IS - 女装男子をお母さんに -   作:ねをんゆう

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ぽぽぽぽ〜ん


59.楽しく危うい臨海学校編 - 人外達のビーチバレー -

『海だぁぁぁ!!』

 

「……まあ、海だな。」

 

「海ですね〜」

 

浜辺へ勢いよく飛び出した生徒達を見送る箒と奈桜。

奈桜は海にはしゃぐ生徒達を微笑ましげに見守り、箒は海を前にしてもそこまではしゃぐ事の出来ない自分を恨めしげに思いながらも、奈桜の隣にこうして肩を並べて立っているこの状況に少しだけ嬉しさを見出していた。

 

「んー……予想はしていましたが織斑くんは相変わらず大変そうですね。鈴ちゃんに肩車を強制されたかと思えば、今度はセシリアさんのオイル塗りですか。」

 

「なっ!?あ、相変わらずあいつは節操というものが……!!」

 

「まあまあ、こういう日くらいいいじゃないですか。……それより、明日は箒ちゃんの誕生日でしたよね?一夏くんからは何かアプローチらしきものはありましたか?」

 

「……それが……」

 

ない。

そんなものはない。

当然の事の様にない。

考えないようにしていたが、改めて意識してみると普通に悲しい事実であった。

 

「もしかしたら、一夏は忘れているのかも……いや、覚えていなくて当然か。だって、私との再会はそれこそ小学生以来で……」

 

「箒さん?悲しい思い込みほど自分を苦しめるものはありません。どうせ思い込むなら楽しいことの方が自分も周囲の人間にとっても嬉しいものです。」

 

「だが、もしそれで本当に一夏が忘れていたら……」

 

「ふふ、それこそ大丈夫ですよ箒ちゃん。」

 

「え……?」

 

奈桜は箒の手を引いて海へと連れて行く。

そうして日差しに照らされながら彼女はそんな日差しよりもよっぽど眩しい笑顔で箒に笑いかけた。

 

「ここには私がいるんですよ?箒ちゃんには何にも心配なんかさせませんっ♪」

 

その言葉は誰のどんな言葉よりも説得力のあるもので、箒は思わずそれまでの悲しい気持ちが吹き飛んで、笑ってしまった。

 

 

 

「行ったぞ!シャル!」

 

「うん!任せて!せやぁぁぁ!!!!」

 

 

「篠ノ之!任せた!!」

 

「任せろラウラ!吹き飛べ一夏ァァ!!!」

 

 

「ギャァァ!!スパイクをスパイクで返す奴がいるかァァ!!」

 

「一夏ぁぁ!?」

 

"ちゅどーん"と吹き飛んでいった一夏とそれを見て笑い合う生徒達を奈桜はパラソルの下でニコニコと見つめていた。

車椅子はもうしていない。

未だ万全ではないからこそ松葉杖を持って歩いてはいるが、それでも自分の足だけで歩くことならもう出来ている。

それこそ勿論、皆が付き合ってくれたリハビリの成果でもあるのだが。

……そう、千冬だけではなく、皆が。

 

「……ところで、いつまでそんなところで隠れているんですか?千冬さん♪」

 

「なっ!?き、気付いていたのか!?」

 

リハビリで挽回しようと企み見事それに失敗した噂の千冬がそこにはいた。

積み重なった浮き輪の陰から奈桜を覗き込み、少し頰を赤らめながら食い入る様に見つめていたのだった。

 

「もう、そんな風にジーっと見つめられたら誰でも気付きますよ。そんなに似合いませんか?私のこの格好……」

 

「い、いや!そんなことはない!!むしろ私は……っ!」

 

「むしろ、ですか……?」

 

「な、なんでもない!なんでもないからな!?……そ、そうだ!とても似合っている!似合っているぞ!それが言いたかったんだ私は!!」

 

「ふふ、そうですか?いつも着ているものより露出が多いので少しだけ恥ずかしかったんですけど、似合っているなら頑張って着てみた甲斐があったでしょうか?」

 

「う、うむ。いい、とてもいいぞ!」

 

そんなことを年下の少女(少年)に向けて真剣な顔をして言う千冬は、側から見れば普通に気持ち悪い大人だった。

勿論、そんな気持ち悪い大人の一言でさえも嬉しそうに受け入れてしまうのが奈桜であるのだが……

 

「千冬さんも、その水着とてもよく似合ってますよ?なんというか、千冬さんの魅力が余すところなく引き出されていて、私もなんだか顔が熱くなっちゃいます。」

 

「そ、そうか……?そう言われると、私も少し恥ずかしくなるんだがな……」

 

「うーん……私だけで今の千冬さんを独占するのもいいですけど、やっぱり皆さんに見せないと勿体ないですよね。」

 

「は……?」

 

「千冬さん?私と一緒にペアを組んで、ビーチバレーに殴りこんじゃいましょうか!」

 

