とある原石の神造人形(エルキドゥ)   作:海鮮茶漬け

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実はあのときの子はモブじゃなかったというお話。

姫神の口調を原作通り読点から句点に変えました。



95.吹寄制理の追想

 私、吹寄(ふきよせ)制理(せいり)があの人を知ったのは二年ほど前だった。

 あの日は受験までもう少しなこともあって、寝不足気味で学生バスの中で眠ってしまい、目的地を通り過ぎてしまったせいで、いつもよりも帰るのが遅くなってしまった。

 さらに不運なことに、あの日は工事とかでいつもの道が通れなくて、遠回りしなくちゃいけなかったのよね。だから、近道するために路地裏に入ったのが運の尽き。

 

 私は路地裏で馬面っぽい男と、バンダナを巻いた男に絡まれてしまった。

 その片方の男が逃がさないように私の腕を掴んだ。

 

「は、離してくださいっ!こんなことしていいと思ってるの!?」

 

 そうは言ったもの、見た感じ無能力者集団(スキルアウト)であろう彼らに、こんな言葉を言っても意味がないことは分かっていた。ここで都合よくこんな路地裏に警備員(アンチスキル)が通るわけもない。私は文字通りの絶体絶命だった。

 

「おいおい、そんなツレねぇこと言うなよ。俺達に少しだけお金を恵んでくれるだけでいいからさー。あ、それがイヤならその体で払ってくれてもいいんだぜ?」

 

「おっ、そりゃあいい。確かに結構いい体つきしてるしな。俺達もたまには羽目外して楽しみたいし」

 

 ぎゃはは!ゲラゲラ!と下品に笑っている彼らの言葉を聞いて、金銭だけではなく身の危険まで迫っているのが分かった。

 同年代の女子より発育が進んでいるのは自覚していたけど、そう言った感情をこうして見ず知らずの男達に向けられると、寒気が全身を走る。

 無能力者(レベル0)で自衛手段がこの身一つの私では、運よく一人を不意討ちで撃退できても、残ったもう一人はどうしようもない。私に彼らの拘束を解いて逃げる手段はなかったわ。

 

 そこからはやせ我慢だった。

 我ながら気丈に振る舞いはしたけど、手足が震えてしまっていたと思う。それでも、こんな卑怯な奴らに屈するのは嫌だという意地だけで、あの場は退かなかった。

 あれが対応として良かったのかどうかは分からないけど、それでもきっと無駄じゃなかった。

 

 

 だって彼女が来てくれたんだから。

 

 

 詰め寄られていた私の近くに、白衣を着た人物が突然現れた。それには彼らも驚いていたわね。多分寸前までバレないように接近していたんだと思う。

 私を掴んでいた男はその人にドスの利いた声で威嚇した。

 

「……あ?何だお前。白衣なんか着て科学者かなんかか?」

 

 乱入されて水を差された彼らは、突然現れた人物に苛立ったみたいだった。私は大人の人なら助けてくれるかもしれない!なんて希望を抱いたわ。当然よね今まさに襲われる寸前だったんだもの。

 だけど、それが淡い期待だったことにすぐに気付いた。

 

「おおっ!?すっげぇ美人じゃねぇか!俺達超ツいてるぜ!」

 

 現れたその人は女の子で、私と同年代くらいの少女だったのよ。私は本当に運が尽きたと思って絶望したわ。男二人に対して女二人じゃ敵うわけがないって思ってね。科学者の子なら能力者である可能性も低かったし。

 私が絶望していることに気付かずに、男たちは突然現れた少女の品評会を始めた。

 

「おっぱいはこっちの嬢ちゃんよりはねえけど、平均ぐらいはあるか?まあ、個人的にその個性出しまくってるその髪色は、どうかと思うけど」

 

「そうか?俺としては似合ってるからセーフだな」

 

「ッ私はいいから今すぐ逃げて!」

 

 そんな彼らの言葉に反射的に答えていた。私だけじゃなくて目の前の少女も襲うつもりなのはその会話で分かったから。

 でも、自分のことだけど自分自身の身も危うい状況で、どこにそんな余裕があったのかしらね。

 でも、そのときはこのままだと彼女も被害に遭ってしまう!だから助けなきゃ!って。自分でも不思議だけどそのときはただその一心だった。

 だけど、私が逃げるように大声で言ったにも関わらず、彼女は私の声が聞こえていないかのように、まるで自然体で二人の男に近付いて行った。

 その様子を見たバンダナの男が好奇の視線を彼女に向けたわ。

 

「おっ、なんだ?アンタってそういう趣味があるぼげらぁ!?」

 

「って、半蔵ォオ!?」

 

 その人の細い足から繰り出された蹴りが、バンダナを被っている少年を軽々と壁に蹴り飛ばしたのよ。驚いたわ、人ってあんなに簡単に宙を飛ぶのね。

 そして、その不意討ちが始まりの合図になった。

 たった一撃で一人を倒した彼女は、残っていたもう一人もすぐに倒してしまったの。相手に何一つさせない一方的なものだったわ。

 

