IS - 女装男子をお母さんに -   作:ねをんゆう

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時間がないです……
余裕がないです……
多少文が雑になってるのはボリュームでゆゆして……


45.一夏の成長・ラウラの停滞

箒とシャルル(シャルロット)の激闘の末の引き分けという結果によって会場中が歓声に包まれている頃、一方でラウラと一夏の戦闘も佳境を迎えていた。

 

「織斑一夏ァァア!!」

 

激昂するラウラ。

一方で片手にいつもの剣を、そしてその逆側でシャルロットから借り受けた拳銃型の武装を手にした一夏は、冷静さをすっかりと失ったそんな彼女を冷たい目で見据えていた。

 

シャルロットや箒、そして彼女達以外のどの生徒や教師であっても、まさか彼があのラウラ・ボーデヴィッヒをここまで完璧に押さえ込むことになるとは、ほんの少しでさえも予想していなかった筈だ。

……いや、それを言えば一夏自身でさえもここまで上手く回るとは想定してはいなかった。

 

この試合が開始されてから暫くこうして互いを削りあっている2人ではあるが、そのダメージ量は明らかにラウラの方が大きい。

加えて彼女が1対1の戦闘で最強と言われる所以であるアクティブ・イナーシャル・キャンセラー(AIC)、通称『停止結界』はただの一度もまともに発動出来ないでいた。

 

「チィッ!!AIC……」

 

「させねぇよ!!」

 

「うっ!?……貴ッ様ァァ!!」

 

その理由はこれだ。

先程からラウラがAICを発動させる瞬間に、まるで先読みするかの様にして一夏が銃弾を撃ち込んでいた。

 

AICはその強力な性質を持つ反面、かなりの集中力を必要とされる。

それは本来ならば戦闘中に行うことすら困難なレベルの話ではあるのだが、ラウラはそれを血の滲むような訓練によって会得していた。

……とは言うものの、やはりこうして寸前に集中力を削がれてしまえば発動は出来ない。

多少のダメージは無視をすれば良いものの、どうしてもその銃弾に集中力が削がれてしまうのは彼女の軍人としての気質という理由もあるだろう。

 

近距離戦闘は以前と異なり殆ど互角、大口径レールカノンは一夏によって距離を取る事を封じられている今は使うことが出来ず、頼みの綱のワイヤーブレードも既に切り捨てられていた。

以前までは大した怖さのなかった一夏の銃の扱いも今では上手いとは言えなくとも射撃用センサーリンクシステムが無いなりにも十分な技量を持っており、そのたった1つの要因だけでラウラはこうして追い詰められている。

 

そして彼女が激昂すればするほどに精神的優位もまた一夏の方へと傾いていく。どころか彼は試合が進むに連れてむしろ冷静になっていた。

 

「なぜだ!!なぜ貴様は……!!以前はこんな力など無かった筈だ!!」

 

「いつの話してるんだよ、これだけ時間があれば何度だってお前にボコボコにされた時の映像を見返す暇はあったんだ。あの時から少しも変わっていないお前にはもう負けねぇよ。」

 

「っ!!……ふざけるな、ふざけるな!!たかが映像を見た程度で……!!」

 

「AICを使う時のお前のリズムはもう頭に入ってる。後はそれに合わせて"零拍子"で撃ち込めばいい。……ラウラ、今日は俺が勝たせてもらう。」

 

「……っ!零落白夜……!」

 

最低出力での零落白夜。

しかしそれでも削られた今のラウラのエネルギーを奪い去るには十分な力を持っていた。

 

触れたら終わりの究極の能力。

そんなものを相手に、今のラウラが一夏に勝てる手札は1つ足りとも存在しない。

 

そして一夏がここまで試合を引き延ばしていたのは、それを確信するためであった。

……セシリアとの戦闘時の様なことを二度と繰り返さない為に。

相手が全てを出し切り、その手札を全て把握して、こちらが優位を取った時に最後の追い込みに使うのがこの切り札。

それこそが一夏が考えた零落白夜の最高の使い方。

 

彼の想定通り、この一手は正しくラウラを詰みに追いやるものであった。

……そしてそんなことは他の誰よりもラウラが一番分かっていたことだった。

 

