IS - 女装男子をお母さんに -   作:ねをんゆう

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学園側の様子です。


40.鈴とセシリアの成長

奈桜が誘拐されてから数日が経ち、生徒達が待ちに待った学年別タッグトーナメントが開催されることとなった。

この日までいつもの彼等は一度も集まることなく互いに様々な努力を重ね、しかし彼等にとってこの日はただの通過点でしか無くなっていた。

 

1回戦

セシリア・オルコット&凰鈴音

VS

相川清香&谷本癒子

 

2回戦

織斑一夏&シャルル・デュノア

VS

ラウラ・ボーデヴィッヒ&篠ノ之箒

 

そんな本気の奴等がガッツリ固まった1、2回戦。その最大の被害者はこの2人である。

 

「え、なにこれは……」

 

「私達が一体何をしたと……」

 

もはや絶望を通り越して達観の域にまで至った2人は半笑いのままトーナメント表の前に突っ立っていた。周囲からも哀れみの視線を当てられる。

そもそも何故イギリスと中国の代表候補生がタッグを組んでいるのか、それが分からない。あの2人の性格からすれば確実に対抗心を燃やして別タッグを組んでくるかと思ったのにも関わらず、いつの間にかこんな有様である。

 

「鈴さん、コンディションはよろしいですか?」

 

「馬鹿言うんじゃないわよ、こちとらここ数年風邪も引いてないっつぅの。あんたこそ、余計な緊張なんてしてないでしょうね?」

 

「精神面の鍛錬はお母様から最初に指摘された事です。多少はマシになったと自負してますわ。」

 

「そう。……ま、今更"足を引っ張るな"なんて言わないわ。好きにやりなさい。」

 

「それこそ今更ですわね。"互いに好きにする"なんて、私達が最初に決めたことですわよ?私は鈴さんのことなんて気にしませんから。」

 

「……ふふ、そうね、それでいいわ。私だってあんたのことなんて、気にしないから。」

 

そう言って不敵に笑う2人、しかしそこには以前の様なピリピリとした雰囲気など全く無い。

 

「15分後に控え室に、私は先に行って下見と準備をしておきますわ。」

 

「ん、午後ティーでいい?」

 

「ええ、それでは。」

 

互いを見ることもなくハイタッチならぬミドルタッチを交わした2人はそのまま別々の方向へと何の躊躇もなく歩いて行った。

そんな2人の姿を見て、相川清香&谷本癒子ペアは益々やる気が失せていくのを感じた。

 

「……とりあえず、がんばろ。」

 

「……楽しんだもん勝ちって言うもんね。」

 

そんなことは言いつつも、楽しめる気など全くしない2人であった。

 

 

 

 

side一夏

 

1回戦のセシリアと鈴の試合。

初めにその組み合わせを見た時、それはもう驚いたものだった。

なぜなら、この2人の仲はそこまで良いものでは無かったからだ。

 

鈴と箒はそこそこ話す、セシリアと箒も俺の訓練の関係で仲は悪くない。けれど鈴とセシリアの仲はそんなに良くもなく、授業であの2人がペアを組んだことがあったが、それは本当に酷いものだった。

だからきっとあの2人はウマが合わないのだと、2人の性格からして仲良くするには時間が必要だと、そう想っていた。

 

だが……

 

 

「……すげぇ。」

 

「……うん、2人ともとんでもないね。お互いの事なんて全く気にしないで好き勝手に攻撃してるのに、全く誤爆がない。前衛の鈴音さんなんて、あれだけの攻撃を背後から撃たれてるのに怖がる素ぶりすら無いんだもん。」

 

「……いや、セシリアもいつの間にかビットとライフルを同時使用できるようになってる。ビットの速度は落ちてるけど、射撃の精密性は相変わらずだ。」

 

「あ、相川さんが落ちた。」

 

前衛を務める鈴が得意の近接戦闘で衝撃砲て逃げ場を潰しながら2人を追い詰める。勿論後衛のことなど全く考えていない様に自分勝手に。

そして後衛を務めるセシリアもまた、そんな風にして固まった三人を纏めて焼き払う様に5つの砲門から嵐の様なレーザーを撃ちまくる。

 

外から見れば完全にタッグの破綻だ。

自分勝手で、チームワークのカケラもない。

 

けれど、そんな評価が"絶対に誤爆しない"というたった1つの事実だけで一転する。

 

セシリアの放ったレーザーは、激しい動きで相手を追い詰める鈴の隙間を縫う様にして2人に直撃する。

セシリアが上手く当てているのかと最初は思ったのだが、こうして見ていると鈴が綺麗に避けている様にも見えてくる。

 

……きっとどちらも正解なのだろう。

 

2人とも自分の好き勝手やっているが、好き勝手する為に最低限の譲歩はしているのだ。

 

だが、それだけでは足りない。

それだけでは2人がどれだけ天才であったとしてもこの状況を実現することなんて出来ない筈だ。

それほど目の前で行われているこの光景は異常なのだから。

 

「……一夏、もしかして知らないの?」

 

「?何の話だよ、シャル。」

 

