「くさりの料理はすごくおいしいんだよ!」
「そうかい?それはよかったよ」
現在俺は神裂戦以上の死戦をくぐっていた。この食欲モンスターは満漢全席を作って満足するかと思いきや、さらにリクエストをしてきたのだ。
腹の中にダイソンでも内蔵してるんじゃないのか?
「インデックスッ!!無事か!?」
バンッ!と扉を開きながら大声を上げて上条当麻が部屋に入ってくる。俺にとっては救世主の到来だった。
「わあっ!?どうしたのとうま!?」
「やあ、後輩。怪我の具合は大丈夫みたいだね」
上条を例のカエル顔の医者がいる病院に連れていき、パパっと体を治してもらった。原作なら三日間意識が戻らず寝たきりだったはずが、たった一日の入院となったのは上条にとって、有利な状況となったはずだ。
「えっ?インデックス?なんで普通にいんの?ていうか先輩まで?」
「君が怪我をして倒れていたから、僕が君を病院まで連れていったんだよ。その間君の代わりに彼女の面倒を見ていたのさ」
「怪我!?一体何があったのとうま!」
昨日、何があったのか上条の口から伝えられた。話した内容は所々伏せながら、襲ってきた魔術師のことを説明していく。
「そんな……!とうまにまで接触してくるなんて!」
「まじゅつし?身体強化系の能力者かと思ったんだけど、そんな簡単な話でもないのかな?」
と、小首を少し傾げて白々しくもとぼけながら、上条の話を聞いていると、何かを思い出したかのように扉に向かって行く。
「ッ!!わ、悪いインデックス俺ちょっと調べものにいってくる!」
「えっ!とうま魔術師に襲われたばかりなんだよ!?」
「少し出てくるだけだから大丈夫だ。先輩、インデックス頼みます!」
「後輩少しだけ待ってほしい」
そうして、部屋から出て行こうとする上条を部屋に呼び止める
「先輩?」
「まずは食事を摂らないと力は出ないよ」
「いや、でも俺今急いでて」
「それに、僕は
「なるほど、つまり彼女の脳は記憶の蓄積により、生命の危機であるということかい?」
「だから、そのための打開策を何か見つけないと……!」
上条は沈痛な表情で、インデックスの抱える問題について語る。
インデックスは10万3000冊の魔導書を記憶したことで、脳の容量を85%も占めてしまい、15%しか容量がないため、同じ組織の魔術師達が毎年消しているのだと。
「そんな……私のせいで皆が…………」
自分のことに皆を巻き込んでいたことを知り、インデックスは心を痛める。だが、インデックスもいつかは知らなければならないことなのだ。苦しいかもしれないが耐えてもらう。
「
「ッ!!そうだ!アイツの力なら記憶の操作ぐらい簡単なはず!」
原作を知りながらこんなことを、いけしゃあしゃあという自分に吐き気がするが、俺が改変したため上条当麻には食蜂操祈との記憶が残っている。そのせいで上条が食蜂の力を借りようとすると、大変なことになってしまうのだ。
「それはダメかも。魔術師でも危険なのに耐性がない一般人が、私の頭の中を見るなんて自殺行為なんだよ」
そう。インデックスの頭の中には、魔術の原典が記憶されており、記憶を消そうとするだけで何かの防衛機能が働く恐れがあるのだ。原作でインデックスの原典を見ようとした闇咲逢魔が、少し覗いただけで全身血まみれになっている。神裂達のような正規の消去法でなければ、リスクがあまりにも大きすぎるのだ。
「くそっ!」
上条は焦りをぶつけるように床を殴る。
「とうま、そこまでしてくれてありがとうなんだよ」
「ッまだだ!超能力が駄目でも科学なら……!」
インデックスの感謝と共に、諦めても構わないと言外に言われても、上条は打開する方法を探し続ける。これが、主人公たる所以なのかもしれない。このままではまた外に飛び出してしまうので、ズルかもしれないが原作の知識をここでお披露目する。
「後輩。焦る気持ちは分かるけどまだ途中だよ。僕も超能力や科学での解決は不可能だと思うよ。何故なら彼女の死ぬ要因は、
「は?」
「え?」
上条とインデックスが同時に声をあげた。
「ど、どういうことですか先輩」
「いいかい。もし完全記憶能力が一年で記憶の15%を占めてしまうのなら、完全記憶能力を持った普通の子は、五、六歳で死んでしまうことになる。だけど、僕はそんな症例は聞いたことがないんだ」
「「あっ」」
二人とも驚いているが、これは原作の上条が導き出した答えだ。その事をまるで、自分で思い付いたかのようにいうのは、心苦しいがより良い結末のために耐えよう。
自分で原作を変えたくないと言いながら、かつて食蜂操祈を助けに行ったりしたのは、やはりキャラクターに幸せになって欲しいからだろう。
「そもそも、人間の脳は百四十年分を、記憶出来るようになっているんだよ。さらに言えば意味記憶、手続き記憶、エピソード記憶の三つに記憶を蓄えるようになっていて、一年間過ごしたって物事を暗記する意味記憶ではなく、思い出を記憶するエピソード記憶に記憶されていくはずさ」
「……それじゃあ」
「インデックスが苦しめられているのは記憶の蓄積じゃない……?」
「操祈が心理系の能力者でなければ、僕も勉強していなかったよ」
実際にみさきちから教えてもらい心理の勉強をしているのである。難しくて大半は分かってないけど。
「じゃあ、まさか……インデックスが苦しめられているのは……」
「彼女の動きを制限するための首輪だろうね」
