とある原石の神造人形(エルキドゥ)   作:海鮮茶漬け

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一話増えるとか書いておきながら、後日談は新章の冒頭でするつもりですので、この章はここで終わりになります。ごめんなさい
【速報】次回、日常回。

※プランBをCに変更し、プランDを保険に変えました。


90.黒夜の目的

「チッ、全く無駄足もいいところだぜ。こんだけ戦力ぶち込んで戦果が無いどころかペナルティとはな」

 

「文句があるとするならば私の方だと思うが。保険は用意していたが、あの絶対的に有利な状況で敗北するなど全く思わなかったぞ」

 

 そう話す二人はとある路地裏を歩いていた。暗部の依頼を失敗をした二人にはそれ相応のペナルティが待っている。学園都市の闇からは逃げられないし、逃げればもう暗部には戻れない。

 二人は指定されたその場所まで粛々と歩を進める。

 

「ふン、あんなもんは集めてきたデータに不備があったんだ。データが間違ってるのにデータに基づいた作戦が成功するはずもねェ」

 

「はぁ……、ではどうするつもりだ?統括理事会の依頼は」

 

「……口惜しいがあの化けモンに手を出すのはヤメだ。『アレ』がある限りこっちに勝機はまずねェからな」

 

 そこまで話すと黒夜の携帯から着信がかかってくる。液晶にその名前が出ると黒夜は鬱陶しそうに通話ボタンを押した。

 

「どォも、こちら黒夜ちゃんでェーす」

 

『オイ、貴様ら!よくもこの私を売ってくれたなッ!?どうなるのか分かっているのだろうな!!』

 

 電話越しから怒鳴り声が聞こえてくる。黒夜に依頼した男によるものだ。

 

劣化模倣(デッドコピー)などを相手にするからこうなるのだ!大人しく残骸だけを運んでおればこんな事にはなっていなかったもののッ!』

 

「いやーそれはどうかなァ?あの場で潰しておかないと安心にはほど遠いと思うけどねェ。まァ、確かに欲をかいたっていう側面が無いってこともないけど」

 

 黒夜は既に男を依頼人としては見ていない。どちらかというと出荷される家畜かなにかに見えている。

 男は捲し上げてこう言った。

 

『貴様らは私と共に地獄行きなのだ!今さら『上』に媚を売ってもどうにもならんぞ!自分達だけ無罪放免になるわけが──』

 

「まず、私達は箱の中身を知らなかった。そりゃあそうだよな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『ッ!』

 

 そう、黒夜達はその中身がなんなのか説明を受けていなかった。だが、暗部ならばどちらかというとこれはよくある話だ。

 これを黒夜は逆手に取る。

 

「その証拠はちゃんとデータを復元して私達の手元にある。つまり、文字通り私達はなにも知らず使われた、哀れな使いっぱしりなんだ。中身がなにか知っていたアンタよりは、まだ言い訳の余地はあるだろうさ」

 

『だ、だが、それでは』

 

「まァ、当分の間は上層部の都合のいい犬かねェ。でも、報復まで来るかは怪しいラインだと思うけどな」

 

 黒夜も学園都市に敵対して、絶対に安全であるとは断言しない。それを無邪気に信じるような時期は、物心つく遥か前に過ぎ去っている。

 

「それじゃあ、お互い生きてたらまた会おうぜ。じゃあな」

 

『ま、待て!私はこんなところで──』

 

 ピッ、という音で通話は終了した。

 男は最後の最後まで足掻き続けるだろう。だが、それは次の陽の目を見れるかどうかという僅かな足掻きでしかない。

 黒夜は携帯を非通知状態に設定し、ポケットに締まった。

 

「これで、私達の野望も終了だな。失敗ってのが情けないが」

 

「だが、他のプランとは違い報復の可能性はかなり減った。深く闇に潜ることで得ることも多くあるはずだ。綱渡りには変わりないがな」

 

 その言葉を聞くと黒夜は残骸を回収する前日に、シルバークロースと話し合ったときのことを思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アジトで黒夜とシルバークロースは、顔を付き合わせて会議をしていた。液晶越しのやり取りではないのはハッキングで傍受されるのを防ぐためだ。

 そして黒夜が切り出した。

 

「今さっき依頼の要請が届いた。内容はアタッシュケースを目的地に運ぶということだが、ほぼ間違いなく樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)の残骸の回収が今回の依頼だ。予定通り私達はこの依頼を受けるぞ」

 

