IS - 女装男子をお母さんに -   作:ねをんゆう

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少しずつ異変が起き始めます。

まあそんなことより、今日はラウラちゃんの番です。


36.空の足音

side千冬

 

「……綾崎が、いない……?」

 

「そうなんです!今みんなで探してるんですけど、どこにもいなくて……!!」

 

ラウラに言われ寮監室へと走って来た私は、そこで同様に慌てる様にして走って来た凰に会った。

その異様な様子を不思議に感じた私は凰に対し落ち着きを求めたのだが、告げられた衝撃の事実に私は酷く困惑する。

 

「だ、だが島の中にいるのは間違いないだろう?人手を増やせば……」

 

「もう50人体制で探しています!それでも見つからないんですよ!」

 

「なっ、そんなバカな……!」

 

いくら学園が広いとは言えど、所詮は島である。

それに綾崎はあの足だ、遠くには行けないことを考えればすぐに見つかるはずなのだ。

 

にも関わらず、どこにもいない?

そんな事あるはずが……

 

困惑と焦燥が増していく中、凰の携帯端末が鳴り響く。

凰は急いで取り出すと音声をスピーカーにしてこちらにも聞こえる様にして話し出した。

どうやら相手はオルコットらしい。

酷く取り乱した様子のオルコットは声が聞こえてくる。

 

『お、お母様の!お母様の車椅子を見つけましたわ!ですが、ですが……!!』

 

「なに?どうしたのよセシリア!落ち着いて喋りなさい!」

 

『海辺に打ち捨てられていて……お母様の靴が……水面に……』

 

「「っ!?」」

 

『先生方が今ボートを取ってきてくれていますが……あの身体では、もう……』

 

「……嘘、よね……?セシリア!」

 

『私だって信じたくありませんわ!!ですがこれだけ島中を探し回って、他にどう考えればいいというのですか!!』

 

「落ち着けお前達!今は言い争っている場合では無いだろう!いいからISだろうと何だろうと使って探し出せ!責任なら私が……クソッ、誰だこんな時に!!」

 

次に鳴り響いたのは自分の携帯端末だった。

ただでさえこの感情を抑え込むのに精一杯な状況にも関わらず、これ以上の面倒ごとは御免だと端末を見れば、相手はラウラだった。

ラウラがこの事態に無闇矢鱈に電話をかけてくるとは考え辛い。

何か進展があったのだと思い電話に出てみれば、ラウラもまた珍しくオルコットと同様に焦った様子で話し始める。

 

『教官!緊急事態です!』

 

「そんなことは分かっている!綾崎は見つかったのか!」

 

『それ以上の緊急事態です!今直ぐ捜索を中止させ、全生徒を屋内に退避させて下さい!』

 

「なに……?」

 

突拍子も無いそんな言葉。

全生徒を屋内に避難させるなど、それこそ確かにかなりの緊急事態だろう。

だが、そんな話を他ならぬ自分が聞いていないというのはおかしい。

それでもあのラウラがその様な嘘をつく筈もない。

言葉の通りならば綾崎の失踪とは別件なのだろうが、考えるより今は聞くべきだと思い直す。

 

「一体何の話だ!何があった!」

 

『IS学園周辺に向けて飛来物の報告あり!直径は5m程度と推定!直撃すれば中型ミサイルと同規模の被害が予想されます!!』

 

「なっ!?そんな情報は聞いていないぞ!!」

 

『本来ならば大西洋上空で燃え尽きる筈だった小惑星が突如として軌道を変え、そのままの大きさで落下していると観測していたドイツ空軍からは聞いています!直ぐに教官の元にも詳細な情報は渡るかと!

そんな事より早く避難を!私はセシリア・オルコットと共に落下地点を予測しつつ破壊か軌道変更を試みます!』

 

「くっ、何故このタイミングなのだ……!

