とある原石の神造人形(エルキドゥ) 作:海鮮茶漬け
「あら?もう用事は終わったのぉ?」
「うん。時間を取らせて悪いね」
突入する数十秒だけ天野は食蜂達から離れていた。流石にこの状況で無駄な事はしないだろう。
「……まさか、戦場に行く前にあの人と内緒で電話して、ラブコメ的な展開はしてないでしょうねぇ?もし、そうだったら運び屋を捕まえる前に天野さんと戦わなくちゃならないけど」
「流石にその疑惑は予想外だよ。君ってそんなに感情的な人間だったかな?」
敵が居るだろう場所に潜入する前だというのに、そこだけは絶対にブレないようだ。例え出会った頃の記憶が無くとも食蜂にとっては、上条は替えの効かない王子様らしい。知ってるけど。
「もしや、女王にはお慕いしている殿方がおられるので──「消去」それでは、天野さんも来ましたし参りましょうか女王」
「ええ、そうねぇ」
「相変わらずだね君は」
食蜂達三人は複合施設の中へと潜入した。しかし、常盤台の制服を着た食蜂と帆風。そして、緑髪をしている天野では潜入というには些か目立つ格好だ。
そんな堂々とした三人は緊張など全くしておらず、とりあえず周囲を見渡す。
「木を隠すなら森の中って事からしらぁ?今までの人が寄り付かない場所じゃないのは、そういったあからさまなポイントを外してきたって事かしらねぇ」
天野達が訪れたその複合施設は一階にショッピングセンター、二階にビリヤードやボーリングなどの遊技場が建設された建物であった。ナイトシアターなどもこの施設にはあるため、この時間にも関わらず閉店していないのだろう。
学園都市と言うだけあって、ほとんどの学生は既に帰宅しいないようだが、未だに何人かの学生がここに滞在していた。天野は周りを見渡して隣の食蜂に話し掛けた。
「……この人数は少し骨が折れそうだね」
昼よりは遥かに少ないとはいえ、それでも他の施設に比べればその人の多さは群を抜いている。
「まあ、普通ならねぇ。でも、読心能力で運び屋達の背格好や特徴は把握してるから、難易度はぐっと下がるわぁ。
つまり、これからは私の能力の真骨頂って事だゾ☆」
そう言った食蜂はおもむろに鞄からリモコンを取り出して、目に写る人達に能力をかけていく。
その人達が今まで進んでいた進行方向とは逆の方向へと方向転換していく。それを眺める食蜂は得意気な顔で言った。
「ふふふふっ、人海戦術の脅威力を味わわせてあげるわぁ」
「君はこういうときにイキイキするね」
「流石です!女王!」
悪どく笑う食蜂に対してどこか呆れを滲ませる天野と、心酔レベルで褒め称える帆風。
そんな彼女達の違いは食蜂を敬うべき『女王』と見ているか、どこにでも居る年頃の女子中学生と見ているかの違いだろう。
「っと、あちらさんの尻尾を誰かが掴んだようねぇ。それじゃあ、
そんな軽い雰囲気を出しながら、食蜂は敵の居る場所へと歩を進める。人波を掻き分けていくとボーリング場へと辿り着いた。目の前に広がる光景を見て帆風が食蜂に疑問を言った。
「こんなところで受け渡しをすれば、目立つと思うのですが……」
「そうねぇ。奇を狙っても目立ってしまったらアウトなのだし、もしかしたら何か別の──」
そこまで言って食蜂は違和感に気が付いた。
「(おかしい……。急いでいるのだとしてもいくらなんでもアナログな方法に頼りすぎている)」
ここまでは順調とも言えるほどに、すんなりとやって来ることができた。それは間違いなく食蜂の能力の力の影響が大きく、帆風が食蜂を連れて立体的な動きをして追跡したからだ。
他の能力者達ならばここまで上手く事を運ぶことはまず不可能だっただろう。それこそ、隣に居る数多の能力者の能力を使う、彼女でもここまでスムーズに進められるとは思えない。
そして、食蜂は御坂に頼まれた途中参加のイレギュラーだ。この事件に確実に介入する可能性自体、元々低かった。
それらを統合して食蜂は相手の変則的な動きは、いずれ来るだろう未知数の追っ手のための保険だと考えていた。
だが、それでは腑に落ちない点がある。
「(私のような精神能力者から時間を稼ぐためだとしたら、それこそ御坂さんのように電子機器を操る能力者じゃないと、入ることもない場所を通過しない事はあり得ない。
それこそ精神系能力者以外の、人の匂いから目標を追跡する能力者なんかが相手だとしても、電子的なストッパーを越えるときには必ず跡が付く)」
今までの運び屋の行動は、監視カメラに映らないところを立体的に動き撹乱していた。持っているのが学園都市内外で狙われている物だと知っているなら、その行動の意義は分かっていても焦りが出てしまうものだ。
しかし、盗み見た情報からは運び屋が焦っている様子は無かった。つまり、ほぼ平常心であったということだ。監視カメラの位置を把握していることから相手は暗部のはず。
つまり、相手は暗部に浸かり生死のプレッシャーに慣れているそんな人物。そんな相手がその程度の事にも考えが及ばず、さらには杜撰な受け渡し場所を指定するだろうか?
