IS - 女装男子をお母さんに -   作:ねをんゆう

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まどかちゃんが人間に近づいて行く……


47.とある少女の変革-2

 

『私は"甘えるな"という言葉が大嫌いですから。』

 

聞いたこともないような、そんな甘ったるい言葉。

けれど異様に耳に響いたそんな言葉に私の決意は脆くも崩されてしまった。

手元からボールペンがこぼれ落ち、情けなく力の抜けた身体はその暗い部屋のモニターの前に崩れ落ちる。

へたり込んだ今の自分にはもう既に先程のような決意を固める力はこれっぽっちも残っていない。

全てを終わらせる最大のチャンスを今この瞬間こうして失ってしまった。

それを腹立たしいと思う気持ちと、死なずに済んだことへの安堵の気持ち、そしてそれに対する自己嫌悪。

めちゃくちゃになった心は処理するだけで一苦労で、指先一つすら動かすような余力は残っていない。

 

けれどそんな哀れな子供のような姿を前にしても、モニターの中の女生徒は呆れるほど優しい顔をして笑っている。

他者に対してこれほど真っ白な感情をぶつけられる彼女のことが全く分からなくて、ただただ彼女のことを見つめていた。

 

彼女に関しての記憶はほとんどない。

確かいつからか織斑千冬の部屋に住んでいた様な記憶はあるが、その辺りから自分の中の感情を処理するのに必死になってモニターをまともに見てはいなかった。

彼女の膝の上にいるのは確か篠ノ之束の妹である篠ノ之箒。

あれの妹とは思えないほど厳格で、記憶の限りでは他者に対してあれほど気を許すタイプではなかったはずだ。

 

そんな彼女がこうして他人の目がないとは言え一人の人間に甘えている。

 

私が彼女に……いや彼に興味を持ったのはそれがきっかけだった。

 

それからは壊れた玩具の様にただひたすらモニター越しに彼女の姿を追っていた。

もうすっかり自殺をする気力は無くなっていた。

それなのに、自分を責める様なことをする気力もなかった。

私はまた考えることをやめて、ただただその女生徒を追い続けていた。

 

……それなのに、以前と同じ様に何も考えず思考を放棄していただけだというのに、私の心は死んでいくどころか、むしろ以前よりも生き生きとし始めたのを覚えている。

織斑千冬や織斑一夏がいくらこの目に映り込んでも、何故か以前よりも心が動かなくなっていたことを覚えている。

 

それほど追いかけ始めた彼女の人生と生き方は衝撃的で、私は彼女に惹きこまれてしまったからだ。

 

 

まず、彼女彼女とは言っているが、彼女はそもそも男だった。

世界で二人目の男性操縦者でありながら、女性として身分を偽っているのだという。

これを知った時、私の死にかけていた心は驚愕のあまり思わず息を吹き返した。まるで停止寸前の心臓に電気ショックを与えた時の様な、あまりに大きなその衝撃を前に私は久々に体を俊敏に動かした。

……その一歩こそが私の心が変わり始めた第一歩に違いない。

 

そして次に、彼のIS操縦者としての技能は最早異常といっても良いほどに卓越していた。

モニター越しでは乗り始めて僅か数ヶ月と言っていたが、その技術は完全に熟練者のそれだ。

才能はあるだろうが、それだけではない。

だが、どうやっても受けることしか出来ず、相手を攻撃することが出来ないという点はとても彼らしくて、自分の解釈通りであると納得して少し嬉しくなったのを覚えている。

……この時、久方振りに明るい感情を抱けた事に気が付いて、自分に自分で驚愕した。

 

そして最後に、彼は見ているこちらが呆然としてしまう程に他者に愛を齎していた。

彼が愛を司る神の化身だと言われても思わず信じてしまうくらいに、彼は周囲に愛を振りまいていた。

 

例え見知らぬ人間であろうが困っていれば声をかけ、間違っていることをすれば正しくその人間のためになるように相手を叱る。

相談事にも親身に対応して、誰に対しても変わらない優しさを見せるその態度故に、同性という体でありながら彼に憧れを抱いてしまう女生徒は後を絶たなかった。

 

