IS - 女装男子をお母さんに -   作:ねをんゆう

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いつも感想ありがとうございます。
この感想だけを頼りに生きてるところあるので今後も何卒……何卒……


27.2週間ぶりの彼女は今……

side一夏

 

その日の放課後、俺たちは学園のある部屋へ向けて全力疾走をしていた。

 

「どけ一夏!私が先に母さんに会うんだ!」

 

「そうはいきませんわ!お母様に最初にお会いするのはわたくしですもの!」

 

「いや!俺だ!いくら2人でもここは譲らねぇ!」

 

「あんたら仮にも病室の前なんだから静かにしなさいよ!ママに迷惑でしょ!!」

 

「「私の母さんだぞ(お母様ですわ)!!」」

 

ドパパパパーンッ

 

「いい加減にせんか!貴様等のせいであいつの容体が悪くなったら全員ブレードで叩き斬ることも厭わんぞ!!」

 

「「「「すみませんでした!」」」」

 

出席簿によって一瞬で頭から叩き落とされた後、俺たちは流れるように土下座を行う。

これが所謂スライディング土下座……最近の訓練による成果が出ているのだろうか。

いや、そもそもIS用のブレードをどこからともなく取り出して睨みつける千冬姉を目の前にすればこの程度のことは造作も無い。

 

ここ2週間どこかピリピリとし続けていた千冬姉も、綾崎さんが目覚めたからか今朝は何処か嬉しそうであった。

反面、綾崎さんへの配慮が若干過激になっている気もするが……まあ気のせいだろう、今のは流石に俺たちが悪い。

はしゃいでいるつもりは無かったが、それでも久々の朗報に高ぶっていたのは確かだ。

 

「嬉しさは分かるが自重はしろ。怪我の大部分は治っているとは言え、度重なる精密検査とリハビリであいつも疲れている。結果もまだ分からないからな、余計な負担をかけるような行動は慎め。」

 

「いや、悪い千冬姉。俺たち居てもいられなくなっちまって……」

 

「気持ちは分かると言っている。だが後遺症が残っている可能性も高い上、精神状態も良好とは考え難い。あまり楽観的に考え過ぎるなよ。」

 

「……ああ、分かってる。」

 

千冬姉の言葉を聞くほどに俺たちの表情は険しいものに変わっていく。

その可能性はずっと考えていた、あれだけの怪我をして全く元通りになるはずがない。

それでもこの2週間、一度も面会が許されず、1週間以上経っても未だに意識が戻らないという不安な情報ばかり聞かされてきたのだ。

必要以上に気持ちが盛り上がってしまったのも仕方ないことだろう。

 

「……まあ、あまり気負うのも違うか。

綾崎、私だ、部屋に入るぞ。」

 

「はい、かまいませんよ。」

 

「「「「っ!!」」」」

 

2週間ぶりに聞いた彼女の変わらぬ声に全員が肩を揺らす。

そうして姉によって開け放たれた扉の先では、ベッドの上で身体中を包帯に巻かれ、非常に痛々しい姿をしている彼女が上半身を上げてこちらに小さく手を振っていた。

この2週間で少し痩せたようにも見えるが、それが逆に儚い美しさとなって彼女の容姿を引き立てる。

あんな怪我をしても彼女は変わらず魅力的な女性のままそこにいた。

 

「「「「…………」」」」

 

「……ええと、こういった時は『ただいま』という表現が正しいのでしょうか?なにぶん私も目覚めたばかりで皆さんの状況を把握できていなくてですね……」

 

「「「母さん(お母様)(ママ)!!」」」

 

「……俺だけ何もねぇ。」

 

3人の少女が一斉に彼女へと駆け寄っていく。

彼女が3人からそう呼ばれていることに頭が痛くなったのか千冬姉は大きく溜息をついているが、特殊な呼び方のない俺にとっては羨ましいところもあったりする。

 

……いや、でも同級生の女の子をママとか呼ぶ男子高校生って相当ヤベェ奴だよな。

別に甘えたい欲が無いわけでは無いが……

 

想像しただけで彼女に引かれてしまう未来が見えたので、ここは普通に混ざることにする。

 

早く彼女に駆け寄りたい気持ちは俺だって同じだった。

3人の少女に抱きつかれながらアタフタしている彼女へと近づき、なるべくいつも通りを装いながら話しかける。

 

「綾崎さん、目が覚めたんだな。」

 

「ええ、ご心配をおかけしました"一夏くん"。ご覧の通り……とは行きませんが、もう少ししたら授業に出られるくらいには回復すると思いますよ。」

 

「そうか、それならよかっ………あれ?」

 

流石は最新のナノマシン技術、時間さえあればあんな怪我だって元通り……なことはさておき、今何か違和感があった気がする。

 

あれ?俺もしかして今、名前で呼ばれた?

