とある原石の神造人形(エルキドゥ)   作:海鮮茶漬け

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86.ウルクのアクティブモンスター

 天野倶佐利を殺す。

 そうすれば、強力な後ろ楯と暗部での権力が手に入る。

 作戦は一分の隙もなく完璧。全ては狙い通り進みノーミスのパーフェクトゲームで幕を閉じ、私は新しい門出を歩み始めるはずだった。

 

 それなのに何だこれは?

 

 集めた戦力の大部分は今の攻撃によって行動不能にされた。少数以外はまともに立っている事もできていない。それも、たった一撃でだ。

 ほんの数秒までは確実に、こちらの圧倒的な優勢だったにも関わらず、今では形勢は見事に逆転されていた。

 そして、変化はそれだけじゃない。

 先程まで焦燥が見えていた顔などは微塵もなく、そこには今までの奴とは明らかに何かが切り替わった天野倶佐利が居た。

 

 

「君達がマスターの敵なら君達は僕の敵だ。容赦はしないよ」

 

 

 先程の言葉も合わせて物騒な事を言っているが、声音はどちらかというと穏やかだ。そこにはあからさまな殺意がない。

 

「(どォいうことだ?まるで他人事みてェに言いやがる。マスターってのは一体何の事だ?)」

 

 黒夜にとって今の天野が言っている事は、理解のできないことばかりだった。

 

「マスターは随分と慎重派のようだね。僕の存在意義は使われてこそなんだけど」

 

「ああン?」

 

「とはいえ、マスターの行動方針に意見するのは兵器としてはあってはならない事だね。マスターの行動に従うよ」

 

 黒夜は天野から発せられる言葉に疑問を持つが、どうやらこちらの反応などお構い無しのようだ。黒夜を無視して奴は一人呟く。

 

「(舐めやがって、私達の事なんざ眼中にもねェってかァ?……本来ならこのままぶち殺すところだが、あの平然とした姿から腹の傷も毒も何らかの方法で治療したはずだ。

 一気に既知から未知へと外れやがって。これも原石の力って事か?クソッ、今までの計算が全てパアだ)」

 

 今までのアドバンテージが全て消え去り、黒夜は撤退へと既に舵を切っていた。今までの一方的な戦闘は、相手の能力から導き出された必勝法と、数の差で圧倒していたという事に過ぎない。

 その全てが覆った今再び優勢に持っていく事は不可能だ。

 黒夜のこれからの行動が固まった、そんな時だった。

 

「ガアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 先程地面を砕いた少女が再び天野を襲う。その姿はフリルがふんだんに装飾されたファンシーな装いとは違い、まるで荒れ狂う獣のようだった。

 

「(そういやアイツは一方通行(アクセラレータ)の『怒り』の演算パターンを入力してたな。

 さっきの奇襲で感情が高まって今のでトンじまったか。私の得になるなら何でもいい。存分にやり合いやがれ)」

 

 黒夜は集めた『暗闇の五月計画』の被験体に対して、仲間意識は一切無い。

 一方通行の演算パターンを植え付けられたせいで、集団心理に馴染めない事もそうだが、何よりこの街の悲劇などはありふれたものでしかないのだ。

 無惨に殺された被験体に思うところは全く無いし、演算パターンを植え付けられたお陰で、こうして暗部で充分に活動することができるため、不満など微塵も無い。

 全ては自らの利益へと還元するための行動に過ぎないのだ。

 そのために必要なら幾らでも使い潰す。それが暗部だから。

 

「(さあ、どォ動く。能力による回避か迎撃か。どちらにしても撤退する時間を稼げる事には変わりねェ)」

 

 二人が衝突したあとに行動をするつもりでいた黒夜は、数秒後に起きた出来事に目を見開いて驚愕する。

 

「──なるほど、確かに"人間"が出せる出力を超えているね。様子から見てサーヴァントでいう『狂化』に近いのかな?」

 

「グガァ……ッ!!」

 

 フリルの少女が先程生み出した破壊は起きなかった。それは少女が手加減したなどということではない。そもそも、彼女は一定の怒りを抱くと理性を無くし、発散するまで暴れ続けるのだ。

 上で戦っている帆風潤子と同じく電気信号を操り、身体能力を向上させる能力なのだが、ほぼ同出力であり理性を無くしている分、彼女よりも劣っていると評価された。

 とはいえ、彼女の能力は本物だ。

 帆風とは違い自らの人体への配慮が無いため、引き起こす破壊力だけをみれば上と言えた。そんな彼女が未だに破壊を引き起こしていない理由はただ一つ。

 彼女の突き出された拳を覆うように、目の前の存在の手のひらでその拳を受け止められていたからだ。

 

 

「でも、どうやら僕の性能の方が上のようだ」

 

 

 ミシッ!と少女の拳から軋んだ音が鳴る。堪らずに少女は狂った声で呻き声を上げた。

 しかし、次の瞬間には目の前の存在へと睨み付ける。一瞬で切り替え再び攻撃へと移ったのだ。

 流石は一方通行の演算パターンを植え付けられているとでも言うべきか、痛みに苦しみ続けるのではなく、すぐさま目の前の敵を破壊するために行動を移した。

 

「ゴアアアアアアッッ!!」

 

 先程地面を砕いた時に血塗れとなった右手を、再び攻撃に使う。そんな痛々しい彼女に目の前の存在がした行動は一つだけ。

 

 

 

 ドゴォオッ!!と凄まじい音を鳴らして、少女を水平に蹴り飛ばしたのだ。

 

 

 

