とある原石の神造人形(エルキドゥ)   作:海鮮茶漬け

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80.無人駆動鎧

 予想外の非常事態に、ボウリング場の中は阿鼻叫喚となっていた。突然乱雑に駆動鎧(パワードスーツ)が侵入してきたのだ。こうなるのは必然であった。

 そんな周りの惨状を見ながら、天野は納得したかのように呟く。

 

「なるほど。追い詰めていたのは僕達の方ではなかったということだね」

 

『そういうことだ。「超能力者(レベル5)が相手なら逃げ腰になるに決まっている」、なんて事を無意識下で認識しちまった時点で私達の術中だ』

 

 こちらの言動に応じて言葉が返ってくる。おそらく近くに盗聴器のような物が設置されているのだろう。混乱した周囲のざわめき具合からみても、声をわざわざ潜める必要は無いようだ。

 その事を把握すると食蜂は気持ちを切り替え、機械の向こう側に居る運び屋に対して切り込んでいく。

 

「……確かに、今回はあなた達にしてやられたけど、別にだからと言ってこちらの戦力が変わる訳ではないでしょう?

 超能力者(レベル5)大能力者(レベル4)、それに加えて数値では認められなくても、多重能力(デュアルスキル)と言っても過言ではない彼女を合わせた、私達を相手にしてあなた達に何ができるのかしらぁ?」

 

 これは傲りでも何でもなく純然たる事実だ。対人なら無類の強さを誇る食蜂と、体のリミッターを外し常人の数倍の身体能力を行使できる帆風。

 さらには、どのような能力者や状況においても、対処する術を即座に用意することができる天野。このメンバーならば隔絶した差がある学園都市第一位や第二位を除いた能力者に、後れを取ることの方が難しい。

 そして、いくら不利な状況に追いやったとしても、それからリカバリーすることが可能な人間がこの場には最低でも二人は居る。

 精神面と戦力の両方から鑑みても、掠り傷を負うことよりも無傷で帰還する確率の方が圧倒的に高い。

 しかし、その事実を知ったにも関わらず、相手の調子は微塵も変化しなかった。

 

『ああそうだな。それぞれの戦力をリスト化すれば、私達はお前達に全く及びもしない。真正面からやり合えば何もできずに敗北するのがオチだろうさ。

 ──だが、それでも抜け穴は存在するんだよ』

 

 食蜂の片眉が僅かに下がる。食蜂の想定ではここで心理的なアドバンテージが、多少であっても取れるはずだった。

 人の心理を操るのプロフェッショナルとして、こう言った精神的な負荷を相手に与える事は食蜂の十八番である。しかし、相手からの反応には全く手応えを感じない。

 恐怖を興奮や自己暗示で抑え込んでいる訳ではないという事だ。

 では、コイツのこの余裕はなんだ?

 

『お前達は決して完璧なんかじゃない。ふとしたミスもすれば間違った行動する事も当然ある。つまり、この世全ての事柄を数値化して0か1かで判断する、合理性を突き詰めたAIみたいな奴等じゃねェ訳だ』

 

 先程の食蜂みたく、既に分かりきっている事柄を明らかにするかのように説明していく運び屋。しかし、そこには自分のように優位性を確立するための作為を食蜂は相手から全く感じられなかった。

 食蜂の背中に冷たい物が伝う。

 

『感情っていうバグがあるなら、最適解を選び続ける事なんざまず不可能だ。なら、あとはそこを突けばいい』

 

「ご高説はもう充分よぉ。たかが駆動鎧(パワードスーツ)に入ったぐらいで、私の能力に対抗できると……ッ何ですって!?」

 

 食蜂はリモコンを駆動鎧に突き付けボタンを押すが、何故か駆動鎧の中の人間が能力にかかった様子はない。

 食蜂の能力に対応するための、専用の機械でも取り付けているのかとも考えたが、能力開発の科学者に洗脳をして書き換えてあるし、今回の食蜂は飛び入り参加のため、彼女らも都合良く用意はできないはずだ。

 生半可な機械など当然のように効力を発揮することはないため、用意するのは食蜂専用の機械ということになる。とはいえ、どのようにして能力を行使するかは未だ確証がないことから、専用器具でも防ぐことができるかは疑問だが。

 

 その事から食蜂の能力を防ぐことは彼女達には不可能である。しかし、こうして実際に駆動鎧を操縦している人間が、能力にかかった様子はない。

 ならば、答えは一つだけだ。

 

「まさか、……全て無人機だって言うの!?」

 

『純粋な機械相手じゃお前の能力は効力を発揮しない。そして、駆動鎧の動きを統括しているアイツの脳を、機械越しに弄くる事もできないだろう?