聞き間違いか……?

 

そんな俺の困惑と同じものを抱いていた人物がそこにはもう1人いた。

驚いたように顔を上げた箒は彼女に向けて確かめるように尋ねる。

 

「ええと、母さん……?今、一夏のことを何と呼んだんだ?」

 

「???一夏くん、と呼びましたが……それがどうかしたんですか?"箒ちゃん"。」

 

「ほ、ほ、ほ、箒ちゃん!?!?」

 

ぷしゅーと顔から湯気を出して固まってしまった箒。

記憶が正しければ、綾崎さんは俺のことを『織斑くん』、箒のことを『箒さん』と呼んでいたはずだ。

心境の変化でもあったのだろうか?

そんな微細な変化に気付いた2人目の幼馴染が今度は攻撃を仕掛ける。

 

「あ、あやさ……ママ!?わ、私は?私のことは!?」

 

2番、2組のセカンド幼馴染、凰鈴音。

話を聞いた限りでは、俺が鈴の約束をあやふやにしか覚えておらず傷付けてしまった時、優しく慰めてくれたという。その時から彼女のことを"ママ"と呼ぶようになったとか。いまいち理由は理解できない。

ただ、そんな鈴のことを綾崎さんは確か『鈴音さん』と呼んでいたはずだ。

果たして今は……?

 

「ど、どうしたんですか皆さん急に……もしかして私はどこかおかしいのでしょうか、"鈴ちゃん"。」

 

「ぐふっ……」

 

 

「りぃぃぃぃん!!」

 

まさかの鈴ちゃん呼びである。

まさかの鈴ちゃん呼びである。

あまりの衝撃に鈴が崩れ落ちた。

びくりびくりと体を震わすその様は見ていて微笑ましい。

 

しかしこうなると最後の1人も黙ってはいない。

むしろ最後の1人になってしまったことでフラストレーションが溜まっているはずだ。

 

「は、はい!はい!わたくしも!わたくしのことも呼んでくださいませ!お母様!!」

 

「は、はぁ……セシリアさんも元気そうでなによりです。」

 

「ごふぇっ……」

 

鈴とは違う意味で崩れ落ちた。

びくりびくりと体を震わすその姿は見ていて痛ましい。

なぜこんなことになってしまったのか。

 

だが、そもそもどうして彼女は突然俺たちの呼び方を変えたのだろう(1人を除く)。

というか聞いていた限りでは自分が呼び方を変えているということにさえ気付いていないようにも思える。

小さな変化ではあるが、この状態ではその小さな変化すらも恐ろしく思えてしまう。

そう思ったのは俺だけじゃないらしく、千冬姉が真剣味を帯びた目線で彼女の側にしゃがみ込んだ。

 

「綾崎、精密検査の結果はどうだった?」

 

「ええと、こちらの書類がそれです。損傷の激しかった両手と両足はリハビリを頑張ればある程度は元に戻ると言われました。内臓機能も現状では問題はないと。」

 

その言葉を聞き、俺たちもホッと息をつく。

しかしそれを聞いてもまだ千冬姉の表情は晴れなかった、疑わしい目線を綾崎さんへと向け続ける。

 

「……誤魔化さずに答えろ、後遺症は?」

 

ジッと彼女の目線に合わせるように覗き込む千冬姉。それに対して綾崎さんも少しの間耐えていたが、やがて諦めた様に溜息をついた。

その様子だと、つまり……

 

「原因は分かりませんが、左目の色素が、その……戻らないそうです。視力も壊滅的に落ちています。それどころか日の下で開けることもなるべくは防ぐべきだと言われました。」

 

「……それはつまり、部分的に後天性のアルビノ症候群を発症したということか?」

 

「使用した量が量ですし、ナノマシンの弊害という可能性もあるそうです。ただ、眼帯などで隠していれば問題はないとのことなので、それほど悲観することでは無いですよ。完全に失明したわけではありませんし。」

 

