IS - 女装男子をお母さんに -   作:ねをんゆう

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話があっち行ったりこっち行ったりしてますが、基本的に書きたいものを書いて書けたら放流してる感じなので許してください……
中途半端なので明日も投稿します。


46.とある少女の変革-1

私が最初にこの男を見つけたのは、酷い憎悪と混乱の中だった。

 

自分の知らない大きな枠で世界が動き始め、そんなことは関係ないと突き進める程の強さも無く、少しの先も見通せないほどの混沌が目の前に広がっている。

それまでの1つのことさえ考えていれば強引にでも前へと進めていける様な環境に居られれば、きっとこの男を見つけた所で有象無象の1つとしか感じることは無かっただろう。

 

 

 

……ある日、自分の全く知らない所で所属していた組織が消滅した。

 

 

消滅したというよりは、乗っ取られたと言った方が正しいのかもしれない。

 

その作戦には当時の同僚であったオータム、スコール、そして何人かの有力な人間に加え、何処から嗅ぎつけてきたのか、あの篠ノ之束の一派も参加していた。

 

そんな集団が相手となれば、いくら数十年もの間暗躍を続けてきた組織と言えど勝ち目などあるはずがない。

亡国企業と呼ばれていた秘密結社は、僅か数日のうちに幹部メンバーの全員が、身分、財産、自由の身を奪われるという形で壊滅させられた。

 

『君に選択肢をあげよう』

 

拘束された私の目の前で、奴はそう言った。

 

片手にはナノマシンの中和剤。

 

片手には血濡れの拳銃。

 

『1つ目。君のナノマシンを中和してあげる代わりに、私達の側に付くこと。ある程度の自由は保証してあげるし、君が望むなら私直々にISを作ってあげてもいいよ。……その代わり、勝手な行動は許さないけど。』

 

『………』

 

『2つ目は、勿論この場で死ぬ事かな。君の事情なんて知ったことではないけど、今の私には地上の事に関心を向けている余裕なんて無いんだ。だからちーちゃんやいーくん達に余計な事をされる前に処分しちゃう。』

 

『……それでは、どちらを選んでも私の望みは果たされないではないか……!』

 

『そう言ってるんだよ?そんなことも分からないの?

君がどれだけ強かろうと、所詮は未完成だからね。私がこうしてここにいる限り、君にはその望みを捨てて貰うしかない。』

 

『……ふざけるなっ!そんなことならば私は……!』

 

『そっか、じゃあ死のうね。今の私には君に対する興味なんてこれっぽっちしか無いからさ。断るならそれまでだよ、バイバイ。』

 

『っ!!』

 

何の抵抗も躊躇いもなく、篠ノ之束は私の額に向けてその引き金を引いた。

この瞬間になって、私はようやく気付いたのだ。篠ノ之束が私にこうして選択肢を与えたのは、別に私という存在の価値を求めてではなかったということに。

 

『……Oちゃん、何で邪魔するの?私、約束通りチャンスはあげたんだけど?』

 

『ばーか。お前の場合は私がこうして邪魔をして、初めてまともなチャンスになるんだよ。人付き合い半人前は黙って先生の言うこと聞いとけ。』

 

『……人付き合いなんて束さんには必要ないし。』

 

『これから必要になるんだ。私がお前につきっきりで色々教えこんでやっから。勉強しろよ、劣等生。』

 

『………劣等生とか束さん初めて言われた。』

 

射撃の寸前に篠ノ之束の腕を押さえ付けたオータムは、そのまま不機嫌そうな顔で睨みつける奴の頭をぐしゃぐしゃと撫で回し、いつもと変わらず快活に笑っていた。

あの篠ノ之束にそんなことをしているどころか、されている側も特に抵抗することなくジト目で睨みつけているだけ。後から考えれば2人の間にいつそんな関係が生まれたのかと不思議には思ったが、当時の自分にそんな考えを浮かばせる余裕はなかった。

 

『……オータム。』

 

『……まあ、なんだ。とりあえず生きてみろよ。別に殺すだけが復讐じゃねえし、復讐だけが人生じゃねぇ。やることなんざいくらでも見つかる。』

 

『ふざけるな!私は奴等への復讐だけを考えて生きてきた!今更それを捨ててどう生きろと……!』

 