 そんな急展開に当然のように私は付いていけずに、呆然としていた私に彼女は近付いて、身を守れる安全圏の場所を教えてくれた。

 

「二十メートル南南西に警備員がいるから、保護してもらうといい」

 

「あ、ありがとうございました!助かりました!お礼をさせて頂きたいので、お名前と通っている学校を教えてもらってもよろしいですか?」

 

 混乱していたけどその対応は間違ってなかったと思う。助けてもらった恩人に報いることはすべきだと思ったから。

 でも、彼女はその与えられるべき報酬を一瞬の躊躇もなく断った。

 

「大したことじゃないよ。それにごめんね、今急いでるんだ。君は運が良かったと思って欲しい。ほら、もうお行き」

 

「はい!本当にありがとうございました!」

 

 それ以上は恩の押し売りだと思って引いたわ。彼女にも何か用事があったみたいだし、それを邪魔してでも問いただすほど厚顔無恥でもなかったもの。

 私が振り返っても彼女はそこにいたわ。彼女も口振りからして急いでいるはずなのに。きっと私を見守っていてくれたんだと思う。

 私はそのときに彼女に憧れたのよ。

 強く気高くなおかつそれが自然体だった彼女にね。それからかしらね腕っぷしを鍛え始めたのは。彼女ほどじゃなくても理不尽に抗える力が欲しかったから。

 

 まあ、それが今では3馬鹿をシバくことにしか、使われてないのが情けなくなるけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、日が過ぎて私は受験に受かって高校生になった。あの日出会った彼女のことは一日も忘れることはなかったけど、同時に二度と会うことが無いと思ってた。

 それもそうよ。だって白衣を纏っていたんだから当然科学者だと思うじゃない。彼女もあのとき男の言葉を否定していなかったしね。

 ……だから、当然長点上機(ながてんじょうき)学園みたいなエリート高の生徒なんだと思ったわ。あの若さで科学者ならそれぐらいの高校じゃないと無理だろうし。

 私は別に勉強が嫌いじゃなかったけど特別できる訳じゃなかったから、そう言った道に行って彼女と再開することは不可能だとすぐにわかった。

 だから、近くの身の丈にあった高校を選んで、彼女のように堂々と自分らしく生きるようにしてきた。それが彼女に対するせめてもの恩返しだと思っていたから。

 

 だから、衝撃だった。一つ上の学年に彼女が居たことに。

 まさか、あの3馬鹿や他の連中が言っていたマドンナが、彼女のことだとは夢にも思わなかったわ。

 私は彼女を科学者だと思っていたし、天野(あまの)倶佐利(くさり)という名前にも聞き覚えがなかった。彼女はあのとき名前を名乗らなかったから当然だけどね。

 

 そして、私はミーハーじゃないから噂になっている人物を見に行ったり、その人がどういう人なのか気になることは全くなかった。どちらかというと、そんな噂に流される連中を注意していたぐらいだ。

 その上、私は先生に頼られやすい(たち)だから、教室を空けることがよくあって、彼女が思い付きで教室に来てもその場に居ないことが多々あった。

 ……奴ではないが、それこそ不幸とでも言うしかない運命のイタズラのせいで、私は彼女の存在を知ることになったのは、二学期の始めとなってしまったのだ。

 

 そして、彼女がこの学校の生徒だと私が知ったのはあの男、上条当麻が深く関わっている。

 

 上条がその噂のマドンナと腕を組みながら、一緒に登校していたとして一時期話題になった。

 上条がどこで痴情のもつれを引き起こそうが私としてはどうでもよかったのだが、上条を捕縛して場を仕切っていた青髪に、そのときの瞬間を激写して、状況証拠として主張していた男子の手に握られている写真を偶然見て、私は驚愕することになる。

 

 

 その写真の中には上条の他に、緑色の長い髪をした私の憧れの人物がいたのだ。

 

 

 それを見た私の行動は速かった。

 全身を覆う黒い布を被ったクラスメイトから写真を奪い取った。今まで傍観者をしていたはずの私が、上条の審問会だか処刑場だかに乱入して場は騒然となったが、私にはそんなことは本当に些細なことでしかなかった。

 だって諦めていたことが実現できるかもしれなかったのよ?風聞なんて気にしてられないわ。

 

 まあ、勢い余って縛られている上条の胸ぐらを掴みながら問い詰めたのは、さすがに動揺しすぎだったとは思うけど。

 

 そして、そのときにようやく彼女がこの学校の生徒で、私の一つ上の先輩だと知ったのよ。それを知ったときの衝撃は凄まじかったわ。

 だって、もう話すこともできないと思っていた人物が、こんな近くに居ただなんて信じられる?こんなの余りにも私にとって都合が良すぎて、何度も上条に特徴を聞き出して確認を取ったほどだもの。