悲観することがない、はずがない。

それは実質、片眼を失ったと言っているようなものだ。

ISだけじゃない、単純なスポーツであっても片眼のハンデというものは大き過ぎることを俺は知っている。

日常生活にも大きな支障が出ることは誰にでも容易に想像ができる。

 

「えっと……ちなみに今はこんな感じになってます。」

 

左目に巻いた包帯を解いていき、色素を失ったという左目を綾崎さんは露わにする。

そこには赤色に染まった瞳が存在していた。

血の様に真っ赤な瞳には中央部から白い模様が花開くように映し出されている。俺にはそれが美しくも何処か恐ろしく思えた。

生々しくも肉身を覚えさせる、見る人によれば悍ましいと答える者だっているだろう。

単純に宝石のような赤色を想像していた自分にとっては、血や肉を感じさせるその色はあまりにも衝撃的であった。

 

「っ……」

 

辛そうな顔をする箒に、悔しそうに拳を握る鈴、セシリアに至っては泣きそうになっていた。

そんな中でも無表情を貫く姉を素直に凄いと思う、なにせ俺自身も歪みかける表情を必死に堪えているからだ。

 

「……他の後遺症はあるのか?精神的なものだって可能性はあるだろう。」

 

「いえ、特には。精神的にも問題なしと言われましたし、ナノマシンが想定以上の働きをしてくれたそうで、大方は元通りです。あれだけの怪我をしたにしては私は相当に運が良かったようですね。」

 

「馬鹿を言うな……お前は間違いなく幸の薄い女だよ。」

 

「もう、酷いですよ千冬さん。」

 

笑みを浮かべながら彼女の髪を撫でる千冬姉、それに対して少しくすぐったそうに目を伏せる彼女。

こうして見ると2人の容姿もあってまるで姉妹のようで……

 

(綾崎さんがお姉さん、か……今までの姿を見てたせいで何の違和感も無いのがヤバいな。)

 

見た限り、本当に綾崎さんはなんともないらしい。

精神的にも問題無いようだし、その辺りのケアだって姉が進んで引き受けるだろう。

片眼が使えなくなったことだって本人が気にしていないのならば俺達が口に出すことではない。ただサポートをするのみだ。

 

……そう、問題は俺達の心の持ちようだけだ。

恥ずかしながら実際に怪我をした彼女よりも俺達の方がずっと動揺している。

現に彼女の言葉に対して反応を示すことができたのは姉だけだった。

特に、彼女の赤い瞳を見た瞬間から3人の少女は一言も発していない。

 

(俺だけでも冷静でいないとな。)

 

姉と彼女の姿を見て3人よりも落ち着けている俺が……こういう時くらいにしか役立てないのだから、空気を良くすることくらいはしよう。

 

「……そういえば、綾崎さんはいつくらいから復帰するんだ?」

 

「私ですか?そうですね……傷は癒えてますし、問題は身体の感覚が戻らない程度です。授業を受けるくらいなら明日からでも大丈夫だと思うのですが……」

 

「私が許すと思うか?」

 

「……ということなので、復帰は早くても週明けからでしょうね。」

 

(一瞬すげぇ顔したな千冬姉……)

 

ちなみにこの時に凄い顔をしたのは姉1人ではない、この場にいる女子生徒達も恐ろしい形相をしていた。

立ち直ったのはいいけど普通に怖い、空気を立て直す才能が絶望的にないのか俺は。

 

「そ、そうか……それじゃあシャルルの紹介はこっち連れてきた方が早そうだな。」

 

「シャルルさん、ですか……?」

 

「ああ、実は昨日と今日で2人も転入生が来たんだ。それで、シャルルの方はなんと俺と同じ男だったんだよ!良いやつだったし、多分綾崎さんとも仲良くできると思う。」

 

 

「……千冬さん?」

 

「色々と事情があるからな。その件については後で話そう。」

 

「はあ、納得いく説明をお願いしますね。」

 

???

珍しく綾崎さんが千冬姉を責めている……

あれ?また空気悪くなった?

マジで俺空気を立て直す力なさ過ぎ……?

