IS - 女装男子をお母さんに -   作:ねをんゆう

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シチューを食べるだけのお話です。


14.シチューは何派?私は作る派

side奈桜

 

「お母様!聞いてくださいまし!」

 

「綾崎!聞いてくれ!」

 

「「セシリアが(箒さんが)一夏(さん)の訓練を邪魔するんだ(ですの)!!」

 

「……ええっと?」

 

金曜の19時、明日が休みなんてことはIS学園ではありえないけれど、それでも今日も休日前の夜のように寮監室は騒がしかった。

チビチビとお酒を飲んでいる千冬さんと、その横に倒れ伏している一夏くんはこの状況から意図的に目を逸らしている。

僕バリバリ料理中なんですが……

今では一夏くんもたまに料理してくれるから彼には文句は言えないけれど。

 

「邪魔をしているのはセシリアだろう!今日は最初から私が教えることになっていたはずだ!」

 

「それは勝手に箒さんが決めただけですわ!代表戦までもう時間が無いのですよ!?素人の箒さんが教えるよりも効率は良いはずです!」

 

「綾崎さん助けてくれ、2人とも訓練中もずっとこんな感じなんだ……」

 

「あらあら、それは大変でしたね。今日もお疲れ様です。」

 

「というより貴様等は寮監室をなんだと思っている、毎日毎日飯をたかりに来よって……」

 

「いやそれはマジで悪い、千冬姉。でもなんか習慣付いてきちまったっていうか……」

 

「ふふ、かまいませんよ織斑くん。こう見えて千冬さん、皆さんがいらっしゃるとお酒が進むのか、少しだけ飲む量が増えるんです。」

 

「え、そうなのか?」

 

「そうなんです♪」

 

「……ふん、静かな晩酌ができないストレスで飲み過ぎているだけだ。」

 

「外や職員室での食事が減ったのも理由の一つですよね♪」

 

「……それはお前の料理が美味いからだ。」

 

「あら、これは思わぬ所で嬉しい言葉を頂いてしまいました。気分が良いのでおつまみにイカリングでも用意しちゃいましょうか♪」

 

「ぐっ……こいつが卒業した後の自分を考えるのが今から恐ろしい……!」

 

「この数週間で千冬姉が完全に胃袋掴まれてる……すげぇよ綾崎さん……」

 

いつものような他愛のない会話。

最近は一夏くんに千冬さんを甘やかし過ぎだと注意されることもあるが、ちょっと手の込んだおつまみを出すといつも無表情の彼女が少しではあるが笑みを浮かべるというのは癖になるのも仕方ないのではないだろうか。

そんなことを思いながら見ていたのがバレたのか、千冬さんがチラリとこちらを見て直ぐに目を逸らす。

そんな様子をもう少し見ていたかったのだが、元気な2人の子供達がそれを遮った。

 

「「綾崎(お母様)!!どちらが間違っていると思う!?(思われますか!?)」」

 

「まだやってたのかよ2人とも……」

 

どうやら一夏くんに想いを寄せる2人はあの日以来ずっとこんな感じだという。

最初は僕も微笑ましく見ていたのだが、そろそろ一夏くんもウンザリしてきているのか溜息をついているところを見ると、注意した方がいいのかもしれない。

このままでは誰のためにもならないだろう。

 

仕方がない、そう決心をして僕は2人の方へと視線を向けた。

 

「……そうですね、私は2人とも間違えていると思いますよ?」

 

「「なっ!?」」

 

まずは直球だ。

彼女達は言わなければ分からないが、言えば分かってくれる。

純粋な注意が効く程度の信頼は勝ち取っているのだから、少しくらい厳しく言っても大丈夫なはず……

 

「まず前提として、誰かを教える立場にある人間は、誰よりも冷静で無くてはいけません。誰が教えるかで揉めて貴重な時間を減らしている時点で先生失格です。」

 

「……ふん、その通りだな。」

 

「「うぅ……」」

 

千冬さんの援護も入り、落ち込む2人。

ここからはフォローだ、けれどあまり調子に乗らせてもいけない。

あくまで自身の間違いを覚えている状態で2人の心意気を取り戻さなければならない。

2人の熱意だけは間違っていないのだから。

 

「ですが、お二人は織斑くんの先生役をすること自体は非常に適任だったりするんですよ?」

 

「なに?」「本当ですの!?」

 

「もちろんです。まずセシリアさんは射撃のプロフェッショナルです。遠距離攻撃への対処を課題とする織斑くんにとっては最高の相手になります。」

 

「ふふん!流石お母様ですわ!」「ぐぬぬ……」

 

「ですが反面、剣道において全国優勝も経験している箒さんは、ブレードでの攻撃手段しか持たない織斑くんにとって最高の見本です。手合わせをするだけでも織斑くんの成長のお手伝いができるでしょう。」

 

「……ふふ、流石は母さ...綾崎だな!」「ぐぬぬ……」

 

「……ん?」

 

「という訳で、お二人が真に織斑くんのことを想っているのでしたら協力し合うしかないのです。そうでなければ織斑くんは強くなれませんから。お2人が先生を名乗りたいなら、まずはお互いの強味と自分の不得意を認めることが第一歩に繋がるんです。」

 

「むむ……」「頭では分かるのですが……」

 

ここまで来ればあと一歩である。

彼女達がつっかえている原因を直接破壊してあげればいいのです。

 

「……お二人は織斑くんの力になるよりも自分の欲を優先するような人達ではないでしょう?」

 

「「っ!!」」

 

バッと顔を上げた2人。

一瞬の驚愕の後、顔を渋くさせる。

そして少しの時間、自分の考えをまとめるかの様に俯き、悩み、2分ほどしてようやく自分の答えを導き出した。

 

