IS - 女装男子をお母さんに -   作:ねをんゆう

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カレーを食べるだけのお話です


10.カレーは甘めでも美味しい

side箒

 

「ところで一夏、お前は何しにここへ来た?んぐんぐ……わざわざ綾崎の飯を食いに来たという訳でもあるまい。」

 

「あーいや、部屋の扉壊しちゃったから報告しとこうかなって思ってさ。……ん、ほんとに美味いな。」

 

「んぐんぐ……織斑先生、一夏はデリカシーが無かっただけなのです。壊したのは自分なので罰なら私が受けます。……むぅ、甘めのカレーがここまでいけるとは。」

 

「なるほどな、んぐんぐ……大体察した。まあその件に関しては山田先生のミスもある、今回は不問でいい。」

 

「……えーと、皆さん?おかわりはありますし、そんなにがっつかなくても大丈夫なんですよ……?」

 

「「「おかわり」」」

 

「あ、はい。……ふふ、これだけ喜んで貰えるなら冥利につきますね。」

 

戸惑いながらも嬉しさを滲ませて綾崎はカレーをよそいに向かう。

よくできた女性というかなんというか……登校初日にして一部の女子が『お母さん』だなんだと言っていたが、自分の食事より他人の世話を自然に優先しているその様は、確かにかつての母の姿を思い起こさせる。

私達が話をしながらも必死に食べている姿を見ている時の彼女の顔は、正しく子供を微笑ましく見守るような母性溢れるものだった。

 

……完全に自分が女性として負けていると自覚しても悔しいとは思えないのはそのせいなのだろうか。

いや、むしろ力量の差があり過ぎて開き直ってしまっているのかもしれない。

私が男だったら間違いなく嫁にしていた。

 

「……クク、いい女だろう?あいつは。お前等にはやらんぞ?」

 

「何言ってんだよ千冬姉……というか、もしかしなくても家事は全部綾崎さんにやらしてるだろ?千冬姉の部屋が普段からこんなに綺麗なわけがない、それでいいのかよ先生。」

 

「やかましい、別に私から頼んだわけではない。ただ、部屋に帰ると上着も鞄も自然と回収されて、風呂から上がると夕食が用意されていて、気付くと次の日の衣服まで準備されている……自分の私物に触る機会が殆ど無くなったのだ。」

 

「完全に嫁じゃねぇか……いや、もはや妻だな。」

 

「馬鹿を言うな一夏、世間一般の新妻でさえそこまでのことはしてくれんぞ。」

 

「必要な物も言えば出してきてくれるレベルで私にこの部屋をどう汚せというのだ。」

 

「胸張って言う事かよ……ってかすげぇな綾崎さん、俺でも定期的に大掃除してたのに、ずっとこの状態を保ってるのか。」

 

「ちなみにあいつには朝食と昼の弁当まで世話になっている。私の胃袋は今、完全にあいつに支配されていると言えるな。」

 

「なぜだ、どう頑張ってもあいつに追いつける気がしない……」

 

「あまり気にするな篠ノ之、後で真実を知った時に押し潰されるぞ。」

 

「???織斑先生、それは一体どういう……」

 

「?皆さん真剣な顔なさって……なにかありました?」

 

綾崎奈桜という人物のエピソードに私と一夏が驚嘆していると、丁度本人が帰ってくる。

大きなおぼんに3人分のカレーを乗せて不思議そうな顔をしているが、こちらとしてはお前の方が不思議な存在だと言ってやりたい。

二杯目のカレーには飽きが来るんじゃないかと、自然に塩キャベツや辛さを変える調味料の類を持ってこれるような、その察しの良さとその気遣いは一体どこに行けば貰えるのだ。

おい、自然にビールを酌するんじゃない、至れり尽くせりで千冬さんが上機嫌ではないか。

一夏ですら苦笑いしかできていないのだぞ、良妻賢母も度が過ぎるのではないだろうか。

 

「ここまで来ると綾崎さんが卒業した後の千冬姉が心配になってくる……」

 

「冗談抜きで生きて行けないのではないか……?」

 

「まあ……ほら、最近は女性同士のそういうのもだんだんと認められて来てるし……」

 

「それでいいのか一夏。」

 

「独身貫かれるよりはマシだろ。」

 

「それ絶対に千冬さんに言うんじゃないぞ。」

 

「言えるわけないだろ。」

 

機嫌の良い千冬さんに抱き寄せられて顔を真っ赤にしている綾崎を見ながら、私と一夏はカレーと塩キャベツに舌鼓をうった。

なんとなくライバルが減ったような気がしてキャベツが進んだ。

 




順調にちっふーが毒されています。

今日の連投はここまでです。
明日から1話ずつ上げてく予定です。
29話くらいまで予約してるので、その間に書き溜めて、書き溜めて、書き、書き、か、か、書き溜めれたらいいなぁ……(願望

オラも世界中のみんなからモチベを分けて欲しい。

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