とある原石の神造人形(エルキドゥ) 作:海鮮茶漬け
それでは連日投稿の81話です。どうぞ
それは食蜂が学舎の園を飛び出す数分前に
「帆風。あらかじめ言っておくけど、今回の騒動はかなり危険のものになるわ。覚悟はいいかしらぁ?」
「もちろん覚悟はできております。……ですが、女王。一つお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「許すわぁ。何かしら?」
「女王は御坂様といつご関係が改善されたのでしょうか?」
「……えーと?どこをどう見たら私と御坂さんが、仲良くなったように見えるのかしらぁ?私と彼女が仲良くお茶すると思う?
それに、御坂さんとは運命力で、一生分かりあえないと決定付けられてるし」
「いえ、てっきり女王なら御坂様の頼み事は、断るかと思っていましたから。一切の取り引きも無しに応じるとは、申し訳ございませんが思ってもいませんでした」
「……ああ、そういうこと。別に全てが全て御坂さんのためではないわぁ。今回の物が学園都市の修復力で直されるのなら、私としても事前に破壊しておきたいのよぉ。
だから、これは御坂さんのためとかじゃなくてこれは全部私のわがまま。その事を踏まえてもう一度聞くわぁ。私の駒となる覚悟はあるかしら?」
「──はい、もちろんです。自由にお使いください」
「…………はあ、今さらだし私が言うのもあれだけどぉ。よく他人に命令されたいなんて思うわねぇ?私だったら絶対に聞かないのに」
「ふふっ、そう言った人間も居るということですよ女王」
そんな朗らかな笑顔での返答に、肩を竦めて敵を追跡するために出掛ける彼女を、帆風は後ろから付いて行く。その顔は決意に満ちた戦士の顔であった。
「(女王。あなたがわたくし達の事を『駒』と呼びながらも、本当は大切にしていただけていることには全員が気付いております。それこそ、いざとなれば身を呈してお庇いになられるでしょう。
その事がわたくし達には分かります。自惚れなどではなくわたくし達が育んできた絆は、それほどまでに強固に繋がっていますから。
仮にもしその時が来ても、あなたは一切の責任をわたくしに与えず、自らがお抱えになるはず。
……そんなことは絶対にさせません。そんな状況になったとしても必ず打破してみせます。
あなたが床につくなどあってはいけない。あなたがわたくし達のせいで俯くなどあってはならない)」
彼女は心酔レベルで食蜂を特別視しているが、それは神聖視していることと同義ではない。食蜂が普通の女の子としての感性もあることを知っている。食蜂の能力が無敵ではないことも知っている。
そんな彼女だから付き従うかいがあるとも思っている。
帆風潤子は思う。
駒になることには一切の不満はない。それが彼女のためになるのならば。
「(あなたのその在り方にわたくし達は憧れ、そして敬愛しているのですから)」
無人機が溢れるボーリング場。
その空間を金髪と紫が縦横無尽に駆け巡っていた。速度は人間が出せる速度を超えているが、どちらも不安は一切感じられない。
片割れの少女がもう一人の少女へ端的に命令を出す。
「帆風。八時の方向に二機」
「はいっ!女王!」
その言葉を聞いて方向転換をした帆風潤子は、食蜂を抱えながら現場に急行する。一般人に襲い掛かろうとした
「はあッ!!」
裂帛の声と共に飛び蹴りを放ち、駆動鎧を破壊する。左にいた駆動鎧が手に持ったバールを振り落としてくるが、一歩横に移動しいとも簡単に躱した。当然のことだが、食蜂を攻撃から一番遠くへと移動させる事も忘れない。
自らの背中の近くへとバールが通過する風を感じ取りながら、足を入れ替えて回し蹴りを放った。
バキャァッ!!と機体が凹む感覚が足を伝うのを感じながら、そのまま他の機体が居る方向へと蹴り飛ばす。
これで既に十三回目だ。息の合った主従のコンビネーションは、流石の一言だろう。
「女王、一時の方角に向かいます!」
「分かったわ」
