IS - 女装男子をお母さんに -   作:ねをんゆう

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一夏ハーレムの今後も考えていかないとですね。


50.好意への誠意

sideラウラ

 

暗闇の中にいた。

一線の光も無いそんな世界で自分という存在がただただ立ち尽くしている。

ここがどこなのかは分からない、けれど今の自分に相応しい場所の様にも感じる。

 

……あの日、彼女が目の前で拐われた時から、私の頭の中はこの空間と同じくらい真っ黒に染まっていた。

 

彼女を救えなかった自分の弱さ

彼女を救いに行こうとしない教官への失望

そして囚われた彼女に対する心配

一向に成果の出ない鍛錬への焦り

 

色々なものが重なって、何をやっても八方塞がりで、尊敬していた人への失望と怒りは思いの外自分を焼き尽くして、いっそのこと私はこの世界の全てに憎悪と怒りをぶつけていた。

 

……織斑一夏に対してもそうだ。

一度は認めた人間でもあるにも関わらず、認めてしまったが故に怒りを抑えきれなかった。

奴の才能は本物だ、努力をすればするだけ報われる。事実として奴はこの僅かな間で自分を上回るほどの力を付けた。努力をしていたから当然だと言う者もいるだろうが、努力をしたとて報われない者など、この世界にはごまんと居る。その例として私がいるわけで、そんな私からすれば才能の塊である織斑一夏は心の底から羨ましかった。

……同時に、彼のそんな姿から教官を幻視してしまい、教官に対する感情を代わりに彼にぶつけてしまったこともあるが、あれは流石に理不尽が過ぎたと反省している。

それは彼には直接関係ない話なので、そうするべきでは無かったと今では思う。

 

ただ、そんな関係のない彼に当たり散らしてしまう程に、私の中で教官に対する怒りは大きかったのだ。

……以前の私では考えられないくらいに。

 

それもこれもきっかけは彼女だ。

この短期間で信じられないくらい近い存在になった彼女、綾崎奈桜。

 

最初に彼女を見たのは本国から送られてきたデータでだった。

その時はまだ容姿の綺麗な女生徒であり、かつ襲撃してきたテロリストを単独で足止めした功績から、見所のある人間程度の認識。

 

入学した後に教室で見た彼女についても特筆すべきこともなく、思いのほか温和な性格をしている事に驚いたくらいであった。

 

そんな私の彼女に対する認識が変わったのは、島の地形把握のために散策している最中に海を見ながら黄昏ている彼女と偶然にも遭遇した時だったと思う。

あの時の彼女は同室で生活している教官と何やらあったらしく、失敗してしまったと珍しく落ち込んでいた。当時の私は気付かなかったが、彼女が落ち込んでいる姿というのはセシリア・オルコット曰く本当に珍しいことだったらしい。きっと人前で見せない様にしているのだろうが、それでも今思えば本当にレアな場面だったと言える。

 

……なんというか、彼女は本当に口が上手かった。

そして同時に、こちらに警戒心や敵対心などの負の感情を抱かすことなく、落ち着いた状態で会話をさせるという技能に長けていた。

その証拠に当時教官や織斑一夏の関係で冷静さを失いかけていた私が、何故か彼女の目の前ではその盲目から抜け出して冷静に自分を見つめ直すことが出来た。

 

きっとそれは彼女の中で邪な打算や思惑などが一切なく、心の底から他者に対する親切心しかない為に出来る事なのだろうと思う。

もちろん彼女の生来の気質や慣れなどもあるだろうが、それでも彼女と居ると自分の心が自然に溶けていく様に感じて、思わず本音を話してしまった。

 

けれどそんな本音に対しても彼女は笑う事なく真に私のためを思って言葉を口にしてくれた。

私はそれがどうしても嬉しくて、つい偉そうなことを言いながら世話を焼いてしまったのだが、あの瞬間実際に見守られていたのは間違いなく自分の方だった。

 

それからも色々とあった。

織斑一夏をボコボコにした日の後に会ったこともあれば、細かい話をすると、周囲のうざったい視線を避ける為に昼食を外で食べている私を見て私にもお弁当を作って誘ってくれたり、授業で一人孤立しがちな私と積極的にペアを組んだり、他のクラスメイトへの指導を命じられた時にも隣についてサポートをしたりしてくれていた。

 