 さて、頼みの綱の能力が行使できないこの状況で、お前に何ができる?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな会話をしている横でオリ主は動揺していた。

 

「(クソッ!聞いたことねえ声じゃねえか!誰なのか判断できねえんだけど!?)」

 

 オリ主は澄まし顔とは裏腹に、内心では焦りに焦っている。それもそのはず、今回は今までのような既知の展開ではなく、明確に外れた展開へと変わってしまっているのだ。

 そのため、打開するために自分のあらゆる知識を総動員して、何かしらの突破口を見付けようと足掻くが、何故か運び屋の事は記憶のどこにもヒットしなかった。

 

「(禁書の三期にこんな声の声優は出ていなかったぞ……?『旧約』に居ないのならまさか本当にモブキャラ?でも、それにしてはパンチがある気がするんだよな……。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()())」

 

 疑問は尽きないが、どれもこれも答えを導き出せないのが現状だ。敵は未だ分からず樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)の、もう一つの残骸(レムナント)を何に利用するかも分かっていない。

 俺達にはみさきちが言ったように戦力は充分に整っているが、地の利はあっちにある上に、大量の駆動鎧の用意からして、おそらくこちらの能力は割れていると考えるべきだ。

 そして、駆動鎧の無人機と聞いて一つの推測が浮かぶ。

 

「……君、その技術をどこで手に入れたんだい?」

 

『ほう?どうやらお前はコイツ等の事も知っているようだな』

 

 目の前の駆動鎧から音声が流れる。聞こえたのはアナウンスの少女とは違った別の男の声だ。どうやら駆動鎧のどこかに会話をするための機械を、あとから取り付けたらしい。

 その名も知らない男に向かってオリ主は話し続ける。

 

模造生命遠隔装置(ケミカロイド)計画。半月ほど前に『スタディ』が企て実行した計画だろう?」

 

 半月ほど前の出来事を思い出しながら問い質す。

 

『その通りだ。彼等の研究成果と私達独自の知識から、核となる能力者である人造人間が手元に居なくても、無人駆動鎧を行動させることに成功した』

 

「驚いたね。まさかそんな事ができるとは思わなかったよ。産みの親である『スタディ』だってできなかったのに」

 

『手元に既にあるのならわざわざそんなことをする必要がないだろう。それに、何もリスクもない訳じゃない』

 

「何だって?」

 

 怪しいセリフに反射的に言葉が出た。

 

『無人駆動鎧は人造人間から切り離した、髪の毛を介して起動している。私達がしているのはその髪から、本体の人造人間に接続しているに過ぎない。

 だが、端末からできることなど高がしれている。本体に届いたとしても端末からの情報など、切り捨てられる可能性が高い。

 ならば、打ち込むべきはただのデータでは不適切だ。そこで私は思い付いた。天野倶佐利、お前のお陰でな』

 

「僕の……?」

 

 『スタディ』関連についてはほぼノータッチだった。『アイテム』の方にちょっかいをかけていたのにも関わらず、何でそこで俺の名が出てくる?

 俺の疑問に答えるように男は、その内容を話し出した。

 

 

()()()()()()()一方通行(アクセラレータ)との戦いで、お前は暴走し爆発的に能力が向上した奴と相対しただろう。そのレポートを見付け今回の事に利用させて貰った』

 

 

 まさか、あれが今回の事に繋がっているとは考えもしなかった。確かに、俺が原作に介入してしまった事で起きた事だが、それさえもコイツ等の力になっていたとは。

 

「……フェブリ達の心理を揺さぶったのかい?」

 

『いや、そんなまどろっこしい真似をする必要はない。暴走とは能力者が能力を制御できなくなる状態の事だ。つまり、それと同じ状況にすればいい訳だ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「(なるほど、能力が容量以上(キャパオーバー)になれば、それは間違いなく能力の暴走になる。その上、フェブリ達は科学で生み出された存在。

 通常の能力者よりもデータが揃っていて、能力を発動するときはカプセルの中へと入れられていたから、他の能力者よりも外から入力されることに脆弱なのか……!)」

 

 そういう風に生み出されたため、そうあって然るべきなのかもしれない。冥土帰し(ヘブンキャンセラー)も流石にそこまでの対処は行っていないはずだ。

 苦々しく思いながらオリ主は嫌味を言った。

 

「でも、驚いたね。あの場には様々な勢力が居て、君達のような暗部の人間は近付きにくかったはずなんだけど。

 まさか、その技術をあの騒動の中で手に入れていた組織が居たとはね」

 