しかもそれが他人の目の届かないところでは良くない本性が垣間見えるかと思えば、全くそんなこともない。

ゴミが落ちていれば率先して拾うし、人間だけでなく動物に対しても愛を与え懐かれる。自分のものではない花壇に管理人の代わりに水をやっていたり、誰も見ていないのに清掃活動をしているのはザラだ。挙げ句の果てには満面の笑みで他人のための家事をしていたり、ただ同室というだけの姉の為に彼女の知らないところで様々なフォローをしていた。

きっと今でも姉さんが気づいていない彼のフォローは多くあるだろう。

 

……こんな人間がこの世界にいたという事が、私は信じられなかった。

 

見れば見るほど、知れば知るほどに彼から目が離せなくなっていた。

 

彼のほんの少しの行動も見逃さないように、終始モニターの前に張り付いている自分がそこに居た。

 

『私は甘やかす人間ですから』

 

『誰にでも甘える権利はあるんです』

 

『私にだけは何の遠慮もなく甘えてもいいですからね』

 

そんな彼の独特な感性の混じった言葉は、私に新たな価値観を認識させた。

そんな生き方もあるのだと、私は自分とは全く異なる彼の人生の虜にされた。

 

(……自分も、彼の様になれるだろうか。)

 

そんなこと無理だと分かっている。

彼と自分はあまりにも違い過ぎる。

比較するだけで自分がどれだけ最低な人間なのか自覚させられて、死にたくなるくらいには彼は聖人過ぎる。

 

けれど、私は彼に憧れた。

その生き様に感動した。

彼に少しでもいいから近付きたいと心から思った。

 

彼を見ているだけで色が差し込んでくる自身の心に、ほんの少しではあるが可能性を見出せた。

 

彼の事を見ていれば、知れば、理解すれば、自分を変えることができるのではないかと期待した。

 

……そして、事実として、少しではあるが私は変わることが出来ていた。

あれほど膨らんでいた憎悪の感情が気付かぬうちに小さくなっていたのだ。

 

きっとそれは他の事に目を向ける余裕もなく彼を見ていた時、それに伴い彼の近くにいた織斑千冬と織斑一夏の情報も自然と知ってしまったからであろう。

人は自分の知らない事に対しては憶測と想像で補完しようとし、私の場合はそれが行き過ぎて憎悪を作り出していた。

だが2人の人間性と現在置かれている環境、そして生き様は、自分が補完していた情報を塗り替え、置き換え、基盤を作り変える事でそれによって成り立っていた憎しみを少しずつ解体していった。

故に憎悪は萎んでいった……

 

……ただ、なんとなくその解釈は気に入らない。

 

そんな解釈よりも、真っ白な彼を見ている事で自分の心も影響を受けて、その黒色が薄まったと考えた方が個人的に好きな解釈だ。

 

それに別にこれは嘘でもなんでもない。

だって最近では彼が他人を甘やかすところを見る度に『出た、いつものやつだ』と言った様に嬉しくなるし、彼が家事をしている姿を見ているだけで素直に感心しながら、満足に作れた時に見せる満面の笑みに自然と顔の熱くなる自分がいる。

以前の私では考えられなかった様な至極まともな人間らしい感情を抱ける様になり、これが白でなければ何というのか。

 

他の何に対しても同じ感情を抱くことがイラついたり気に入らないものであったとしても、彼に対する好意だけは何の抵抗もなく素直に向けることができる。

他の誰に対しても見せる事ができない自分の情けない言動も、彼の姿を見ながらだと素直に表すことができてしまう。

基本的に否定から入る私が、彼にだけは肯定することができてしまう。

 

彼が模擬戦をする度に全力になって応援した。

彼が料理を作る度にその味を想像して憧れた。

彼が授業で活躍する度に私まで誇らしくなって頷いていた。

彼が誰かに優しくする度に嬉しくなって、相手の反応が楽しみになった。

 

彼を見ている時だけ、私は人間になれていた。

 

私は未完成ではなくなっていた。

 

私に色が生まれていた。

 

(見ていたい、もっと彼を見ていたい……!

彼の色々なことを知りたい、彼の全てを記憶に焼き付けたい!

ずっと彼を応援していたい、彼を生で見てみたい!

それが許されるのなら私は……!!)

 

 

 

……わたしは、本当の色を手に入れられると思った。

 




まどかちゃんにもまだまだチャンスはありますよ。
奈桜の中での恋愛的好感度は千冬ですら10%も無いですから。
友人的好感度ならオータムですら70%はあるのに……

恋愛攻略難易度infernoこと奈桜ちゃんです。
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