そんなことしたら『開き直る』って逃げ場を与えちゃいますから。
TSするか否かの論争もいいですけど、現状の綾崎ちゃんの精神状態も考察してみて欲しいです。
私が主に焦点を当てているのはそっちなので。
side奈桜
「ということで、色々とありましたが無事こうして復帰することができました。2週間以上も休んでしまったので、皆さんお助けいただけると嬉しいです。」
「あやの〜ん!!」
「ひぁっ、布仏さん!?」
あれから3日、どこからか匿名で私宛に送られてきた車椅子に乗って現れた私に対し、クラスメイト達の反応は様々だった。
「あやのぉぉん……よかったよぉ……」
特にその中でも過剰だったのは間違いなく今私のお腹に抱きついているこの布仏さんだろう。
聞いた話では何度か私の病室に来ようとしていたそうだが、急遽IS学園の医療設備がグレードアップし、私も2日間様々な精密検査を受けることになってしまったので会うことが叶わなかったのだ。
その流れで一夏くんが紹介してくれると言っていたシャルルくん?にも会えず、箒ちゃん達と話すこともできなかった。
みんなには本当に申し訳なく思う……
(特に布仏さんにはあの時も色々と迷惑かけちゃったし……)
「ごめんなさい布仏さん、皆さんにもご心配をおかけしてしまい申し訳ありません。」
私の謝罪に色々な声が返ってくる。
心配や感謝、果ては私の眼帯と車椅子姿を見てか嘆きの声を上げている子までいる。
我ながらそれだけ思って貰えているという事実を非常に嬉しく思う。
「……さて、これ以上は休み時間にして貰おうか。これより授業を始める。それと、私や山田先生もフォローはするが、お前達もできるだけ綾崎に協力してやって欲しい。こいつが一人で無茶をしないように見張りは頼んだぞ。」
「「「はい!」」」
ぐうの音も出ない酷い言い分に思わず苦笑いをしてしまう。
恐らく今朝、千冬さんに黙って車椅子を乗り回して自販機まで行っていたことを根に持っているのだろう。
確かに勝手に行動したのは私が悪いが、あそこまで必死の形相で怒られるとは思わなかったのだ。
千冬さんはちょっと過保護すぎると思う。
そういえばと思い教室中に目を走らせると2人の見知らぬ生徒がいた。
あの2人が千冬さんに聞いたシャルル・デュノアくんとラウラ・ボーデヴィッヒさんなのだろう。
聞いていた通り、どちらも非常に整った容姿をしている。
ラウラさんが私のことを視線で穴が開けられるくらいにジッと見つめているのは……まあ初対面で一夏くんにビンタしたらしいので、少々気性の荒い子だということで済ませておこう。
千冬さんの昔の教え子だと聞いているし、怪我人に乱暴する子ではないだろうから心配はそれほどしていない。
……問題はそんなことよりも、うん。
シャルルくんは、あれだよね。
『女の子』だよね……?
え?あの、あれで隠してるつもりなの……?
というかなんで隠せてるの?
隠してるつもりあるの?
みんなも不思議に思わないの?
性別隠すのってそんなに難易度低いことだったっけ。
私の苦労は一体……!?
(……これ、どうしたらいいんでしょう。『事情は後で話す』と言っていた千冬さんが『……いや、一時でも乙コーに居たお前なら見れば分かるか』と突然前言撤回をし始めた理由はそういうことだったんですね。これは確かに見れば分かります。あんなに女の子してる男の子がいるはずないですから。)
けれど一応、事前に千冬さんからそういったことを聞いていなければわたしも(そういう人も、いるのか、な……?)と思っていたかもしれない。だから一時的に隠す程度ならばあのレベルの男装でも十分なのだろう。
『遺伝子的に女性に近い男性ならばISを動かせるかもしれない』なんて論文もあるらしいので、そういう意味ではむしろ信用を勝ち取れる可能性は高い。
とりあえずは事情を聞かなければならないが、今は少し黙っておこうと思う。
彼女にも理由はあるだろうし、同じことをしている私が言えた義理でもないからね……
千冬さんに車椅子を押されて自分の机へと移動する。
……あの、千冬さん?
