とある原石の神造人形(エルキドゥ)   作:海鮮茶漬け

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90話と分割しました。そのまま書いたら一万字いきそうだったので。
その分話が1話増えます。


89.交渉

 白い怪物は科学が生んだ殺戮兵器の数々を一掃し、辺りには静寂が訪れていた。

 

「くだらねェオモチャでハシャいでる三下共に、この俺直々に現実を教えてやる」

 

 埃一つ着けることなく真正面からそれらを潰した一方通行は、その兵器を寄越した者達に向かって足を踏み出す。蹂躙をするために動く一方通行を止められる存在など一人もいない。

 破壊の行進をしようとした一方通行にの耳に、モーター音が届き一方通行は視線を上に上げた。

 

「あァン?」

 

 その方向を見るとカメラとスピーカーが取り付けられた、一機のドローンが飛んでいる。スピーカーから性別が判別できない機械音で、その言葉は一方通行に投げ掛けられた。

 

一方通行(アクセラレータ)。アンタと話がしたい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどねぇ、突入する前に一人でそんな画策力を発揮していただなんて、思いもしなかったわぁ」

 

「来てくれるかは賭けの部分もあったけどね」

 

 気配察知で杖を突いているかのように、フラフラ歩いている人物見付けたときは、胸を撫で下ろしたものである。

 

「(信じてくれない可能性も無いとは言えなかったしな。まあ、あくまでも保険として連絡しだけだから、別に無視してくれても構わないぐらいの心持ちだったのもあるけど)」

 

 これを幸運と呼ぶかオリ主が築いてきた信頼と呼ぶかは、その人次第である。

 

「だったらもう私達がこうして外を出歩く必要力も、もう無いんじゃないかしらぁ?第一位が居るならそれで充分だと思うんだけど」

 

「いや、第四位はアタッシュケースをどうするか分からないからね。順当に考えれば破壊するだろうけど、それを私利私欲のために利用する可能性もゼロじゃない」

 

「それならば、私達もすぐに向かった方が良いのではッ!?」

 

「それだと逆に余計に混乱を生んでしまうんだ。一歩引いたところに居るぐらいが一番効果的さ」

 

 俺の言葉を聞いた帆風潤子が俺の背中で首を傾げる。そのせいで縦ロールが顔にかかった。……これ遠目でみたら俺が縦ロールしてるように見えないか?

 そんな帆風に食蜂が答える。

 

「つまり、運び屋の人達から見ればどういうことになるかということよぉ」

 

「運び屋の方々から見ると?」

 

「この状況で出し抜けるだなんて思うほど、彼らもさすがに思い上がってはいないはずよぉ。超能力者(レベル5)の能力者三人に追い掛けられる光景を思い浮かべなさぁい?」

 

「………………悪夢ですね……」

 

 今の縦ロールの顔超見たかった!絶対にいい顔してたのに!

 まあ、いい。こっちは背中に当たる感触に幸福と苛立ちを抱いてるんだからなあ!!(興奮)

 …………これってもしかしてプラマイ0なのでは?

 

 い、いや、俺だって無いわけではないのだ。だってBよりだろうがなんだろうが数字としてCだし。そもそもアホみたいな巨乳や超乳がいるから平均値がはね上がるせいで、その被害を被ってるのが俺達なんだよ?胸が大きくないほうが返ってスタイルよく見えたりするから、全然マイナスじゃないし。なんだかんだ巨乳より普通の大きさぐらいが男受けいいし。俺はそっちの方が良いもん。つーか、どいつもこいつも中学生や高校生でそんなにあるわけねえだろッ!日本人でそんなにあることの方が異常じゃない?あれだろ?俺は知ってるんだ。巨乳御手(バストアッパー)だろ?そういった促進剤みたいなのどうかなぁって思うよ俺は。それも一つの個性だと思うな俺は。そもそも女の子の魅力は胸の大きさだけじゃなくて、他にも色々あっt

 

(20行省略されています)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先程まで戦場だったそこで、白い怪物はスピーカーの向こうにいる人物と会話をしていた。

 

「ハッ、雑魚が雑魚らしく命乞いかァ?」

 

『言っただろう取り引きさ。こっちもこっちで色々都合があってね』

 

「取り引きィ?寝言は寝て言いやがれ。この俺がお前と取り引きする利点があるとでも?自惚れてンじゃねェぞ三下。

 オマエらをこのまま潰した方が、どう考えても手っ取り早いだろうが」

 

『今回、私達に依頼した人間が雲隠れするかもしれないのにか?』

 

「あン?」

 

『私達の依頼人は統括理事会に加わるかもしれないと言われているほどの男だよ。いくらアンタでも本気で隠れられたら見付けるのは難しいんじゃない?』

 

「……次期統括理事会ねェ」

 

 残骸を回収しようとする黒幕を知り、一方通行の目が座る。

 

「(まァ、当然と言えば当然か。何でか知らねェが上層部が残骸の回収に動いたような形跡はねェ。なら、当然表立って動いてるのは外部の組織か上の方針に逆らう内部の裏切り者の二択。

 半端な奴ならすぐに潰されているだろォが、未だにコイツらが動いている。つまり、裏切り者は上層部と同等の力を持った人間に絞られるってことだ)」

 

 そこまで思考を回すと一方通行は、馬鹿にしたような笑みを作った。

 

「それにしてもいいのかァ?これで俺がオマエらから聞く情報が一つ減っちまったなァ?自分から寿命を削る真似するなんざ、今回の馬鹿は自殺志願者かなにかですかァ?」

 

『おいおい、逆に聞くがアンタが置かれた状況を、正確に分かって言ってるのか?一方通行』

 

「ハァ?何を言って──」

 

 

 

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「…………」

 

 

 

 その言葉を聞き一方通行の目線が今までよりも鋭くなる。

 

「(……この野郎。電極のことをどこで知りやがった)」

 

『アンタの電極はあとどれくらい持つのかね。

 それこそ、私達を見付けて潰すことぐらいは簡単だろうけど、既にもう片方の残骸(レムナント)を片付けてたアンタのバッテリーは、その統括理事会ほどの権力を持つ男をぶち殺すまで、果たして持ってくれるのかな?