一つ一つのことは取るに足りないことだ。

別に昼食など一人で取ろうと構わないし、授業のペアとて偶数なのだから自然と余った人間と組む事になる。他者への指導など、やる気のない人間が居るのが一番の問題なのだから、むしろ丁寧に教え過ぎだと思った。

 

……けれど、そんな小さなことが何故か嬉しく感じてしまった。

自分の為に作ってくれたという昼食は保冷剤で冷えているにも関わらず、とても温かく感じた。

ペアを組む様に言われた時に最後まで残ることなく誰よりも率先して手を引いてくれた時には固まっていた胸の内が少しだけ解れた様な心地がしたし、

自分の指導を逐一分かりやすい様に、かつ言い方のキツイ自分の言葉を一々甘ったるい解釈をして伝えていた時には多少はムッとしたものだが、それでも悪い気がしなかった。

 

彼女と出会って僅か数週間。

そんな短い間にも絶え間無く彼女は私を気遣い、笑いかけてくれていた。

 

それが私にとってどれだけ救いだったことか。

 

知っているものなど殆どいない。

唯一面識のある教官は私に構ってなどくれない。

初日に織斑一夏に対して暴力を振るった事で自業自得ではあるが、何処に行っても睨まれ陰口を叩かれる。

気にしていないつもりでも徐々にフラストレーションは溜まり、自分の頭に霞がかかった様に冷静な判断が下せなくなる。

一人で考え込むほどにそれは増して、入学当初の毎朝の目覚めは最悪だった。

 

けれどそんなものも、彼女の顔を見ればどこかへ飛んで行ってしまう。

どれだけ不機嫌な顔で教室に入っても、真っ先に明るい笑顔で挨拶をしに来てくれる彼女を見ると、靄がかかった様な頭もスッキリとし、自然とこちらの表情も明るくなった。

彼女と一緒にいる事を求めてしまう様になることは必然だったとも言える。

 

……そうだ、私はほんの少しの付き合いであっても、彼女のことをとても好ましく思っている。

これは教官に抱いていた敬愛の気持ちとは違う。

 

叶うならば私はずっと彼女と共に居たい。

彼女の側に居たい。

彼女の笑顔をいつも見ていたいし、

その笑顔を自分に向けて貰いたい。

もっと彼女をよく知りたいし、

もっと自分を知って貰いたい。

彼女に色んなことを教えて貰いたいし、

彼女のことを私が守ってあげたいし、

彼女の世話も焼いてあげたいし、

それに何より……私は彼女に愛されたい。

 

この気持ちが何なのかは分からない。

もしかしたら恋人に向ける気持ちなのかもしれないし、もしかしたら家族に向けるものなのかもしれない。

それがどちらかだなんて、どちらも体験したことの無い自分には判断がつかないし、それが満たされるのであればどちらでも構わないとさえ思っている。

 

……私は、もう一度彼女に会いたい。

もう一度彼女のあの笑顔が見たい。

もう一度彼女にあの優しい声で話しかけて欲しい。

 

どうして貴女ばかりがこんな目に合う。

どうして一番優しい貴女がハズレくじを引く。

他の誰でもいいではないか、私でも良かったではないか。なぜ貴女ばかりが……

 

会いたい

会いたい

会いたい

会いたい

 

そうだ、もうどんな形でもいい。

誰が何をどうしようとも構わない。

彼女が無事ならば、彼女が生きているのならば、彼女がもう一度戻ってきてくれるのならば、私はもうそれだけでいい。

もう一度彼女となんでもない普通の生活を送れるならば、それ以上はもう何もいらない。

 

 

 

……私は、私は彼女を、愛している……!!

 

 

 

 

 

 

 

『……ありがとうございます、ラウラさん。』

 

 

その瞬間、真っ暗だった世界に光が差し込んだ。

徐々に光量を増していくその空間で、光の先に彼女がいる。

彼女はいつもの笑顔で暗闇で蹲る私に手を差し伸べていた。

 

『……私は、本当にお前の側にいても、いいのか……?』

 

彼女は答えない。

けれどその優しい笑みを崩すことなく、その光の先から一歩踏み出して私を抱き締める。

それだけで私は嬉しくて、幸福を感じて、ただただ彼女の胸の中で光に包まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

「……私、は……」

 

夢から覚めた私が見たのは真っ白な天井。

 

そこには先程まで私を抱きとめていた彼女は居ない。

 

当然だ、居るはずがない。

 