ラウラ!そちらは全てお前に一任する!!凰!今直ぐ全生徒を屋内に退避させろ!逃げ遅れる者が出ない様に島中を回れ!全速力だ!!」

 

「はっ、はい!今直ぐに!!」

 

凰に指示を出し教師陣への指示を出そうとすれば、丁度そちらからも連絡があった。

内容はやはりラウラからの報告通り……今や数を少なくした宇宙開発関連の研究者がその異常事態に気付き、即座に大まかな落下地点を割り出したという。

 

しかし時間は少ない。

落下まであと数分、恐らく避難は間に合わないだろう。

そもそも正確な落下地点が分からない時点でいくら屋内に避難したところで確実に安全とは言えまい。

 

「真耶!ISを全て出せ!私の分もだ!……元々は宇宙空間での行動を想定して作られているのだ、直撃してでもアレを止めろ!!」

 

めちゃくちゃを言っているのは分かっている。

ただそれでも、今はやれることをやるしかない……!!

 

先程まで綾崎に謝罪しようと意気揚々と走っていたにも関わらず、急転直下と様々な悪い情報が降りかかってくる。

正に自分と綾崎の仲直りを邪魔するかのように。

 

……大丈夫だ、綾崎が自殺を図るなどあり得ない。

それよりも誘拐の線を考えた方が可能性は高い。

 

私はそちらの段取りも考えつつ、全速力でIS保管庫の方へと向かった。

 

 

sideラウラ

 

飛来物到達まで残り3分まで迫った頃、私はセシリア・オルコットを引き連れて上空まで飛び上がっていた。

当初は綾崎のこともあって混乱していたオルコットだったが、緊急事態に自分の力が必要だと言われれば、その全てを飲み込んで取り組むことができるだけの精神力とプロ意識は持っていたらしい。前に綾崎を含めて話していた時にも感じたが、この女はなかなかに期待が持てる。ただ甘い環境に浸かっていただけの人間ではないのだろう。

 

 

ISのハイパーセンサーがあれば、この距離からでも対象がくっきりと眼に映る。

隕石にしては小さめだろうが、5mもあれば容易に広範囲を吹き飛ばす事ができる。最低でも海洋に落とさなければ、綾崎の捜索のために島中に生徒が散らばっているこの状態では間違いなく大量の死傷者が発生する。それだけは絶対に避けなければならない。

 

「セシリア・オルコット、あれを撃ち抜くことは可能か?」

 

「技術的には問題ないと断言致しますわ。ですがレーザー兵器で撃ち抜けるかどうかは相手次第といったところでしょうか。」

 

「ならば問題ない。私のレールカノンは実弾兵器、精度も貴様のISの照準データを利用すれば多少はマシになる筈だ。」

 

「なるほど。ちなみに破壊と軌道変更、どちらを優先いたしますか?」

 

「……軌道変更しかあるまい。報告では対象は大気圏突入時から全くと言っていい程にその体積が変わっていない。多少細かくしたところで被害が広がるだけだ。」

 

「ですが海には……」

 

「分かっている。だが生きているかどうかも分からない1人の為に、その他の大勢を犠牲にすることなどできん。津波の可能性はあるだろうが、ISさえあればどうにでもなる。選択肢は無い。」

 

綾崎の話については既に聞いている。

私としても思うところはあるが、今はそれどころではない。私は生徒である前に軍人だ、非常事態に私的な理由で動くことは許されない。

 

捉えていた飛来物をISに解析させれば、より正確な落下予測地点が弾き出される。

勿論結果は好ましくないものであったが、元より最悪の場合を想定している。それがその通りになっただけならば取り乱す事など何もない。

 

「……やはり寮舎に向けて一直線か。止めなければ尋常では無い被害が出る。」

 

「ラウラさん、作成した照準データを共有いたしますわ。角度と速度、諸々をラウラさんから頂いたそちらの武装データからこのように設定したのですが、問題はありますでしょうか。」

 

「……ほう、よくできている。これならば問題はあるまい。タイミングは?」

 

「そちらも既に設定済みですわ。こちらのタイマーに合わせてくださいませ。」

 

「分かった。例え失敗したとしても私に策がある。気兼ねなくやれ、オルコット。」

 

「分かりました、信用させていただきますわ。ラウラさん。」

 

「ああ。……いくぞ!」

 

オルコットと共有した詳細な照準データを元に狙いを定める。レールカノンの情報を提供したとはいえ、それはほんの数分前の話。僅かな時間でここまで精密なものに仕上げた手腕は大したものだ。

