とある原石の神造人形(エルキドゥ)   作:海鮮茶漬け

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87.黒夜の決断

 パラパラと落ちるコンクリートの破片を聞きながら、12歳の少女は破壊の跡から悠々と歩いてきた。

 

「どうやら私が一番乗りみたいですね。まあ、今回の敵がアナタだと察し、逆算してここを特定したのですから当然と言えば当然ですが」

 

 彼女の名は絹旗最愛(きぬはたさいあい)。暗部組織『アイテム』に所属する大能力者(レベル4)だ。

 

「とはいえ、あなたがここに居るのは驚きました天野さん」

 

「──おや?僕がここに居るのはそんなに意外かい?僕からすれば君の登場の方が意外だけどね」

 

 そう言ったのは天野(あまの)倶佐利(くさり)()()()()()()()()()()()()、絹旗の人生において決して無関係とは言えない人物である。

 

 彼女が居たから実験は生まれた。

 その実験で生まれた数少ない成功例を、彼女と同じようにするために、演算パターンをさらに植え付けて廃人にしたりなど、悲惨なものを散々見てきた。

 そんなあの実験に身をもって関わっていた絹旗が、彼女に思うことは一つである。

 

「まあ、超どうでもいいことですけど」

 

 絹旗は暗部の人間だ。

 悲惨な光景など見慣れているしその光景を作り出す側である。今さら過去の事で因縁を付けるなど馬鹿げているし、時間の無駄だ。

 敵対するなら潰すし必要ないなら関わらない。彼女にとってそれだけの話でしかないのだ。

 

「あなたもそいつに加担して…………はいませんか。この光景を見てそれを思うのは超考え無しです」

 

 倒れ伏している黒夜の手下達を見て、絹旗は天野がやったのだと推測する。

 その天野は絹旗の隣まで歩いて来ると、耳打ちするほどの声音で言葉を発した。

 

「僕としてはあのアタッシュケースさえ手に入ればいいんだけど、君も戦うのかい?」

 

「ええ、私も依頼を受けてここに来てますから」

 

 先程も言ったが絹旗最愛は敵対するなら潰す。今回はそれが天野に適用されたというだけ。そして、今ここに『暗闇の五月計画』の関係者による、三つ巴の戦いが切って落とされようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(うえぇ……酔った……)」

 

 そんな最中(さなか)、オリ主は体調を崩していた。どこでそんな出来事が起きていたのか分からないかもしれないが、それにもちゃんとした理由がある。

 

「(もう少し加減して!?高速戦闘には慣れてないんだってっ!吐いちゃうからどうか気を付けてください()()()()()()()()!?)」

 

『ふむ、頼みどおり早急に敵性を排除したつもりだったけど、確かにマスターのことは気にかけてなかったね。ごめんよ』

 

 驚くべき事にそこにはマスターとサーヴァントの関係性が確かにあった。彼らは互いを認識し、それぞれの存在を確かに感じ取っていたのだ。

 思い返してみれば、『未明革命(サイレントパーティー)』の事件のときに滝壺(たきつぼ)理后(りこう)を気絶させ、『アイテム』に追い掛けられたときも、大爆発で負った傷がすぐさま治ることを知っていたかのような物言いをしていた。

 そもそも、あのとき大人に変身していたため、超能力を使うことができなかったのである。つまり、あの傷を治したのはエルキドゥの能力である【完全なる形】。

 つまり、そのときには既に二人の主従は、コミュニケーションを交わしていたということになる。

 

「(にしてもパネぇわエルキドゥ。さすがは神が造り出した兵器。いろいろ段違いだわ)」

 

『でもマスター、僕はまだ性能を出しきれていないよ』

 

「(マジで!?)」

 

 驚愕の事実。どうやらエルキドゥは手加減していたらしい。

 

『マスターとしては生かしておく方が、都合が良いのだろう?なら、兵器たる僕がそれを汲まない理由はないよ』

 

「(あらカッコいい。これは最優のサーヴァントですね間違いない)」

 

 立ち振舞いや剣に手を変化させたことから、ぶっちゃけエルキドゥってセイバーじゃね?とかオリ主は勝手に思っていたりする。

 しかし、それを思うだけで念話で伝えないところがオリ主である。

 

「(それにしても──)」

 

 

 

 

「フッ!」

 

 短い呼気と共に細い腕が突き出された。

 その細腕から繰り出される拳などたかが知れているが、窒素装甲(オフェンスアーマー)を纏えば話は変わってくる。12歳の少女の拳が何倍にも威力が膨れ上がるのだ。

 容易にコンクリートを砕く一撃が、通常攻撃として繰り出されるため、その凶悪さは語るまでもない。

 

 しかし、その一撃は難なく受け止められた。

 

 

