とある原石の神造人形(エルキドゥ)   作:海鮮茶漬け

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題名変えました


92.『平凡』と『特別』

 ぷすぷすと高圧電流を浴びせられて、恍惚の表情をしている変態を蔑むように見る御坂美琴。

 電撃を浴びせられたにも関わらず、何故こんな顔ができるのか超能力者(レベル5)の頭脳をもってしても分からない。普通の人間が通常はありもしない扉が、一体彼女には幾つあるのだろうか?

 

「(いや、別に興味があるわけじゃないけど。どっちかっていうと聞きたくない)」

 

 この後輩は頼りになるときとただの変態であるときの差が酷い。それこそ彼女と関わった人間が、尊敬と失望の感情で板挟みにされるくらいには。

 そんな彼女は今回風紀委員(ジャッジメント)としてではなく、ただの変態白井黒子として行動してしまった。今はフリーのため仕事中というわけではないのだが、それでも彼女は風紀委員のエースである。

 そんな彼女が空間移動(テレポート)で机の上に現れて散らかし、騒ぎ立てたなどと知られれば当然叱責は免れない。それこそ彼女とか。

 

 

「『ねぇ、白井さん?私には街の風紀を守る風紀委員(ジャッジメント)の一員であるあなたが、まるで自分から風紀を乱していると思うんだけどこれは一体どういうことなのかしらあ?』」

 

「ひょええッ!?」

 

「え!固法先輩っ!?」

 

 

 二人が条件反射のように声を上げる。おそらく人生で叱られてきた人間の中で、その人物はトップ3に入るほどに関わり深い相手なのだからそうなるのも自然だろう。

 しかし、この場には彼女の後輩ではない人物が二人いた。

 

「うぅん……?いや、でもなんか髪色が随分と……」

 

「……ああ、なるほどね。そういうこと」

 

 声よりも姿の方が馴染み深いため二人はいち早く気付けた。初春も一瞬遅れて違和感に気付く。気付かないのは彼女の前に後ろ向きでいる彼女だけだ。

 

「『風紀委員で正規員に対して特別訓練メニューが今練られてるって話聞いたことある?男性の風紀委員は既にその特訓内容が実際に有効なのか試されたんだけど、女性の風紀委員はまだ誰も体験してないのよね。そうだ白井さん参加してみる?ダイエットの効果も期待できるそうよ?』」

 

「……ダイエット?」

 

 その単語に少しばかり惹かれるが、次の言葉でそんな幻想は打ち砕かれた。

 

「『ええ、なんでもスポーツテストで最高に近い成績を出した風紀委員の男子が、疲労で倒れて最後までメニューを完遂できなかったらしいのよね。体重も一日で3キロ減ってしまったそうだけど、元気が有り余っている白井さんには楽勝よね?』

 

「誠に申し訳ございませんですのおおおッ!!」

 

 全力の謝罪が店内に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁーー。本当に勘弁して欲しいですわ。心臓が喉から飛び出るかと思いましたの」

 

 結局、四人と一人は店を追い出され、そこら辺をぶらぶら歩いていた。

 

「私も本物の固法先輩かと思っちゃいましたよ」

 

「私も声だけ聞いてたら完璧に間違えてたなー。再現度が凄かったもん。あと【どんな能力でもコピーする能力をもつ女】の都市伝説を実際に見れるときが訪れるとは思いませんでしたよ!」

 

「あはは……。佐天さんは相変わらずね」

 

 美琴は佐天の反応に呆れた風な反応を見せているが、実は内心ではこの場にいることに気まずさでいっぱいであった。

 

「(絶対能力進化(レベル6シフト)計画のときに喧嘩売って怪我させておきながら、計画を凍結させるのに協力してもらって、残骸(レムナント)のときも力を貸してもらった。

 そんな人物にどの面さげて和やかに話せって言うのよ……)」

 

