とある原石の神造人形(エルキドゥ)   作:海鮮茶漬け

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あともうちょい。


85.絶対的な机上の空論

「理論が完成された……?」

 

 その言葉に驚愕する。そんなことは一度ですら考えた事はない予想外の事態だった。原作でも不可能であったと散々言われていたため、実現するなどあり得ないと思っていた。

 もし、それが本当ならば原作改変の最悪とも言ってもいい。

 

 だが、頭の冷静な部分がそれを否定する。

 

「嘘だね」

 

「あン?」

 

「もし、理論が完成されたのだとしても、その存在が今まで僕の耳に入って来ないなんてことは、まずあり得ない。

 それにあくまでも理論は理論だ。実際に生まれていない以上、ただの机上の空論でしかないよ」

 

 そんなふざけた理由で殺されるなんて冗談じゃない。実物がいない以上どうせ成果を誤魔化して、どこかの科学者がでっち上げたような事か、あるいは俺の事が気に入らないどこかの誰かが吹き込んだ真っ赤な嘘。

 あるいは、俺の動揺を誘うためのブラフとして考えるのが妥当だ。

 だが、俺の言葉を聞いても黒夜の顔には嘲りがあった。

 

「おいおい、忘れちまったか?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……何を言って?」

 

 言っていることが分からず混乱する。机上の空論なんてものはただの想像や妄想だ。絶対的な根拠なんて無い。そのものを実際に作り出して初めて断言できる。

 それなのに、黒夜はその机上の空論に信頼を置いているようだ。黒夜はその絶対的な信頼の根拠を述べた。

 

「分かンねェか?いや、それとも分かりたくねェのか?何、簡単な話だよ。仮に机上の空論だとしても、この街の奴らが絶対の信頼を置くもんがあるはずだ。

 例えそれが、前人未到の計画だとしても、必ず成功すると算出するこの街の叡知。

 ──樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)がな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「御姉様ぁ~♡」

 

「ええいっ!必要以上にしがみつくな!アンタ大怪我してるんでしょうが!!そろそろ死ぬわよ!?」

 

「お姉様の腕の中で死ねるのならそれも本望ですの。お姉様、どうか黒子の有終の美を飾って下さいまし~♡」

 

「コ、コイツまさか、血が無くなりすぎてハイになってるっ!?でも、電撃浴びせたり殴ったらマジで死ぬわよね。

 え?嘘?詰んだ?私には唇を奪われるか、ここで黒子を抹殺するかの二択しか無いって言うの……?」

 

 あの少年と後輩のピンチを救って別れたあと、大怪我をした後輩を救急車が来るまで側に付いていた御坂美琴だったが、ここに来てそれを少し後悔していた。

 救急車を待つ間、ぐったりしていた白井黒子が急にしがみついてきて、「ぐふふふっ、今はあの類人猿すらいない、わたくしとお姉様だけの二人きりのプライスレぇスなこの状況。ピンチを助けて貰ったわたくしは、さしずめ囚われ身から助けて頂いたお姫様と呼称するのが正しいのでしょう。ええ、そうでしょうそうでしょう。

 ならばその姫がすることは手を振ってさようならなどという無礼千万な事ではなく、ちゃんとした褒賞を与えることですの。

 ええ、これは黒子の欲望などではなくちゃんとしたマナー。つまりは淑女の嗜み。性別の壁などは問題ではありません、感謝を伝えることは誰もがすべき事なのですの。

 そんな些細な事で頓着するなど淑女としてはおろか、人間として恥ずべき思考回路。例え、黒子のファーストキスがこの場で失ったとしても、それは仕方の無い事。ええ、これは断じて黒子の欲望などではありません。ここに他の人が居たとしても必ずそうするはず。そうするのが自然の摂理なのですからぐふふふ」と、耳元で垂れ流しされたときは全身を悪寒が走り抜けた。

 言っていることがめちゃくちゃな事から、それほどまでに意識が朦朧としているのかとあのときは考えたが、そもそも平時でもこんな奴だと思い直す。

 しかし、重傷には変わり無いため振りほどけないのが現状だ。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい!さっきの理屈で言ったらあの馬鹿も対象に当てはまるわよ!?いいのそれで!?」

 

「お姉様と唇を交わせるなら、犬に噛まれたと思って受け入れますの。ああ!でも、そうしたら流石の黒子でも傷ついてしまいます。ならば、そんな傷心の黒子を再びお姉様に、癒して貰わなければいけませんね。

 ああ!(高音)なんという事でしょう!お姉様と再びベーゼを交わせるだなんて黒子感激ですの!愛してますお姉様ぁん♪」

 

「勝手に決断して勝手に妄想して勝手にトリップした!?どこまで行く気なのこの後輩!?自己完結型の変態なんて、流石の私でも手が付けられないわよ!?