『そんなことまで知るかバーカ、テメェで考えろ。』

 

『なっ……!』

 

『私も暇じゃねぇんだ、私にも私の人生ってもんがある。いつまでガキやってるつもりだお前は。何も考えずそれだけやってりゃ、そりゃ楽だろうな。だがそれじゃあ何にも成長しねぇ、いつまで経ってもガキのまんまだ。』

 

『……っ!!』

 

『いいかエム、同僚のよしみでお前に1つアドバイスをやる。

……憎しみを抱く事は別に良い、それはお前の勝手にしろ。だがな?憎しみを抱いてたら人生にまともな楽しみを見出したらいけないってのは、テメェの勝手な思い込みだぜ?』

 

『思い、込み……?』

 

『誰かが死ぬ程嫌いでも、他に死ぬ程好きな奴をつくってもいいってことだ。マジで殺したい奴が居たとしても、それがお前の人生の全てを黒に染める訳じゃねぇ。

お前はその思い込みと怠惰で全部黒色にしようとしてやがるが、んなもん私から見れば勿体無くて仕方ねぇ。折角綺麗な顔して生まれてきたんだ。大いに憎んで、大いに楽しみゃいいじゃねぇか、人生なんざ。』

 

『……』

 

……その時の私には、オータムの言っている事が何一つ分からなかった。

 

ただ事実として、私は生かされて、脳内のナノマシンも取り除かれて、専用のISを与えられながら、平凡な生活という世間一般で言う幸福を与えられたのだった。

 

(違う……違う……!私は、私はこんなものを手に入れるために生きてきたわけではない……!!)

 

私に与えられたIS学園の監視という役割は、想定していた以上の負担を私に与えていた。

 

平凡な生活に染まり始め以前の様な鋭さを失っていく心に対して、学園の映像を見る度にその色はどんどんとドス黒く染まっていく。

 

増していく憎悪は私に全てを捨てて破壊を決行しろと言う。

けれどこの生活を享受し始めた怠けた心は篠ノ之束の前でそんなことは不可能なのだから、今は力を付けるために現状を維持しろと囁きかける。

 

自分が自分によって追い詰められていることに気がついた。

 

オータムが言っていた様な、人生を楽しむための要素など少しも見つからないし、考えられる筈もない。

憎しみこそが全て、復讐こそが全て、それ以外に何も考えられない。何も考えたくない。自分の心のままに流されていたい。けれど心の形と色が噛み合わず、加えて以前の様にただ流されるという事もできやしない。

 

……オータムが私のことをガキだと言った理由が、この時ようやく分かった。

 

結局私は復讐だなんだと言いながら、恨む振りをして、怒る振りをして、自分にとって楽なことしかしてこなかったのだ。

 

考えることを、知ることを拒否して。

ただ感情のままに行動して、事実や本質を受け入れずに駄々を捏ねる様に暴力を振るう。

これをガキと言わずして何というのか。

 

けれど今更どうすればいいというのだ。

私は今までこれしかしてこなかった。

これ以外のことなんて考えたこともなかった。

今更自分の人生に新たな色を付けるなんてことはできやしない。

したことがない。

だからやり方が分からない。

人生を楽しくなんて考えられないし、

考えたくない自分がいる。

思い込んだ今のままが一番楽だからと、

何もしないままを望む怠惰な自分がいる。

けれどそれでは永久にこのままだ。

自分の心に矛盾を抱え、

日々増長していくそれを、

ただ秘め抱えることしかできない。

 

考えるという体の自傷行為を繰り返し、解決策を模索しているように自分を責め続け、何一つ進展することなく私の心は死んでいく。

 

同僚達は忙しなく働いている。

あの篠ノ之束ですら徹夜を繰り返し自分の役割を全うしている。

それなのに自分だけがこうして何かを浪費して生きている、生かされている。

 

今の私はゴミ屑だ。

力を振るうこと以外に脳のない生き物。

それなのに一度力を振るう先を失えば、ただ立ち尽くすことしかできない。

武器にも人間にもなる事ができない、獣にも劣るナニカ。

篠ノ之束に"未完成"と言われたが、それは正しくそうであった。

その言葉に何一つ間違いがなかったと再び自分を嘲笑し、蔑む。

 