 彼女の気持ちも理解できるだろう。犯人だと勝手に思い込んだあげく、その人物に一度ならず二度も助けられるなど、考えられる想定の中でも最低の部類だ。

 そしてそこに生まれる問題がもう一つ。

 

「(今すぐにでも謝りたいけど、みんながいるからそれもできないのよね……。

 理由は間違いなく聞かれるだろうし、はぐらかしても初春さんなら監視カメラやデータのハッキングやらで、万が一だけどあの計画の一端を掴みかねない。

 そのせいで暗部なんかに目をつけられるかもしれないし……)」

 

 彼女達を学園都市の闇に近付けることはなるべくしたくない。それが自分が引き起こした計画ならなおさらだ。

 そんな風に頭を抱えて蹲りたい衝動を抑えていると、横を歩いている佐天が何の気なしに言った。

 

「でも、いいですよねコピー能力って。たくさんの能力を使えるなんてまさに夢の力ですもん。私って無能力者(レベル0)だから余計にそう感じちゃいます」

 

「佐天さんそれは……」

 

「え?……わー!?す、すみません!私なんか嫌味みたいなこと言っちゃってっ!別に嫉妬とかじゃなくて私純粋にスゴいって思ったんです!」

 

「構わないよ。それは君の目を見ればわかるからね。それにこの能力にもかなりのデメリットはあるんだ」

 

「……それって現れる能力が劣化するってこと?」

 

「確かに、それでは完璧なコピーとはならないでしょうが、そこまで問題視するほどのことでしょうか?他の能力と組み合わせることができれば、さして問題にならないと思いますの」

 

「僕も実際にそうやって能力の穴を埋めているからそれは問題じゃない。僕が言っているのはもっと()()の部分の話だよ」

 

「根幹?」

 

 佐天さんがこてんっと首を傾げた。他の三人も同じような疑問が浮かんでいる表情をしている。

 天野はその衝撃的な事実を話し出した。

 

「僕の能力は能力と一緒に、その人物の言動容姿や演算パターンを一部を模倣するというものだ。それを続けていればどうなるか一目瞭然だろう?

 ──つまり、使用者の人格がコピーした相手の人格や、演算パターンに侵食されるリスクがあるんだよ」

 

「「「ッ!?」」」

 

「侵食?」

 

 さらりと言われたその事実に三人に衝撃が走る。佐天は演算パターンと言う言葉だけでその答えに辿り着くことはできなかったようだが、能力を開花させている三人はそれが異常な話だと理解できた。

 

「他人の演算パターンに侵食されるって、そんなことあり得るの!?」

 

「今まで平然としていらっしゃるから見落としてましたけど、……それってもうデメリットなんて言葉で片付けて良いことじゃないですよ!?」

 

「そうですの!それこそ未だに廃人になっていない方がおかしいですの!!」

 

「え?え、あの、ちょっと……?」

 

 その言葉を聞いた三人の急激な豹変に付いていけず、取り残される佐天に対して天野は淡々と説明していく。

 

「演算パターンと言うと分かりにくいかもね。少し違うけど簡単に言うなら"その人の思考回路"かな。イメージして貰うと分かりやすいかもね。

 例えば、御坂美琴のようながさつで短気で喧嘩っぱやくて困っているいる人を見ると放っておけない正義感なお人好し。そして友達想いな子供趣味があるツンデレで実は乙女な女の子。

 もし、そんな彼女とまったく同じ思考回路を持ち、ふとしたとき自然と同じような言動をする人間がいるとしたら、それは御坂美琴ではない一体"誰"なんだと思うかな?」

 

「いや、でもそれは」

 

「もともと子供趣味じゃなかったのに視線がそれに釘付けになったり、ちょっとしたことで短気になったり、言いたいことを上手く言えなくなったりすることは違和感ばかりだよ。

 それこそ『今の状態はコピーだ』なんて割り切れなくなるぐらいにはね」

 