この掛け合いが既に何度も繰り返されている。食蜂は帆風にお姫様抱っこされているため、死角となる背後の状況について知ることができる。それを有効活用し彼女に指示に出しているのだ。
だが、それでは対処できないケースもある。
駆動鎧がほぼ同じタイミングで人々に襲い掛かったのだ。一体を即座に撃破しもう一体に向かうが、あっちの方が僅かに早い。それを見た帆風は抱えている食蜂に向かって声を掛ける。
「ッ女王!」
「任せなさぁい☆」
帆風のスペックではどう能力を絞り出しても、あの攻撃には間に合わない。
だからこそ、その一歩を後押しする。食蜂は手に持っていたリモコンを帆風のこめかみに押し付けた。
「
「ッ!!」
ドウッ!!っと空気を切り裂く音を震わすその速さは、今までの速度とは段違いだ。その超人的な挙動は、絶対に間に合わないはずのタイミングへと滑り込む。
一般人に叩き付けようとしたその右腕を蹴り飛ばし、左足で胴体を遥か彼方まで吹き飛ばす。後ろにいた他の駆動鎧を巻き込みながらその駆動鎧は大破した。
それに対して、駆動鎧達は先程の攻撃とは打って代わり、面での攻撃に移ろうとするが、
「頼んでもいいかしらぁ?」
「『誰に言ってんのよッ!!』」
ズバチィ!と瞬いた高圧電流が、鋼鉄の壁をまとめて弾き飛ばす。
そこにいたのは学園都市第三位の御坂美琴、ではなく彼女に変身した天野倶佐利だ。彼女は緑色の髪を揺らして駆動鎧を沈黙させていく。
「私達の役目は天野さんが撃破できなかった、両サイドから漏れ出た駆動鎧の破壊よぉ。あなたは一対一ならともかく相手が大勢だと少し分が悪いわぁ。なら、その機動力を活かす遊撃として動いた方がいい。
天野さんの能力は劣化しているのだし、御坂さんのようにはいかないでしょうしねぇ」
帆風もその言葉を聞いて、実際にそうかもしれないと思った。
「(御坂様の能力がどこまでできるのか、わたくしは存じておりませんが、相手が金属を取り入れた駆動鎧ならば、磁力を操りまとめて制圧できるのではないでしょうか?
それをせずに電撃で対処されていると言うことは、磁力での操作はそこまで上手くはできないということの裏返しとも取れますね)」
代名詞の
伝え聞いた話によると、この駆動鎧の集団など一掃できるほどの攻撃力があるにも関わらず、未だに出さない理由は無い。威力の調整もできるようなので、一般人を傷付ける可能性も低いはずだ。
推測だが天野倶佐利は出力はもちろん、精度すら本家より数段落ちているのではないだろうか。
そんなことを考えながら目の前の駆動鎧を破壊すると、食蜂から次の指示が飛んできた。
「次は五時の方向よ。……でも障害物が多いようね。まずは迂回ルートを割り出して「女王しっかりとわたくしに掴まっていて下さい」……へ?」
そう言った帆風は近くの壁へと近付き、三角飛びの要領で壁を蹴った。
漫画の描写が起源のため、この動きは日常生活では目にすることも、実際に活用することも普通は無いが、そこまで異常な行動ではない。
それで五メートル先まで跳躍しなければ。
平面が無理ならば立体的な動きをする。その動きで運び屋を追って来たのだから、この場で彼女ができない理由はない。
彼女が着地点に居る駆動鎧に意識を向けた。数瞬後に駆動鎧はスクラップにされる事だろう。出力では
これは余談だが、食蜂は帆風に抱えられていたため、急に襲ってきためちゃくちゃな負荷を当然の如く味わうこととなった。
そんな彼女は帆風の腕の中で、潰れた蛙のような声を出したようである。
それからしばらくし、数が大分減った駆動鎧を眺め緑髪の短髪少女は深く息を吐いた。
「『流石、アンタの派閥の人なだけあるわね。まさか、ここまでできるなんて思ってなかったわ』」
「ふふんっ驚いてくれたかしらぁ?帆風は派閥の中でも私の右腕よ。私と組めばどんな状況も覆せるわぁ。
……それと、もう御坂さんの姿になるのは止めてもいいんじゃないかしらぁ?無関係な一般人は避難させて、駆動鎧も三分の一程度になったわけだし」
