とある原石の神造人形(エルキドゥ)   作:海鮮茶漬け

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日常回をそろそろ書きたいですね。
でも、まだ終わらないんだ(無情)
だから速攻で書ききって次の章に行きましょう


84.分析・解析

 それは一方的な蹂躙だった。たった一人に向けて二十人余りの少女達が殺意を抱き、能力を用いて襲いかかってくるのだ。

 その地獄を捌きながらオリ主は能力を使おうとする。

 

「『ヤバい!そろそろ──』」

 

「やらせるかよォ!!」

 

「『くッ…………がはッ!!』」

 

 黒夜が隠れていた障害物をまとめて窒素爆槍(ボンバーランス)で破壊しながら、オリ主へと攻撃する。それを躱わしたせいで腹部の傷は再び開いてしまった。

 痛みに呻くその様子を見た黒夜は、得意気に笑いながら自らの予測を口にする。

 

「アンタの能力は変身するまで僅かなラグがある。そんで傷を治す能力はあるにはあるが、その能力は細胞を超活性化させた自然治癒。

 それでナイフでぶっ刺さられたところを治すってンだ、かなり時間が必要なンじゃねェか!?」

 

「『……ッ!』」

 

 図星だった。

 完治させるにはそれこそ最短でも十五分から三十分近く掛かってしまう。その上、体力も回復に持ってかれるため、運動能力はぐんと下がるのだ。怒濤の勢いで襲い掛かってくる彼女達を相手に、その状態は余りにも命取りである。

 

「アンタは別に最強の能力者って訳じゃない。確かに、私達とは違って一つの能力に縛られず様々な能力を扱えるが、言ってしまえばそれだけだ。

 能力は軒並み劣化してる。それは出力であったり精度であったりな?だが、それが勝敗の分かれ道になんねェのは、アンタの手札の切り方にある。

 使う能力の劣化部分が弱点にならねェように、すぐさま他の能力に切り換えてそれを埋めてる。つまり、アンタの強さの源は能力の多さじゃなくて、適切なカードを切るテクニックって訳だ!」

 

 今現在、小さな刺客達に襲い掛かられながら、オリ主は回避しているがいつもの繊細さがない。地面を転がったりなどの全力回避だ。

 近くにある物を障害物にしたり、消火器を爆発させたりなどして撹乱し、未だに生きていることに黒夜は内心驚愕していた。

 

 だからといって手を抜くつもりは一切無いが。

 

「なら、その出させるカード自体を制限させちまえばいい。空間移動(テレポート)は物を乱立させた場所に誘導することで封じ、一方通行の劣化した能力は電撃や発火系の能力者で対応させる。

 そして、腹を刺された痛みのせいで今のアンタは長い間能力を使うこともできなければ、ただでさえ劣化した能力を十全に振るうこともできやしない!

 第三位の能力は電撃が限界なんだろう?磁力は元から精細さがねェからな。そして、第五位は運動神経がそもそもゴミだ。能力を使用しながら回避なンてしてたら串刺しだぞ?」

 

 能力のタネが見事に割れている。

 オリ主の戦いを知っているなら、その能力の多様さに対策のしようがないと結論付けてしまうものだ。しかし、黒夜は一つ一つを解析しそれに全て合致する作戦を練ってきた。

 この世界で生まれて初めての経験に、オリ主は焦って即物的な解決法を選ぶ。

 

 オリ主の姿がまたしても変わった。その立ち姿は勇ましく、目には消えることの無い根性の火が燃え盛っている男に。

 つまり、同じ原石にして格上の存在、削板軍覇へとオリ主は変身した。その一撃のみに関して、オリジナルとほぼ同等の威力を生み出す破壊の嵐。

 腕を引き絞りオリ主はその適当に付けられた技名を叫ぶ。

 

「『すごいパ』」

 

「おいおい、いいのか?上にはお前のお友達が居るんだぞ?」

 

「『!?』」

 