 

「あ、あの!お母様!明日からもここに来ていいでしょうか!?」

 

「あっ!あんただけズルイ!私も!」

 

「待て貴様等!私だって譲れんぞ!」

 

「ええと、いつでも来て下さってかまいませんから……落ち着いて、ね?」

 

そういえば綾崎さんがいなくなってから3人の気性の荒さが戻ってたなぁ、なんてことを思い出しながら千冬姉の出席簿が振り下ろされるまで俺は黙っていることにした。

 

 

……俺はあんまり来れそうにないかな。

今はもっともっとやるべきことがあるのだから。

 

 

-おまけ-

 

一夏くん達が部屋に戻った後、私と千冬さんは笑うでも泣くでもなく、2人してとても微妙な顔をして病室にいた。

いや、私に関しては既に泣く寸前であったりもしている。

なんとか堪えているが、それでも流石にこの現実は受け入れ難い。

 

「……原因とか、分かりましたか……?」

 

「いや、お前の身体を治療した医師に聞いてみたが、やはり訳が分からないと頭を抱えていた。ナノマシンの被験者はそれこそ多いが、こんな事例は初めてだそうだ。……すまん。」

 

「うぅ……なんでこんなことに……」

 

千冬さんに着替えのためにブラを外されながら顔を覆う。

 

以前授業で『ISはブラジャーみたいなものです!』『……あ、男の子の織斑くんには分かり辛かったですね、ははは……』みたいなやりとりがあったが、私は遂に分かってしまった、この感覚。

 

ああ、なぜこんなことに……

 

「……やはり、あるな。」

 

「ええ、ありますよね。これ、夢とかじゃ……」

 

「……胡蝶の夢だと思いたいな。」

 

「うぅぅぅ……なんでぇぇ……」

 

ぷっくりと小さく膨らんだ2つの双丘。

箒ちゃんやセシリアさんほどでも無く、常々私が付けているあのブツよりもまた一回り小さい。それでもそれがここにある。

一般的に『貧』と呼ばれるそれが、男性的には『貧』どころか『豊』であるそれが、当然のように私の平地には存在していた。

 

なぜ、なぜ、それまでだだっ広い平原だったそこに突然2つの山が出来上がったのか。

別にそこに火山があったわけでも、地形変動が起きて隆起したわけでもない。

 

ナノマシン君が勝手に増設していったのだ。

 

……元々無かったそれを、あったものだと勘違いして、仮想のそれを再生した。

原理的には決してあり得ないそんな現象が、私の身体に生じていた。

 

「うぅ……千冬さん、私いったいどうしたら……」

 

「……泣くな綾崎、大丈夫だ。私がついている。」

 

「でも、でも……! こんなんじゃもう、誰にも男だって信じて貰えない……!胸が貧しいことを隠す為にパッドを付けてる悲しい女の子だと思われちゃいます!」

 

「そ、それは……わ、私が知っている!私がお前のことを知っている!私がいつでもお前の性別を証明してやる!」

 

「うぅぅ……千冬さぁぁん……」

 

(……骨格まで益々女性に近づいているなどと今は言えんな。最早これでは私ですら見破ることが出来ないレベル、証明するならば本当に下半身を使うしか……)

 

結局その日は千冬さんにずっと泣きついていた。

ジェルや例のブツは現状のものでは使えなくなったので、次のものがくるまでは暫く詰め物をしたブラをするしかない。

性別がバレにくくなったのは良いかもしれないが、もっと大切なものを失ってしまったのはあまりにも辛い現実だ。

 

……どんどんと失われていく男という部分を実感すると、悲しさと恐ろしさと虚しさが胸の中でぐるぐるし始めて、涙しか出てこない。

下は完璧だったのに何故上だけこんなにしてしまったのか。

ナノマシンくんには感謝はしているけど、この件に関しては絶対にゆるさない。絶対にだ。





……え?何言ってるのオトちゃん。
この束さんが全力で作ったナノマシンだよ?
それはもうどこから見ても完璧で、どんな怪我だって元通り!
減らす寿命なんて皆無だし、むしろ伸ばしちゃうまである!
原理なんて説明したところで無駄だろうけど、そもそも束さん的には人間なんてただの人形だからね!
オトちゃんそっくりな人形を作ったり!
性別を変えることだってできるよ!
もちろん一部分だけってのも大丈夫♪
限りなくゴキブリの遺伝子に近付けるとかもおススメかな!
気持ち悪いから即殺処分するけど。

ま!オトちゃんに言われて勉強してみたけど、やっぱり全然大したことなかったね!
束さんは天才だからさ!
一応ナノマシンは男用と女用があるけど、どっちを使っても"多分"問題なし!
束さんに不可能などないのだー!はっはっは〜!




……そういうことだからさ、あり得ないよ、オトちゃん。




後遺症が残るなんてことは。




【次回:28.男装女子とのバレバレの邂逅】
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