とある原石の神造人形(エルキドゥ) 作:海鮮茶漬け
無人駆動鎧が三人の少女に破壊されていく様子を、駆動鎧を操る男であるシルバークロース=アルファはカメラ越しに眺めていた。
「なるほど最適解だな」
三人の動きをシルバークロースはそう評価した。それに対して音声越しに黒夜も賛同する。
『まず、パニックに陥っている一般人を第五位が洗脳し、この場から迅速に離脱させる。当然、その一般人達を私達は人質を取り返そうとするが、天野倶佐利の
チッ、どうせなら一体ぐらいは中身に、人間を詰め込んだ方がよかったか?』
「そうなると、規格の問題が出てくるだろう。中には人造人間の能力を引き出すためのケースがセッティングしている。
そこにさらに詰め込むならば、スペースを作るために改造しなければならない。そして、外から分からないようにするためには、普通よりも時間がかかる。
はっきり言ってしまえば時間の無駄だ」
「ふーん、そうかい」と呟いた黒夜には、大して未練は見受けられない。言ったこともただの思い付きで、否定されたとしても特に気にはならないようだ。
こちらが本題とも言うように、声の調子を変えた黒夜はシルバークロースに事務連絡を伝える。
『
「了解した」
そうして通信は切れた。
突入させた無人駆動鎧の大半が行動不能になるのは規定路線だ。勿体ない気もするが黒夜が立てたこの計画の立案通り、ここで使い潰すのは悪くない考えだろう。
「数は揃えられるが愚鈍な事に加えて精度も大したことはない。奴等の成果物など所詮はこんなものか」
シルバークロースにはいくつかの『コレクション』があるが、人造人間の駆動鎧はそのレパートリーの中でも下位の部類だ。
物量のごり押しがシルバークロースのやり方だが、この兵器は鈍重な事もあって目標を撃破するのには向いていない。
画面の中でまた一つ駆動鎧が破壊される。それを見ながらこれからの作戦をシルバークロースは頭の中に作戦内容を思い浮かべた。
その内容を思い出し、画面に移る緑髪の原石を見て彼はあり得るだろう未来を予測した。
「今回、もしも生き残ることができたのならば、お前は
「「うわああああああッッ!?!?!?」」
その機械の巨腕から投擲されたい二人の少女は、真っ直ぐ三人の方へ向かってきた。
「くッ……!!」
帆風はすぐさま飛んでくる人間の対処へと移る。その迅速さは見事と言う他がない。しかし、人の命が懸かってくる状況へと、いきなり追い込まれたプレッシャーは精神的に帆風を追い込む。
「(どのくらい衝撃を往なせるかに掛かってきます!普通に受け止めては必ずどこかにダメージが残ってしまう──ならばッ!)」
突っ込んできた人の足と背中を掴むと同時に、その場で三回転程スピンをする。
ギュルルルルッ!!と、牛革の靴底から凄まじい音が放たれたが、その軸がブレることはない。
格闘技であるボクシングや拳法の太極拳で、共通するのは円の動きだ。力を出す上で円の動きこそが力をより加えられる。
これは力を逃がす事にも応用できる。力を上手く伝えられるということは、力のベクトルを効率よく変換するということでもあるからだ。
そして、体細胞中の電気信号を操作し、身体能力を底上げする帆風潤子にとって、流れる力のイメージは常人より遥かに掴みやすい。
まあ、あの学園都市一位のように理論的にではなく、どちらかというと感覚的にではあるが。
そして、回転が終わった彼女を見てみると、掴んだ人質も帆風もダメージを負ったようには見えない。つまり、彼女はあの衝撃を完璧に往なしほぼ0に抑えたのだ。
隣を見るがそこには天野倶佐利は居なかった。自分よりも後方二、三メートル程離れた場に所居る。どうやら力を受け流すために後方へ下がったらしい。
帆風と比べてしまえばあれだが、勢いよく飛んでくる人間を怪我無く受け止めたのだ。大したものであると言ってもいいだろう。
「ふぅーー……。なんとかできましたが、次もわたし達に投擲してくるかは分かりません。早々にあの
「(あー、つい反射的に受け止めちゃったわ)」
間一髪の人命救助をしたにも関わらず、めちゃくちゃ冷めている奴が居た。
「(いや、もうなんかこれ条件反射みたいになってない?何十年同じこと繰り返してると、体に染み付いちゃうものなんだなぁ……)」
しみじみとオリ主は人体の不思議を実感した。
「(おいおい、体が自然と人助けしちゃうとか上条かよ。いやー無いわー。上条はオンリーワンだっつの。紛い物が過ぎるわ。
……いや、ちょっと待って。上条の偽物とかアレイスター案件じゃね?