 最後に受諾するかどうかをシルバークロースに問う黒夜。その問いにシルバークロースは返答した。

 

「それについては構わないが、これが私達の進退を決める岐路になることは間違いない。あらゆるパターンについてあらかじめ用意しておくべきだろう」

 

「当然だな。今回ばかりは臨機応変に対応するじゃ不十分だ。私もそれについては既に考えてある」

 

「ほう?」

 

 興味深そうにシルバークロースが疑問の声を上げた。黒夜は指を四本立てて話し出す。

 

「まず最悪なものから説明していく。プランDは天野倶佐利を殺せず、残骸を回収できなかった場合。全ての責任を依頼主の統括理事会候補の男に押し付ける。これは失敗したときの保険だな」

 

「なるほど。確かにその場合それしか私達が生き残る方法はないか」

 

「次にプランCだが、もし私が天野を殺せなければ依頼主の男に残骸をそのまま渡して、権力の恩恵を頂く」

 

「あの次期統括理事会候補の男か。慎重派だが自己中心的で傲慢な気性。そこまで優良物件とは言えないな」

 

「だが、奴には権力がある。その一点にのみ私は奴を評価している」

 

 言外に暗部としては落第だと黒夜は述べた。それに対し、シルバークロースはもちろん異議を唱えることはない。

 

「そして、プランBだがこれは私が天野を殺したあと、なんらかの勢力によって残骸が奪われた場合は、天野の死体を統括理事会の一派に渡して権力を得る」

 

「グレードは下がるがなくはない……か」

 

「そういうことだ。プランCと比べると上等なものだが、プランAと比べちまうとどうしても物足りない」

 

 そう、この運送依頼は黒夜達にとって、暗部のよる依頼というだけではない。彼女達にはプランDはもちろん、CやBですら成功とは言い難い。

 つまり、その最後の路線こそが本命。

 黒夜はその第一志望の策を話す。

 

 

 

「プランAは天野倶佐利を殺し、樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)の残骸を私の物として回収したあと、改造を施して外部演算装置として活用する算段だ」

 

 

 

 あの樹形図の設計者を個人で所有するという暴挙。それこそが黒夜の真の目的だった。

 

「第一位が入院していることを知り、探りを入れたのが功をそうしたな」

 

「ああ、あの三人組をけしかけた意味があった。お陰であの最強様が脳ミソに、電極なんてモンを取り付けていることが分かったからな。ただの捨て駒だったが良い情報を私達に与えてくれたよ」

 

 黒夜は一方通行だけではなく、様々な能力者にこうした事をして、生きたデータを手に入れていた。戦力差などを正確に測るためだ。

 シルバークロースが呆れたように言った。

 

「それにしても、『一方通行用の秘匿兵器』か……。よくそんなデマを流せたものだ」

 

「おいおい、別に私が言い出したわけではないぞ?実際の物とは天と地も離れているが、予算を出させるためにはそれぐらいの触れ込みが良かったんだろうよ。

 実物を知っていながら、既に形骸化しているそれを広めたのは私だけどな」

 

 元からある情報を広めただけならば、そこまで労力が必要なわけではないのだ。匿名を名乗りそれを公にすればいいだけなのだから。

 

「それに、あの三人のカスさと触れ込みの割りに、チープすぎるその兵器が真実を詳しく調べようとする思考を妨げる。

 実際に、一方通行は自らを狙う路地裏の奴らとそう変わらないと認識し、警備員(アンチスキル)にそこら辺は丸投げしたみたいだしな。

 ……とはいえ、あの後天野倶佐利が一人で、学園都市を走り回り情報収集しているのを知ったときは、さすがに驚いたがな」

 

 あの三人とは直接的な接触はしておらず、本人達ですら誘導されたと理解しているのか怪しいほどに、黒夜は自身の存在を必要以上に隠した。

 それをオリ主が暴き出せるはずもない。

 

「まァ、あの兵器のことは私が誰よりも知ってるからな。噂を流すのは簡単だった」

 

 覚えているだろうか?約一週間前。カエル顔の医者が勤める病院でテロが起きたことを。

 そのときの首謀者である、そばかすの少女のことを思い出して欲しい。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「あれは空気を圧縮して販売する企業の、研究施設で生み出された兵器だ。窒素を圧縮して貫く私の窒素爆槍(ボンバーランス)をモデルに作られた工学兵器。