 気付きなさい黒子!ソイツは私じゃないから!アンタの作り出した妄想でしかないから!」

 

 あの少年に半ば解決する役目を押し切られたが、やっぱり自分が行った方が良かったのでは?

 選択肢を間違えたか?とかなんとか思っていると、すぐ目の前に唇を突き出す後輩の顔があった。

 

「お姉様~♡わたくしと結婚を前提に熱いベーゼをぉ♡」

 

「ストップ止まれ止まんなさい止まれって言ってんだろうがあああああああああ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 心臓が強く脈打つ。何を言っている?何を言ってるんだ?樹形図の設計者による算出?そんなの不可能に決まっている。だって、

 

「樹形図の設計者は破壊され、その残骸(レムナント)は君達が実際に持っているはずだろう……?」

 

「ああ、確かに残骸は私達が持っている。破壊されたのも嘘じゃない。なら答えは一つだ」

 

 その返答で黒夜に言われるよりも早く結論へと達した。とてもじゃないが信じられない。しかし、黒夜は「きっとそうだろう」何て言う裏付けの無いもので行動はしないだろう。

 暗部を生き辛くしようとする意味が黒夜には一切無いのだ。つまり、この推測はかなり高い確率で当たっていると言うことになる。

 樹形図の設計者が破壊されているにも拘らず、多重能力が発現すると既に算出されている。

 その矛盾をなくしながら、その全てを満たしながら樹形図の設計者を使う唯一の方法

 

 

 

「破壊される以前から、樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)によって、多重能力(デュアルスキル)を生み出すシミュレートは打ち込まれていた……?」

 

 

 

 これならば、例え机上の空論だとしても『上』が動く理由にはなる。「正解だ」と言い黒夜はさらに付け足す。

 

「まあ、アンタの言っていたこともあながち間違ってはいない。本当の意味での多重能力は結局測定不能だったらしいからな」

 

「本当の意味での?」

 

「何でも樹形図の設計者が導き出し確立したのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それについてもクリアしないといけねェポイントが幾つかあるらしいが、そもそも費用が馬鹿みたいに高いらしくて未だ開発はされてねェらしい。

 言っちまえばそのコストさえどうにかすれば、実現可能って訳だ。高過ぎて今後しばらくは出てこないらしいが」

 

「(純粋な工学技術で生み出す、コストが高い多重能力?)」

 

 その話を聞いてオリ主は既視感を覚えた。それは、前世での知識での事。体がサイボーグだかアンドロイドだかの、あらゆる能力者の能力を使うことができるチートキャラ。

 

「(それって恋査じゃね?)」

 

 なんて事はない原作キャラだった。

 安堵の息を吐きそうになるがそれでも疑問が浮かぶ。どうしてオリ主の能力から恋査が導き出されたのか。

 

「(俺の劣化模倣(デッドコピー)は神からの特典だぞ?それが何で恋査に影響する?)」

 

 オリ主の能力である特典改弐は、相手に触れることでその姿を完璧にコピーし、劣化はするものの能力も宿すことができる一種のチートである。

 それに対し、恋査は学園都市で生み出された神とは全く関係の無い技術だ。

 背面に格納されている『編み棒』を展開し、計算式を基に体の設計図を組み換えることで、複数の能力者の特徴をその身に宿す。それがオリ主と恋査の能力の違い。

 そこまで考えてオリ主は思った。

 

「(割りと共通点あるわこれ)」 

 

 能力者へと姿を変えて能力を切り換えるなんて、まさにそのもの。さらに、本来とは全く違うチートの体を操るなんてところも似通っている。まあ、これはおそらく偶然だろうが。

 その事からオリ主を調べていく内に、その理論ができても特別おかしくはないということだ。

 

「実際に超簡易版の実証実験も成功したようだ。まァ、さっきも言った通り余りにもかかる金が莫大過ぎて、フルスペックで作れねェのがネックになるらしいがな」

 

 黒夜はおそらくその再現されるコピーが、俺と同じように劣化した能力だと思っているのだろう。俺の能力から導き出された理論だからそう思い込んでも仕方がない。

 実際には測定不能である削板軍覇以外の、超能力者(レベル5)の完璧なコピーと、半径200メートル以内に居る能力者の能力を、任意でコピーするというチート野郎なのだが。

 とは言え、腑に落ちない点が存在した。しかし、その疑問を黒夜は容赦なく粉砕していく。

 

