とある原石の神造人形(エルキドゥ)   作:海鮮茶漬け

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あと2話でこの章も終わりだと思います


88.頼れる男

 タンっ!と軽快な音を鳴らして黒夜はビルの屋上から再び空に舞う。窒素爆槍だけで飛び続けるのはさすがに無理があったのだ。

 一度高いところに降り立ち、再びハングライダーを使うことで消耗を抑えている。

 戦闘がもう無いとは限らない。体力を残しておいて損はないのだ。

 

『落ち合う場所には先に着いている。付けられるようなへまはするなよ』

 

「……ああ、分かっている」

 

 返事はしたものの、あの女にそれが確実にできるのか不明である。気配などという非科学めいたものなど本当に断つことができるのか。

 

「(アタッシュケースはシルバー=クロースの手の中にある。それこそ、付けられれば私が囮になることで作戦は成功するだろう。もちろん、あの怪物達を出し抜ければ……の話だがな)」

 

 黒夜とて制裁を受けるつもりは無いのだから、付けられない事が一番なのだが。

 

「それで状況はどうなっている」

 

『ああ、無人機の多くは破壊されたが、あの女まともに動くことはできないほど消耗している。心理掌握(メンタルアウト)を連れて追ってくることは不可能だろう』

 

「それは重畳(ちょうじょう)。だが、こっちは問題が発生した『アイテム』の奴らが出張ってやがるようだ」

 

『あの原子崩し(メルトダウナー)が居る暗部組織か!?』

 

 超能力者(レベル5)の第四位に座る女。原子崩し(メルトダウナー)麦野沈利。

 こんな撤退戦をしながら立ち向かう敵ではない。

 

『黒夜』

 

「分かっている。必要ならプランCにも移るつもりだ」

 

『ただの保険のつもりだったのだがな』

 

 全くだ、と同意しながら黒夜は夜の学園都市を滑空する。

 黒に塗られたハングライダーを見付けるのは至難だろう。その蝙蝠は悲劇を生み出す悪魔の頭脳を、再び組み立てるために空を飛ぶ。

 

「(天野倶佐利を殺すだけの計画に、超能力者が二人も出てくるなんてな。本人の化け物さもそうだがこんな状況読み取れるわけが──)」

 

『ま、待て黒夜!異常事態だッ!』

 

「あン?」

 

 もしやマシントラブルか何かか?と眉根を寄せる。シルバー=クロースは駆動鎧(パワードスーツ)を操る男だ。マシントラブルはいい話ではない。

 だが、そんな事態はシルバー=クロース自身で解決できるだろう。事務連絡だとしてもここまで慌てはしないはず。

 

「何が起こった。それは早急に私へ伝えなければならない事なのか?」

 

『ああ!奴が現れた!あの怪物がッ!』

 

「……『怪物』?」

 

 まさか、天野倶佐利が先回りしシルバー=クロースの前に現れたのか?いや、だとしたら『怪物』などとは言わないはずだ。それこそあの光景を見もしない限り。

 では、シルバー=クロースは誰の事を言っている?この場面で出てくる奴とは一体誰だ?

 

 その答えは本人であるシルバー=クロースの口から伝えられた。

 

 

『学園都市第一位の超能力者(レベル5)一方通行(アクセラレータ)だ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その怪物は学園都市の暗闇から現れた。血よりも赤い瞳を輝かせ白髪の髪を靡かせて歩くその姿は、とても同じ人間とは思えない。

 杖を突くその姿から弱さを連想するかもしれないが、そんなことは有りはしない。核弾頭を撃ち込まれても傷一つ付かないという触れ込みは、その能力の凶悪性を知っていれば、さして誇張でも何でもないことが分かるだろう。

 その人物は呆れたように言葉を発した。

 

「ったく、オイオイなんですかァこれは?オモチャ遊びは他所でやりやがれゴミ共」

 

 迫り来る無数の殺人兵器を見て、その人物が呟いた事はそれだけだった。そんな彼が起こしたアクションはただ一つ。足元の小石を蹴っただけ。

 だが、それをしたのが一方通行だと話が変わる。

 

 

 ギュゴォアッッ!!!!と、聞き慣れない音を発しながら小石がマッハ3で吹き飛んだ。

 

 