「『まあ、確かにそうだけど。……理由って本当にそれだけ?』」
「あと単純にムカつく」
「──相変わらず君はわがままだね」
変身を解いてやれやれとでも言いたげなオリ主を見て、そっぽを向く食蜂。美琴とは相性が致命的に悪いため、これもしょうがないことなのだろう。
そんなプリプリしている食蜂から目線を外し、駆動鎧の方に目を向けた。
「それで、君達はどうするつもりだい?頼みの綱の無人駆動鎧も半分以下で人質ももういない。僕としては降参するのを奨めるよ」
てっきり駆動鎧の男から返答が帰ってくるかと思ったが、上のアナウンスから幼めの女の声が流れてきた。
『おいおい、もう勝った気か?』
「そっちこそ、ここから逆転の目があるとでも?」
その問い掛けには答えず、逆に食蜂は高圧的に問い掛ける。
「確かに、私の能力はあなた達に無力化されたわぁ。でも
──あまり超能力者を舐めないでくれるかしらぁ?」
強力な能力ばかりに目を向けがちだが、彼女達の能力を支えているのはその演算能力である。計算し結果を導き出すのは彼女達にとってお手の物だ。
本来ならば能力を使用するために思考の何割かを割いているのだが、駆動鎧に能力が効かないため、逆に今の食蜂は全てのリソースをそちらに向けることができる。
230万人いる能力者のたった七人しか存在しない、超能力者の一人にして精神系能力者の頂点。
彼女は誰もが認める天才中の天才なのだ。
「そういうことさ。君の勝つ可能性は無いよ」
『……』
その言葉を聞いてマイクから発する声は沈黙した。
それは図星だったからか、はたまた怒りで言葉が出なくなったのか。
だが、結果から言えば両方とも違った。
『くっくっ、ははははははははははははははははははははッッ!!』
「……何か面白い事でもあったかい?」
まるで堪えきれないとばかりに笑っていた声は、言葉となって俺達に感情の全てをぶつけてきた。
『ああッ!これが笑わずにはいられるか!?
「「「ッ!?」」」
その声と同時に再び階下から駆動鎧が入り込んできた。確かに、二度目があるとは思わなかったが、別段そこに真新しさはない。現時点で戦力が増加されても、同じ作業をすればいいのだから問題となることが全くないのだ。
つまり、三人が驚いたのは駆動鎧の登場ではなかった。明らかに先程までと違った点が一つだけあるのだ。
機体の部品が変わった様子も出力が増加した様子も見られない。先程の駆動鎧と全く変わらないモデルだ。
先程と変わった部分は一つだけ。先程はバールなどの凶器を掴んでいたその手に
その人間の手より一回り巨大な手に握られていたのは凶器などではなく、
先程、食蜂達が逃がした人質達だった。
「な……」
『ほら、たーんと味わえよ。ここからはしっかり味の付いた物を出してやる。前菜なんかの薄味で満足してたら、最後まで辿り着かずに脱落だぞ?』
その駆動鎧達は人質を掴んだ腕を上げた、まるでこれからその人質を使って何かをするように。
「ま、さか……!」
食蜂がその先の展開を予想し顔を青ざめる。その様子をどこかのカメラで見たのか、敵の女はさらに狂った笑い声を上げた。
そんな中で駆動鎧達は叫びを上げる人質を無視し行動する。すると、その右腕を三人の居る方角へと振り抜いた。
つまりは、投擲。
サーカスで言うところの人間大砲。だがこれは、本来のものとは違い、着地することなど念頭に置いていない悪魔の諸行だ。その光景に三人の喉が干上がった。
今までの三人の活躍を嘲笑うかのように、悪意にまみれた作戦を戸惑いなく実行してくる敵。この容赦の無さや悪辣さは、今まで三人がそれぞれ体験した悪意の中でもかなり悍ましいものだ。
まるで、学園都市の闇を体現したかのようなその人物は、全ての悪意を集約させたような声で彼女達に言い放った。
『──暗部を舐めてンじゃねェぞクソガキ』
この章でまとめて消化しないといけない話を全てやっちゃいます。もう少しお付き合い下さい。