『確かに、この無人機に使われている技術は、彼等の研究成果を流用させて貰ってはいるが、お前は一つ勘違いをしている。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「どういうことだい?もしかして、君達が雇った凄腕のハッカーが彼等のデータを盗んだとでも?」

 

 そんな人材が居るならそれも可能かもしれない。だってセキュリティもあの『スタディ』が使ってたものだろうし。

 それを聞いた男は俺の発言に、失笑したかのような態度を取った。

 

『残念ながら私もあの女もハッキングに関しての技術は持ち合わせていない。どちらかというと工学系統だろう。

 私達が『スタディ』の研究成果を手に入れたのは、そんな邪道ではなくどちらかというと正攻法だ』

 

 え?暗部が正攻法とか何言ってんの?(困惑)

 お前らって正攻法とか正々堂々とかのフレーズに、嫌悪感を抱く人種じゃなかったっけ?

 

 そんな言いたい放題なオリ主の内心などもちろん伝わらず、男は事のあらましを説明していく。

 

『聞いたことはないか?奴等のような暗部に浸かる事もできない半端者に、援助している暗部組織があるとな』

 

「そういえば聞いたことがあるね」

 

 事件の終わりにそんな話を人伝で聞いたような気がする。明らかに成功する確率が限りなく低く、理由が承認欲求に突き動かされた損得ではなく、感情によって定められた方針なんて最悪の一言なのに、とんだ物好きも居たものだなと思っていたけど、それがまさか

 

 

『彼等に資金面での援助等を行っていたパトロンは、私達だということだ。彼等に期待は微塵もしてはいなかったが、彼等の研究成果は駆動鎧を扱う私にとって非常に有益であった』

 

 

 どうせ話を噛み合わせるための設定のようなものだと思っていた。ラノベでよく見る、『なんかよくは分からないけど物語を進める上で都合よく居る存在』みたいのかと勝手に思い込んでいたのだ。

 そんな思い込みでこんなしっぺ返しが来るとは、流石に思ってなかったわ。

 

「(クソっ、思ってた以上に話が地続きに話が進んでる。原作から外れるとこういう展開が当たり前のように生まれちまうのか……?)」

 

 気付くと同時に背筋が震えた。

 それこそ最も恐れていた原作崩壊だ。いくら修正力が働くとはいえ、その修正自体もバタフライエフェクトとして処理されるならば、その内どこかで処理落ちしてしまうことだろう。

 その時に起きた決定的な何かが、この世界を終焉へと導く事になるかもしれないのだ。

 その事を明確に悟り、意識が飛びそうになった。

 

『他にもそう言った小粒な集団に援助と銘打って、様々な技術や情報を手にすることに成功した。

 一大組織とは違い数段質は落ちるが、縛りが無い分数さえ集めれば後々こちらの方が利益になるということだ。もちろん、闇雲ではなく利益になりそうなところを、あらかじめピックアップはしているが』

 

「……つまり、あなた達はその技術を全て使い、物量で以て私達を制圧するという訳ですか」

 

 男とオリ主の会話に帆風潤子が割って入り、男に話し掛けた。今現在、オリ主はダウンしているためナイスプレーだ。

 

『卑怯だと思うか?だが、お前達のような高位能力者を相手取るには、こう言った物をこちらも用意しなくては歯が立たない。

 恨むのならばお前をこの場に連れてきた、そいつ等と自らの不幸を恨むんだな』

 

「──もう、結構です」

 

『何?』

 

 突然会話を断ち切った帆風は、挑みかかるようにして視線を駆動鎧へと向けた。

 

「私の行動は全て女王のためにあります。このような状況で女王のお側に居られること自体が私の幸せなのです。

 私に不幸と呼ばれる事態が仮にあるならば、何も知らずあとになって全てが手遅れになったその時。

 女王の命令で私はここにいる事に、一切の不満もございません」

 

 強敵を前にして帆風は堂々と断言をした。

 無数の駆動鎧を前にして彼女は一瞬の怯みもしない。側に居た食蜂を抱えて、四方を取り囲む駆動鎧に強い視線を向けて言い放った。

 

「余り私の覚悟を馬鹿にしないでいただきたいですわ」

 




◆裏話◆
オリ主はこの小説の開始日である2019年6月5日に転生したため、2020年3月24日に幻想収束にて発表された、黒夜の声優さんの声を知ることが絶対にできないために、声優さんからキャラを判別することが不可能なのです。
ちなみに、とある魔術の禁書目録Ⅲは2019年4月まで放送されていました。
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