 だが、そんな速度で飛べば当然の如く、空気の摩擦により小石は消滅する。実際に小石はその速度に耐えきれず消し飛んだ。

 しかし、それは生み出した衝撃波まで消える事はない。その衝撃波は目の前に居た殺人兵器を軒並み破壊する。

 爆発するその光をスポットライトにして、白い怪物は一歩一歩踏み締めながら歩いていく。

 それをカメラ越しに見るシルバー=クロースの顔はひきつっていた。

 

「クソッ!どういうことだ!?なぜ奴がここに居るッ!!もう一つの残骸に向かって行ったのではないのか!?」

 

 全ての機械を統括するためのトラックの中で呟く、シルバー=クロースの嘆きの声を出した。

 すると、無線機の向こうから黒夜の呟くような声が聞こえてくる。

 

『このタイミングでの登場に狙ったような位置取り、偶然な訳がねェ……。第一位が現れるその理由…………ッまさか!!』

 

 そして、ある可能性に気付き声を張り上げた。

 

『この状況も計算づくかあの野郎ッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チッ、怪我人に無駄な労力かけさせるンじゃねェよボケが」

 

 一方通行は視界に鬱陶しく映る兵器を、一息で無力化しながら一人呟く。彼が何故この場に居るのかと言うと、数分前までさかのぼる。

 

 

 

 

 

 

 

 ガラスが地面にそこらじゅうに散りばめられた、異質な空間が作り上げられていた。この惨状を見ればわかる通りここでは大規模な戦闘があった。しかし、その戦闘は一分もかかっていない。

 それはつまりここにただ一人立つ、彼の圧倒的な勝利を意味していた。

 やるべきことを終わらせ、彼は言葉を吐き捨てるように言った。

 

「それでも、あのガキの前じゃ最強を名乗り続けることに決めてンだよ。くそったれが」

 

 半裸に近い空間移動能力者(テレポーター)が持っていた残骸を木っ端微塵にした一方通行は、そのままその空間移動能力者をフェンスに叩き付け無力化したのだ。

 

 もし、この場にオリ主が入れば、彼の横でカメラを回し撮影していたかもしれない(おそらく無理だが)

 

 やることが終わり自らの病室に帰っている途中、そんな一方通行に声をかける存在が現れた。

 

「はぁ……っ、はぁ……っ、少しよろしいでしょうか?とミサカは体調を明らかに崩しながらも、懸命にあなたに尋ねてみます」

 

「オマエは……」

 

 その顔に一方通行は見に覚えがあった。

 それもそのはず、それこそ実際に一万回以上見た妹達(シスターズ)の一人だったのだから。

 

「ミサカはあなたに伝えなければならないことがありますと、ミサカは簡潔に告げます」

 

「あァン?」

 

 息を乱しながらいる目の前のクローンが、一体何号なのか一方通行には分からないまま話は進む。

 

「もう一つの残骸がある場所が特定され、そこにあなたが向かうように指示が出されました、とミサカはネットワークから送られた不審な情報をあなたに直接伝えます」

 

「……何言ってンだオマエ?」

 

 一方通行は本気で目の前の妹達がバグったのかと思った。

 

「特定されたにも関わらず不審な情報だァ?なんだそのいい加減な情報は。オマエ俺の事をおちょくってンのか?」

 

 そう言いながら一方通行は、妹達の体調が本当に悪そうなことを悟る。

 

「(呼吸の乱れ、体幹のブレに異様な発汗。これじゃあ確かにバグの一つや二つは起きても不思議じゃねェか)」

 

 そんな結論を出した一方通行に妹達は再び声をかける。

 

「いえ、ミサカネットワークにハッキングがありましたと、ミサカはあなたの言い分にムッとしながら答えます」

 

「ハッキングだと?」

 

 その言葉を聞いて一方通行の目の色が変わる。

 

「(ミサカネットワークはクローン共で構築されるもんだ。普通ならそこに介入することは不可能だが、天井亜雄の野郎のようにウイルスを打ち込んだクソ野郎がいやがるのか?