 攻撃力を上げるために液体窒素やら付け加えたせいで、既に原形が残っちゃいないがな。まあ、私に目を付けた理由は理解できる。

 一方通行の能力を工学で再現するなら、建物などの建築物が最適だ。計算した衝撃のベクトルを散らしたりすることは、動いていると余計に複雑になったりするからな。兵器として実用段階に移ることはまずあり得ない」

 

 工学技術のできることとできないことの範囲を、黒夜は既に調べている。彼女は専門的に工学系を学び直しているのだ。自身をさらに高みへと昇らせるために。

 黒夜は続けて言った。

 

「絹旗ちゃんの窒素装甲(オフェンスアーマー)を工学で再現するなら、体の周辺に窒素を展開しなくちゃならねェが、そんなことするなら素直に駆動鎧(パワードスーツ)の品質向上に、力を入れた方が合理的だ。

 そいつらに比べると私の窒素爆槍は工学化しやすい。手のひらから窒素を圧縮して打ち出す仕組みを作り出せばいいンだからな。

 私が流した噂もあながち間違いじゃない。奴らは一方通行の演算パターンを植え付けられた、『暗闇の五月計画』の被験体である私に目を付けた訳だしな」

 

 一方通行を打倒するという大言壮語を、彼らの組織は最後まで掲げることはしなかった。しかし、最強の能力者である一方通行の恩恵を少しでも得ようと、画策していたのは変えようがない事実である。

 

「一方通行のデータの取得と共に、お前の能力を工学化しようとした奴らに対しての報復も、あの騒動は兼ねていたというわけか」

 

「まァ、逆説的に私の能力が工学技術との相性が良いことを理解した切っ掛けでもあるがな」

 

 そこまで言うと黒夜は話を戻す。

 

「能力強化の足掛かりと共に、演算能力も強化できる機械さえあれば、大能力者(レベル4)の枠組みからも逸脱できるかもしれねェ。暗部で上を目指すならどうしても能力の強さは必要になる」

 

「私も駆動鎧に行動を補助するAIを搭載しているから言えるが、確かに有用だろう。私とは違い黒夜の場合は統計を集めても無意味だ。より高度な補助装置が必要となる」

 

 シルバークロースのコレクションの一つである駆動鎧は、思考に割り込みをかけ、無理なく滑らかな動きを最適な動作を実行できる。その結果人体を破壊する箇所を練習なしでくりだせたり、プロの格闘家並みの動きを再現できるのだ。

 しかし、能力者の場合はそうではない。なぜなら同じ能力で全く同じ動きをする能力者などいるわけがないからだ。似たような能力でも発動条件や出力が変わるのは当たり前。

 さらに黒夜は『暗闇の五月計画』の被験体という変わり種だ。該当能力者はさらに減る。

 

「それで、目を付けたのが樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)だ。その残骸を再び組み立てて私専用の装置に作り替える。あの完璧な数値を算出できる機械なら、確実に私にとってプラスになる」

 

「だが、樹形図の設計者は間違った予測をしたと聞いたが」

 

「ハッ、あんなもん『原石』なんていう不確定分子の存在や、一方通行の能力の暴走が主な原因だろう。

 無能力者(レベル0)のガキがしたことなんて、どうせ偶然湧いたラッキーパンチかなにかだろ。

 あの実験が凍結した本当の理由は、一方通行の能力の暴走による致命的な成長の変化を怖れてだ。樹形図の設計者が演算を間違えたから、なんて理由じゃない」

 

「つまりは、一方通行の心理的なものによるイレギュラーを、科学者達が計算していなかっただけ、というわけか」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。シルバークロースは黒夜と同じ結論に至った。

 

「前例は確かにあるンだ。それも学園都市の天辺である、あの第一位が演算能力を工学技術による外部演算に任せてるんだからな。なら、同じくしてそれに続くのが成功への道だろう?

 一方通行を越える演算装置を手に入れ、優れた武器を手に入れ、絶大な権力を手にする。それが全て揃ったとき私は奴を越えることができる」

 

 未来予知レベルのシミュレーションを可能とする演算装置ならば、黒夜のパフォーマンスを限界以上に引き出すことも決して不可能ではないはず。

 そして、依頼主である男のことをシルバークロースは思い浮かべた。

 

「プランDに関しては言うまでも無いが、プランA、Bの路線となった場合黒夜は残骸を私物化し独占するつもりだろう。だとすると、あの男が黙ってはいないはずだ。それについてはどうする?」

 

「そのときは次期統括理事会候補の男を殺して黙らせる。それが一番手っ取り早い」

 