うっわ!なにそれ最悪じゃん。しかも、上条を手本にしたからあながち間違ってないのがあれだわ)」
内心では人質の事の心配は微塵もしていないオリ主だった。オリ主にとってモブキャラは文字通りのNPC。それこそ、この世界にあるオブジェクトの一つという認識だ。
ゲーム進める度にNPCを助ける行動などしていては、効率が悪いにも程がある。そんな無駄な行為をし続けたい奴はまずいない。
「(でもまあ、ここで人質ほっぽって行くとみさきち達に軽蔑されるし、今までの積み重ねも無駄になるし全員助けてやりますかね。なんだかんだ今まで続けて来れたんだし、今回も変わらんか。
それこそ、NPC救出クエストだと思えばありでしょ)」
実際はNPC救出クエストって、キャラのレベルとかほとんど関係無いから嫌いなんだよなー、とか思いながら人質の少女を降ろそうとするが、なにやら引っ付いて離れない。
ぎゅー、と袖にしがみついているのだ。
「(えぇ……。こんなタイムロスまであんの?他の奴も助けないといけないからマジで離れて欲しいんだけど。
……え?いや、まさか、このまま助け続けろなんていう無茶ぶりじゃないよね?)」
「…………」
食蜂は全ての思考を能力の演算ではなく、状況把握に向けている。だからこそ気付けた。
「(おかしいわよねこれって。暗部は学園都市の運営の障害となる存在を、排除するために生まれた組織。
一般人を実際に巻き込むなんて粛正対象じゃないのぉ?
仮に今回の依頼人が統括理事会の人間だとしても、暗黙の了解を有耶無耶になんてできるわけがないわよねぇ。まさか、力業でどうとなるとでも?
……いや、あの発言からみてもその可能性は低いわねぇ)」
先程、マイクの女が言っていた、『暗部を舐めてンじゃねェぞ』と言う発言と照らし合わせるなら、今この状況こそ彼女達自身が暗部を舐めているとも取れるのではないだろうか。
「(彼女達にとって暗部と言うのは、それほどまでに重要視される事。そこから外れて傲慢に振る舞うなんて彼女達のポリシーに反しているわ)」
辻褄が合わない。しかし、そこで停滞せず
「(人質を殺しても暗部に粛正されない理由。例えば捕まっている人質が学園都市にとって不利益になるような人物。
この場所を指定したのは彼女達だしその可能性は高いけど、捕まっている人質の年齢が小学生ぐらいの子供ばかり。余りにも幼すぎる。
親が学園都市に不利益を及ぼす存在なのだとしても、わざわざ子供を殺す必要はない。それこそ反発が強くなるだけ。
ましてや、あの子供達が学園都市に仇なす存在だとしても、この場で殺す必要性が感じられないわ)」
今まさに人質が投擲された。しかし、食蜂に不安の二文字はない。
「(あの二人なら大丈夫。それより次の行動よ。次は対処できる投擲での攻撃なんてして来ない。量を増やすのかやり方を変えてくるか。どちらにしてもエグい方法なのは決まっているッ!)」
その可能性を明確に読み取り二人を信じて思考に没頭する。
「(なら、何なの?人質を殺すメリットは学園都市には無い。つまり、粛正対象となることは必然になる。人質を殺しても粛正されないその理由って……。
…………いえ、それよりも
無視できない違和感が浮かんだ。
「(天野さんや帆風のスペックなら、飛んでくる人間を殺さずに受け止める事なんて、今までの戦闘映像を見れば容易に想像付くはず。何故二人なんていうそれぞれが対処できる数にしたの?
相手に手加減する必要なんて無い。それこそ数を増やしたり、投げてくると同時に攻撃を仕掛けてもよさそうなのに、駆動鎧は特に動いてはいない。
何なの?
思い至ったと同時に食蜂の腕が動いた。
鞄にしまっていたリモコンを取り出し、その標的に狙いをつける。
「
ダンッ!!と何かに弾かれたように後ろへ飛び退く。今まさに駆動鎧へと向かおうとしていた本人は、その自らの挙動が理解できず、状況を理解するまで数秒の時間を要した。
「じょ、女王!?いきなりどうし──」
「チッ……あともうちょいで殺れたのに」
「ッ!?」
着地同時にその声の方に目線を向けると、先ほどまで自らの腕の中に居た少女が恐ろしい言葉を言っている。その手には光を反射している刃物が握られていた。
そのどこにでも居るような、ツインテールの少女はどこか不満そうでありながらも、にこやかな笑みを浮かべて続けてこう言った。
「まァ、いいや。本命の方はやり遂げてくれたようだしねェ」
「あ、あなたは一体「天野さんッ!!」──ッ!?」
自らが仕える女王の叫び声を聞いて反射的に顔を向けた。その顔はいつもの自信に満ち溢れた顔ではなく、か弱い女の子のものだ。
ただならぬ事態だと察し、その名前の人物に視線を向けると、とても信じられない光景が広がっていた。
ポタポタッと、座り込んだ彼女の足下にそれが滴り落ちていたのだ。そこから視線を上に上げると、雫の発生源である腹部から光を反射するナイフが生えていた。
感想欄でもあったグサーですね。