それに構えている姿も様になっている。才能も確かにあるだろうが、それに胡座をかかず、相当な努力を重ねているのだろう。

 

悲しい事に乗っている機体の性能が尖り過ぎているのが問題か。

イギリスは今も昔も頭のおかしい兵器を作る事が度々あるが、データを見た限りでは間違いなくこいつの乗っている機体も間違いなくその被害者だ。

そんなものをそれなりに乗りこなしているだけで賞賛に値するのだが、これだけの解析能力があるのならば、後衛としての役割に徹すればかなりの働きが期待できる。

 

自分の中でセシリア・オルコットに対する期待値はそれなりに高い。

やはり代表候補生というだけあって、粒はいるものである。

これも見える世界が広がった副産物なのだろう。

 

……いや、今は彼女のことを思い出すのはやめるべきだ。集中すべきことは他にある。

 

「「ファイア!!」」

 

セシリア・オルコットが設定したタイマーに合わせて、対象に向けて同時射撃を行う。

とりあえずは一発目で様子を見て、それからの修正と対策はセシリア・オルコットに任せるつもりだ。

この一発がどう転ぶかが重要となる。

 

レールカノンとスターライトによる2つの性質の異なる弾丸は、調整された弾速で対象の一点へ向けて飛んでいく。

一般的な隕石ならばこの一撃で軌道は大きくズレる筈だ。多少破片が降り注ぐ事になるかもしれないが、その辺りはどうにでもなる。

勿論、あの隕石が想定以上に脆かったりすれば完全に破壊してしまうだろうが、大気圏突入時から体積が止まっていない事を考えると、破片が飛ぶほど破損するかも怪しいところだ。

 

あれが一体何なのかは後で調べる必要はあるだろうが、有害物質を含んでいる可能性も存在する。

できれば一片たりとも破損してくれるなと願いながら弾丸の行方を見守っていると、事態は想定外の方向へと向かい始める。

 

「3……2……1……着だn……そんなっ!?」

「馬鹿なっ!!」

 

想定していた事態は大きく分けて3つ。

・無事に軌道変更がなされる

・想定以上に脆かった為に大きく破損する

・想定外の強度故に何の変化も与えられない

というものだ。

 

1つ目が最高の結果であり、

2つ目が最悪の結果、

3つ目ならばAIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)の使用で解決できる問題だと踏んでいた。

 

だが例え2つ目が生じたとしてもワイヤーブレードとブルー・ティアーズによって大半は撃ち落とせると、その用意もしていた。

 

それなのに、今やそんな予測も準備も全てパーだ。

誰がこんな事態を想定できるというのだ。

これらの予測は全て我々2人の弾丸が当たる事を前提にして立てられている。だがそんなことは当然だ、それ以外の予測などどう考えても無意味に等しいのだから。

 

……だから、今現在私達がこうして困惑してしまっていることも仕方ないに違いない。

 

なにせ、

 

"飛来する隕石が戦闘機の様にローリングし弾丸を回避する"などという現象は、きっと誰にだって予想することなど出来ないはずなのだから。

 

「ラウラさん!」

 

「オルコット!ブルー・ティアーズで奴の動きを固定しろ!私が奴を受け止める!」

 

「くっ、無理をしないでくださいませ!」

 

まるで意思を持っているかの様な動きをして飛行するそれを停めるには、やはりAICを使うしか無い。あの動きを止められるかどうかは1人では分からなかったが、今は隣にオルコットが居る。

もし単純に攻撃を避けるだけしか能の無い相手であれば、オルコットなら容易にその動きを封じる事が可能だろう。そうでなくとも逃げ道を減らすくらいの働きはしてくれるはずだ。

 

予想通り取り囲む様に射撃を続けるブルー・ティアーズによってローリングによる回避が不可能になったそれは私目掛けて落下してくる。

例えあれの正体が何であろうと、空間に直接干渉して相手を停止させるAIC の前では無意味。加えて相手が単体であるならば尚更だ。

 

「AIC (アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)!!」

 