「2人が同じ部屋で生活してるってこと。」

 

「……それまじか?」

 

「うん、なんでも2人が急に織斑先生にそう申し出たんだって。それから最近は暇さえあれば2人で行動してるって噂になってたよ。喧嘩ップルとか言われてた。」

 

「……全然知らなかった。なんでそんなことになってたんだ?」

 

「さあ?僕はよく知らないけど、朝から晩までずっとアリーナで喧嘩してたりしてたみたいだよ。一夏も負けず劣らず頑張ってたから知らないのは仕方ないと思うけど。」

 

「……そうか。」

 

シャルルには素っ気なくそう言ったが、内心では俺は滅茶苦茶にワクワクしていた。

綾崎さんが誘拐されてから、千冬姉からは無事を知らされたものの、自分に力が足りないということを再認識させられた俺たちは各々が各々のやり方で力を付け始めた。

セシリアも箒も鈴も、俺の訓練よりも自分の訓練に集中して取り組んだ。

 

他人の力は借りられない、自分の力だけで強くなる。今までと同じ努力ではダメだと、きっと誰もがそう考えて、必死に頭を使った筈だ。自分もそうだったのだから。

 

例えばそうして俺が出した答えは、基本の体作りとIS知識とイメージの構築。基本の土台となる部分を必死になって作り上げた。

 

土台の出来ているシャルは発想の幅をより広げる為に大会の映像資料を見ながら実際に真似てみたり、苦手な武器を克服しようと努力していた。

 

俺もシャルも2人ともまずは自分の力を伸ばそうという前提で努力していた。その努力はしっかりと実っていると思うし、自分の考えたことは間違っていないとも思っている。

 

……だが、セシリアと鈴は俺達とは全く違う視点で強くなろうと試みたのだ。

 

考えてみれば、結局自分1人で強くなったところでその変化は微々たるものだろう。

綾崎さんやセシリア達の前に現れたあの所属不明のISに1対1で勝つ為にはきっとまだまだ時間がかかる。

だが、勝つだけならばわざわざ一人で戦う必要など無いのだ。

 

……そう、セシリアと鈴は自分の力を伸ばすよりも、ペアとしての力を伸ばすことを選んだ。

互いに基本となる土台はできており、尖った強みも持っている。だからこそ、ペアを組み、互いの力を上手く噛み合わせるだけで本来の実力の何倍もの実力を出すことができると、そう考えた。

 

そして、実際にその考えは全く間違っていなかった。

 

相川さんに続き、谷本さんも落とされた。

少しの抵抗もすることも出来ず、2人は僅か数分で手も足も出ずに敗退した。

試合時間は2分程度であったが、セシリアと鈴もあれが本気では無いのは間違いない。もし2人が本気になって来た時に自分とシャルのペアは勝つ事が出来るかと言われれば"無理だ"と言わざるを得ない。それほどの攻撃の嵐であり、今回の試合ではこの戦法しか見ることができなかったが、元々2人とも多芸なタイプだ。こんな直接的なものでなく、もっとエゲツないものもあるに違いない。

考えれば考えるほどに絶望的で、2人がつけた力の強さと大きさを再認識させられる。

 

……だが、だがそれでも、今の2人と全力で戦うことに俺はとんでもなくワクワクしていた。

 

綾崎さんを守れる様な男になるために、もう2度と自分の力の無さを嘆く様なことが無いように、強くなりたいと願った。必死になった。

けれどそれとは別に、自分の中の男の部分が疼くのだ。

新たな強さを手に入れた2人と戦うことを。

 

「……なあシャル。箒とラウラはさ、どんな風に強くなってるんだろうな。」

 

「……一夏、顔が怖いよ。」

 

「そんなことねえよ、楽しみではあるけどさ。」

 

いつからこんなに戦闘狂になってしまったのかとシャルには言われてしまったが、今は本当に楽しみで楽しみで仕方がない。

これだけ楽しい気持ちを抱けるのは久しぶりだ。

 

アリーナの出口に立っていた鈴が、空から降りてきたセシリアとすれ違いざまにハイタッチをする。

2人の目線の先には互いのことなど全く映っていないにも関わらず、そのハイタッチはアリーナに響くほどに綺麗な音を響かせた。

 

単純な信頼関係なんてものではない。

今でもそこまで仲が良い訳ではないだろう。

ただ互いに互いのことを知り尽くし、相手の癖と実力と機体の性能を信じている。長い時間、どれだけ嫌でも近くに居て、喧嘩をしながらも相手を見て、その手の内を明かしあった。

そんなやり方で作り上げた信用、信頼を無理やり短時間で作り上げた。とんでもないやり方だ。

 

……もし、もしも2人が本物の信頼関係を手に入れて互いを生涯の友と認め合った時、この2人はどれほど強くなるのだろう。

2人が才能に満ち溢れていることは知っている。

だからこそ、いずれこれ以上の光景を見ることができると確信できる。

 

自分に限界などない。

強くなる方法なんていくらでもある。

そんなことを2人が教えてくれたみたいで。

 

俺は自然と拳を強く握りしめて笑っていた。

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