 ビタッ!!と、黒夜のその言葉に動きを止める。

 天野は第七位の一撃を再現するのに成功している。だが、言ってしまえばそれだけだ。他の力を使う事は何一つできなず、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それをこんなところで使えば間違いなくこの施設は崩落し、上に居る食蜂もそれに巻き込まれてしまう。

 その事に気付き体の動きを静止させた。そして、その決定的な隙を黒夜は見逃さない。

 

「ほら、隙ありだ」

 

「『ぐおぁッ!?』」

 

 黒夜の窒素爆槍がオリ主を襲い後ろへと吹き飛ばす。黒夜はその現象に眉を潜める。

 

「(あァん……?どォいう事だ?)」

 

 窒素爆槍が直撃したのならこんな結果にはなりはしない。それこそ防護膜を張っている絹旗最愛ぐらいなものだからだ。

 だが、煙が晴れたその光景を見て黒夜は納得した。

 変身した第七位の左腕が抉れていたのだ。どうやら、あの一撃を第七位の劣化した強固さで防いだらしい。そして、天野が居た足元が粉砕していることから考えて、後ろに自ら飛んで威力を減らしたようだ。

 商品や棚に囲まれているオリ主に黒夜は口笛を吹いた。

 

「ヒュー!流石だねェ『模範生』サマ。そうでなくっちゃ殺し甲斐がないよ。

 いいぜ、そのしぶとさに免じて教えてやる。何でアンタがコイツらに恨まれているのかをな」

 

 動けないオリ主は黒夜の話を聞くしかできない。そして、聞かない理由も無かった。

 

「さっき言ったな。アンタが『模範生』って呼ばれてたって。何で実験の参加者じゃないアンタがそう呼ばれてるか分かるかい?」

 

 知っている訳がない。だからこうして困惑しているのだから。

 

「『暗闇の五月計画』は一方通行の演算パターンを切り取り、置き去り(チャイルドエラー)のガキに植え付けて能力を向上させるプロジェクトだ。

 だが、他人の演算パターンを植え付けられれば、高確率で人格の分裂や廃人になっちまう」

 

「…………」

 

「だが、奴らは構わず実験をやり続けた。研究者共の強行ってわけじゃなく、実際『上』からも大量の資金が与えられていたらしい。つまりは、その実験の有益性を学園都市が認めてたってわけだ。

 とある一人の能力者のせいでな」

 

 ……なるほど、話の流れが読めてきたぞ。まさか、その話からすると俺と『暗闇の五月計画』の関連性っていうのは……。

 オリ主が導き出した推察と黒夜の話が合致する。

 

 

「奴らにとってアンタの存在は、自分達の実験の最終目標の一つとされていたらしい。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 つまりはそういう事だ。オリ主はこれまで何千何万とコピーしてきた。その特異性が『暗闇の五月計画』において、重要視された項目ということだろう。

 

「まァ、アンタは私達と違って元からある能力の向上って訳じゃねェから、『首席』にはならなかったらしいけどな。

 とはいえ、どのみち()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

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「(……黒にゃん風情が小癪な。……その内、電気の能力でどっかの不良娘と同じことしてやる……っ)」

 

 そんな事を思いながらオリ主は結論を出す。

 『暗闇の五月計画』の被験体(コイツら)がしてるのは、はただの八つ当たりだ。実際に悪いのはどう考えてもその科学者達に決まってる。

 だが、もしも「どうしてあの『模範生』ようにできないんだ!」とか「アイツと同じ事ができなければ価値はない!」なんて事を言われ続けていたなら、俺に憎しみが向くことも不思議じゃない。

 ──それが四、五人なら。

 

「……君『簒奪の槍(クイーンダイバー)』の主義主張を転用しているんだね」

 

「!……何の事かにゃーん?」

 

 一瞬、驚いた顔をしたあとに黒にゃんは口を三日月に歪ませた。

 

 ……ビンゴだ。

 やっぱりアイツらの思考をそのまま、『暗闇の五月計画』の子供に刷り込んでやがる……!

