IS - 女装男子をお母さんに -   作:ねをんゆう

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主人公に重荷を背負わせるの好き


23.紅蓮の世界

「ま、別に殺す気はなかったんだけどな?それでも私の完全な不意打ちを防いだのは驚いた、お前なかなか面白いじゃん。」

 

黒色の装甲に黄色の線が走ったスマートなIS。

しかし左右に2本ずつの腕が生えており、それが恐らくイメージインターフェイスで動く擬似腕であることが予想できる。

ああいった擬似腕は本来人間に無い部位であるために扱いが難しいとされているが……

 

(搭乗者のレベルもかなり高そう……)

 

突如として背後に現れた理由は分からないが、先程の一閃は間違いなく実力者のそれだった。

この状況で現れたのだから戦う以外の選択肢はない、故に思考は戦闘用に既に切り替えている。

だがそもそも僕の戦闘に勝利という文字は存在しない。増援が来るまでの時間稼ぎをし、相手を引き止めることができれば勝てたとは言えるかもしれないが……

 

「おいおい、私の褒め言葉を無視かよ?言葉くらい喋れるだろ?」

 

「……お褒めに預かり光栄です。ところで今日は一体どのようなご用件でしょうか?」

 

「やっぱ面白くねえなお前、もっと子供らしい反応できねぇのか?……ま、別にお前や学園に用はねえよ。私達が用があんのは織斑一夏の方だからな。」

 

「やはりそうですか、彼は本当にモテるんですから。」

 

「ククク、違いねぇな。」

 

口調と声からして自分より年の上の女性であることは間違いない。

しかしやはり素性までは分からなさそうだ。

……それにしても、やはり男性搭乗者というものは狙われるものなのだなと改めて思い知らされる。

 

「彼を、どうするつもりですか?」

 

「そう気を荒立てなくても、今回は誘拐しようだとか殺そうだとか思ってねぇから安心しろよ。お前だってここに座っててくれれば手を出す気は無いからよぉ。」

 

「……その言葉を信じろと?」

 

「信じられるわけねぇよなぁ?そりゃそうだ、こんな怪しい見た目の侵入者の言葉なんだからよぉ?信じる奴は相当なバカか狂った平和主義者のどっちかだろうよ。……で?お前はどっちなんだ?」

 

「……貴方を捕らえて情報を引き出す、一般人でしょうか?」

 

「くははっ!気に入った!!」

 

ズガシャァンッと再びアリーナの屋根に押し込まれる。

馬力とスピードが段違いだ、ただブレードを防いだだけでかなり大きく押し込まれる。

瞬時加速で追い打ちをかけようとする敵機に対してこちらは右側のブースターにだけ瞬時加速を適用し、瞬時にその場から身体を回転させながら跳ね飛んだ。

瞬間、無茶な瞬時加速を行なったせいで身体が悲鳴を上げた。

骨が軋み、喉の奥から血が滲み出してくる。

しかしここで戦闘が終わるわけがない、より一層歓喜の雰囲気を深めた敵機が二本のブレードを屋根に突き刺し、無理矢理身体を反転させてこちらへ突っ込んできた。

 

「あははははは!いいじゃんいいじゃん!面白いじゃん!!ほら!どうする!?次はどうする!?」

 

2本の腕の武器をブレードから鞭型の武装へと変え、残り2本を銃へと変えた。2方向からの鞭攻撃と前方からの精密な射撃、棒切れ一本では防ぎきれない。

左手に拳銃型のシールド付与武装を展開し、目の前を飛んでいた屋根の破片に向けて撃ち込む。

球型のバリアが3つできたことを確認し、それをペルセウスで正面に打ち出しながら左から迫る鞭を絡み取り、右側の鞭へと向けてそのまま防いだ。左側の鞭がその拍子に破壊されたが、こちらへの被害は全くない。

 

そんな一連の動作を見た敵機はもはや狂喜乱舞で……

 

「あはっ!あははははははっ!いいよ!いいよお前ぇ!なんだよなんだよ!最高じゃんかよぉ!!こんな奴がいやがったのかよ!顔も好みで腕も立つ……くははっ!気に入ったァ!!」

 

