とある原石の神造人形(エルキドゥ) 作:海鮮茶漬け
学園都市の街並みをスタスタと迷いなく歩く少女。彼女が通り過ぎた人垣の多くは思わず振り返り、彼女に視線を向けている。それは髪の毛の奇抜さや容姿の精巧さ、そして彼女が纏う空気によるものだ。
そんな風に無自覚で人の視線を集めてしまう彼女が思うことは一つだけ。
「(佐天さんは黙ってれば黒髪ロングの美少女。しゃべり出すととかわいいただの美少女。
へっ、危うく抱き締めちゃうところだったぜ(事案))」
先ほど少女に講釈を垂れていた人物とは、とても思えない内容だった。そんなことを考えていて恥ずかしくはないのだろうか?
「(明るくて楽しいだけじゃなくて、コンプレックスがあるのがいい味出してるんだよねー。あの卑屈さがあるからキャラに深みが出ているというか?
あーもう!抱き締めていい子いい子したいー!!(欲望全開)」
……オリ主は上げた株を自ら叩き落とすのがマイブームらしい。
「(普通普通言いながら佐天さんって美少女なんだよなー。あれはもう普通普通詐欺だね。美少女の時点で普通じゃねえもん)」
顔や動作に出ないことをいいことに、これでもかと欲望をぶちまけるオリ主。
こんなのに説得されてしまった佐天涙子が不憫だ。
「(佐天さんといい感じの関係性を築くために、それっぽい話で先輩風を吹かせたのは我ながらグッジョブだった。本当は特典や転生が理由だから適当なことこの上ないんだけど。
ふっふっふっ!アニメで佐天さんを含めたキャラクターの裏事情は把握している。それを使えば原作キャラとはほぼ確実に仲良くなれるわけだ。俺からみれば全員チョロイン同然よぉ)」
ゲスである。頭の中に打算しかない。
オリ主のこの技術は実は原作でも使用されている。オリ主は知るよしもないが、『創約 とある魔術の禁書目録』にてアンナ=シュプレンゲルが、立ち上げたサイトにアクセスした人々の情報を閲覧し、欲しい言葉を言って聞かせ思うがままに操っているのだ。
つまり、良い先輩を気取っているが、オリ主がしていることは人格破綻者のアンナ=シュプレンゲルとそう変わらないのである。
そんなゲスな事を考えていると、あることに思い至った。
「(なーんか、どっかで見たことがあるんだよなあ……)」
今しがた見た光景が、前世の記憶とリンクしているようなデジャブを感じたのだった。
「(……あと何か大事なことを忘れてるような気がする)」
うーん?と思案しながら首をかしげるオリ主。今の状態を例えるなら、喉に小骨が刺さった感じだろうか。
「(本編である『とある魔術の禁書目録』か?それとも他の外伝シリーズ?……なーんかピンとこない。佐天さんがいるから禁書じゃないと思うけど、超電磁砲でこんなシーンあったかあ……?)」
単行本を暗部抗争編から本格的に集めていたため、それ以前の話は曖昧に知っていた。そのため、いくら前世の知識を思い返しても、詳しい事実を思い出すのは実質不可能なのだ。
「(まあ、いいか。あの感じからしてそこまで事件の進展具合は無いはず。もし、何かあったら
魔術サイドの事件なら十中八九、上条が関わっているだろうけど、流石に数時間で大災害を引き起こす事件に出くわすわけが…………どうしよう普通にありえる)」
上条の人生で一回でも遭遇すれば、逆に奇跡のようなとんでもない厄介事を吸い込み続ける、ブラックホールのような体質は、原作はもちろん今まで隣に居たこともあり、オリ主はよく知っている。
恐ろしい話だが数時間後に会うと、既に学園都市の未来を掛けた戦いのクライマックスなんてことも普通にあり得るのだ。
立ち止まったオリ主は神妙な顔になった。それもそのはず、知らない間に自分の命がついで感覚で、吹き飛ばされる可能性があるのだ。平然としているなんてどんな無神経でもあり得ないだろう。
そして、オリ主は解決案を思い浮かべた。
「(……めんどくさいし直接聞いてみるか?)」