もし、今までの行動の一つ一つが、ただ追っ手を想定しての念のためのものではなく、
「(まさか、この私
その思考に辿り着くと同時に食蜂は声を張り上げた。
「帆風!すぐにここから離脱するわッ!天野さん!早くここから──『流石は
音源がオンになったアナウンスから少女の声が流れた。事務連絡ではないその口調に周りの学生達は困惑しているが、ここに乗り込んだ三人にそれがなんなのか分からないはずもない。
今回の騒動に関わっているその運び屋がマイク越しに命令すると同時に、出入口や窓から
先程までの日常からいきなり切り離され、理解できずに混乱する人々の様を監視カメラから眺める黒夜は、悪意が滲み出る笑みを浮かべながら一人呟いた。
「さあ、
「うわぁー!ってミサカはミサカはあの人に
病院のベッドの上でジタバタしている
「いや、えっとね……?ってミサカはミサカは、言い辛いその内容に視線をあちこちに飛ばしてモジモジしてみる」
「それで?」
「ミ、ミサカネットワークを介してその状況を知ったんだけど、本当かどうか精査する必要があってね?と、ミサカはミサカは言い訳と共に、あなたをテレビ番組でやっていた庇護欲をそそるという上目遣いで見上げてみたり」
「それで?」
「じょ、状況が状況だしあなたにも最後には協力して貰おうと思ってたと、ミサカはミサカは覚悟を決める前にあなたに勘づかれてしまって、今やもう言い訳にしかならないような事を自覚しながらも、胡麻を
「さっさと言え」
「はい」
という一幕があったとか無かったとか。
まあ、学園都市第一位の一方通行ならば確実に鎮圧させられるため、最善手といえば最善手なのだが。
「確かに、今の複雑な状況を打開するにはあの人の力を借りた方が良いのは理解しているけど、あの人はこの前ミサカ達を助けるために頭に怪我を負って、その傷がまたミサカのせいで開いちゃったばかりの病人だから、また迷惑かけるのはできなかったのと白状してみる」
一方通行がこの病人に入院しているのも、再び怪我を負ったのも自分のせいなのだ。あのカエル顔の医者からも安静が言い渡されている。
そんな怪我人である一方通行に、戦場に行ってくれと頼むのは気が引けた。そうすれば少なくとも絶対に片方の残骸が、片付くと分かっていてもなかなか言い出せなかったのである。
「二つあるからあの人とヒーローさんは別々の方をそれぞれ対処して欲しいけど、情報が無さすぎて二人とも同じ方の残骸を追ってしまうかもって、ミサカはミサカは懸念事項を言ってみる」
二人は連絡を取り合ってはいないため、役割分担ができないのだ。それどころか今の二人が出会えば殺し合いが始まる可能性がある。
あのプライドの塊である一方通行に敗北を与えた存在。それを一方通行がそう簡単に許すとは思えない。
「でも、
まさか、その三人が一人の能力者に対して集まるとは、思ってもいない打ち止めであった。これだけの面子がたった一人に対処するとは流石に考え付かないだろう。
そのことを知らない打ち止めは、不安材料が消えたと思い病室を出て、自動販売機の前まで歩く。その道すがら先程のまでの安堵した表情から一転して、激情に声を震わした。
「あの天野って人は本当にマイペースだよね!10032号を使って言ってくるなんて非常識にも程があるよっ!