4つのブレードを持って切り掛かってくる彼女を再びペルセウスで迎え撃つ。

4本ものブレードを一度に迎撃するのは無理だが、擬似腕のブレードの操作が本来の腕よりも甘いことを利用して、本腕のブレードへ向けて邪魔をさせるように弾いて対応する。

それでも常時2〜3本の腕を相手しているために精神力はゴリゴリ削られていく。軌道をズラして直撃は避けるが、それでもシールドエネルギーはどんどんと削られていく。

 

「あぐっ……!」

 

先に折れたのは当然ながら僕の方だった。

布仏さんを庇った時にできた左腕の傷が今になって悲鳴をあげる、一瞬の油断もできない今になって。

 

「ほらほら終わりかァァ!?」

 

拳銃型シールド付与兵装"遠距離恋愛"、クッソ長ったらしいので"遠恋"と呼んでいるが、咄嗟に左腕に持っていた遠恋を手首だけで上部へ向け、同時に振り上げたペルセウスに向けて撃ち込んだ。

 

ペルセウスから球状に発生したバリアは3本のブレードを防ぎ、ブースターを完全に停止させたことで僕は大きく後方へと弾き飛ばされる。なんとかではあるが、これで距離を取ることができた。瞬時加速の兆候が見られないことを確認して、安全圏へと入った直後にブースターを入れ直して態勢を立て直す。

額に浮かんだ汗を拭いながら敵を見れば、それはもう楽しそうにブレードを振るっている機体がそこには居た。

 

「マジかよ、マジかよ……!アラクネに乗った私の本気の攻撃を無傷で凌ぐのかよ……!っはぁ〜!織斑一夏なんかよりもよっぽど面白ぇ奴が居るじゃねぇか!なぁおい!お前名前なんて言うんだ!?」

 

「教えるわけないじゃないですか。教えたら貴方、しつこく私に付き纏うつもりでしょう?」

 

「当然だ!よく分かってんじゃねぇか!

……そうだ!次はお前が攻撃して来いよ!私ばっかりやってても面白くねぇ!!」

 

そう言って受け身の態勢を取る敵機。ノリノリだ。

……しかし、攻撃できない、なんて事実を敵に晒したくはない。

本音を言えばこのまま増援が来るまで喋って時間を稼いでいたい。

 

だが問題があるのだ。

そもそも増援はいつになったら来るのだろうか?

ここは一夏くんや鈴ちゃんとは違う、アリーナのバリアの外だ。

教師陣のISだって専用機持ち達だって本当なら直ぐに来てくれるはずだった。少なくとも僕の予想ではとうの昔に着いているはずだった。

 

……なぜ、1人足りともここへ来てくれないのだろうか。

 

教師陣はともかく、セシリアさんくらいは無理矢理にでも来そうなもの……しかもそれどころか千冬さんからの通信も来ない事に関しては最早意味が分からない。

隔離されているわけではないのに、他から隔絶されているように感じてしまう。こちらから見えるのは一夏くんと鈴ちゃんが二手に分かれて左右から敵を翻弄している姿だけ。こちらの方が孤独を感じているのではとすら思う、それほどに外部からこちらへの干渉がない。

 

そんな僕の思考を読んだのか、敵機の操縦者がこんなことを言ってきた。

 

「あ、ちなみにだけど援軍とか来ねぇから。」

 

「……貴方の仕業、ですか?」

 

「正しくは私達、だな。IS学園で管理されてるISは細工をして動かないようにしてあるし、専用機持ち共は今頃校舎の方に現れた無人機の相手してんだろうよ。」

 

「……無人機、ですか。」

 

「私の周辺にはジャミングかけてっから通信も届かない、校舎の方に送った無人機は耐久型の奴だからあと30分は稼げるだろうな。頼みの綱のロシア代表殿も今頃空港に釘付け……ほら、諦めて私の相手しな。」

 

ガチャガチャと四丁の銃を取り出してこちらを挑発する敵機……あと30分、稼げるだろうか?