 事も無げに言う黒夜。

 彼女にとって他人の生死は余りにも軽い。これが暗部で培った価値観である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 とはいえ、その未来も泡沫の夢。

 彼女達は最悪の想定を選ぶこととなってしまった。しかし、彼女の瞳に絶望はない。

 

「今回は統括理事会一派の依頼は失敗したが、連中とのコネはまだ幾つか残ってる」

 

 冷たい闇の中へ向かいながら、黒夜は口を三日月に広げて野心を燃やす。まるでその野心を燃料に、空へ再び羽ばたくのを誓うように。

 

「ここから這い上がってやる。私はまだまだ終わらないぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その『人間』はその全ての様子を窓の無いビルの奥から眺めていた。巨大なビーカーの中で逆さになっている『人間』は、とある『木原』と会話をしていた。

 

「ふむ、なかなか興味深い存在だ」

 

『確かに、私としても彼女に臨床研究の申請を出したいぐらいだ』

 

 その『人間』が会話をしていた存在は、人ではなく一匹の犬だった。ゴールデンレトリバーが葉巻を咥えて低い声で話すその姿は、余りにも人間臭く違和感しかない。そんな珍妙な姿の一人と一匹は会話の本題へと入っていく。

 

『それで、天野倶佐利の正体は掴めたのかね?アレイスター』

 

「ふむ、私が出した結論を端的に述べようか」

 

 アレイスターは今回の騒動の一部始終を、滞空回線(アンダーライン)から盗み見みていた。

 その送られてくる映像と、自身の頭の中に記憶されている古今東西のあらゆる知識を総動員して、天野倶佐利の正体を割り出していたのだ。

 そして、アレイスターは答えを導き出した。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 まさかの答えだった。これには木原脳幹も意表を突かれた。アレイスターは自らの考えを言葉にしていく。

 

「近しい存在は三十三通りほど想定できるが、どれも荒唐無稽でしかない。『原石』というだけの特異性だけでは、存在することは万が一にもあり得ないということだ。

 限りなく低い可能性だが、上条当麻のように様々な要素が重なりあって存在している個体かもしれん。私のような者の手をなくして、あそこまでの成長をするとは思えないが」

 

『ほう、君にそこまで言わせるとはな。科学者としてさらに興味が湧いてしまった。もしかすると『木原』としての(さが)かもしれんがね』

 

「一つ確実なことだが、間違いなく魔術サイドの力を天野倶佐利は有している。彼女が反逆した場合は恋査で止めることができるかどうかは怪しいところだ。

 つまりは君の管轄ということだよ」

 

『はぁ……、やれやれ、ロマンを抱くこともできないというのは難儀なものだ』

 

 落胆した様子でゴールデンレトリバーは口から煙を吐き出した。しかし、彼はアレイスターのために割り切って武器を振るうのだろう。それが彼が与えられた役目であるのだから。

 

 その『人間』はそこまで言うと、別のモニターに映し出されている緑色という奇抜な髪色の少女を見た。長年世界を眺めてきた自らの理解の外に居る存在。

 そんな存在に対して不安も忌避感も抱かず、逆に心の底から楽しむような笑みを浮かべながら、『人間』は言葉を発した。

 

「君が私の計画(プラン)にとって利となる天使なのか。それとも障害となる悪魔なのかどうか、存分に見極めさせてもらおう」




◆裏話◆
その1
実は黒夜の依頼主は一人ではなかったというお話ですね。
残骸を欲しがる次期統括理事会の男と、『原石』である天野倶佐利の身体を欲しがる統括理事会一派の、二つから依頼が来てました。
プランC以外で次期統括理事会候補の男が、生き残る未来はありません(無情)

その2
75話のオリ主のモノローグ
 奴らは囮であり裏では黒夜のような暗部の人間が、本物の『対一方通行兵器』で一方通行の命を狙っている……?
↑このオリ主の思考はちょっとした伏線だったりします

その3
~黒夜の作戦立案に動機まで~
✅簒奪の槍(思想)
✅禁書目録編(樹形図の設計者)
✅絶対能力進化編(一方通行の暴走)←NEW
✅革命未明編(無人駆動鎧)
✅最強蹂躙編(液体窒素の兵器&電極&一通との関係の把握)←NEW
バタフライエフェクトフルコンボだドン!

◆作者の戯れ言◆
そばかす女の使っていたのが窒素爆槍をモデルにした工学兵器?もちろん作者の適当な捏造ですよ?
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