 そして、私は彼女──いいえ、()()()()のクラスを翌日には聞いて会いに行こうとしたわ。あのときの感謝を改めて伝えなきゃって思ってね。

 でも、私はそのときあることに気付いた。

 

 天野先輩の噂は学校中に広まってる。それは本人も気付いているはず。連日その話で持ちきりのときもあったみたいだしね。

 だから、天野先輩はこう思うと思ったの。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 「今まで忘れていたけど不意に思い出したから、こうして会いに来たのではないのか」私はそんな社交辞令の一環として天野先輩に認識されるのことが何よりも怖かった。

 だって、私はあの日のことを忘れたことなんてなかったし、私は今まで出会ってきた人の中で一番に天野先輩を尊敬してる。それを誤解されたくなかった。

 

 でも、なんて説明すればいい?

 「噂の人物があなただとは知りませんでした」、「もっとエリート校に進学しているかと思っていました」なんて言えば良かった?

 そんなことできるわけがないじゃない……っ。だってこのあり得ないはずの一瞬を何度も私は夢に見てきたんだもの。それがこんな言い訳ばかりの情けないものだなんて絶対に嫌だった。

 彼女と再び会うときは、胸を張って堂々としている自分を見てもらいたかったのよ。ただの自己満足だけど彼女の背中を追って来た私としては、そこだけは譲ることができなかったから。

 

 あと、彼女はあのときにお礼はしなくてもいいって言っていたから、私が足を運ぶのも迷惑なんじゃないかって思ってね。

 それこそ、入学当初なら新入生らしく、勢いで言えたかもしれないけど、今では新入生としての目新しさよりも、既にこの学校の一生徒として上級生達には見られてしまっている。

 つまり、既に私にはそんな無鉄砲な勢いは無くなっていたのよ。私に残ったのは不安だけだった。

 そして、ずっとその考えが頭を巡って、結局会うことができずに半月が流れてしまった。

 

 でも、その日がとうとう来てしまったの。

 

 朝早く来ていた私はいつものように、先生に頼まれて授業で使う道具の移動を手伝っていたの。その先生は年配の方だから手伝わないなんてあり得なかったし。

 だから、予鈴(よれい)が鳴るギリギリで教室の前に来たのよ。私はそのとき時間があと少しなのを分かっていたから、廊下だけど駆け足で授業が始まる前に教室に戻ることしか頭になかった。

 だから、その特徴的な髪と声音を聞いたのは、全くの不意討ちだった。

 

 そこからはさっきの醜態に醜態を重ねたあの様よ。私の夢の瞬間があんなにみっともない事になるなんて……。ううぅ……っ、……泣きたい。

 

 

 

「そんなに気にする事でもないと思う。彼女もあなたを保健室まで運ぶのは嫌そうじゃなかったし」

 

「そう言う問題じゃないわよ。少しは立派になった姿を見せたかったのに、本人を前にして気絶だなんて。しかも、また助けてもらうなんて…………情けなさすぎる……」

 

 そういうと吹寄はガバッ!とシーツを被って丸まった。今までの彼女らしくなく椅子に腰掛けた少女は少し驚く。でも、それも当然なのかもしれない。

 今までの彼女が相手にしていた人物達と、今回の相手は向ける感情の大きさやベクトルが大きく違う。

 ならば、当然対応の仕方や向き合い方も違ってくるのだから、こんな新たな一面が見れるのもおかしな話ではない。

 とはいえ、人間ふて腐れてしまうとなかなか立ち直ることはできないものだ。普段サバサバしている彼女も例外ではないだろう。

 それを思い、休み時間に見舞いに来ている姫神秋沙はため息を吐いた。

 

「別に嫌いというわけでもないけど。私にやたらと面倒事を押し付けるのは止めて欲しい」

 

 というのも、この姫神。先ほどまでの天野との距離感で質問攻めに遭っていたのだ。姫神はあれだけ一辺に人と話すことがなかったために実はかなりお疲れなのである。

 しかし、姫神は精神的な疲れの中でふと思った。

 

 

 

 

 

 

 ロングヘアーの(よし)み…………個性獲得としてはありかもしれない。




◆作者の戯れ言◆
すまない。話が進まなくてすまない。さらっと書くつもりだったのに1話丸々使ってすまない。

◆話の詳細◆
吹寄も佐天さん同様に一般人視点から見たオリ主ですね。違いは能力者と見るか個人として見るかの違いです。当然、能力コンプレックスがあるかどうかでオリ主の見え方も変わってきます

あと、個人的にオリ主ageって苦手なんですよね。背中が無図痒くなる感じと言いますか
でも、こう言った第三者視点を入れないと話に深みがでないので、悩ましいところです


まあ、最後にやっぱりギャグに逃げちゃうところが、海鮮茶漬けのダメなところなんですけど
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