アリーナの障害物を生かせば出来るかもしれない。

だがアリーナにはまだ生徒達が大勢残っている、その様子からするに扉の鍵が開かずにアリーナから出ることができないのだろう。

障害物なんて使えば彼等がどうなるか、考えなくとも想像できてしまう……

 

「……私は、」

 

「あん?」

 

「私は、攻撃することができません。」

 

「……どういうことだ?」

 

時間を稼ぐ。

30分、時間を稼いでみせる。

例えここで自分の弱みをバラすことになったとしても、せめて生徒達がここから出られるまで時間は稼ぐ……!

それが自分にできる唯一の足掻きだ。

 

「私には攻撃の才能が絶望的にありません、故に私にできるのは、避けて、捌いて、時間を稼ぐことだけです。」

 

「……バカにしてんのか?」

 

「試してみます?」

 

ぐっとペルセウスを握る。

それに合わせて身を構えた敵機に向けて大きく振りかぶって飛び込んだ。

 

……しかし、次の瞬間、僕はアリーナの隅に叩き込まれた。

呆気なく、みっともなく、それまでの攻防が嘘のように……

 

「テメェ……」

 

「ごほっ……これで、分かりましたか……?私には攻撃を行うことができないのです……」

 

背後や遠くから僕を呼ぶ声が聞こえてくる気がする。

けれどそんな声を気にしている暇はない、ナノマシンを散布しながらの戦闘を行なっているのにこれ以上集中力は割けないのだから。

 

「テメェ……PTSDか……」

 

「……?精神的外傷のことですか?身に覚えはありませんが。」

 

「チッ、しかも無自覚かよ。タチが悪いってレベルじゃねぇな、クソ勿体ねぇ……」

 

ぐっと立ち上がった僕に今度は哀れみの目を向けてくる敵機。

PTSD……?トラウマ……?彼女は一体何の話をしているのか。

記憶にある限りでは僕にそんなものは無いはずだ。

意味がわからないという視線を向けると、彼女はため息を一つ吐いて頭を掻きながらこちらへ顔を向けた。

 

「……おいガキ。」

 

「なんでしょう?私が攻撃を行うことができないことは分かってもらえたと思うのですが。」

 

「んなこたぁどうでもいいんだよ。……お前は強ぇ、それは私が認めてやる。けどな、攻撃出来るようになればもっと強くなる。」

 

「……ですから、攻撃はできないと、」

 

 

 

『だから出来るようにしてやるよ』

 

 

 

「っ!?」

 

ゾクリと背筋に悪寒が走る。

さっきまでとは次元の違う威圧感がこちらを飲み込もうとしてくる。

放たれたそれはきっと彼女のモノだけではない、彼女の纏うISからも放たれる凶悪な殺意。

 

『アラクネ・Q(クイーン)』

 

その一言と共に装甲に走る黄色の線が赤へと変わり、スマートだったフォルムがどんどんとその体積を増していく。

4本だった腕は8本まで増え、刺々しく重々しいその姿とは対照的に巨大なブースターが自身の速度を視覚に主張してくる。

目の部分のアーマーは真っ赤に染まり、紅い粒子を零し始めた。

 

『テメェが抗わなきゃ、全員死ぬぜ?』

 

言葉も同時に胸部の中央にポッカリと開いた大穴に眩い光が急速に収束し始める。

周囲の空気が揺れるほどのエネルギーがそこに集まっているという事実に本能と理性の両方が警告を叫ぶ。

 

『逃げなければ死ぬ』と。

 

自身の背後に逃げ遅れた生徒達が居ることを確認して咄嗟に空中へと身を上げれば、待っていたとばかりに女は砲身をこちらへと合わせた。

胸部に集まった光は最早小さな太陽と言ってもいいほどの熱量を有して居る。

周囲の光が乱れるほどの光景に僕は言葉を失った。

 

『メテオクイーン・サラマンドラ』

 

瞬間、直径20mに渡る超極太の紅色の高密度レーザー砲が空間ごと消し去る勢いで彼女の胸から放たれた。

 

その速度は人間の知覚できる速度を完全に超えていた。

空気すらも存在することは許さない、そんな意思すら感じるほどの圧倒的なエネルギーの波。

ISであろうとも瞬時に操縦者ごと溶解させてしまうような、死そのものと言える攻撃だった。

 

『ペルセウス……!!』

 

それは最早完全な無意識。

レーザーに向けて、"抵抗する"ように、"弾き返す"ように、明らかな"攻撃の意思"を持って振り下ろされたペルセウスは、それまでの打ち合いによって完全展開されており、超高密度のレーザー砲の一部を反射し続けていた。