「『なかなかやるが、俺の根性と比べちまうとまだまだだ』」

 

 

 快活に笑う少年は削板軍覇……の姿をしているオリ主である。何で絹旗最愛と殴りあっているのか実は分からなかったりする。

 

「(何で『アイテム』まで来るんだよ。居なかったよね君達。俺がエルキドゥと代わっている間に居たから、敵か味方かよくわからんぞ。……まあ、暗部だから味方ってことはないだろうけど)」

 

 事情を聞きたいが本当の事を話してくれる確証もないので、取り敢えず叩きのめし、残骸(レムナント)を回収することにした。

 掴んだ拳に力を入れると絹旗の体が浮き上がる。

 

「そんな馬鹿なッ!?」

 

「『よっこらせぇッッ!!』」

 

 そのまま拳だけで絹旗を捕まえた緑髪の少年は、背負い投げをするかのように体を捻り、地面へそのまま叩き伏せた。

 

「がはッ!!」

 

 ドガァンッ!!という破壊音と共に、蜘蛛の巣を張ったように地面が絹旗を中心にひび割れる。窒素装甲がなければ間違いなく絹旗の人生は終わっていた。

 

「(ぐっ……!肉弾戦でここまで上をいかれるとは予想外です。しかし、資料通りどうやら人を殺すことはできないみたいですね。後ろで伸びている奴らも生きているようですし)」

 

 叩き伏せられたがすぐさま距離を取り、安全圏まで下がる。

 一方通行のコピーは調べた資料によると、できるようだが反射で相手を殺めてしまうかもしれない、と考え自制しているというのは本当のようだ。

 ならば、絹旗はそこにかけるしかない。相手の善良な心に漬け込み活路を見出だす。これも実に暗部らしいと言えるだろう。

 距離を取りながら絹旗は、勝つために必要な事柄を思い浮かべながら両手を構える。

 そして、先ほどから視界に映る人間に対して、嘲るように声を掛けた。

 

「あなたは何もせずそこで見学ですか?超イイ気なものですね」

 

「…………」

 

 無言で立っているのは黒夜だ。彼女は事態がどう動くのか観察していた。いや、どちらかというと天野倶佐利を観察していた。

 

「もしかして、この場で一番弱いことを自覚しましたか?

 あなたが私と天野さんとの戦いで、文字通りの横槍を入れたにもかかわらず、傷一つ付けられない事がショックだと?

 あなたはあそこで私よりも『成績』を出せなかった。それなら、こうなるのも必然だと超思いますけどね」

 

 そう黒夜は二人の戦いに乗じて窒素爆槍(ボンバーランス)を絹旗にぶつけたが、結果はかすり傷無い無傷。

 黒夜の攻撃は絹旗には通じず、万全の状態の天野に敵うはずもないため、一番の弱者と断定された。

 

「(本来なら一番弱い奴から倒すのがセオリーですが、私一人では天野さんに勝つのはかなり厳しい。同じ大能力者(レベル4)ですが、あの人はほとんど別枠みたいなものですし。

 アイツの攻撃は私には微塵も通じませんが、天野さんには当たればダメージを与えられる。天野さんを邪魔するギミックになればっと思ったのですけどね)」

 

 黒夜を利用しようとしていた絹旗だが、その黒夜はほとんど棒立ちで碌に動こうとしない。その役立たずっぷりに侮蔑の視線を向ける。

 そんな視線を向けられた黒夜は小さく呟いた。

 

「……チッ、これしかねェか」

 

「?まだ、何かするつもりでs──」

 

 

「シルバー=クロース!!プランCに切り替える!」

 

 

 その大声が響き渡ると同時にドローンのような機械が、四方八方から飛び込んでくる。それを見た絹旗はさらに軽蔑するかのような視線を向けた。

 

「こんな機械で私達を撹乱できるとでも?破れかぶれだとしても私達を舐め過ぎでしょう」

 

「絹旗ちゃンよォそう先走るなよ。コイツの真価は破壊力じゃねェ。それを身をもって味わいやがれッ!!」

 

 そう言うと同時に、

 

 

 ジリィィィィイイイイイイイ!!!!と、甲高い音が辺りに鳴り響いた。

 

 

「ぐあッ……!?」

 

「この音は……」

 

「ッ……能力者の力を削ぐ音響兵器、知的能力の低下(キャパシティダウン)さ」

 

 黒夜はその音に自らも苦しみながら答えた。

 

「……あり得ません……ッ。あれは大きな機材が必要なはず。こんな小型の機械で再現できるはずがないです!」

 

「確かにな。だがそれが端末なら話が別だ。実際に音波を出す本体から端末へと経由して、この幾つものドローンで補い合えば知的能力の低下(キャパシティダウン)の真似事ぐらいならできる。

