければおかしいのだ。
「(どういうことだ……?間違いなく弾丸はあの女を貫いたはずだ!!なのに何故生きている!?)」
まさか誤射でもしてしまったのか?と男は考えるが、次の瞬間目を見開いて驚愕する。結果は思いの外簡単に見付けられた。
「こんなモンを使うたぁ、つくづく根性ってのが分かってねえらしいな」
「は、はあ!?何だそれは!?」
削板の右手の中にある弾丸から、削板が天野に着弾する寸前に掴みきった事が分かる。これだけでもふざけた結果だが、男は万全を期して削板から見えない位置から射撃した。
その事から、先ほどのあの女の髪が広がったのは、削板がマッハの速度で動いた影響だろう事が推測できた。
「こういうときの首の後ろがピリピリする感覚は馬鹿にできねえ。勘でしか無かったが動いたのが正解だったな」
「か、勘だと……?そんな馬鹿げた理由で私の渾身の一手が……っ」
男は自分の理解が全く及ばない事態に茫然自失となる。まあ、だからといって容赦をする理由は全く無い。
削板が男を睨み付けた。
「ヒイィィッッ!!ア、
男は飛んでくる銃弾を受け止める能力者を目の当たりにして、錯乱状態へと陥った。彼にとって削板は化け物以外の存在には見えなかったのだろう。
馬鹿な男の自分勝手な発言を聞いた黄泉川は、端的に答える。
「お前は特殊な武器を所持しているから、不用意に近付くのは危険じゃんよ。
本来なら私達でどうこうするのが筋だが、
それを私達が邪魔して逆に危険になる可能性もあるし、今回は傍観させて貰うじゃん。
…………──子供に銃弾撃ち込んどいて、ただで済むと本気で思ってるのか?」
その言葉を聞いて男の顔が青白くなる。この場から脱する方法がないと理解したのだ。
ナンバーセブンは様々な感情を噛み締めるように、拳を握り締める。
「簡単に騙されちまった俺も俺だが、人の事を騙して動かして自分は高みの見物とはな。こんな根性無しは初めて見たぜ」
「ヒィイッ!?」
「そんなお前にこの俺が根性ってモンを教えてやる。歯ぁ食いしばれ!!」
今まで最低でも十メートルは離れていたはずなのに、一瞬で目の前に現れた削板に男は悲鳴を上げる。
腰を落とし振りかぶった拳を削板はそのまま振り抜いた。
「すごいパーンチ!!」
「な、何だそのふざけたネーミぐるぷぎゃ!?!?!?」
削板から繰り出されたその一撃を受けて、男の研究者は切り揉み状に回転して飛んで行く。それはプロのフィギュアスケート選手でさえ、感心してしまうほどの回転数だったという。
ドサッ!と地面に叩き付けられた男は昏倒し、無事そのまま警備員の御用となったのだった。
削板の描写をやり過ぎたかもしれない。本当にこんなことできんのかな?