そんなわけで電話をかけてみる。
何度か呼び出し音が鳴ったあとに、上条ではないソプラノの声が電話口から聞こえた。
『え、えと、もしもし、くさり?こちらインデックスなんだよ。どうしたの?とうまに何か用事?』
「(あ、戸惑ってるかわいい)うん、少し彼に確認したいことがあってね。君が出たということは彼はそこに居ないのかい?」
『ううん、居るよ。でも、とうまはばってぃんぐましんと戦っているから、代わりに私が携帯を使うことになったんだよ』
「バッティングマシン?」
すると、上条の声が聞こえてきた。
『成功っていうのは、怖がらずに打席に立って!打ちたいって願って!思い切り振った奴にしか訪れないんだっ!…………あれ?』
『今のとうまのどこに説得力があるのか私には分からないんだよ』
どうやらフルスイングで空振ったらしい。らしいと言えばらしい。
だが、電話口から聞こえた一連の流れにオリ主は疑問を抱いた。
「(まさか、二人が居るのはバッティングセンターか?)」
男子高校生が訪れる場所で、バッティングセンターはさほど珍しい場所ではない。
だが、それには『上条当麻以外』という注釈が入る。
「(原作で上条がバッティングマシンなんて使う事あったか?生活にゆとりがない上条が、そんなところに暇潰しで行くとは思えないんだよな……でも、なんだか見覚えがあるような?)」
もう喉元まで出てかかっているそれがが、なんなのか分からずどうもすっきりしない。
すると、電話口から新しい女の声が聞こえた。
『当麻くーん!もう少しだよ頑張って!』
「(……
オリ主は今さら上条の近くに女の子が突然現れても、大して驚きはしない。それこそ、「だって上条だし」で済んでしまう事だ。
それなのにどうしてオリ主は反応したのか。引っ掛かったのはその呼び方である。
「(上条の呼ばれ方は色々ある。インデックスの『とうま』や土御門や青髪の『上やん』。
ミコっちゃんの『アンタ』や一方通行《アクセラレータ》の『クソ野郎』や『三下』、果てには、食蜂の『交差点の食パン激突男』なんてものまで様々だ。
そして、今呼ばれた『当麻くん』呼びは、実は原作で誰一人呼んでいない)」
不思議なことだが、上条当麻を下の名前で呼ぶキャラクターは意外と少ない。
上条が知り合うパターンの一つとして、窮地を救われ知り合ったというのがあるが、その場合は大抵その戦いが終われば離れてしまうため、下の名前で呼び会う関係性にはなりにくいという実態がある。
元々敵だったというのがあるが、その場合は『あいつ』や『あの野郎』などと言われており、どこか一線を引いたニュアンスが残っているのだ。
そのため、原作に出てきていないはずのキャラクターなのだが、オリ主はその呼び方と声音を知っている。そして、それを決定付ける声が電話口から聞こえてきた。
『い、いや~、上条さんの肩がようやく温まってきましたな~。おーし、見てろよインデックスに
上条の裂帛した声が電話口から聞こえているが、オリ主はそれどころではなかった。
「(アリサって……まさか、
思わずオリ主は地上から遥か空まで伸びる、宇宙エレベーターを見上げた。何故天空までそびえ立つ科学の塔を今まで思い付かなかったのか、不思議でならない。
「(……いや、最近は
宇宙エレベーターの存在は知っていても、まさか昨日の今日で映画の内容だなんて思わないっつの。というか、やっぱり世界の危機的状況まであと数十時間じゃん)」
オリ主は映画の内容を思い出しながらため息を吐きたくなった。しかし、今回はむやみやたらに動き回る訳にもいかなくなってしまったようだ。
それもそのはず、なぜなら
「(や、やべえ……映画の内容なんてほとんどうろ覚えだぞ!?)」
オリ主の前世の記憶はその特異な状況から、『とあるシリーズ』の情報が重点的に残ってはいるが、その残っている記憶も転生した直後の記憶が残っているだけなのだ。