その美しい白い輝きをラウラは歯を食いしばりながら睨み付ける。

自分を敗北へと導くであろうその刃に、様々な悪感情を入り混ぜた憎悪の目を向け吠え立てる。

……それは織斑一夏に向けられた憎悪、だけではない。

 

「……何が、」

 

「……?」

 

「何が零落白夜だ……!何が世界最強だ……!!何がブリュンヒルデだ……!!ふざけるな!ふざけるな!!ふざけるなァァ!!!」

 

「!?」

 

突然突進してきたラウラからレールカノンを叩きつけられた一夏は一度はダメージを食らうも、なんとかそれを弾き飛ばし距離を取る。

これで厄介な遠距離武装も無効化できた。

ラウラの手には最早ブレードしかない。

ダメージと零落白夜のエネルギー消費であまり余裕は無くなってしまったが、それでもまだこちらの勝ち目は揺るがない。

 

……しかし今の一夏はそんなことよりも、錯乱した様に感情を発散させる彼女の言葉に気を取られていた。

なぜならそれは、以前の彼女からは考えられない様な。

彼女が世界で最も敬愛していた筈の姉に対する罵倒の様な言葉。

 

「……お前、何を……?」

 

「うるさいうるさいうるさいうるさい!!世界最強!?ブリュンヒルデ!?女1人救うこともせずにふざけるな!!ふざけるな!!何の為の力だ!!何の為の栄光だ!!……私は!私はそんなものに憧れていたわけではない!!」

 

「……っ!!」

 

引きちぎるように眼帯を取り払ったラウラは色の異なる両眼から大粒の涙を流して声を上げる。

こうして彼女の顔をしっかりと見てみれば、どうして今の今まで気が付かなかったのかと思うほどにやつれた顔をしていた。充血した目とその下の黒染みは彼女の睡眠不足をこれだけ顕著に表しているというのに。

 

「なぜだ!なぜ教官は今すぐあいつを助けに行かない!?なぜあれほど悠長にしていられる!?以前あれだけの事をされておきながら!!どうして問題ないなどと言うことができる!?どうして少し足りとも焦る事をしない!?あいつを傷付けるだけ傷付けておきながら!2度もあいつを危険な状況に晒して!どうしてああも平常に生きていられる!?ふざけるな!ふざけるな!!ふざけるな!!!ふざけるな!!!!使わないのならば何のための力だ!!その力を欲している者がどれだけいると思っている!!私なら救える!!それだけの力があるのならば!!私なら絶対に救い出せる!!それなのに!それなのに!!それなのに……!!

 

……どうして私には……あいつを助けに行けるような力が、どこにも無いんだ……!!」

 

「……ラウラ……」

 

その目に映る様々な負の感情はそれだけで彼女の全てを物語っていた。

自らを嘲笑う様な仕草と共に、その表情は絶望と苦痛に満ちている。

そうして一夏は後悔する。

先程軽はずみで言ってしまった一言を。

 

「……ああ、とうの昔に分かっていたさ、私に才能が無い事など。他人と同じ事をしていても自分だけがどうしても上手くできない。どれだけ自分なりに努力しようとも、他人よりも必ず身につくのに時間がかかる。そうだ、私が今の立場にいるのは私だけが教官から特別扱いされていたから以外の理由などない。皆が自分と同じ訓練を受けていれば、私は間違いなく未だ落ちこぼれの立ち位置にいた。それは誰にも否定しようの無い事実だ。私の強さの本質は結局は全て教官の力なのだ。私自身から生まれた力など、どこにも存在してはいない。」

 

「……それは、」

 

「織斑一夏、先程お前は私に言ったな?『あの時から少しも変わっていない』と。

 

……私が、私が日々の努力を怠ると思うか?私があいつを目の前で連れ去られて、屈辱と無力を突き付けられて、それでもなお何もせず、日々をただのうのうと生きていたと、本当にそう思うのか……?

 

そんなはずが無いだろう……!

そんなわけが無いだろう!!!

私がどれだけ自分を許せなかったと思っている!!

私があの瞬間!あれ以来!

どれだけこれまでの愚かな自分を殺したと思っている!!

 

教官は動かない!!

ただ残ったのは綾崎が拐われ、今もその状況が掴めないという事実だけ!!

しかも相手は以前あいつを殺しかけた人間!?

悠長にしていられた時間など1秒たりともあったものか!!

気持ちよく眠れた日など1日たりともあるものか!!