私の席は一番前だし、この車椅子も自動で動くからそんなに世話を焼いてくれなくてもいいのですが……
「綾崎さん、ちょっといいか?」
「はい?どうかしたんですか、一夏くん。」
授業終わりの昼食前、教科書を片付けていた私に一夏くんが声をかけてくる。
挨拶と同時に席を立ったセシリアさんと箒ちゃんも丁度集まってきており、布仏さんも立ち上がったものの突如鳴り響いた電話によって泣く泣くその場を立ち去っていった。
彼女も普段はゆるい子なのに、意外と私生活は忙しそうでギャップを感じたりもする。
「ほら、しようと思ってて出来なかったシャルルの紹介をしておこうと思ってさ。シャルル、こっち来いよ。」
「え?あ、うん!分かったよ一夏……!」
「むう……お母様に男性を紹介するのは気が進みませんわね……」
「安心しろセシリア、母さんは少し容姿がいいからと言って簡単に浮つく女性ではない。」
いや、そもそも男性にそういう興味を持つことはあり得ないので、その辺りは心配しなくても大丈夫なんですけどね。
それはそうとして、一夏くんに言われて小走りでやってきた金髪青眼の少年(仮)。
やはり、見れば見るほど女性である。
男装があまりにもわざとらし過ぎる。
どうなってるんですかこの学園の入学審査(ブーメラン)。
「はじめまして、シャルル・デュノアです。綾崎さんのことは一夏達から色々と聞いてるよ。」
「こちらこそはじめまして、綾崎奈桜です。ところで一夏くんがどんな色々のことを話していたのか、私とても気になりますね。」
「い、いや!別に変なことは言ってないからな!?なあシャルル!?」
「とっても綺麗な人だって言ってたよ?あとは凄く優しくて、家事も上手で、正に理想の女性像だって。結婚するならあんな人がいい、みたいなことも言ってたかな。」
「「「なっ!?」」」
「あらら……一夏くんは私のことをそんな風に思ってくれていたんですね。周りにこんなに可愛い子達を連れているのに、罪な人です。」
「ちっ、違うんだ綾崎さん!!俺は例え話とか、そういうつもりで言ったというか……!おいシャルル!そういうことを本人の前で言うなよ!!」
「 おい一夏……貴様本当にそんなことを言ったのか……?」
「ぐぬぬ、相手がお母様なだけに同意せざるを得ないのが悔しいですわ……」
「あはは、綾崎さんは本当にみんなから慕われてるんだね。」
「ええ、こんな私を気にかけてくれるのですから、優しい友人達に恵まれて幸せものです。シャルルさんも仲良くしていただけると嬉しく思います。」
「うん、もちろんだよ!」
一夏くんの言葉から現実逃避しながらシャルルさんと会話を続ける。
え?なに?一夏くん私と結婚したいの?
嘘でしょ?
ちょっと待って!?
女装生活で女性に迷惑をかけることは考えていたけど、男性にも迷惑をかけるパターンがあるなんて聞いてないのだけれど!?
というか女装してるのに惚れてくる男性が居るとか普通は思わないでしょ!?まさか一夏くんはそういう倒錯した趣味を持っていたんですか!?千冬さんに顔向けできない!!
そんな表面上には出さないが盛大にパニックを起こして居た私に助け舟を出してくれたのは件のシャルルくんちゃんだった。
「……えっと、そういえば綾崎さんはあの乙女コーポレーションの専属なんだよね?噂だとIS部門を作って1年もしないうちに第三世代機の試作を造ったって聞いたけど、本当なのかな?」
「乙女コーポレーションですか?……ああ、そういえばシャルルくんはデュノア社の方でしたね。やはり気になるものなのですか?」
「……まあ、そうだね。なにせうちの会社はそれが上手くいかなくて困ってるくらいだから。」
……その辺りが理由なんだろうなあ、と思う。
彼(女)は結構表情に出やすいタイプらしく、今の一瞬で顔が歪んだのが分かった。
第3世代関連でデュノア社の経営状況がよくないことは私でも知っている。
「……詳しい内情までは言えませんが、あそこには世間一般では決して受け入れられることの無かった変態達が多く収容されていますから。無理な話ではないと個人的にですが私は思っていますよ。」
シャルルさんの思惑を判断することができなかったので、とりあえずできる範囲で事実をぶちまけることにしておいた。
「え……変態……?」
シャルルくんが困っている。
そうです、その表情が見たかったのです。
「例えばシャルルくん、乙女コーポレーションには1人の天才がいます。彼は有名国立大学を院まで行って卒業し、直後から繊維系の様々な分野で多くの成果を出していました。そんな彼が研究や所属していた大学を辞めてまで乙女コーポレーションで作りたかったものがあったんです。それは一体なんだと思います?」
「へ?え、ええと……繊維系に詳しいってことは、ISスーツとか?いや、でもIS系の仕事なら他の所の方が……」