これが真実。インデックスの頭の中にある、魔導書を全て使うと魔神に届くとさえ言われていることからも、インデックスがどれだけ危険な存在か分かるだろう。だから、インデックスが離れられないように首輪を着けているのだ。
この時点で胸糞な話だが、相手があの
「なんだよそれは!ふざけやがって!!」
上条がインデックスにこんなことをさせる、組織のやり方に怒りを爆発させる。
「こんないたいけな女の子に、そんなものを暗記させるような組織だ。薄暗い部分があってもおかしくはないよ」
そして、俺は窓の向こうからこっちを監視しているだろう、二人を思い浮かべる。
「ここからは彼らの領分だ。後輩の話を聞く限りでは、彼等は敵ではないのだろう?助力を頼むべきだと思うよ」
「そんな……それでは……今まで私達は騙されていたのですか……?」
神裂達に分かるであろう合図を、同じ組織に所属しているインデックスから聞き神裂達を呼び出した。そして組織がインデックスにしていることを説明する。
それを聞きこれまで身を削るようにしてきたことが、組織からの思惑通りに動かされてのものであることを知り、神裂は愕然としている。
この前戦った時とは違い、その姿はとても弱々しいものだった。
「……」
ステイル──赤髪で頬にバーコードの模様がある、二メートル近くある少年──は、無言ながらも険しい表情や握り締める拳から、どんな感情を抱いているのかを察することができる。
おそらく、記憶を消す苦しみを抱かぬように、作業としてこなしていたのだろう。そのためその原因について詳しく調べることから、無意識に遠ざかっていたのだ。
「ああ、だからインデックスを助けるためにお前達の力がいるんだ」
上条のインデックスのために、真摯に訴える態度を見て、ステイルは言葉を返した。
「関係ないね。彼女は今まで通りに記憶を消す」
「なっ!?」
「お前達のやり方で、確実に彼女を救うことができるのか?首輪が本当だとしてぶっつけ本番で試す気かい?その結果彼女にどのような影響が出るか分からないのもまた事実だろう。少しでも不確定要素があるのなら、僕はそれを一欠片も残さず殺し尽くす」
その言葉はこれまでの彼の在り方そのものだった。インデックスを守るために手を汚し、守るために敵となって彼女を追い回す。全ては確実にインデックスを守る。ただそれだけのために。
「なるほど。良い覚悟だね」
だから、この信念に敬意を抱きながら俺は言う。
「でも、彼女自身の意思を聞くべきじゃないかな?」
そう言って俺は小柄な彼女の背中を押した。そして、思いの丈を彼女が言葉にする。
「ステイルもかおりも私のために、頑張ってくれてたんだよね。二人に辛いことをさせていたのは私のせいかも」
被害者でありながらも彼女は責任を感じて、強い罪悪感を二人に抱く。そんな自分が何よりも罪深いと思いながらも、大きな瞳から雫をこぼして思いの丈を発露させた。
「でもね……私は、今の私を…………忘れたくないんだよ……っ!!」
「「ッ!!」」
インデックスが悲痛な表情で紡いだ、心からの願いを聞いて、二人が奥歯を噛み締める。
その言葉をどれ程聞いてきただろう。そして、何度そうしてやりたいと願っていただろうか。
それから、数秒迷った末に赤髪の少年は髪を掻きむしりながら、胸にわだかまるものを吐き出すように言い放った。
「ああ…っ!ああ、分かった!分かったよ、ちくしょう!!他ならぬ君の願いだ!君を救うためなら矜持も、今までの自分の在り方でさえも否定してやるッ!!」
インデックスを守るために全てを殺してきた男が、インデックスの願いを守るために、今までの思考回路を否定する。その矛盾は彼をどれ程苦悩させたのだろうか。
だが、彼のインデックスのために戦う覚悟は、初めて決意したときから何一つ変わらないものだった。
「それじゃあ、インデックスに着いている首輪をぶっ壊そうぜ!」
「あっ、それは待った」
やる気満々の上条に待ったをかける。
「え?何で!?」
「僕も分からないな。どうして今すぐにしないんだい?今も首輪は彼女を苦しめているんだぞ」
男二人から疑問が上がる。ステイルの方は威圧気味なのだが。
何でだよ。お前、直前まで反対派だったじゃん。
「僕達は彼女に着けられた首輪を外す手術をしようとしているんだ。なら、患者は執刀する医師のことを知っておいたほうがいいだろう?」
「執刀する医師って……」
上条が数秒遅れて理解する。そして、彼が気が付いたということはこの場に居る他の人間に理解できない筈はない。
ステイルは眉間の皺を深くして上から鋭い視線を向けてきた。
「情けのつもりか能力者。そんなものは不要だよ」
「ええ、私も一刻も早く彼女を苦しみから解放したいですから」
ステイルは苛立ちと共に、神裂は冷静さを持ってインデックスのためになる決断をした。
「君はどうしたい?」
だから、俺はインデックス自身がどうしたいかを聞くことにした。
「私も二人と話すべきだと思う」
「しかし……ッ!!」
「ううんっ、
そのインデックスの言葉で二人の行動が止まった。その言葉を受けることは、もうないことだと思っていたのだろう。今までのことを全ては精算は出来ないかもしれないが、これできっと何が変わっていくんじゃないかと思うんだ。
「部屋は僕の部屋に移ろう。これ以上小萌に迷惑はかけられないからね」