「……セシリア、すまなかった。どうやら私は焦りのあまり本当に大切なことが見えていなかったらしい。」

 

「い、いえ、それはわたくしもですわ。それに、自分の不得意を棚に上げて偉そうなことを言ってしまいました。」

 

「それに関しても私もだ、ISに関することはセシリアの方が適任だと心ではわかっていたのだがな。」

 

「ですがそれも今日この日までです。私達は目を覚ますことができたのですから……!」

 

「そうか、そうだな……!ならば、これからは!」

 

「ええ!私達2人で力を合わせて、一夏さんを世界最強のIS使いに仕立て上げて見せましょう……!」

 

「無論だっ!!」

 

 

「……いや、どんだけ強くさせられるんだよ俺。」

 

 

2人は手を取り合って誓いを立てた。

きっと明日からはこれまでのように一夏くんの取り合いなどということにはならないだろう。

そしてきっと一夏くんを最強のIS乗りにしてくれるはずだ。南無南無。

 

「……とりあえず綾崎さん、ありがとな。俺じゃあどうしようもなかった。」

 

「いえいえ、お気になさらないでください。私は育った家柄、こういったことに慣れているだけですから。」

 

「はは、綾崎さんにかかれば俺達なんてまだまだ子供ってことか?」

 

「もう、織斑くんは時々イジワルな言い方をしますね。」

 

「はは、悪い悪い。」

 

一夏くんの言葉に頬を膨らませつつも僕は片手間にイカリングを作り始める。

 

……まあ、人を叱るというのはただ声を荒らげて正論を叩きつければいいというものでは無くて。

怒鳴りつけなくても、殴らなくても、その子にあった注意を見つけてしてあげればより分かってくれる。

誰かを叱るということはとても大変なことなのだと、僕はマザーに教わり、孤児院の子供達に実感させられた。

その経験が活かせているだけなのだから、別に本当に彼等を子供の様に見ているわけではない。

 

……1人の男の子のために必死になる2人はとても可愛らしいとは思うけれど。

 

やる気の燃え上がった2人とその間に挟まれて再びげっそりしている一夏くんを微笑ましく見つめていると、丁度作っていた今日のメイン料理がいい具合の匂いを醸し出し始めた。

今日のメニューに一番喜んでいたのはセシリアさんだ、美味しそうに食べる姿を空想するだけで笑みが溢れるほどの喜び様だった。

作り甲斐もあるというものだろう。

 

「さて。そろそろシチューが出来上がりますし、ご飯で食べる方はこちらの大きめのお皿を、パンで食べる方は今のうちに焼いておいて下さいね♪」

 

「ふむ、ならば私は白米にしようか。一夏はどうする?」

 

「一夏さんはわたくしと同じパンですわよね!やっぱりシチューにはパンに決まりですわ♪」

 

「……あー悪いセシリア、俺シチューはご飯派なんだ。千冬姉もそうだよな?」

 

「ああ、だが少なめで良い。私はシチューの方をメインに食べる方だからな。」

 

ガーン!と、セシリアさんが崩れ落ちる。

彼等は生粋の日本人だから仕方ないと言えば仕方ない。

確かにその辺りは人の好みにもよるもので、パスタで食べる人だっている。しかしやはり日本人にはご飯で食べる人の方が多いような気もするのだ。

 

……けれど、まあ、せっかくなら楽しく食べてもらいたいし、僕はこれといった好みもないので今日はパンで食べることにしてもいいかもしれない。

 

「そ、そんな……ここにはパン派はいませんの……?」

 

「セシリアさん、セシリアさん。今日は私、ちょうどパンで食べたい気分だったんです。まだ手が空きそうにないので、今のうちに私の分も焼いておいてもらってもよろしいですか?」

 

「……!!も、もちろんですわ!お任せくださいお母様!わたくし、最高の加減で焼いてみせますわ!!」

 

パァッと花開くような笑顔を見せるセシリアさん。こういったところも彼女はとても可愛らしい。

 

流石にセシリアさんもパンを焼くことくらいはできるよね……?

 

若干心配になったのでトースターの前でじっとパンを見つめているセシリアさんを目の端に置きながら片付けを進める。

すると2本目のビールを取り出しに台所へとやって来た千冬さんが、呆れた顔をしながら僕にボソリと言葉を零した。

 

「……なんというか、お前は本当に母親くさいな。」

 

母親くさいってなんですか。

 

 

 

「お、この人参ハート型だ。」

 

「あら。織斑くん、当たりを引いたんですね。内緒でいくつか入れておいたんです。」

 

「なに!?……私のは星型だ!」

 

「わ、わたくしのは!普通ですわ……」

 

「ふふ、それではセシリアさんには私のダイヤ型を差し上げましょうか。」

 

「なっ!セシリアばかりズルいぞ母さん!」

 

「「母さん…?」」

 

「あっ、いやっ!……ま、間違えただけなんだ!ほんとだ!信じてくれ!!」

 

「そういえば箒さん、先程もお母様のことを母さんと言いかけて……わたくしの時は変な人を見るような目でしたのにね?」

 

「うっ、うぐ……本当に違うんだ……」

 

「まあまあ。他にも色々な形がありますから、皆さんたくさん食べて、たくさん見つけてみて下さいね♪」

 

 

(……見ているだけで母性に溺れそうになるな。)

 

綾崎の母性の犠牲者が増えていたことが判明した直ぐ側で、織斑千冬はニコちゃんマークの人参を見つめながらそう思った。

 




なぜ突然"かあさん"呼びになったのかは次回あたりで

あとランキング一位ありがとうございま……え……?

最近は皆さんの感想だけを頼りに生きてます。
今後も幸の薄い綾ちゃんのことをよろしくお願いします。

次回【15.母と呼びたくなった理由】

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