「アンタに知らせなかったのはデータを寄越さなくなるのを防ぐため。純粋な工学技術で生み出す理論は確立しても、人間の能力者としての多重能力は未だ確立していないからな。

 奴らは謎を謎のままなのは気に入らないんだとさ。まァ、それも分からなくも無いがね」

 

「……なら」

 

「だが、中にはお前にもう価値を見出だせていない奴らも居るンだよ。工学技術で再現するのはあくまで最終目標。

 その途中段階である多重能力者を生み出す方式が、一切分かって無いのが問題でね。

 第七位と同じようにアンタは測定不能。だが、第七位の演算パターンが繊細で複雑なのに対し、アンタは大雑把で適当。解明されるのは第七位よりも長い年月が必要だとされている。

 そンな訳で、最近じゃあアンタの身体の方を解剖して分析し、その数値を新しく入力しよう、なんて連中も居てな。

 私の依頼主もその一人って訳さ。能力が生み出される根源は未だに解明されていない事もあって、その身体を調べたいンだと。

 奴らが言うには自分の姿を変えるアンタは、その身体自体に能力を宿しているんじゃないのかってよ」

 

 どちらかというと魂の方だと思っていたが、確か神も合わせるために改造したとか言っていたから、あながち間違っていないかもしれない。

 そして、経験則とかつての知識からそれに気付く。

 

「……そうか、君の後ろに居るのは統括理事会の一人だね。何かしらの絶対的な取り引きをしていれば、もし擁護派からの何らかの制裁があったとしても、身の安全を守るならこれ以上無い人選だ」

 

「おっと?ここら辺はアンタが今までやって来た、権力闘争の分野だから理解が早いな。もちろん、ここら辺を詳しく言う気はないけどな」

 

 ここまで強気に出られたのはそう言うことだ。絶対的な後ろ楯があるからこその行動。

 

「(今の会話で傷を治すことはできなかったけど、体力はある程度回復した。今なら磁力でコイツらを叩き伏せるぐら……い……?)」

 

 ドサッ!とオリ主の身体が完全に地面に倒れ伏した。困惑し眼球を動かし状況を把握しようとするがさっぱり理解ができない。

 身体を動かそうとしても指一つ動かせないのだ。

 黒夜が笑いながら話し掛けてくる。

 

「まさか、本当にこの私がただの暇潰しで、長々としゃべってたと思ってたのか?これもアンタを倒すその一手だよ。

 アンタはあらかじめカードの切り方を決めているが、別に臨機応変に動けない訳じゃない。その場で機転を利かせて逆転することもあったよなァ?

 なら、アンタと長い間戦うのは得策とはいえない。時間を稼がれたときの保険の一つや二つは当然手を打ってあるさ。

 ──あンだけ動き回ったんだ。そろそろナイフに着けておいた麻痺毒が全身に回っている頃じゃねェか?」

 

「(マジか!嘘だろ!?)」

 

 腹部の痛みと感じていた緊張感で、その僅かな異変に全く気が付かなかった。それこそ、黒夜の手のひらの上で踊らされていたのだ。

 

「(ヤ、ヤベェ……ッ!このままじゃ!)」

 

 黒夜の手のひらから窒素の槍が生み出される。他の被験体の子供も同じようにそれぞれの武器を構えて、オリ主へと向けた。

 

「それじゃあ、これで終わりだ。バイバイ天野ちゃん♪」

 

 ゴバァッ!!と、その声と同時に四方八方から殺戮の嵐が降りかかる。一つ一つが人間を死に至らしめる攻撃だった。

 そんな死の檻の中でオリ主にできることはただ一つ。

 

「(助けてくださいお願いします!!)」

 

 懇願である。命乞いとも言う。

 そして、そんな情けない声に答える存在が、この場には居る。

 

 

 

 ドバンッッ!!!!と空間が震える音と共に、オリ主を殺すために向かっていた少女達が、まとめて放射状に吹き飛ばされた。

 

 

 

 ドサッドサッ!と、落下する彼女達は悲鳴を上げる暇さえありはしなかった。窒素爆槍(ボンバーランス)を伸ばして範囲外に居た黒夜以外は、ほぼ全滅と言ってもいい。

 いきなりの逆転劇に黒夜は何一つ理解ができずに混乱する。

 

「……な……にが……」

 

「──君が僕の敵だね」

 

「!?」

 

 先程までは毒と腹部刺傷によって、動くこともできなかったはずの少女が平然とそこに立っていた。

 彼女は今までの困惑の眼差しとは違い、全てを俯瞰するかのような視点と好戦的な目をして、その言葉を告げる。

 

 

「さあ、どこを切り落とそうか」

 

 




久し振りの登場です。

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