 その話を聞いて佐天もようやく理解が追い付いた。これは同じように振る舞えば良いなんて次元では無い。自然とした動作で体と頭が勝手に動いてしまうということなのだから。

 天野は理解した彼女達を見て、少し別の角度から能力について話すことにした。

 

「とはいえ、全てが全てコピーした人間と同じようになる訳じゃないよ。それだと自分の全てを明け渡すことと同じだからね。ここにちょうど見本がある。ちょっとやってみようか」

 

 そういうと彼女は御坂美琴に近付きながら能力で姿を変えた。

 

「『お姉様ー!!』」

 

「ええぇっ!?」

 

 先ほどまで結構ガチな話をしていたにも関わらず、白井黒子へと変身した天野は御坂美琴へと駆け寄り手を取った。

 つい癖で電撃を与えてしまいそうになるが、返せないほどの借りがある相手であることを思い出し、その一線を越えないように理性で踏み留まる。

 

「(黒子の思考回路と同じものになるってことは、このあとに起きる展開も同じ……!?)」

 

 それを予見し身構える美琴だが、いつまで経ってもそれ以上のことは起きなかった。

 

「……あ、あれ?」

 

「『まあ、お姉様わたくしがもしかしてこんな往来で、まさか獣のように荒ぶるとでも?あまり倶佐利を舐めないで下さいまし』」

 

「あれぇ……?」

 

 白井黒子という少女の生態……もとい、性格を知っている彼女からすればこの反応は全くの予想外だ。その困惑に緑色の髪をした彼女は手を握ったまま話し出す。

 

「『私のコピーは確かに触れた相手の演算パターンを取得しますが、何も判断や決断全てを囚われるわけではありませんの。例え、お姉様を独占したい、何からナニまで味わい尽くしたいと言った感情が湧いても、その衝動に身を任せるかどうなのかは、わたくし自身が決められます。

 言ってしまえば、食事や睡眠などと言った本能を理性で我慢すると言った具合でしょうかね』」

 

「あ、なるほど。そういう感覚──ってちょっと待った。黒子アンタいつも私のことをそんなふうに見てたの!?」

 

「も、もう!プライバシーの侵害ですわよ!」

 

 照れたように頬を赤く染める白井だが、美琴の方は顔を青くし冷や汗を流していた。彼女の倒すべき敵はもしかしたら一番側にいるのかもしれない。

 そんな今しがた照れていた彼女の敵は、いきなり不審な態度を取り始め震えた声音でその人物に問い掛けた。

 

「そ、それはそうとあの天野さん?どどどどうして未だにお姉様の手を握ってらっしゃるので……?」

 

「『どうせなら、この場でわたくしが示せる正解例を提示しようと思いましたの。あなたはいささか本能に身を任せすぎですのよ。

 こうして手を繋ぎ寄り添うだけで、幾らかはその欲望も抑えることができますし、お姉様もこれぐらいでは電撃などの制裁は下しませんの』」

 

「確かに、私としても一日中手を繋ぐのはあれだし、知人や多くの人前でやり続けたいとは思わないけど、これぐらいで自重できるならその方がいいわね」

 

「お姉様!?なんてことを……!わたくしからのスキンシップが無くなってもよろしいのですの!?」

 

「うん、その方が助かるわ」

 

「お姉様ぁっ!?」

 

 美琴のマジトーンな返答に白井はショックを受けていた。そんな彼女を無視して興味本意で美琴は天野に聞いてみる。

 

「ちなみにだけど、その抑えてる欲求を言葉にするとどんな感じなの?」

 

「『お姉様に抱き付きその華奢な全身をまさぐりたい、わたくしがいなければ一生満足できない体にしたい、という欲求が湯水のように溢れ出て止まりませんの♪』」

 

「思っていた以上にどぎつい返しが来たっ!?ニコニコしながらそんなこと思ってたの!?」

 