つまり、転生するときに『とあるシリーズ』に関する全ての事柄を与えられたわけではなく、その原作知識は大学生だったオリ主の記憶力が基となる。
そんなオリ主の記憶は、はたして6年前に放映された映画の内容を満遍なく記憶しているのか。
「(無理。穴空きでしか覚えてないわ。これはヘタに介入するとなんかやらかして、本来の結末とは違ったシナリオになる)」
細かく覚えているならやりようはあるが、オリ主が記憶しているのは『アリサ可愛い』と『お泊まり回』と『真空ですよおおおお!?』ぐらいなのだ。
その上、今回の事件は失敗してしまうと、今までのようなカバーが出来るか怪しい。
おぼろ気だが上条の病室で土御門が、北半球が未曾有の大災害に見舞われる、とかなんとか言っていた気がする。多分。
もし、それが本当ならミーシャ=クロイツェフ。つまり
「(ここは放置が適切かな。何ができるのか明確なビジョンが定まってないのに、リスクが今までの数十倍はあるとかマジありえん)」
そう結論付けたオリ主は、このあとに約束していた人物へ会いに向かって歩き出した。
「それで、白井さんは昔よりはマシになったとはいえ、一人でなんとかしようって行動しすぎなのよ。
その上、今回は取り引きしていた不審人物を捕まえようとして入院する始末。あの子の能力は強力だけど彼女は紛れもない中学一年生の女の子なのよ。
今回は運が良かったけど、最悪取り返しの付かない事態になっていたかもしれないのに……(以下略」
それで、今何をしているかというと、お分かりの通り目の前の彼女から愚痴を聞いているのだ。
友人である
「(相変わらず話が長ぁい……。もう数十分経ってるのに全然止まらん。愚痴の内容も悪口とかじゃなくて、世話好きな性分からくる心配事だから微笑ましく聞いてられるけどさ……。
でも、そんなに話すことある?子供を心配するお母さんなの?精神年齢高くない?……あ、そっか。オセロが中一で固法が高二だからそこまでおかしくないのか……。
……あんなに命懸けの戦闘をしておきながら、去年まで小学生とかマジ?)」
改めて言葉にするとその事実に呆然としてしまう。オリ主の感覚としては自分より一つや二つしたの、女の子のイメージであったのだ(それでもおかしなことではあるが)。
そんな事を考えていると目の前の机に、コトリと湯飲みが置かれた。
「ごめんねー?みいが迷惑かけて。この子もストレスが溜まっちゃってるみたいで私以外にもこうして吐き出したいみたい」
「うん、分かってるよ。彼女は生真面目で世話好きだからね。心労が他の人よりも溜まり易いんだろう。これぐらいは友人としなくてはね」
彼女こそは固法美偉のルームメイトである彼氏持ちの友人である。名前は知らない。そんな彼女と軽く話していると固法がムッとして睨んできた。
「ねえ、ちょっと聞いてるの?私が言いたいのは──」
「(もしかして酔ってるのかな?)」
余りの口数の多さと絡み方を見て思わず飲酒しているのかと思ったが、ザ・優等生の彼女がそんな事をするはずもない。
単純に黒子は正義感は強いが割りと無鉄砲なところがあるため、安心することができない彼女は、それだけ日々ストレスが溜まっているのだろう。
そんな彼女の愚痴ぐらいは喜んで聞こう。数少ない友人なのだし。
「私が思うに白井さんだけじゃなくて、初春さんも初春さんよ。バディを組んでいるなら補助するだけじゃなくて、止めるところはちゃんと止めることも必要でしょ?
いくら風紀委員としては後輩だとしても、そこら辺はきっちりと線引きを──」
気分が乗らず執筆からちょっとばかり遠ざかっていました。この小説を書き始めて1年3ヶ月経ちましたが、こんなことは今までなかったため作者も少し困惑しています。
もしかしたらスランプ気味かもしれないので、今までよりも投稿スピードが落ちていくかもしれません。