妹達にも負担になるし少しは私達の事も考慮してくれるべきじゃないかな!?ってミサカはミサカは頬を膨らまして怒ってみる!」
プンスコしている女の子に偶然にも怒る大人は周囲にはいなかった。深夜帯なので出歩く人自体が少ないというのもある。
そして打ち止めは気付いた。ここは夜の病院なのだと。
怒りで忘れていたがそんな事に今さら気付き、打ち止めは顔を青くした。
「……な、なんか見渡してみるとちょっとだけ怖い気もするって、ミサカはミサカは腰が引けた状態になってみたり」
暗く先が見えにくい病院。大人ですら怖がる人は多く居るだろう。それを特殊な出自とはいえ、そこら辺に居る子供と同じ感性を持った打ち止めが怖くない訳がない。
「だだだ大丈夫だよ。自動販売機はそんなに遠くはないしちょっと行って帰ってくるだけだもんって、ミサカはミサカは若干涙目になりながら気丈にも一歩一歩歩いてみる」
ビビりながら恐る恐る歩けば、目的の赤色の自動販売機へと辿り着いた。
「ええっと、ヤシの実サイダー。ヤシの実サイダーっと。
あ!あったって、ミサカはミサカは目的の飲料水を見付けて、迅速に投入機にお金を入れてみたり」
ガシャコンッと出てきたヤシの実サイダーを取り出し、元の病室へと帰るだけとなった打ち止めは、そこで余裕が生まれた。そして、余裕が生まれたということは緊張の糸が途切れたということでもある。
そうすると今まで気付かなかった事にも気付く。今まで恐怖から一度も見ようとはしなかった、暗がりの通路の向こう側へと視線が向いてしまったのだ。
そこにあった光景を見て、打ち止めは口から心臓が飛び出るかと思った。
なぜなら、
通路の奥の方から金髪の子供が地面を這ってきたからだ。
「うぎゃああああああああああああ!!!!ってミサカはミサカは絶叫してみるぅぅっ!!」
手にしていた缶ジュースを放り投げるアホ毛の少女。
病院内で絶叫するなど非常識にも程があるが、今まさに非常識が目の前で起こっているのだ。今回ばかりは許して欲しい。
科学の街で起こる怪奇現象に打ち止めは大パニックだ。妹達がまた悲劇に巻き込まれないように、多くの人が残骸の対処に尽力してくれているというのに、自分は何でこんな全く関係のないピンチに陥っているのだろうと、本気で嘆く打ち止め。
腰が抜けて動く事もできない打ち止めは、これから自分が
だが、いくら震えていても目の前に居る金髪の子供は、打ち止めへと襲い掛かって来ない。立ち上がる様子が一切無いのだ。
「……あ、あれ?ってミサカはミサカは想定とは違った結果に戸惑ってみたり……」
恐る恐るという足取りでその金髪の子供に近付く打ち止め。怖くはあるがこのまま放置するのもそれはそれで怖い。そろ~りと足を伸ばしながら近付いてみると、なんだか女の子の吐く息が荒い。
そんな新事実に足へ力が入りかけるが、よく聞いてみるとその吐く息はどこか苦しそうな感じがする。その顔を上から覗き込んでみると、その子は最近この病院に入院している女の子だった。
「あなたって確か……」
「はあ……っ、はあ……っ、……助けて…………るいこ……」
一応キャラの特徴なんかは詳しく書いてるつもりなんですけど、とある未読者にはイメージし辛かったりするのでしょうか。
自分自身だと分からないので、感想欄で書いてもらえると嬉しいです。