「は……!?」

 

「さ、善は急げです♪こんな松葉杖なんてポポーイですよ♪」

 

「ま、待て!お前ビーチバレーなんてそんな無茶を……!」

 

「千冬さんが私を守ってくれればいい話じゃないですか♪皆さ〜ん、私達も参加させてくださ〜い♪」

 

 

この日、平和な浜辺に1人の鬼神が誕生した。

その鬼神はコートに入る全てのボールをスパイクで返し、スパイクをスパイクで返したボールを更にスパイクで返すという最早人の域を超えた何かを見せつけたという。

 

「せぇやぁっ!……あっ!やべ!!ボールが綾崎さんの方に……!」

 

「消し飛べ一夏ァァ!!!」

 

「げぎゃぁぃぁっ!?!?」

 

「「「「一夏ぁぁ(さん)!?!?」」」」

 

空中で腹部にボールを受け、水切りの様に水面を跳ねていく一夏の姿は、その日のどんなプレーよりも皆の記憶に焼き付いたという。

 




-おまけ-
セシリア&鈴音vs千冬&奈桜の試合

それは最早、本場のビーチバレーの選手ですら顔が真っ青になる光景であった。

「す、すげぇ!鈴の奴!千冬姉のスパイクを全部拾ってやがる!」


「セシリア!そろそろポイント取らないと許さないわよ!?」
「馬鹿にしないで下さいませ!もう私には見えていますわ!……ここですの!」

「なっ!?」

ドッと、この日初めて千冬の陣営のコートにボールが付いた。

「い、今なにがあったんだ!?ただのフライボールなのにあの千冬姉が一歩も動けてなかったぞ!?」

「……ふむ、恐らくセシリアは千冬さんの癖を見抜いたのだろう。」

「癖だって!?知っているのか箒!?」

「うむ、一夏も見ていれば分かるはずだ。千冬さんは何故か母さんに脅威が迫らない限りは、母さんの半径2m以内には絶対に入らない癖があるのだ。ほら、母さんの足元を見てみるといい。あれだけ荒れたコートの砂が、母さんの周りだけは全くの綺麗な状態になっている。」

「た、たしかに……!あれは正に、逆綾崎さんゾーン!?」

どちらかと言えばヘタレゾーンである。

「つまり、母さんに危害を加えない程度のフライを、母さんの半径2m以内に放てば千冬さんは手出しが出来ないということだ。」

「な、なるほど……!流石は箒だぜ!すげぇよく分かった!」

「そ、そうか?そうかそうか、分かりやすかったか……ふふ!」

恥ずかしがりながらも嬉しそうにしている箒はさておき、そんな話をしている最中にもセシリアと鈴音はポイントを取り続けていく。
ヘタレゾーンの鉄壁は凄まじく、ボールが奈桜の目の前にポトンと落ちていく様子をワタワタとしながら見送る千冬。しかし奈桜は少しもボールを取ろうとせず、ただただニコニコとしながら千冬を見ていた。

「ふふ、やるじゃないセシリア。千冬さんのアタックのコース予想に、ママに少しも危害を加えない優しく精密なフライボール……今回ばかりは褒めてあげるわ。」

「鈴さんこそ。織斑先生のボールを取るだけでなく、私の取りやすい位置へのボール配置は、素直に見事と言って差し上げますわ。」

今の2人に単純なチームプレイで勝てるものはこの学園には居ないだろう。2人は正しく強大な個人の力を小さな力の掛け算によって圧倒しようとしていた。

「千冬さん千冬さん、大丈夫ですか?なんだか調子悪そうですね♪」

「ぬぐ!そ、それはだな……」

「ん〜……でも、やっぱり私も参加した方が良いんじゃないですか?」

「な、待て!ま、まだ勝てる!私はまだやれる!だから、だから私に最後まで任せてくれ!」

「……それでしたら、もし千冬さんがこの試合にも勝ってくれたら、私が今晩千冬さんに1時間じっくりマッサージをしちゃうとか言ったらやる気出ますかね♪一応自信はあるんですけど、やっぱりそれは少々自惚れ過ぎだったり……」

その瞬間、海岸に凄まじい風が吹き荒れた。
発信源はもちろん織斑千冬……
彼女から放たれる威圧感は凄まじく、生徒達は揃って後にこう証言した。

"ブリュンヒルデは生きていた"と……


「鳳、オルコット……覚悟はいいな?」

「……死にましたわね、鈴さん。」
「……死んだわよね、セシリア。」

奈桜の身長よりも1m以上高くまで軽々とジャンプし、スパイクでクレーターを作り始めた織斑千冬は完全に漫画やアニメの世界の住人であった。

次の日常パートについて(1)

  • 一夏+αと買い物デート
  • 箒と負けない花嫁修行
  • セシリアと優雅にティータイム
  • マドカとドキドキお泊り会
  • 千冬の奮闘恩返し
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