ハイパースコープによって極限まで動体視力を上げた状態でも間一髪、自身に直撃する前に発動することができた。対象に向かって放つというよりは、停止する空間をその場に置いておくようなイメージだったが、思い付きでも上手くいった。これだけでも冷や汗ものだ。

 

「やりましたわ!!」

 

タイミングが一瞬でも遅れればそのまま直撃してAICに集中するどころでは無かっただろう。こうして止めているだけでも何故か通常よりも遥かに精神力が削られている。なるべく動きを少なくする様にオルコットが配慮してくれなければ危なかっただろう。

 

「ラウラさん、これからどういたしますか?」

 

「このまま浜辺に降ろして解析の方へと回す。オルコットはそのままISを解除せずに……」

 

 

 

『メテオクイーン・サラマンドラ』

 

 

 

「はっ……?」

 

突然割り込んできた第三者の通信と共に、ゴバァンッと空気をも消し去る様な紅い熱線が、私の目の前を横切った。

一瞬にして真っ青であった視界が赤一色に染まり、ISが自動的に視界に入ってくる光量を減らした事だけが分かる。全てを搔き消す様なその光は、宇宙空間でも活動が可能なISに乗っている筈であるにも関わらず、"死"というものを明確に私に意識させる。

 

一瞬だったのか数分だったのか、どれほどの時間が経ったのかは分からないが、その異様な赤が消失した時、私はあまりの恐怖に情けなく身体を震わせ、全身から滝の様な汗を流して目を見張っていた。

 

恐る恐ると視線を落とせば、そのあまりの熱量にシュヴァルツェア・レーゲンの指先が溶け、停止していたはずの5m大の塊が少しの熱を帯びた粘性の液体へと変わっている。

 

周囲の空間を真っ赤に染める程の光量、ISを容易に溶かす程のエネルギー、5m大の物体を一瞬で消滅させるほどの攻撃範囲。

これを私は知っている。

見たことはないが、そのあまりに現実離れした兵器について、話は何度も聞いていた。

 

 

『悪いな嬢ちゃん、けどそいつを持ってかれちまうと困るんだ。』

 

 

「……全身装甲型の、IS……!!」

 

蜘蛛のような下半身に、ISにしては大き過ぎる黒の体躯。全身を包むような装甲に、胸の中央部の核の様なものに向けて走る紅の線。

 

……間違いない。

 

こいつが、こいつこそが、

私がここへ来る寸前に学園を襲撃し、

篠ノ之束と繋がりがあると予想され、

綾崎に2度と消えない傷を負わせた張本人。

 

その大きな体躯のISがその体積を減らしながら蜘蛛の様な形から人型の形に変わっていくのを見ると、間違いないだろう。こんな機構を実現できるものなど他にはおるまい。

 

……そして、こうして対峙してみれば分かる。

その異様なISから発せられる威圧感と、操縦者の女から感じる強者の雰囲気。どちらを比較しても今の自分では歯が立たないことを確信してしまう。

どころか、先程の一撃を見てしまったせいか、自分の身体が奴と戦うことを拒んでいる。

 

こんな相手と時間稼ぎが目的とは言え、何の支援も無しに戦いを挑んだ綾崎は本当に正気だったのか……?

そもそもこんな奴を相手にどうやって時間稼ぎなどしたのだ。

 

私が今できることなど、オルコットを引き連れてこの場から逃げることしか……

 

「ラウラさん!あのISが背負っているのは……!」

 

「……?なっ、綾崎……!?」

 

オルコットの声に促される様に殆ど無意識となって視線だけを動かせば、敵ISが背負っている白色の塊が目に写った。

ハイパーセンサーを使えば、それが間違いなく1人の人間であることが分かる。それどころか、その人間こそが今の今まで考えていた彼女であると、どうして今更気付いてしまったのか。

 

意識を失っているのか、ピクリともしない綾崎。まさか死んでいるなんてことは無いと思いたい。

……だが、以前彼女をあれほど痛めつけた敵の手の中にあるという事実は、どうやっても受け入れられるものでは無い……!