 チッ!面倒くせェ事になりやがったな……)」

 

 おそらく首謀者は残骸を用いて、樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)を作る事に力を注いでいる組織の一人。一方通行の足止めが主な理由だろう。

 しかし、だとすれば分からない事がある。

 

「(何故目の前のコイツはそれについて言わず、残骸の場所を俺に伝える?常識的に考えてネットワークの統括たる打ち止め(ラストオーダー)の治療を優先すべきだろう。

 あのクソガキの話によると他の連中も動いているようだし、わざわざ俺に行かせる必要は無いはずだ。

 ネットワークに介入し思考を無理矢理操作してンのか?いや、それなら打ち止めの方に向かわせるはず。なおさら理解ができねェ……)」

 

 一方通行は思考を回すが答えは出ない。

 そんな一方通行に妹達(シスターズ)は淡々と言った。

 

「勘違いをしているだろうあなたに言いますが、ハッキングと言いましたが正確には成り済ましに近いと、ミサカは目付きがさらに悪くなったあなたにドン引きしながらも伝えます」

 

「チッ、余計なことをいちいち挟むンじゃねェ。……それにしても成り済ましだァ?それに悪意あるハッキングじゃねェだと?一体全体どォいうことだ」

 

 要領を得ない会話に一方通行が苛立つが、妹達は特に気もした様子もない。こんなことは慣れているとでも言わんばかりだ。

 そして、そんな理解ができない一方通行に、愉悦を抱く精神性を妹達が持っている訳もなく、彼女は淡々とその事実を話す。

 その答えを聞いた一方通行の反応は次のようなものだった。

 

 

「は?」

 

 

 彼の返答が「あン?」や「ハア?」じゃないことが、彼の驚き具合を雄弁に現しているだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先程の複合施設から抜け出した俺達二人は、学園都市の夜の街並みをゆっくりと歩きながら話していた。

 すると背中から弱々しい声が聞こえてくる。

 

「あ、あのぉ、わたくしもう立てるのですが……」

 

「そんなこと言ってぇ、さっきまでフラフラだったじゃない。ここは大人しく天野さんに甘えときなさぁい」

 

「君は軽いからね大した負担にはならないよ」

 

「い、いえ、お恥ずかしい話ですが、この頃少し体重が増えてしまったりしているんです……」

 

「何を言っているのよぉ。帆風は逆にもっと食べなさぁい?どちらかというとあなた食べなさすぎよぉ。私の右腕が拒食症なんて笑えないわぁ」

 

「そ、そんな大層なものではございませんよ女王。わたくしの能力である天衣装着(ランペイジドレス)は、体細胞中の電気信号に作用し身体能力を底上げするものですので、無意識に能力が発動しカロリーを勝手に消化しているだけだと思います」

 

「なに?その全自動楽ちんダイエット能力。割りと本気で私も欲しい」

 

 なんか乙女な少女の切迫した声が聞こえたような気がしたが、おそらく気のせいだろう。

 それにしても、とオリ主は思う。

 

「(胸デッカッ!!なんだこの背中に当たる圧迫感は!?みさきちと同じ……いや、まさか超えている……?

 そんな馬鹿なッ!?コイツまさかニュータイプか!?あ、危ねえ……雲川や風斬に会ってなかったら即死だったぜ(錯乱))」

 

 スかした顔で最低なことを考えていた。念話は当然していない。

 すると、横を歩いている食蜂が話しかけてきた。

 

「それでぇ?天野さんは、あの第一位をどうやって呼び出したのかしら?もしかしてメル友だったり?」

 

「いや、彼とはそこまでの交遊関係はまだ構築できていないよ。というか、彼にメル友が果たしているのかな?」

 

 そんなことを話しながら歩いていく。急ぐ理由はない。既にチェックメイトなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 複合施設へ突入する数分前のこと。

 食蜂達と距離を取ったオリ主は自分の携帯を見つめた。

 

「(この事件は原作から外れた話であることは間違いない。だけど、今回のことでミスすることは、原作を致命的に破壊する要因になりかねない。

 つまり、保険に保険を重ねるぐらい慎重の方がいい)」

 

 そこで思い付いたのが超能力者(レベル5)だ。彼らの圧倒的な戦力ならば封殺できる。

 

「(なら、いっそのこと削板に頼むか?削板なら損得なしで頼めば駆け付けてくれるだろうし。

 ……ああいや、ミコっちゃんみたいに『外伝』で学園都市のために動いている可能性もあるし、こんな暗部が深いところまで根付いてる事件に、削板を関わらせたらどんなことになるのか分からないか……)」

 

 この世界は様々なシリーズを統合してできている。それはつまり、俺が転生したあとに連載されたシリーズもこの世界に含まれている可能性があるということだ。

 