 

反射に失敗した一部が身体を削る。

反射していても熱によって身体が焦げる。

反射をしているのに迫ってくる反動によって身体中の骨が軋む。

 

周囲に散布していたナノマシンを治癒ナノマシンに変更して、全力で自身を回復させながら耐え続ける。

次々と削られていく自分の身体に、次々と治されていく自分の身体。破壊と再生の両立は精神に強い負荷を与え、思考を破壊していく。

1秒が何十年にも感じるような地獄、真っ赤に染まった視界に恐怖と絶望と孤独を感じながらも段々と溶解していくペルセウスを握り続ける。

一夏くんや箒ちゃん、セシリアさんや鈴ちゃん、それに千冬さん。ここに来て会った人達の顔が次々に目の前に現れ消えていく。涙も鼻水も残らない、自分の中から一つずつ大切なものが消えていくそんな感覚を味わいながらも、"私"の脳は一つの光景を取り戻した。

 

 

 

『死ぬことは許さないから。絶対に生き残って、苦しみ続けることがお前の罰だ。』

 

 

 

(……そうだ。"私"はまだ、死ねない……!)

 

 

 

まだ挫けることは許されない、ここで終わることは許されない、他でもない自分が許さない。

死ぬことを、罰から逃げることを、苦しみ続けることが存在意義の"私"が許さない。

 

次第に晴れていく視界が薄れていく、焼き切れた思考が消えていく、聞こえる誰かの声が理解できない。

それでも死ぬことだけはできないと、最後まで溶解した棒切れを手放す事だけはしなかった。

 

 

 

 

『……流石に殺しちまったと思ったんだが、やっぱり面白いわ、お前。』

 

圧倒的な赤のエネルギーが空を焦がした後、そこに残っていたのは真っ黒に染まった少女だった。

全身を焦がされ、着ていたISすらも装甲が黒く炭化していたが、それでも彼女とISは生きていた。

 

このアラクネQという機体に乗ってから初めて使用した超高密度エネルギー砲"メテオクイーン・サラマンドラ"は思いの外パワー調整が難しく、本来ならば5%ほどのエネルギーで射出しようとしたものの、80%以上の出力を出してしまい、操縦者も内心で実はかなり焦っていた。

 

殺す気がなかったというのは本当だ。

最悪の場合は殺してしまってもいいと思っていたのは事実だが、それでも善良な強者を好き好んで殺したくはなかった。

小さな脅しを何度か行い、その中で何か感じるものでもあればいいと思っていたのだが、まさかこうなるとは思いもしなかったのだ。

 

(……こいつは絶対に欲しい、死んでもらっては困る。)

 

だが、それでも彼女は生きていた。

自分が同じ立場なら確実に諦めているような状況の中でも、彼女は最後まで諦めることなく生き続けた。

その事実は女にとって、どんなに強いISや技術を持っていることよりも価値の高いものだった。

 

『……私のナノマシンをやる、だから絶対に死ぬんじゃねぇぞ。次会った時には全力で勧誘してやるからよ、生きて顔見せろ。』

 

なんと身勝手な言葉なのかと自分でも思うような言葉を吐きながら、血塗れになって落下して来た少女を抱き抱え、緊急用に持ってきていたナノマシンを乱暴に噴射する。

これは奴のお手製だ、効能に関しては問題ないだろう。

ISに関しては最早作り直した方が早いレベルだろうが、そのことに関してはそっちでどうにかしてもらうしかない。

今回の件に関してはこの少女に非はないのだし大方大丈夫だろう。

 

背後から走ってくる数人の足音を聞きながらピクリとも動かない少女の顔を見つめる。

戦闘中にも思ったのだが、やはりとても綺麗な顔をしていた。

こんな顔を傷付けたことに思うところはあるが、今はそんなことも言ってられない。それでも、少しだけ胸が痛むのも事実で……

 

(まあ、今度会った時には手土産の一つくらい持って来てやるか)

 

そう考えながら女は一瞬でその場から姿を消した。

 




調整ミスってぶっ放すとか、された方はたまったもんじゃ無いんですが……

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