 

 簒奪の槍(クイーンダイバー)は自分達が挫折した理由は、食蜂操祈にあると考えた。

 能力者は無意識に放たれるAIM拡散力場というものがある。御坂美琴でいうところの「動物に忌避されてしまう微弱な電磁波」だ。

 その事から簒奪の槍は彼女の能力である心理掌握(メンタルアウト)にも、同じように無意識に能力が放出されているのではないかと考えた。

 要するに、その無意識に放たれた心理掌握が自分達の精神を操り、道を外れさせたという結論ができあがったのだ。

 その理由から食蜂を襲うというのが、彼らの主義主張なのだが、やっぱり今回も同じことが言える。

 

「(自らの不幸や挫折をたった一人の要因のせいだと設定して、周りに居る似通った境遇の人物と感情を同調し、その思考を一本化する主義主張。確か、社会心理学じゃあエコーチェンバー現象とか言ったっけか。

 その考えを利用してこれだけの人数を集める事に成功した。なおかつ全員が俺を殺すためだけに行動する、黒夜にとって都合のいい駒になっている)」

 

 一方通行の演算パターンを植え付けられているなら、集団よりもなるべく個人で動こうとする傾向にあるはずだ。絹旗のような防御性ならばともかく、それ以外の演算パターンならばそういう傾向になるはずなのだ。

 そして、彼女達の思考を一本化するために、強固付けているものがある。

 

「(今回の場合は実際に科学者共が俺の名前を言っていたらしいから、「かもしれない」なんて根拠の無いものじゃないのが厭らしい……)」

 

 調べるまでもなくその張本人が言っていたのなら、当然憎悪は俺に向きやすい。

 

「(ええい!ことごとく俺が関わって、原作を変えた事件ばかり作戦に組み込みやがってッ!当て擦りのつもりかッ!?)」

 

 実際このオリ主の考えは当たりである。黒夜は天野俱佐利に注目していた他のどの能力者よりも、だからどんな情報も手に入れてその一つ一つを考察していた。

 そして、生み出されたのがこの作戦なのだ。オリ主の軌跡を利用して悪用し自分の利益に変える。これこそが黒夜海鳥。暗部を生きる女である。

 

「はぁ、はぁ……、君は僕を殺したあとの報復は怖くはないのかい?君を間違いなく彼らは殺しにくるよ」

 

「残念ながらそれはねェぞ?」

 

「…………何だって?」

 

 何を言ってるんだコイツ。多重能力(デュアルスキル)の突破口として俺が重宝されてる事も知らないのか?上層部に殺されるのは目に見えてるだろうに。

 

「僕の唯一性は誰もが知っていると思うけどね。そして、多重能力はまだ生まれていない。なら、僕を失うデメリットが分からない彼らではないと思うけどね」

 

 どうして削板軍覇がいるのに、俺が実験動物送りにされてないと思ってるんだ。削板と並ぶ程の貴重なサンプルだからだぞ?そんな俺に殺してもいいだなんて命令を出すわけがない。

 しかし、俺のそんな思考を馬鹿にするかのように黒夜は喋り出す。

 

「分からねェかなァ。いつから自分だけが特別だなンて錯覚したンだ?その体質が今後一生、誰にも解析できねェもんだと何故決め付けた?

 科学者なンて生き物は粒子加速器を生み出し、地球に居ちゃあ観測不可能なビッグバンをも理解しようとする連中だぞ?そんな奴らがお前のその特性を微塵も解析できねェとでも?」

 

 何を言っている……?

 まるで、それじゃあ成功したと聞こえるぞ?そんな訳がない。何故なら、この能力も身体も腐っても神が造ったものだ。人間ごときに解明なんてできる訳がない。

 しかし、黒夜は語る。その絶対にあり得ないはずの決定的な一言を。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

 

 今度こそ思考が空白になった。




もはや、黒夜はオリ主のファンではないだろうか

この話に杠林檎は居た方がいいのかな?まだ『とある科学の未現物質』買ってないから分からないですね。
流れ的にいないとおかしいのかな?分かる人アドバイスお願いします。

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