「(削板なんて如何にも主人公になりそうなキャラだし、『外伝』が既に発売されてもおかしくはないか……。なら、あんまり削板を頼ることは無い方がいいわけだ。俺が頼ったせいで時系列が捻れる可能性もあるわけだし。

 それに削板は熱血で曲がったことが嫌いな男。この事件の概要を知ることになったら、暗部そのものに喧嘩を売ることが無いとは言えない)」

 

 普段からハチャメチャなのに、さらに燃料を投下したらどうなるか検討も付かない。

 暗部は悪どいことも多くやるが、治安維持をしていることもなくはない。清濁併せ呑むという訳ではないが、暗部がなければ原作通りになんて進むはずもないのもまた事実。

 

「(くそぉ~!一発で解決できる手札があるのに切れないなんて、なんてもどかしい!)」

 

 唇を噛むがすぐに思考を切り替えた。

 

「(だったら上条はどうだ?下手に事件に介入させ無い方がいいかもしれないけど、この騒動で既に関わっている関係者だ。どちらかと言えばグレーといったところか。

 それに、今回のことで上条に降りかかる揉め事は、俺が粉砕すればいいことだし)」

 

 上条と一緒に居ることが多いため、護衛ぐらいは自然とできるだろう。そして、エルキドゥの策敵能力を使えば不自然に動く奴らを炙り出すのも容易だ。

 

「(『アイテム』、『スクール』辺りだと一人で対処するしかないが、今回の敵は少女と青年のコンビ。どちらも二つの暗部組織とは関連性がない。つまりは雑魚と断定していい。

 垣根帝督が女の子を連れて歩いているなんて、そんな馬鹿げた光景あるわけないわな。どこの第一位だよって話だし)」

 

 オリ主は上条を呼び出してもいい理由を、幾つかピックアップしていくなかで致命的な事柄を思い出した。

 

「(そうだ。上条は黒子を救出している最中だった。あれも結構時間はシビアだったはず。俺が変に動揺させて間に合いませんでしたってなったら目も当てられない)」

 

 上条の場合それが不幸になりかねない。それでもきっと助け出すだろうが、引き換えに全身大怪我しました、が普通にありそうで怖い。

 

「(時系列的に次はエンディミオンか?怪我してたら多分乗り切れないと思うから絶対に無理だな)」

 

 時系列がさすがにタイト過ぎやしないだろうか?

 

「(いっそのこと一方通行に来てもらうか。雑魚なら文字通り一蹴だろうし、残骸を破壊するという理由で関わる経緯も動機も充分だし…………とは言っても)」

 

 そう言って電話しようとするが、当然アドレス交換していないため名前があるはずもない。

 

「(電話できないなら方法は一つ。これは、できるかどうか結構怪しいけど……)」

 

 そして、ある人物へと変身したオリ主は、金庫のダイアルを解錠するかのように周波数を調整していく。

 数分後それは偶然にも繋がった。

 

 (どうしました?、とミサカ14454号は通信を受けてその内容に耳を傾けます)

 

 (何かお手伝いできるような事ができましたか?、とミサカ19002号も尋ねます)

 

 (あれ?ってミサカはミサカは、何故か電波の調子が悪そうな10032号に疑問を浮かべてみたり!)

 

「(ご都合主義キター!やったぜマジでラッキーだ!このまま一方通行に来るように伝えt──)」

 

 (ミ、ミサカはその人物が偽物だと報告します。10032号はこのミサカですと、ミサカは他のミサカ達に伝わるように名乗りあげます)

 

「(早っや!バレるの早くない!?というか御坂妹って気絶してたんじゃないの!?)」

 

 空気は一転しお前は誰だという感じで、一万人ほどの女の子から問い質される。どんなドMでもこの数は無理なんじゃないかと思う。数の暴力って馬鹿にできねえや。

 そんな俺はすぐに吐いた。だって怖いもん。

 

 

 (私の名前は天野倶佐利であると、アマノ1号は簡潔に答えます)

 

 

 俺のその発言でさらに揉めにもめて、そこからさらに一悶着あったあと、一方通行を無事呼ぶことになったのだった。




オリ主の弱さとエルキドゥの強さが、この章で書けていたらなと思います。完璧な弱点対策されて振り払えるのが他のレベル5で、できないのがオリ主ですね。

タイトルは正確に言うと(電話で)頼れる男ですね

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