私がこうして倒れている原因はイマイチ把握できてはいないが、それでもたかがトーナメント戦が原因だ。

 

彼女とは何の関係もない。

 

彼女が目の前にいてくれるはずがない。

 

そう思うと目に涙が滲んでくる。

 

情けのない話だ。

 

一部隊を任された軍人である癖に、求める人間のいない寂しさに涙を流すのだ。

これでは軍人失格だ。

 

情けのない自分に失望しながらも袖で涙を拭くが、どれだけ拭っても拭っても涙が止まることはない。

まるでこれまで溜まっていたものが決壊したかの様にして、積み重なった負の感情が恐ろしい勢いで噴き出してくる。

嗚咽を漏らさない様に歯をくいしばるが、自分の感情をコントロールすることができない。

 

……今日だけならば、今日だけならば構わないだろうか。

 

そんな弱気な心が見えてきてしまって、それに甘えそうになってしまって、そして……

 

 

 

「起きましたか?ラウラさん。」

 

 

 

窓際から聞こえてきたそんな声に、肩を大きく跳ねさせた。

 

そんなはずがない

 

そんなはずがない

 

その声が聞こえるはずがない

 

だって私はまだ何もしていない

 

彼女のために何もできていない

 

だから彼女がここにいるはずがない

 

いるはずがないのに……

 

 

「……あや、さき……?」

 

 

ゆっくりと首を横に向ける。

この目で確かめるのが恐ろしくて。

また自分の幻覚だと知るのが苦しくて。

 

……けれど、視線の先に彼女は確かにそこに居た。

赤く燃え盛る夕焼けを背に、窓から吹き抜ける風に流される髪を抑え、以前は無かった黒い布の様なもので両目を覆い隠す様にしているが、それでも余りある温かな雰囲気を身に纏って……彼女は確かに、そこに居た。

 

「ええ、そうですよ?綾崎です。お久しぶりですね、ラウラさん。」

 

「……なぜ、お前が、ここに……」

 

「えっと……その、千冬さんの知り合いの米軍の方……?に助けられまして。色々と手続きで時間を取られてしまったのですが、漸くこちらに帰ってこられた……みたいな。」

 

「……その目は、どうした……?」

 

「あ、これですか。別に怪我をしたとかではないですよ?左目だけではなく右目も悪くなっていたことが分かりまして、特注品で保護眼鏡の様なものを作って貰ったんです。紫外線をカットしつつ、視力をカバーしてくれる優れものです。」

 

「怪我は、本当に怪我はないのだな……!?」

 

「あわわ!も、もう、本当に大丈夫ですから。それより今はラウラさんの方が心配です、私よりも自分のことを……」

 

「そんなわけにいくはずがないだろう!!……私が、私がどれだけお前の事を心配したと……思って、いる……!!」

 

「……ラウラさん。」

 

自分で自分の言っていることが分からないくらいに私は取り乱していた。

けれどそんなことすら今はどうでもいい。

彼女が何の怪我もなくこうして無事に帰ってきてくれた、それだけでもうなんでもよかった。

 

みっともなく涙を流して彼女の手を握り締め、食い入る様に目の前の瞳を見つめる私に、彼女は面食らった様に、しかし同時に申し訳なさそうな、そして嬉しそうな表情で見つめ返す。

 

「……ありがとうございます、ラウラさん。」

 

「あ……」

 

私のこの小さな体を彼女は何の戸惑いもなく自分のもとへと引き寄せ、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっている私の顔を関係ないとばかりに自分の胸に押し付けた。

その細くとも力強い両腕で私を抱き寄せ、震える私の肩や背中を優しく撫でる。

 

……夢にまでみた彼女の抱擁をされていた。

実際にされた彼女の抱擁は想像していたよりも力強くて、苦しくて、それなのに凄く柔らかくて、温かくて、信じられない程に私の心をほぐしていく。

 

彼女から漂うシャンプーや洗剤や彼女特有の匂いはそれだけで私の興奮を押さえ付け、彼女の身体の熱と柔らかさはどんな高級な布団よりも快適に私の身体を包み込む。

細くとも大きめのその左手で背中を摩られるだけで強張っていた私の身体から力が抜けて、何度も何度も耳元で囁かれる『ありがとう』という言葉は一種の麻薬の様にして私の頭へと染み込んでいく。

 