自分を許せた瞬間などほんの一瞬でもあったものか!!

 

愚かしい自分に妥協を与えず!ただ気絶と失神を繰り返して!それでも奴の顔が頭をよぎるたびに歯を食いしばった!誰にも負けない様に!今度こそあいつを守り抜ける様に!教官の力など無くとも!私の力で綾崎を取り戻せるように!!才能がなくとも努力で補えると信じて!!想いさえあれば不可能を可能に出来ると思い込んで!!……それでも、それでも私は変わらなかった……!!変えられなかった!!才能のある貴様等は短期間でこれほどの力を得たというのに!!私だけが変わらない!!私だけが取り残される!!あいつの事を助けたいだけなのに!誰よりも綾崎を救いたいと願っているのに!!それなのに私は……!!私だけが!!なぜ……!!なぜ……!!なぜ……!!

 

 

 

……こんなにも、弱い……?」

 

 

 

「ラウラ……っ!?」

 

光を失ったラウラの瞳を、まるで覆い尽くす様に彼女のISが溶けていく。

彼女の頬を伝う涙を塗りつぶす様にドロドロの流動体となったISは彼女をゆっくりと、しかし離す事のないよう確実に包み込んでいく。

尋常では無いその光景に、加えてラウラの慟哭に揺さぶられていた一夏は一歩も動くことができなかった。

 

そうして小さな身体の少女を完全にその内部へと取り込んだ黒い泥は、1人の女性の姿を作り出していく。

 

それは一夏が最もよく知っている姉の姿……

彼女が言っていた最強の力の象徴たる女性の姿。

強さを手に入れたいというならば、誰であろうと間違いなく思い描く姿だ。

一夏とてそれはそうだろう。

 

しかしそれも束の間。

一度は織斑千冬の姿をしたそれはまるで苦しむ様な挙動を見せた後、流動性を増し、大きく崩れ、ボコボコと泡のように膨れ弾け、今度はまた違ったものへと姿を変えはじめる。

 

黒い泥の中からでも聞こえる様なラウラの悲鳴に顔を歪ませる一夏だが、それでも自分が引き起こしたとも言える目の前の現象から逃げる気など微塵もなかった。

 

既に観客席では避難が始まっており、戦闘不能になった2人もISを解除して物陰に身を隠して一夏を見守っている。

 

建物の中にいる千冬から何度もコールが来ているが、一夏はそれに応えない。

ただ姿を変える目の前の存在を睨みつける。

 

「……そうか。お前はそこまであの人のことを思っていたんだな、ラウラ。」

 

先程とは異なる長い髪の細身の女性。

決して織斑千冬その人の姿ではない。

だが、細かい所まで再現されてはいないその曖昧な状態であっても、それだけでこの存在が一体誰を模しているのかがここに居る人間の誰にでも分かった。

 

その泥の正体が何なのかは分からないが、きっと最初の姉の姿こそが正常なものだったのだろう。その証拠に今でも雪片によく似た武装を持ち、姉によく似た構えをして一夏に相対している。

 

それでもあれだけ不自然な動きをして今の姿に無理矢理気味に変えられる様子を見せられてしまえば、この彼女によく似た姿がラウラの意思によるものなのだと容易に想像がついてしまう。

 

そんなことができてしまうほど、ラウラが彼女を特別に思っていたという事実にも。

 

「……なあラウラ。お前はさ、多分だけど分かってたんだよ。本当の強さって言うのがなんなのか。そうじゃなきゃ"力"を……いや、"強さ"を求めて綾崎さんの姿を模したりなんかしないはずなんだ。」

 

無言で構える相手に対して、一夏もまた雪片を構える。

仮に相手が自身の姉をコピーしたものだとしても、今の一夏はこれっぽっちも負ける気がしなかった。

 

……別に昔の姉にならば自分一人の力で勝てるというわけではない。

ただそのコピー自体からは何の強さも感じないというだけで。

 

「……なあラウラ。お前も知ってるかもしれないけどさ、千冬姉ってそんなに強い人間じゃないんだ。出来ることよりも出来ない事の方が多いし、いつも格好付けてるけど俺も知らない所で滅茶苦茶落ち込んでたり悩んでたりしてるってこの前聞いた。人を励ます事とかめちゃくちゃ苦手だし、素直に謝る事も一苦労、誰かに優しくすることも不器用でさ。