 本能に身を任せる奴も大概だが、外面がこんな風に完璧だとそれはそれで安心できないと美琴は実感する。

 彼女は美琴の手から離れ変身を解き、本来の彼女の姿へと戻った。

 

「──僕の能力をその身に宿すなら、絶対に揺るがない自我を持つことが必須なんだ。つまりは自我の強さ。それこそ自分だけの現実(パーソナルリアリティー)の強固さと言っていいかもしれない。

 実際に調べたことはないけど、超能力者(レベル5)を含めた全ての能力者の中で、僕よりも強固な自分だけの現実(パーソナルリアリティー)を持つ者はいないのかもしれないね」

 

「……」

 

 美琴は考える。

 仮に学園都市第三位である自分が、その能力を持っていたら果たして自我を保ったままだったのだろうか、と。

 そして、数秒もせずに結論が出た。

 首を振って彼女は答える。

 

「無理ね。仮に私が宿していても他人の演算パターンに掻き乱されて、自我を間違いなく失うわ。それこそ幼少期から能力を宿しているなら100%」

 

「が、学園都市第三位の御坂さんでも……?」

 

「どんなに強固な自分だけの現実(パーソナルリアリティー)があっても、常に誰かの演算パターンが入力されたら、その人物と自分自身の境目が分からなくなる。

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 信じられない話を聞いて呆然とする佐天に、天野は話し掛けた。

 

「高位能力者になればなるほど人格は歪むし、能力の恐ろしさも比例していく。僕からしたら君の誰にでも波長を合わせられる人並みさは羨ましい限りさ。君は自分が思うよりもずっと特別なんだよ」

 

「その私……」

 

「ふふっ、これで少しは『能力』の異常さが分かったかな?君が今恐ろしいと思った感情を大切にするといい。

 僕はこのあとちょっと会いたい人がいるから、ここで失礼させて貰うよ」

 

 そう言った彼女は横断歩道を渡った。その儚げな後ろ姿にハッとした佐天は、彼女の背中に向けて大きな声で伝える。

 

「あのっ、失礼なこと聞いてごめんなさい!それとありがとうございました!」

 

 首だけを捻りこちらに視線を向けた彼女は、優しい微笑みを浮かべて去っていく。

 自分とはいろいろ違って特別な人だなとは変わらずに思う。学園都市でも稀少な『原石』でもあり、夢のような力を持った高位能力者。

 何も持っていない自分が憧れてしまうのは当然だ。

 無能力者(レベル0)の劣等感から生まれた能力に対する渇望は、幻想御手(レベルアッパー)事件でなくなったけど、能力者になりたいという羨望や嫉妬みたいな心は、変わらずに持ち続けている。

 あんな目にあったというのに、私は『特別』に憧れてしまうのは止められないままだった。

 

 しかし、彼女の言葉から佐天は初めて恐怖を感じた。

 今までとは違い、理想や羨望だけではなく『超能力』という異常さを認識できるようになったのだ。

 これは小さな一歩だろう。今までになかった新しいフィルターを手に入れ、それが見れるようになったというだけなのだから。

 佐天は相変わらず無能力者(レベル0)のままだし、人に自慢できるようなスキルは身に付けていない。佐天涙子はどこにでもいるただの中学一年の女の子だ。

 

 だが、その些細な変化を人は成長と呼ぶ。

 

 物事を否定的な目線で見ることができるようになった。それは嫉妬からでも憎悪からでもない、もっとフラットな視点を彼女は手に入れたのだ。

 だが、それは彼女の性格がまるごと変わったこととイコールではない。

 その好奇心大勢なところは変わらず、噂好きなのも変わらない。親友のスカートめくりを止めるつもりもないだろう。それでも間違いなく彼女は変わったと言える。

 

 なぜなら、以前よりも能力者に対して抱いていた羨望が薄くなったことを、佐天涙子は自覚していたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、そういえば、美偉(みい)の話だと近いうちに特別訓練があるのは本当らしいよ」

 

「「え」」

 

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