……私ごときがこんな幸せを感じてもいいのかと思った。

けれどそんな事を思った瞬間に彼女はそれに気づいたかの様に更にその手の力を強めた。

私を咎める様に、そして同時に私を慈しむ様に。

 

「ラウラさんは、私のことをどう思ってくれていますか……?」

 

「……好きだ、大好きだ。この気持ちが家族に向けるものなのか、それとも恋人に向けるものなのかは分からない。それでも私は、お前を求めている。愛している。私は、お前の側に、居たい……」

 

「……私はラウラさんの思っている様な綺麗な人間では無いかもしれません。皆さんに対して隠している事だってあります。きっとラウラさんが知れば幻滅や失望する事もあるでしょう。」

 

「それでも、それでも構わない……!わたしは、わたしはそれでも、お前がいい。お前がどれだけ汚れていようとも、他の誰でもない、お前の、側に……」

 

「……例え私が、ラウラさんに対して不誠実を働いているとしても……?」

 

「それでもいい……例えお前が過去に何をしていようとも、例えお前の家族が何であったとしても、例えお前自身が病や事情を抱えていたとしても……お前がお前であるのなら、それで。」

 

「…………」

 

「……あやさき……?」

 

突然黙りこくった彼女を不審に思った私は彼女にゆっくりと視線を向ける。

しかし彼女は自分の顔を私に見せない様により強く私を抱き締めて動かない。ただ何かを決心するかの様に何度も深呼吸をしていることだけが分かった。

 

「……ラウラさん。一つだけ、無茶なお願い事をしてもいいですか?」

 

「………?なんだ?」

 

「今から見て聞いた事は、例え貴女の母国に対してでも報告しないで欲しいんです。軍人である貴女に言う事では無いと思うのですが、それでも……」

 

「……私の中では既にお前は母国ドイツよりも大切な存在だ。お前のためならば私は国を捨てられる。」

 

「そんなことは絶対にさせません。……けど、ありがとうございます。」

 

その言葉に安堵したかの様に息を吐いた彼女は、ようやく私の身体を離した。名残惜しく声を出してしまった私だが、そんな私を愛おしげに見つめながらも彼女は突然上着を捲り上げその下着を外し始めた。

 

「なっ、なななななな!?」

 

「ふふ。大丈夫ですよ、変なことはしません。……私にそれだけの気持ちを抱いてくれた貴女に、これ以上の不誠実をしていたくはなかった。ただそれだけの、私の我儘です。」

 

「一体何を……なっ!?」

 

彼女が艶かしく美しく均整の取れた腹部を晒しながら下着を抜き取ると、それと同時に彼女の大きく膨らんだその胸が突如として姿を消した。

抜き取った下着には何か詰め物がされており、その理由がありありとそこに説明されている。

 

「……本当はもっと上手な隠し方があったんですが、何の因果か以前の治療の際に若干胸が膨らんでしまいまして。大きさが合わなくて作り直して貰っている最中なんですよね。」

 

「……つまり、偽乳だったということか……?それが貴女のしていた不誠実……?」

 

「あ、あはは、そうなっちゃいますよねぇ。ええ、自分でも何となく分かっていましたとも。……ええと、これどうやって証明したらいいんでしょう。自分の事なのに困りますね……」

 

「……?何の話だ……?」

 

困った様に頰を掻く彼女は若干の悲しさと恥ずかしさの入り混じった微妙な表情で本気で困っているらしい。

私としては目の前の光景に確かに驚いてはいるのだが、その程度に過ぎない。

別に彼女の胸が大きかろうと小さかろうと別にどちらでも構わないのだが、確かにあの大きな胸に顔を埋めることができなくなったのは少しだけ勿体無いという気持ちもないでは無い。

そんな不埒なことを考えている私を前に、彼女は取り敢えずとばかりに人差し指を立てて私に笑いかけた。

……意味の分からない言葉と共に。

 

 

 

 

「……ラウラさん。私実は……」




選択肢1 : 「私、男なんです……」
選択肢2 : 「……偽乳、だったんです。」
選択肢3 : 一夏「綾崎さんがここに居るって聞いたんだが!?」ガラッ

オススメは3です。
なお、もう書いてるのでどれになるかは感想などで特には変わらないです。

次の日常パートについて(1)

  • 一夏+αと買い物デート
  • 箒と負けない花嫁修行
  • セシリアと優雅にティータイム
  • マドカとドキドキお泊り会
  • 千冬の奮闘恩返し
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