 

……だからきっと、その姿を選んだお前は間違っていない。その人の姿を選べたお前が目指す強さなら、絶対に間違ってなんかいない。

 

ああ、そうだ。俺も最近色々あって忘れかけてたけどさ、強さって力だけじゃないよな。力を上手く使う事も強さのうちって昔千冬姉に教えられたのに、悔しくて情けなくて、すっかり忘れてた。

 

……一番強い人間でその人を思い浮かべられるお前に、俺が偉そうなことを言える資格なんてなかったんだよな。」

 

「……」

 

「だからさ、もう一回やり直すチャンスをくれよ。

きっと彼女なら……綾崎さんならこんな時、誰かに助けを求めて、みんなで問題に取り組もうとする強さを見せてくれるはずなんだ。

お前1人で抱え込む必要なんて無かったんだ。

だってみんなお前と同じ気持ちだったんだから……絶対に協力するに決まってる。

 

1人で全部解決しようとするなよ、綾崎さんは一度だってそんな無理矢理な方法で物事を解決しようとしたことなんてなかったぜ?」

 

『ァァァァァァアアア!!!』

 

「俺は弱い。今日お前に勝つことができたのだって、悔しくて悔しくて、必死になって対策を考えたからだ。……けど、多分次にやる時はお前に勝てないと思う。

 

だって……」

 

寸前にまで迫ったコピー体は剣を大きく振り上げ、一夏目掛けて振り下ろそうとする。

しかしそれに対して一夏は少しも動揺することなく動かなかった。

ただ不敵に笑って雪片に光を灯していく。

 

『『一夏(さん)!!』』

 

コピー体が勝利を確信した瞬間、突如としてアリーナの両サイドから同時に放たれた2つの異なる弾丸によって両手を破壊された。

意気揚々と振り下ろした先に自分の両腕と剣はなく、ただ呆然と零落白夜を発動させた一夏に前屈みになっただけの様な態勢になる。

 

あまりにも間抜けなそんな姿にも関わらず、一夏は問答無用で腹部を一閃した。

 

「……ラウラ。苦しい中でも努力を続けられる才能っていうのは、他のどんな才能よりもスゲェもんなんだぜ?」

 

ドロリと抜け出たラウラを助け出し、気絶したままの彼女に一夏はそう笑いかけた。

 

自分が幼い頃に剣道を続けていられたのも、自分に才能があって、それなりに成長を実感し、勝利を掴み取ることができたからだ。

 

ISだってそうだ。

日に日に成長は感じられるし、なかなか勝つことはできなくても、それでも大事な場面では格上の相手に善戦する事ができていた。

 

……もし、もし自分に才能が無くて、どれだけ努力しても成長を実感出来ず、勝利を掴むことができなければ、どうなっていただろうか。

直ぐにその道を諦めていたことは間違いない。

 

ラウラは千冬が『自分にだけ特別扱いをした』『自分以外の者にも同じことをしていたら落ちこぼれていた』『結局全ては教官の力』と言っていたが、そもそも千冬が特別扱いをしようとしたのも結局は彼女の頑張りを見ていたからに過ぎない。

 

千冬とて人間だ。

他人に平等に接することなどしないし、贔屓の人間はどうしてもできてしまう。どころか家族や親友以外の人間には基本的に一歩引いて壁を作って接するのがデフォなタイプ。そんな彼女の気を引くことが出来たのは間違いなくラウラの努力の賜物であり、今の彼女の力は間違いなく彼女が自分で掴んだ自分の力なのだ。

 

……だからこそ、きっとこれからも、それこそ奈桜ならラウラのことをとても気に入って、甲斐甲斐しく世話を焼こうとするのは目に見えている。

 

そしてまたいつしか、今日の一夏との力の差が逆転するのだろう。

一夏はそれを確信していた。

 

(……綾崎さんの的確なアドバイスを真面目なラウラが一心不乱に努力すれば……絶対また追い抜かれるよなぁ……俺も頑張らないと。)

 

こうしてタッグトーナメントはたった2試合の末に中止された。

しかしその2試合の反響は大きく、学園の外でも大いに話は広まった。

 

それが良いことなのか悪いことなのかは、また別の話……

 




いっちーもイケてる男子にしていきたいの。
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