以前は馬鹿にしていたモニターの中の人間達の方が自身で選択をして生きているだけ、いくらかマシな人間に見えた。

どれだけ心に闇を抱えていても自分の人生という色を持っている彼等を見て、私は自分がただの機械の様だと感じた。

 

自嘲と失望と逃避、自傷に狂乱に空白。

そんなことを繰り返していたら、ある日唐突に私は悟った。

私はこのまま死ぬのが最も相応しいのではないのかと。

 

復讐という名の八つ当たりだけを考えて、ただ日々を怠惰に過ごしてきた自分にとって、結局最後までループから抜け出そうともせず怠惰を繰り返して無様に生き絶えるというのは、なかなかこれほど相応しい死に様も無いのではないだろうか。

 

そう考えると、自然と口の端がつり上がった。

 

画面に反射して映る自分の顔は、それはひどいものだった。

 

本当ならば姉に似てそこそこ綺麗なはずの顔だったのに、今ではその面影が残っているのかも怪しい。今なら別人と言われてもおかしくないだろう。

 

このまま死ねば、私は私として死ねるのではないのかとか、そんなバカなことを考えれば、自嘲はより一層深まった。

 

(……もう、潔く死ぬのもいいか。どれだけ時が経とうとも、私は恐らく変われない。誰かを恨み、憎しみ、それだけしか考える事なく無様を晒すことしかできやしない。オータムの言っていたような黒以外の色のある人生など見つけることもできない。こうなった今でも憎しみは消えてはいないのだから。

もう十分に分かっただろう、自分のこれまでがどれだけ無価値なものであったのかと。どうせこれから先も同じ無価値ならば、生きることに一体何の意味があるというのだ。

……そうだ。そもそも生まれてきた意味すら無かった、そしてこれから先に生きる意味すら作り出せなかった。それならば私は……)

 

そんな風に全てを諦めた私は、手近にあった普通のボールペンを喉にあてがった。

多少は苦しいだろうが、別に死ねないことはない。こんな安っぽいペンで自殺を図るなどやはり無様ではあるのだが、それでもそれも自分に相応しいとも思えた。

……それに、他者にはあれほど死を迫った癖に、いざ自分の番となると恐怖を感じてしまうのは、やはり自分という人間が如何にゴミであったかを再認識させ、より一層この手に力を入れ込む理由にもなった。

 

(……私も、憎しみなどに身を任せていなければ、姉さん達のように……無理、だな。)

 

そもそも生まれた環境が地獄だった。

それから先も地獄しかなかった。

だから、理不尽ながらも彼等を恨まざるを得なかった。

そうして生きるための目的を作らなければ壊れてしまいそうだった。

自分の人生がこうなることは必然だった。

 

(……なぜだ、なぜ私ばかりこうなる。どうして私はこうなった。私は本当は……織斑一夏の様になりたかっただけなのに……)

 

フルフルと震えるペン先が喉に迫り、赤い水滴が滲み始める。

死ぬのが怖いと、けれどもうやるのならばここしかあり得ないと、一思いに突き刺すために私は思いっきり目を瞑った。

こんなところでまで来て甘えるなよと。

最後くらい自分への甘さを捨ててしまえと。

他者に理不尽な厳格を強いてきたのだから、自分の甘さだって少しも許してはならないと。

甘えるな、甘えるな、甘えるな、甘えるな、甘えるな。

震える手を抑え込み、必死に自分を追い立てる。

數十分にも及ぶ長い葛藤の末に漸く恐怖を誤魔化す事ができ始めた私は、両手に硬く握りしめたペンを思いっきり引き離して、そのまま絶対に止まる事がないよう、勢いよく引き寄せようとする。そして……

 

 

 

『私は"甘えるな"という言葉が大嫌いですから。』

 

 

 

 

 

そんな甘過ぎる誰かの言葉に、それまでの私の覚悟はいとも容易く溶かされてしまった。




最近はISの面白い2次創作が絶えず供給されて、読む側としてもホクホクです。
創作でネタ被りなんてザラだから色んな人に書いて欲しい……同じネタでも人によって展開が変わるから面白いんですよ。
私もドロドロの恋愛モノ書きたくなってきました。

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