 とはいえ、あくまでも真似事だ。出力は落ちてるから軽い頭痛程度だが隙を作るには充分だろう?」

 

「ッまさか……!」

 

 黒夜の策略に気付いた絹旗が声を上げると同時に、

 

 ブシュゥウウ!!とドローンから煙幕が噴射され、辺りが煙で包まれる。

 視界に黒夜は映らない。

 

「(なるほど。これじゃあ空間移動(テレポート)はできない。今まで使わなかったのは、黒夜の能力だと発動するだけで煙幕が吹き飛ぶからか)」

 

 ドローンも生み出す風で煙幕が吹き飛ばしそうなものだが、おそらくもう範囲外のところまで遠ざかり、音を出す装置としての役割だけをしているはずだ。

 

「(()()()()()()()()()()?こんな事ってあるのか?)」

 

 初めての感覚に頭を捻るオリ主だが、それをエルキドゥが答える。

 

『僕の気配察知は大地と感覚を一体化し、違和感を炙り出すという方法。本来の身体ではないマスターの身体だとそれがさらに顕著だ。つまり、相手がそこにいなければ見付けることはできないよ』

 

「(大地と感覚を一体化?……まさか、黒にゃんの野郎!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 煙幕が充満する複合施設の隙間から、飛行機雲のように煙幕の線を背中に付けて、黒髪の少女が飛び出ててきた。

 彼女の背中には機械で作られたような、黒く塗られたメタリックなハングライダーが付けられている。両手から窒素爆槍を吹き出しながら黒夜は闇夜を鳥のように飛んでいるようだ。

 

「ああ、クソッ!これで統括理事会の方は失敗だ!ふざけやがってッ!なんなんだあの野郎マジモンの化け物か!」

 

 見せ付けられた理不尽さに一人声を荒立てる黒夜。先日、超能力者(レベル5)から力の差を見せ付けられたが、それとはまた違った理不尽さだ。

 黒夜は薄々理解していた。自分ではあの天野の中に眠っている特異性には、逆立ちしても勝てないということを。

 だからこそ牽制の攻撃しかできなかった。再び『あれ』が表に出てこないように。

 

「ッ……シルバー=クロース!プランBでいく。いいなッ!?」

 

『分かっている。だからそのハングライダーをお前が受け取りやすい位置に置いておいただろう。

 黒夜、何をそんなに取り乱している?敗北する可能性も俺達は考えていたはずだ。そのためのもう一つを確実に得るためのプランBだ。

 まだ、これも俺達の規定路線の一つ。何も慌てることは無い』

 

 黒夜はそんなシルバー=クロースの態度に舌打ちをしたくなった。しかし、あの見た光景を伝えても動揺するだけだ。なぜなら、それを話す黒夜がまだ消化しきれていないのだから。

 下手に動揺させる必要はない。今だって確実に安全圏へと逃げられたわけではないのだ。

 

「(資料によると、どうやらアイツの察知能力は平面的なものでなく、立体的な位置に居る存在には鈍いと観測されている。

 明確なものじゃないが、この状況ではそれにすがるしかねェ……!)」

 

 黒夜は唇を噛み締めながら次の算段へと思考を回す。どんなに動揺していてもこうして思考を止めずに回せることが、暗部で生きてこれた理由なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チッ……逃げられましたか」

 

 煙が晴れると既に黒夜の影も形もありはしなかった。『暗闇の五月計画』の被験体はどうやら見捨てたようだ。

 

「私があのクソ野郎の予測パターンを構築しても、裏を掛かれるだけでしょう。麦野達に連絡して新しい策敵方法を見付けなくてはなりませんね」

 

 絹旗は肩の力を抜いて構えを解いた。

 天野倶佐利も例のアタッシュケースを追っているらしい。ならば、ここで争うのは不毛が過ぎる。

 天野もそう考えていたのか構えを解いて目を瞑っていた。逃げられたことがそれほどまでに悔しいのだろう。

 自分も逃げられた事に何か思わなくはない。理性はともかく気持ちは分かるのだから。

 そんな天野は閉じていた目蓋開けて呟いた。

 

「──見付けた」

 

「は?」

 

 ぶっ飛んだ回答に絹旗が声を上げた。余りにも突飛なことで絹旗はそれが自分の聞き間違いかと思ったのだ。

 しかし、そんな絹旗の反応には一切気にせず、天野は続けてこう言った。

 

 

「この方向は……うん、大丈夫だね。彼が居る」

 

 

 




高評価ありがとうございます!コメントを見てやる気に繋がりました!
その中に鋭い人もいて、オリ主の馬鹿な思考が伏線である事に気付いていました。
第一部での重要な伏線にもリストアップしていて、やっぱりアホな作者一人では隠せないものだと実感してます。

なぜ、オリ主が見付けられたかはまた次回。
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