 真横にかっ飛んだ少女は棚や商品を多く巻き込み、壁付近でようやく止まった。当然の如く彼女の意識は既に無い。

 その光景を見て黒夜は驚愕する。

 

「(フ……ザケンじゃねェッ!?アイツはウチらの中じゃ一番攻撃力が高い被験体だぞ!?それを片手だけで対処し、一撃で沈めるなんざ幾ら何でも出鱈目すぎる!)」

 

 そして、黒夜はもう一つの事実にも気付いた。

 

「(奴の能力については散々調べに調べた。その資料からアイツが能力を使うには、姿を変えるのは絶対条件のはず……。

 ……()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()())」

 

 あり得ない事だが、もし能力を使わずにただの身体能力によるものだとしたら、もう既に黒夜には勝ち目が無い。

 何故なら先程の能力者は出力だけなら帆風と同じ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それをただの身体能力で防いだとすれば、それはもう大能力者(レベル4)に収まる存在ではないことと同義だ。

 

「オイ!オマエら──」

 

「遅いよ」

 

 ドガドゴバキゴキッ!!と、何かが砕ける音と共に黒夜以外の少女達が一斉にドサッと音を鳴らし地面へ沈む。残るは黒夜だけだ。

 黒夜は一瞬で目の前に現れた存在に目を見開く。

 

「残るは君だけだね」

 

「ば、馬鹿な!?怪力だけじゃなくスピードもだとッ!?」

 

 黒夜はてっきり天野はパワーだけ上げているのかと思っていた。しかしそれだけではなく、今の視認できない速さから想定すると、全ての身体能力が向上しているようだ。

 つまり、フリルの少女と同じということになる。先程のフリルの少女や帆風が超能力者と同等の出力ならば、目の前の存在はさらにその上、超能力者よりも高い出力と考えていい。

 

「(化け物め!化け物め!化け物めッ!こんなもの超能力者と同等かも怪しいぞ!?これで大能力者とかこの街の科学者はイカレてンのか!?)」

 

「覚悟はいいね?」

 

「ッなんだそりゃあ!?」

 

 黒夜が驚いたのも無理はない。天野が振り上げた右手から剣が生えていたのだから。

 

「(コイツの能力は変身能力のはずだ!能力のコピーもその延長線上のものに過ぎねェのに、何故そんな現象が起こりやがる!?)」

 

 理解ができない現象が立て続けに起こり、混乱が最高潮になる黒夜だが、目の前の存在は黒夜の戦闘準備など待ってくれない。

 そこで黒夜は偶然にも気付いた。目の前の存在が何を見ているのかを。

 

「(コ、コイツまさか私の手を……ッ!?)」

 

 何を考えているのか読み取れない目で見ていたものは、黒夜の両手だった。黒夜の能力の起点は手のひらであり、そこを噴出点として窒素爆槍を生み出す。

 無力化するならばそれは間違いなく有効手段であった。実際に振り上げた剣を鑑みても、黒夜の両手を切り落とそうとしている事は明白だ。

 しかし、黒夜にはどうにもできない。0.1秒後に両手が切り落とされるのをどうにかしろというのが無理な話。今から窒素爆槍を噴射し、背後に飛ぼうとしても先に切り落とされるのは分かりきっている。

 

 黒夜はその瞬間まで目の前の敵を見ていた。その姿には弱者をいたぶる愉悦も、強者という傲慢からくる油断も一切無く、淡々と作業のように攻撃を繰り出し勝利する機械のようだ。

 

「(止めろ止めろ止めろ止めろおおおおおおおお!!!!)」

 

 そして、その時が来る。

 

 

 

 ドガァァアアアアン!!という轟音と共に、ショックセンターの壁が破壊された。

 

 

 

「時間切れかな?」

 

「…………?」

 

 何だ?何が起きた?何故壁が突然破壊された?まさか新手か?それとも増援?いや、そもそも何故攻撃を止めた?

 疑問は尽きない。

 しかし、一時的に脅威は去ったのだろう。それは、既に剣から普通の手へと戻っている事から理解できた。

 

「…………ぷはぁっ!!ぜぇ……っ、はぁ……っ!」

 

 黒夜はそこまで思考を回してようやく呼吸を再開した。無意識の内に呼吸をすることを忘れていたのだ。しかし、それも仕方の無い事だろう。

 自らの理解の範疇を超えた現象ばかりが起き、突然自らの両手が切断されようとしたのだ。身体を正常に操れなくなってもおかしくはない。

 身体を正常に動かそうと懸命に息を整える黒夜だが、そんな彼女に話し掛ける存在が居た。

 

「おや、今回のターゲットはあなたでしたか。道理でクソ野郎特有の匂いが超すると思いましたよ」

 

 今しがた壁を破壊した存在は、粉塵の中から堂々とした様子で近付いて来る。気負いなど一切無く、まるでここがホームグラウンドであるかのように。

 その相手を見ると同時に、今までの変調を覆い隠す黒夜。例え命の危機だとしても弱味を絶対に見せたくないらしい。

 平静を取り繕った黒夜は口角を無理矢理上げて、その相手を挑発するように言葉を投げ掛けた。

 

「同窓会の招待状は出してなかったはずなんだかなァ?ハブられちまった可哀想ォな『優等生』の絹旗ちゃンよォ」




待ってたぜヒーロー!!(違う)

容赦とはなんぞや?とでも言いたげな鬼畜がいるらしい。12歳の少女をサッカーボールにする17歳(中身は違う)が、都市伝説で流行り出すかもしれませんね
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