 奴ならアンタがガス欠してる間に、完璧に雲隠れするくらいはわけないし、なんなら部隊の一つでもアンタに送ってくると思うけどね』

 

「チッ!」

 

 図星だった。一方通行のバッテリーは四分の一しか使ってはいないが、スピーカーの向こうに居る敵は、間違いなく逃げることに全身全霊をかけるだろう。

 そうなれば、その追いかけっこで大量にバッテリーが消費されることは目に見えている。

 

「それにしても、随分とペラペラ吐いてくれるじゃねェか。それなりの報復の一つや二つはあるンじゃねェのかァ?」

 

『まあね。でも、先に裏切っていたのはあっちだ。このままじゃ私達まで暗部から追われ続けることになる。

 わざわざそこまでして義理立てる理由もない。ペナルティも甘んじて受けるよ』

 

 学園都市の闇は知っていても、まだ暗部の世界を知らない一方通行には、そのペナルティがどんなものなのかは分からないし、知りたいとは思わない。

 だが、それがこの先一生自分には関わりがないと思うほど、彼は能天気ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回の事件でアタッシュケースを破壊する動きと、回収する動きがあるのは分かるわね?私達は当然破壊する側。天野さんの話によると第一位も破壊する側らしいわぁ。

 運び屋さんは分かる通り回収する側。そして、第四位のチームは不明だけどその組織の結成目的から、どちらかと言えば破壊する側なんじゃないかしらぁ」

 

「そして、運び屋の彼女は第四位のチームの女の子と既に戦闘をしてしまっていて、メンバーの一人と顔見知りで性格を熟知している。そして、チームメンバーの中には僕以上の策敵能力者がいるようだ。

 彼女の立場なら第四位の方に交渉を持ち掛ける可能性はまず無いだろうね」

 

 敵の敵は味方と言うけれど、黒夜にとって『アイテム』は地雷が多すぎる。その上、交渉も『アイテム』が残骸(レムナント)を回収する側でなければ、意味をなさない低い可能性。

 

「彼女は僕のデータを集めていたようだからね。僕と彼の仲がそれほど悪くないことも知っていたはずだよ。

 僕から彼に頼んだことも当然思い付くはずさ」

 

 今回の俺の弱点対策からみても、間違いなく俺が今回の騒動に首を突っ込んで来るのを予測していた。つまりそれは、俺の過去やら人物像を入念に調べていたことに他ならない。

 なら、敵対したあとも病院にお見舞いに行ったことも、知っている可能性が高い。

 だが、まあ別に知らなくても関係はない。

 

「第一位の方に交渉を持ち掛け、無事にアタッシュケースを渡せば少なくとも第一位の方はどうにかなるかもしれないわ。脅威力で言えば当然第一位が飛び抜けているわけだしねぇ。

 天野さんの話じゃ彼はアタッシュケースを破壊するらしいし、御坂さんにアタッシュケースを破壊するように頼まれた私達も、そうなればわざわざ運び屋さんを追う必要力もなくなる。この時点で二人の超能力者(レベル5)が追っ手から居なくなるわぁ」

 

「それも交渉次第だけどね。彼がその気になれば徹底的な殲滅になるかもしれない」

 

「まあ、それはそれで私達と第一位が組んで制圧すればいいわけだし、どのみち結果は見えてるってことだゾ☆」

 

 黒夜がまだ諦めないなら少ない可能性を信じて、『アイテム』と一時的に交渉し、一方通行に対抗するっていうのが方法の一つだけど、相性最悪の絹旗が居ることや滝壺の存在から『アイテム』と組む可能性はゼロだ。

 そして、一方通行の弱点はチョーカー型の電極のバッテリーのみ。それを俺達でフォローすればもう敵はいない。

 

「ですが、それだともし第四位の方の目的が残骸の回収なのだとしたら、彼らは追われ続けるということではないでしょうか?」

 

「それについての対処法はあるわぁ」

 

「第四位の所属するチームは暗部組織だ。なら、裏で交渉や取り引きをすれば、顔を会わせることなく終わらせることも不可能ではないよ。とはいえ、かなり厳しいけどね」

 

 そこまで言うと携帯に着信がかかってきた。

 その番号は非通知だったが、その人物にあらかた予想ができたため素直に通話ボタンを押す。前にミサカネットワークで教えたのだから、おそらくその誰かだろう。

 電話越しに聞こえたその声はめちゃくちゃ明るいソプラノボイスで、誰が電話をしたのかは一目瞭然であった。彼女は無事にアタッシュケースを一方通行が破壊したことを連絡してきてくれたのだ。

 それを聞き終え携帯を再びしまうと歩く方向を変え、二人の住居がある学舎の園に歩いていく。

 

 こうして彼女達の戦いは幕を閉じた。殺伐とした非日常からいつも通りの日常へと彼女達は帰っていく。

 しかし、それこそが彼女達が守るべき大切なものなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、帆風に暗部の知識はいらないから、私の能力で削除しとくゾ☆」

 

 ピッ。


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