「学生用スクール水着です。」
「……え?」
「学生用スクール水着です。」
「……え?」
「彼は所謂ロリコンという方でした。幼・小・中学生くらいの女性が大好きだという世間的に見て少しばかり異質な人種です。」
「え?え?え?」
「そんな彼が最も好物としていたのがスクール水着というものだったのです。彼は乙女コーポレーションに入って女子生徒用スクール水着に関連したものを全力で開発し始めました。まるでそれまで抑圧されてきた欲望を解放するかのように。」
「待って?ねえ待って?僕の頭が追いつかない。」
「最初は水着のデザインや素材だけだったものの、途中からは専用のパッドや帽子、ゴーグル、果ては子供用の日焼け止めやオイルなど、様々なものに手を出し始めました。それもこれも、全てはスクール水着を着る小さな女の子達のため。彼女達がスクール水着を着る際に最も輝くことができる様、あらゆる分野を勉強して取り組んだのです。」
「え?なに?感動系の話だったの?これそういう話だったの?」
「その結果、乙女コーポレーションはスクール水着シェアの最大手となりました。そして子供用の日焼け止めやオイルは未曾有の大ヒットを記録し、そのコストと安全性、手入れのし易さから海やプールでもスクール水着を着る少女が増えたそうです。今では引きこもりがちだった彼も積極的に外に出る様になりました。めでたしめでたし。」
「めでたしかどうかは賛否両論だよね!?」
「ちなみに現在はビート板事業に手を出してます。海水浴でもビート板を使って泳いでいるスク水少女達が見たいそうです。ライフガードの資格にも挑戦していましたね。」
「それだけのために!?元々繊維関係の人じゃなかったの!?人の欲望って怖い!!」
私だって怖い。
今話したのは乙女コーポレーションのほんの一部、こんな人達が大半を占めているのが乙女コーポレーションだ。
つまり何が言いたいかというと、あの会社は社長を含めて変態しか居ないということだ。
そして昔から言われている通り、変態と天才は紙一重なのである。
「……まあ、変態云々はさておき、母さんの言いたいことはなんとなくわかった。」
「え?」
「ふふ、箒ちゃんは流石ですね。皆さんに説明して貰ってもいいですか?」
「……気は進まないが。要は乙女コーポレーションにいる社員達は特定の欲望が強く、その欲を満たすためならばどんな努力でも行い、会社にもそれを可能にするだけの環境があるということだろう?しかも社員達も才能ある人間達だということが更に拍車をかける。」
「加えて彼等自身が今までその欲を抑圧されてきた、またはその欲によって迫害され続けてきたということもあります。その爆発力と連帯感は私も怖くなるほどでしたから。」
それが乙女コーポレーションの原動力。
それが乙女コーポレーションの技術力。
乙女コーポレーションの新作は考えるより先に使ってみろ、そう言われる所以だ。
IS部門が急成長しているのも、1年という歳月で第3世代の試作である"恋涙"をつくることができたのもそんな理由からだろう。
もちろん、恋涙の性能が変態的な方向に偏っていた理由も……
「ですから私がデュノア社のためにお伝えすることができるのはこういった会社の特徴くらいですね。参考にはならないと思います。」
「い、いや、そんなことはないよ。なんとなく今のデュノア社が行き詰まってる理由も分かったし……なにより、乙女コーポレーションからは企業スパイが帰ってこないって噂の理由も分かったから。」
「そんな噂があったんですね……」
考えれば考えるほど頭のおかしな会社である。
千冬さんから聞いた話では、私が乗ることになるであろう次のISも既に製造の段階に入っているそうだ。
……私の知らないところで私に関係あることに何十億というお金が動いていると考えるとなんだか怖くなってくる。
「なんかよく分かんねぇけど、シャルルも綾崎さんも仲良くなれそうでよかったぜ。」
「わたくしとしては微妙な気持ちですが……」
「ふふ、そうですね。もしかしたら一夏くんよりも仲良くなれるかもしれませんよ?」
「なっ!?負けねぇからなシャルル!?」
「えっ!?えっ!?一夏が訓練の時よりも怖い顔してるんだけど!?誰か助けて!」
「くっ、私も早く母さんの様な女性にならなければ……!」
……なんだかあの事件以来、千冬さんの過保護も増してきていたが、一夏くん達もちょっと過激派になっていないだろうか?
とりあえず私の両端を囚われた宇宙人の様に取り囲むのはどうにかして欲しい。
美人に囲まれて役得だけれど、罪悪感が半端ないから。
もちろん乙女コーポレーションはアダルトグッズの売り上げもNo.1です。
【29.みんな大好き銀髪眼帯軍人少女】
書き溜めが少なくなってきたので、今後は2日に一度の更新になります。