 

「貴様ァ!!綾崎をどうするつもりだ!!」

 

『あぁ?どうするって……なんだ、気絶しちまったのか。別に悪い事はしねぇよ、少し借りるだけだ。』

 

「ふざけるな!!そんなことが認められるか!」

 

『別にお前の許しなんか求めてねえよ。それに織斑千冬ももうこいつの事は必要ねぇんだろ?だったらあたしが貰っても問題ないだろうが。』

 

「ッ、オルコット!!」

 

「分かってますわ!!」

 

私の一言に、オルコットも直ぐさま行動を始める。

ブルー・ティアーズで敵の後方を包囲し、自身も上空から狙いを定める。

そして私はそれと同時に正面から攻め立てる。

 

逃げ道を完全に塞ぎ、ここから絶対に逃がすつもりはないということを示すと、敵の操縦者は酷く面倒臭そうな態度で首を傾けた。

 

先程まではあれほど恐怖に震えていた自分が、今ではそれが嘘であったかの様に怒りに震えていた。

彼女もこんな気持ちで相対したのだろうか。

……怖さなど何もない、譲れないものを目の前にすればそんなことを気にしていられる余裕すら無いのだから。

 

「綾崎を返せ外道!!」

 

『外道って……ま、こいつは渡せねぇなぁ? 私もこいつの事は結構気に入ってるんだ。だから心配する必要なんか微塵もねぇよ。貞操の方は知らねぇけどな。』

 

「貴様ァァッ!!」

 

『もういいから失せな』

 

「ごっ……!?」

 

「なっ!?」

 

綾崎を背負いながら高速でワイヤーブレードを潜り抜け、その勢いのままに、あまりにも重過ぎる膝蹴りが私の腹部へと叩き込まれた。

蹴り飛ばされた私はオルコットの射線上に弾き出され、奴はそのまま片手に出現させた鞭の様な武器でたった一振りでブルー・ティアーズを1つ残らず破壊する。

 

その鮮やかな手際は敵でなければ感嘆の一言であり、武器の扱い1つでさえも奴との実力差を感じてしまう。

 

『おいおい、その程度の実力でこいつを取り戻すつもりだったのか?大人しく遠距離武装で囲んでおけば良かったものを。近距離戦を挑んで来たから期待したのに、その程度かよ。』

 

「ぐっ……これほどの機体性能差があるにも関わらず、随分と上からの物言いだな。」

 

『はっ!その差があるにも関わらず、こいつが私と引き分けたことを忘れたのか?』

 

「っ!」

 

『こいつは凄かったぜ?私がどれだけ攻め立てても、その尽くを棒切れ一本で防ぎやがる。しかも乗ってる機体の性能は量産型よりも劣るときた。それで結局、織斑一夏が無人機に勝つまで時間稼ぎをさせられちまったんだから、実質こいつの勝ちみたいなもんだろ。……ああ、今思い出してもゾクゾクする。』

 

「………」

 

『ま、そっちの青ガキはともかく、テメェは確実に実力不足だ。何を偉そうにしてやがんのかは知らねぇけど、戦闘力も指揮力も中途半端。近接も遠距離も力はあるが極めてる程じゃねぇ。そんなもん何の使い物にもならねぇよ。今のお前じゃ何回やっても私からこいつは取り返せねぇよ。』

 

「……ッ!!」

 

『悔しかったら力付けて出直して来な。そうじゃねぇと……こいつ、いつ帰ってこれるか分かんねぇぜ?はははっ!!』

 

「なっ!待ちなさい!!」

 

言いたい放題言っておきながら、そのまま逃げ去る奴をセシリア・オルコットは追いかけていく。だが、そもそもの性能差故に少しも追いつくことは叶わず、そのまま奴を見送る羽目になってしまった。

 

「……ラウラさん……」

 

……一方で私は、直ぐに動くことができたオルコットに対して、私は彼女が奴を取り逃がして戻ってくるまで、その場から一歩たりとも動くことができなかった。

 

別に機体性能の差故に絶対に追いつけないということが分かっていたからではない。

追いかけたところで取り戻せる可能性が全く無いということが理由なわけでもない。

 

……感情を、思考を、尊厳を滅茶苦茶にされ、あらゆる負の感情に心が支配されてしまい、私は軍人でありながら戦場の真っ只中で、完全に放棄してしまったのだ。

 

考える事と、戦う事を……




やっぱりヒロインでした
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